マガマガくんが猛き炎にリア充自慢をするようです   作:ムラムリ

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続きが出来ましたね。


晴耕雨読

 大社跡よりも更に山を幾つも越えた先。そこから大きな崖を挟んで、更にその先。

 人の手が未だ及んだ事のないであろう、未開の地。

 ぱらぱらと雨が降っている、静かな時間。

 その岩肌の崖の下。そこには竹を組んだ雨避けの下で、一人の男が本を読んでいた。

 丁度老け始めた頃の年齢。痩せぎすではあり、古びた衣服を着ているばかりのその男は、狩人ではないようだった。

 男の両脇には行李が幾つか。そして目の前には小規模ながらも、しっかりと手入れされた畑が。

 最寄りの集落からも、道など無い。ここに至るまでの崖は、飛行船か、はたまた大翔蟲を使わなければ飛び越えられないようだが、そのどちらもない。

 そもそも、竜はおろか、イズチやジャグラスからの自衛も怪しい、その痩せぎすの肉体。

 ぺら、と本のページをめくると、そこで目を見張る。

「…………」

 その本は、昨今のカムラの里で起きた出来事を纏めたものであった。

 百竜夜行の原因かと思われていたマガイマガドと言う名の竜を、猛き炎と呼ばれる狩人が討伐した事。だが、それでも百竜夜行は沈静化しなかった事がそのページには書かれていた。

「…………」

 ページをめくれば、その元凶はイブシマキヒコとナルハタタヒメという二体の古龍が元凶であり、それも猛き炎によって討伐されたと書かれていた。

 それはつい最近の事。

 この男がその足で人里まで降りて、そしてこの地に戻って来れるとしても、それに要する日数の内の事。

 ぽんっ、ぼんっ、と遠くから何か爆発するような音がした。

 続けて駆けて来る足音は紛れもなく巨大な竜のもので、しかし男は動じない。

 そして、やって来たのはマガイマガド。

 平均的な個体よりも一回りは大きく、腕刃や刃尾、そして立派な角には刃毀れや欠損など微塵も見られない。

 古龍でさえも堂々と返り討ちにしてみせるであろうその様相。

 そんなマガイマガドに、男は「お疲れ様です」と言う。

「グルゥ」

 マガイマガドも、素っ気なく返した。

 

 元は商人であったその男は、ある時竜車を駆って売り物を狩人の護衛と共に運んでいたところを、数匹の竜に襲われた。

 今思うと、百竜夜行も関係していたのだろう。明らかに尋常じゃない様子の竜達に護衛の狩人達も次々と屠られていき、しかし最後に生き残ったその男に牙が届こうとした瞬間、その脳天から顎下にまで、その刃尾が貫いていた。

 それから瞬く間に全ての竜を屠ったそのマガイマガドは、その男に興味を示す事もなく竜達を骨ごと貪っていたが、崩れた竜車から段々と良い匂いが漂ってくるのに気付いて、そちらに向かう。

 マガイマガドはそんな荷物を物色し、初めての匂いや味に舌鼓を打ち。

 その後も満腹になるまで竜達を貪り食った後に、未だに腰が抜けて動けないままのその男も捕まえて、役に立つかもしれないと連れ去ったのだった。

 マガイマガドの中でも強者であったその個が持つ縄張りは広大で、生きる事そのものに余裕も溢れている。

 そして、その男も拾った命だ、と開き直ってその縄張りの中で余裕を持つマガイマガドの興味を満たしながら悠々と暮らし始めた。

 マガイマガドは酒の味を知って、また拙いながらも酒を作る事も出来る男に連れてきたのは正解だったと内心頷き。

 男はマガイマガドと言う竜に段々と恐れを抱かなくなっていき。

 マガイマガドは気付けば人の言葉を理解出来るようになっており。

 男は百竜夜行の原因がマガイマガドではない、マガイマガドはそれを利用しているだけだと誰よりも先に知り。

 どうしても欲しいものがあるとねだられて、一度人里近くまで連れていけば、その足でさっさと用事を済ませて戻ってきた男に驚いて。

 頭脳を使う盤上の遊戯を教えてみれば、想像以上に嵌り、今となっては五分五分の戦いが出来る程にまで賢くなって。

 久々に番を設けてお前はどうなんだと聞いてみれば。

 親が不仲で、とばっちりを受けた自分は親になるつもりはないのですと答えた。

 そうして、気付けば共に生きてもう十年も過ぎていたのだった。

 

