俺の好きなウマ娘とトレーナーの関係を描きたかっただけ。 作:いでんし
私は3000文字を超えたら話をまとめるのに限界が来るんですが、中には当たり前のように6000文字とか1万文字とか書いてる方がいらっしゃいましてね。
文字数ばかりがすべてではありませんが、それだけ話を広げることができるのはすごいことです。
「……!?」
朝。タキオンのトレーナーは、なんとも言えない悪寒を感じて目を覚ました。
部屋には誰もいない。たまにタキオンが勝手に入り込んで無理やり実験してこようとすることがあるが、今日はその様子もない。
「……弁当作らなきゃな」
最早日課となった弁当作りに取り掛かるため、彼は瞼を擦りながら起き上がる。
彼にとって早起きは仕事より辛いものだが、タキオンのためなら頑張れる。あの走りを見せられた瞬間から、タキオンの言う通り、彼は狂ってしまったのだろう。トレーナー本人も、少しは自覚している。
なお本日は土曜日である。授業は勿論、本日に限ってはトレーニングも休みの予定だが、タキオンはそんなことは知ったことかと言わんばかりに弁当を要求してくる。
弁当を作り終え、出勤するためにスーツを着る。タキオンの実験に付き合わされる可能性もあるのでジャージも持っていく。
『タキオン、今日どこにいる?』
『ラボ』
『りょ』
非常に雑なチャットを交わして、トレーナーはトレセン学園へ向かう。
仕事道具は持った。タキオンの弁当も朝昼晩の3食分持った。
が、トレーナーには気になる事が1つ。起床時に感じた悪寒だ。何かが起きる予感がして仕方がなかった。
──────────
「平和だ……」
午前の11時半を過ぎた。
悪寒とは裏腹に、トレーナーの身にはびっくりするほど何も起きなかった。
事務仕事も滞りなく進んでいる。普段は暇を持て余したタキオンが実験を仕掛けてくるのだが、今日はそのようなことはなかった。
(思い過ごしだったのかもな)
間もなく昼休憩の時間である。
タキオンに弁当を届けるため、カフェのグッズ置き場兼タキオンのラボになっている空き教室へ向かう。トレーナーに与えられたトレーナー室からは少々アクセスが悪いが、そんなことは彼にとっては些細なことである。
「タキオン、弁当持ってきたぞ」
「あぁ、ちょうどいいところに来たね、モルモット君! 早速だが実験に協力したまえ」
「あぁ、わか……え?」
ラボには何故かマット運動で使用するマットが敷かれている。まるでそこに寝転がれと言わんばかりのように。
そしてタキオンの手には……細長い紐に柄がついた物体が握られていた。所謂、鞭というやつである。以前彼女がumazonで購入したものの1つがこれだ。ちなみに何を思ったのか、買ったものは全てSMプレイで使われるような代物ばかりである。
「トレーナー君、早く四つん這いになりたまえよ」
「いや……なに持ってんの」
「見ての通り、軟鞭だね」
「なんで鞭……?????」
「実験のためだよ。ほら、はーやーくー」
「なんの実験だよ……? あとスーツに鞭の跡つけられるの嫌なんだけど」
「だったら脱げばいいだろう。ここには私とカフェしかいないからね」
「カフェの目の前でSMプレイしろと!?」
「そう言いつつ脱ぐんだね、君は。モルモット精神が強いのはいいことだが……」
この男、担当ウマ娘に鞭を打たれるために服を脱ぎ始めた。一応擁護しておくと、彼には女性に鞭で打たれたいという願望は一切無い。ただタキオンの実験に付き合ってるだけのつもりである。タキオンが「実験」と言うと、彼は少し頭のネジが緩くなる節があった。
とはいえ、側から見ればトレーナーにSMプレイを敢行しようとするウマ娘と、割とノリノリで応じるトレーナーの出来上がりである。
横で見ているカフェはドン引きする他なかった。
「そうだ、こんなものもあるんだが、要るかい?」
「ギャグボール!? いや……流石にそこまでは……」
「そうかい。ではさっさと四つん這いになりたまえ。うつ伏せでもいい」
「わかった」
「準備はいいね? じゃあ、まずは1発……」
上裸のトレーナーの背中に、タキオンは全力で鞭を振るう。
小気味いい音とトレーナーの絶叫が響き渡る。
「ぐっ……ああああっ…………!」
「もう1発行くよ……ふんっ!」
「ぐあああっ!」
「あっ、血が出た……」
「あああ……」
「モルモット君? モルモット君!? まずい、意識が……実験は中断だ。急いで保健室に運ばないと……」
「おーす! なんだか面白そうなことしてるな!」
「ゴールドシップ君! ちょうどよかった、トレーナー君を保健室に運んでくれないかい!?」
「おいおい、大変なことになってんじゃねーか! いいぜ! ゴルゴルタクシー、しゅっぱーつ!」
激痛で気絶したトレーナーは、何故か現れたゴールドシップに担がれて保健室送りにされた。
あまりの出来事にカフェもショックで倒れ、タキオンに運ばれていった。
──────────
