俺の好きなウマ娘とトレーナーの関係を描きたかっただけ。 作:いでんし
ここからは1から書かねばならぬ
「タキオン、いるかー? ……いないか」
タキオンのトレーナーは、タキオンとのミーティングのためにラボを訪れていた。しかし担当ウマ娘の姿はない。
「ノックくらいしてください、モルモットさん……」
「モルモットさんはやめろって言ってるだろ、カフェ……」
マンハッタンカフェが、相変わらずの低い声でトレーナーを出迎える。
「タキオンさんならまだです。もうすぐ来るとは思いますが……」
「ふーん。ちょっとここで作業しててもいいか?」
「……いつも言ってますけど、どうしてここで作業するんですか……?」
「タキオンと楽に会えるから」
「…………」
タキオンのトレーナーが所有するトレーナー室は、タキオンのラボがある空き教室からはかなり遠い。タキオンは実験に熱中すると電話にも出ないため、直接話そうとすると移動に時間がかかるのが少々ネックだった。
それを面倒に思ったトレーナーは、時々タキオンのラボで仕事をする事を選んだ。空き教室を共有しているカフェにとってはいい迷惑である。
「おや、トレーナー君もいたんだね。ちょうどよかった」
数分遅れてタキオンが現れた。ジャージを着込んでおり、トレーニングのやる気自体はあるらしい。
「タキオン、今日のトレーニングだけど──」
「トレーナー君、土曜日は空いてるかな?」
突然、タキオンが質問を投げかけてきた。
「空いてるけど、何かあるのか?」
「一緒に出かけたいと思ってね」
「……何の実験だ?」
「察しが良くて助かるよ。今回も例の感覚の解明についての実験さ」
「ふむ。どっか行きたいところとかあるか?」
「特にはないね」
「行き当たりばったりかよ。まぁいいけど」
「伝えることは伝えたよ。今日はトレーニング室だったね? 私は先に行くよ」
「おう、後でな」
タキオンは上機嫌でラボを出て行った。
残されたトレーナーは、カフェに質問する。
「カフェ、第三者の意見を聞きたいんだが」
「……なんでしょうか」
「アレ、デートのお誘いだよな?」
「……そうでしょうね」
「というか何、あいつの言う感覚って多分……」
「恋でしょうね……」
「oh……」
以前からなんとなく察していたが、カフェに質問して確信に変わった。アグネスタキオンは、自分のトレーナーに恋をしている。が、信じがたいことに彼女は恋心というものを理解しておらず、その解明のために実験を行なっている。いや、だとしても鞭打ちはもう少し段階を踏んでやるべきことである。
担当ウマ娘に真摯に向き合ったトレーナーがウマ娘に惚れられる、なんて話をたまに聞くが、まさか自分がそうなるとは微塵も思っていなかったトレーナー。
胃痛のタネが増えそうだなと心の中でぼやいた。
——————————
「……ということで、意見を伺いたいのですが」
担当ウマ娘の異常事態に、指を咥えて黙っているわけにはいかない。そう判断したタキオンのトレーナーは、とある人物に相談することにした。
面識はほとんど無いが、過去数回に渡って担当ウマ娘数人のアプローチをかわし続けた実績を持つトレーナーだ。現在はサボり癖こそあるが観察眼に優れるウマ娘、セイウンスカイの担当トレーナーである。
「へぇ、アグネスタキオンさんが。あの子恋とかするんですね」
「私が一番驚いてますよ……まさか自分がそんな好意を持たれると思ってなくて。どうしたらいいかわかりません」
「それで僕を頼ったと。経緯は分かりました」
「実際の所、どうやって対処してきたんですか?」
スカイのトレーナーは、「うーん」と考え込みながら言った。
「やることは単純です。ひたすら言葉で訴えかけるんですよ」
「訴えかける。……それだけですか?」
「それしかできない、と言った方が正しいかもしれません。彼女らはヒトより高い身体能力を持つ。故に力に訴えられたらどうしようもありません。だからそうなる前に言葉で諌める」
「なるほど」
「勿論、こちらが暴力で訴えるのはダメです。そんなこと、トレーナーである以前に大人失格ですから」
「そんなことしませんよ」
「まぁ、僕の場合はウマ娘の性格もあったと思います。みんな話せばわかってくれる子ばかりでしたからね」