「カムラの里の近くのマガイマガドが討伐されたらしいです」

 そう言うとマガイマガドは、ああ……と空を眺めた。

 知っていながら、そう悲しげではないその様子。血縁関係ではあるが、別に大した奴ではない、位だろうか。

 それから、読んでいる本に顔を近付けてきた。

「グルルッ?」

「この本ですか? そのカムラの里で起きていた百竜夜行に関しての顛末が纏められているんですよ。

 最終的に、イブシマキヒコとナルハタタヒメという二匹の古龍の逢瀬が元凶だったとか」

 ぺらぺらとページをめくると、百竜夜行に連ねた竜達の絵から、マガイマガド、そしてその二匹の古龍の絵が記されていて。

 その絵を見るなり、じゅるりとマガイマガドは唾を飲んだ。

 そんな様子に、疑問を持ち、ふとそのページの文章を眺めると。

 猛き炎とナルハタタヒメの決戦の最中、マガイマガドが乱入してきた事が記されていた。

 加えて、猛き炎がナルハタタヒメを討伐してから、調査隊が着くまでの間に、そのナルハタタヒメはかなり食されていたと。

「……食べたのですか」

 そう聞けば、美味かったぞ、と腹を撫でた。

 程なくして、その番と二匹の子がやって来る。番の方はその男に関心がそう無いようであるが、二匹の子はもう既に男に多少なりとも懐いていた。

 竹とんぼを飛ばしてやれば、ふわふわと飛んでいくそれを必死に追い掛けるわ、起き上がり小法師を何度も倒そうとして最終的に壊してみせるわと好奇心旺盛で、人里から珍しいものを持ってくればすぐさま漁ろうとしてくる。

「じゃあ、その猛き炎とも会ったのですか? どんな人だったんでしょう」

 そう聞くと、どうしてかマガイマガドは顔を崩した。まるで嘲笑するかのように。

「……弱かったのですか?」

 そう聞けば、いや、と首を振って。

「グルゥ」

 何か含みのあるように喉を鳴らした。

「……?」

 弱くはない。ただ、何か馬鹿に出来るような奴。そんな印象らしい。

 それより、とマガイマガドは尾の先で一つの行李を指す。その中には遊技盤があった。

「そうですね、やりましょうか」

 そう言って、男はその行李を開いて駒を並べ始めた。

 雨も気付けば止んでいた。

 

 遊技盤は、通常のものよりやや大きめではあるが、それでもマガイマガドにとっては小さい事には変わりない。

 けれど、もう何年も指し続けて来た間柄だ。爪先で僅かに駒を動かすのには、慣れた手付きだった。

 男が最初にしっかりと型を組むのに対して、マガイマガドは急襲を好む。

 興味が湧いてからは色々と型を教えてはみたものの、最終的には自己流でパチパチと打つようになっていた。

 ただ、その打ち方は沢山の罠が仕掛けてあって、時にこちらの攻めを誘発させて逆に致命傷を与えてきたりもする、油断も隙もあったものじゃない。端的に言えば、ネチネチとしていると言うか、性格が悪いと言うか。

 多分……マガイマガドという種そのものがそういう傾向にあるのだろうと男は思っていた。

 序盤、今日は日もまだ登りきってないし、ゆっくりと組んでみようかと守り主体の陣形を固めようとしたところを、マガイマガドは一気に攻勢に出てくる。

 顔を上げれば、そんなつまらん事すんなよ、と言うように不満気な顔で、若干無謀でもあるような攻めをしてくる。

 尻尾では二匹の子をあやしながら。

 ……そういう表情も囮に使ってくる事もありましたよね。

 一見すれば、冷静に対処すれば良いはずだ。ただ、ここでミスをすると一気に傾きそうな気もする。

「なるようになりますか」

 負けたって死にはしない。それが遊戯の良いところだ。

 半ば勘に任せて駒を動かせば、マガイマガドは長考に入った。どうやら、無謀をしているのは当たりだったようだ。

 尻尾の動きが止まると、後ろから不満の声が聞こえて、はいはいと動かして。蹴鞠を引き出してきて投げつけてやれば、興味はそっちに移った。

 それから程なく、マガイマガドが次の一手を打つ。

 また意図が分かりかねる一手で、どう打とうとも泥沼になりそうな予感がした。

 

*

 

 もう日もすっかり暮れる頃には局の終盤、流石に見辛くなってきた盤上に対して火を起こそうとすれば、そんな水を差すような時間を入れるなといわんばかりに、マガイマガドは尻尾の先を盤の近くまで持ってきて、鬼火を点けた。

 時に自らの背後で弾けさせて、その反動で空中で更なる跳躍をする事も可能とするその炎は見るからに恐ろしげな紫色であり、また歪な揺らめきを見せている。

 だが、このマガイマガドの縄張りで庇護されながら生きてきた男にとっては、それは警戒するものどころか、ただの火よりも安心出来るものだった。

 それもあってか時折人里に降りて貴重な植物やらを売り、物を買ってきてはいる時には、ガルクやアイルーから恐ろしげな臭いが染み付いていると言わんばかりに奇異の目で見られてしまう。その臭いがまさか、マガイマガドのものだとは思ってもないのだろうけれど。