トレーナーが意識を戻したのは、実験開始から20分程度経ってからのことだった。
「まだヒリヒリする……鞭って思った以上に痛いんだな」
「ヒトが打つ鞭でも裂傷や出血は当たり前にあるみたいだねぇ。ウマ娘なら当然というべきかな」
「そういうのは事前に調べておいてくれないかな?」
「2発で気絶するのは予想外だったねぇ。鞭が与えるダメージを甘く見ていたよ」
背中には痛々しいミミズ腫れができあがっている。
時に太り気味すらなんとかしてしまうトレセン学園在籍の保険医によって痛みは完全に引いたが、傷跡だけはすぐにどうにかすることはできなかった。
「もう勘弁してくれ」
「安心したまえ。2発とはいえ、データは十分取れた」
タキオンはノートに実験結果を書き記した。あまり芳しい成果ではなさげな雰囲気だ。
「結局、なんの実験だったんだよ」
「以前トレーナー君と話している時に感じた詳細不明の感覚、それの解明のための実験だよ。この感覚はトレーナー君と共にいる時にのみ観測されている。トレーナー君と特定のアクションを起こすことで、それが何かを解明しようという訳さ。今回はその第一弾だよ」
「第一弾で鞭打ちなの? そういうのはもうちょっと段階を踏んでからやるものじゃない?」
「こんなことはもうやらないよ。酷く不快だったからね。似たようなものを実行しても、恐らく変わらないよ」
「はぁ……他にはどんな実験があるんだ? ここでできることなら手伝うぞ」
あんな仕打ちを受けても、トレーナーはタキオンの実験に付き合うつもりらしい。
タキオンは少々意外そうな反応を示した。
「ふぅン。私はモルモット君に嫌われることも覚悟していたんだがね」
「お前のバカみたいな実験に付き合えるやつが他に居るかって話だよ」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないかー。だったら昼食にしよう。昼食の時間は大分過ぎているからね」
「誰のせいだと……えーと、弁当はどこだ?」
「持ってきてあるよ。あぁ、待ちたまえ。君の弁当箱は私が預かるよ」
「は? 俺の分まで食う気かよ」
「そんなことはしないさ。はい、あーん」
タキオンは弁当の卵焼きを取り、トレーナーの口元に寄せた。
「!?」
「ほら、食べたまえよ。あーん」
「あ、あーん……」
「どうだい? おいしいだろう? なんせ私のトレーナー君が作ったからねぇ」
「それ俺……なぁ、これも実験……なのか?」
「勿論だとも! さぁ、どんどん食べたまえ!」
やたら上機嫌のタキオンに、トレーナーはただ流されるばかりであった。
(そういえば、結局あの悪寒はなんだったのかな……)
朝方の悪寒はどう考えても担当ウマ娘からの鞭打ちを予感してのものだったが、トレーナーは結局気付くことはなかった。
──────────
「カフェ! カフェは無事か!?」
保健室に男性が1人飛び込んできた。マンハッタンカフェのトレーナーだ。
昼休みに突然倒れたと聞いて、急いで保健室へ駆けつけたのだ。
「トレーナーさん……」
「カフェ! 大丈夫か!?」
「はい、なんとか……」
元気そうなカフェを見て落ち着いたのか、トレーナーはそっと胸を撫で下ろす。
「倒れたと聞いて驚いたぞ。何があったんだ?」
「それは……」
「アグネスタキオンの実験に巻き込まれたとかか?」
「そうではなくて……いや、そうかもしれないんですけど……」
「? どういうことだ?」
「いや……あまり思い出したくないので……」
「お、おう……」
タキオンの鞭打ちは、当事者ではないカフェにもしっかりと傷跡を残していたのだった。
アグネスタキオン:自身に湧き上がる謎の感覚の解明のため、元凶である自身のトレーナーに鞭を打つ暴挙に出る。使わなかったグッズはトレーナー室に置こうとしたが全力で拒否され、現在置き場所に悩み中。
タキオントレーナー:自身に迫る危険を大まかに察知できる。が、タキオンが絡むとセンサーは急にポンコツになる。傷は牛乳飲んだら治った。ブルックかな?
マンハッタンカフェ:ごめんね。
カフェトレーナー:タキオントレーナーより1年早くトレセンに在籍したトレーナー(♂)。1年目はスカウトに失敗し続け、2年目でカフェのトレーナーに。カフェの体調管理やポルターガイストに四苦八苦している苦労人。
ゴールドシップ:あいつ人を運べと言われたら喜んでどこまでも走っていきそう。
保健室と言えば、Rのサポートカードではタキオンは保健室にいるんですよね。
ちなみに保健室が背景のウマ娘は他にメジロアルダンがいます。どちらも脚の脆さに定評がある子たちです。
アルダンは骨折や腱鞘炎を経てターフに帰ってきますが、タキオンは……
あのタキオンが復活できないケガを負っていないことを切に願うばかりです。
まぁ保健室に来たウマ娘を実験体にするためにいるだけかもしれませんが。それ安心沢とやってること変わらなくない?