 盤上は混沌を極めているが、どちらの牙も喉元に差し掛かっている。一手間違えればもう詰んでしまうだろう。自ずと考える時間もそれぞれ増えていくが、こんな夜にまでまた訳の分からない事を続けて、と番には呆れられ、子供はとうに寝てしまっていた。

 番を設けてからはこういう事をする機会も自然と減っていたのもあり、久々の遊戯には熱中が収まる気配もない。さっさと終わらせようなどとは思ってもいなかった。

 男は喉の乾きと空腹を強く覚えているのを、マガイマガドは強く全身が凝っているのを自覚しながらそれを無視して、互いに唸り声を何度も響かせながら。

 そして月が高くにまで登る頃。

 乱雑に思わせながら、序盤から数多の布石を仕込んでいたマガイマガドの狡猾な攻めを凌ぎきったと思ったら、最後の最後で自らの手で詰みに誘い込まれてしまい、男が負けを認めた。

「……負けました」

 そう男が言った途端、互いの姿勢は一気に崩れた。

「はー……」

 どこから作戦で、どこからアドリブだったのか。前回勝ったからか、もしかしたらずっと考えていたのかもしれない。執念深いのも、マガイマガドにとってはある程度似通った性格らしいから。

 男が夜空をぼうっと眺めていれば、ごき、ごきんっ、とマガイマガドが関節を盛大に鳴らす音が聞こえてくる。それから、満足気に喉を鳴らす声。

 身を崩していたのも束の間、マガイマガドは体を起こして背伸びをして。ほら起きろと言うように男を突く。

 熱中すると飲食すら放置してしまうその男は、放っておくと偶に今よりも痩せこけて見るからに不健康な体で、それでも目だけをギラギラさせて物事に取り組んでいるという事があった。

 そんな小さい体にそうエネルギーを貯められる訳でもないだろうに、まあ、きっとそんな熱中が人を人たらしめているのだろうとも思ったりもするが。

 それよりも重要なのは、病気にでもなったらどうするんだという事で。

 豆も成っただろう? と畑を指す。

「今から、ですか」

 面倒そうに言いながらも男は渋々と従い、遊技盤をしまった後で、飛ばされた鬼火を明かりにしてゆっくりと収穫し始める。

 塩茹ですれば酒にとても合うその豆は、男がここで栽培する程に好きなものだったが、マガイマガドも食してみれば気に入るものだった。

 そしてその間に、仄かに甘い匂いのする、一際大きい行李を引き出して、蓋を取る。

 その中には酒瓶と、珍味が詰まっていた。

「……」

 良い、匂いだ。

 どちらも巨体のマガイマガドにとっては極々少量で腹を満たすには全く足りないものではあるが、純粋に舌を楽しませる為だけの飯は全く別の楽しみを与えてくれるものだった。

 豆を両手に抱えて戻ってきた男は、鍋に貯めていた雨水を入れて、それから塩も入れて、火にかける。

 遠くから、ジンオウガの遠吠えが小さく届いてきた。

 空を見上げれば、月がまんまるに輝いている。

 そのジンオウガはマガイマガドの縄張りの近くで、老齢ながらも未だ他の竜からも慕われている、強い個だ。

 その遠吠えはこの山脈一帯に響き渡る程に長く、透き通ったもので。

 また、空を見上げれば、月がまんまるに輝いていた。

「良い夜ですね」

「グウゥ」

 特に、俺はな。勝ったし。

 そんな含みを持つ唸り声に悔しがりながらも、男は豆を湯から上げて、皮を剥いた。

「あつっ。でも……うん、美味い」

 マガイマガドもそれを皮ごと口に含み。

 それから行李を男に押し寄せた。

 また新しいものもあるんだろう?

「はいはい、ありますよ」

 男は答えながら、既に前脚と尾を使って器用に酒の蓋を開けているマガイマガドに、少しばかり微笑んだ。




ネルギガンテもマガイマガドも性質自体は似通っている印象だけど、マガイマガドの方は人間臭い動きさせたり、人との交流も似合うイメージ。
ネルギガンテはなんだかんだで愛し合いと書いて殺し合いと読む、みたいな関係性しかちゃんと似合わないっていうか、そんな感じ。

男:
30~40歳。
元商人で、百竜夜行のとばっちりを受けて死にかけていたところを、結果的にマガイマガドに救われる。
その後、竜車の中身に興味を持ったマガイマガドに連れ去られて開き直って生きていたら、結構な絆で結ばれた感じ。
要するに、人語を教えたのも酒やらを知っているのもこいつが原因。
将棋的なゲームが好き。マガイマガドにも教えたら、今やもう同等レベルの実力になった。
酒とツマミも好き。マガイマガドも好きになった。

どっち?

  • マガイマガド
  • ネルギガンテ
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