「タキオンは……あいつは人の話聞かないからなぁ。ダメそう」
「まぁ、なんならくっついちゃうのもアリかもしれませんがね」
「ブフォっ!?」
そんなこと勧めるわけないだろう。そう思っていた相手から突然背中を押されて、タキオンのトレーナーはつい飲んでいた牛乳を噴き出す。
「ゲホッ……ちょっと、俺はそうならない為に貴方に相談したんですよ!?」
「別にいいじゃないですか。トレーナーと担当ウマ娘の関係から進展したパートナーなんて山程いますよ」
「流石にそれは……」
吹き出した牛乳を掃除しながら、スカイのトレーナーは言う。
「僕は担当ウマ娘と恋愛関係を持つことはしないと決めていますが……それを人に押し付けることはしないスタンスです。恋心というものは御し難い感情ですからね。流されてしまうことを、どうしても否定できないんですよ」
「……流石に甘いのでは。アイツらはまだ学生です。俺……私たちが導かなきゃならない存在です。そんな奴らとトレーナーが付き合うだなんて、許されるわけがない」
「考えが固まっているじゃないですか。ならばそれでいいでしょう。相手にアプローチされても、しっかりと断ればいいんですよ」
「……やっぱそうですよね。それがいい、はずだ」
ウマ娘とトレーナーの立場を弁え、そのような関係にはならない。そのような方針で今日はまとまった。
「結局、『お出かけ』はどうするんです?」
「行くって言っちゃったからなぁ。普通に行きますよ」
「大丈夫ですか?」
「しっかりと断る覚悟はしてますよ」
「……そうですか。気をつけて出かけてくださいね」
「今日はありがとうございました」
タキオンのトレーナーは、一礼して去っていった。
スカイのトレーナーは、どこか納得のいってなさそうなタキオントレーナーの態度がどうも気になるのだった。
──────────
時の流れというものは、意識しないと意外と早く流れていくものである。
気づけば金曜日。トレーナーとタキオンのお出かけは、早くも翌日に迫っていた。
その夜のこと。
「さてさて、明日はいよいよ私とのデートな訳だが。どんな気分なのかモルモット君にインタビューしようじゃないか!」
「デートって言ってる……」
トレーナーは、トレーナー寮の自室に押しかけてきたタキオンに迫られていた。
「つーかそろそろ門限だろ! 帰れ帰れ!」
「心配は無用さ。外泊届は提出したからねぇ」
「外泊届ぇ!? 泊まるつもりかよ!?」
「勿論だとも。明日は一緒に出発するよ」
「デートなら待ち合わせするのも1つの醍醐味だと思うんだけど……」
「……それもそうだね。次からはそうするよ」
「次があるのか……仕方ない、今日は泊めてやる」
「うんうん、よろしく頼むよ」
「まったく……」
タキオンのわがままを聞く傍らで、トレーナーは1台の大型のキャリーケースを見ていた。タキオンが持ってきたものだ。
宿泊に必要な道具や明日の服に加えて、タキオンのことだから実験道具も入っているかもしれない。が、それを加味しても一泊でこのサイズのキャリーケースは明らかに大きい。おそらく、明日用の服も何着か入っている。
「……しっかしまぁ、準備するためにその大荷物かよ。めちゃくちゃ浮かれてるじゃねぇか」
「浮かれてる? 私が?」
「浮かれてるな。誰がどう見ても」
「ハッハッハ! これは実験だよ? 私がそこまで入れ込む必要は……」
馬鹿馬鹿しいと笑うタキオンだが、次第に顔が赤くなっていく。
「あれ、おかしいな。顔が熱く……トレーナー君、これは一体……」
タキオンは突然の顔の発熱に混乱する。
カフェとの対談で、トレーナーはタキオンが検証している感情が恋心であることを悟った。タキオンは、自身の恋心という感情を理解していないのだ。
今ここで感覚の正体を明かしてもいいのだろう。
しかし、
「さぁ、それを解明するための実験じゃないのか?」
「そ、そうだね。ハハハ……」
普段のふざけた実験への仕返しか、それともただの悪戯心か。彼はあえて説明しない道を選んだ。
タキオンは力無く笑っていた。
タキオン:赤面タキオンって可愛くないですか?可愛いよね。
タキオントレーナー:先輩に牛乳を要求する度胸は無かったので持参してきた。それはそれでどうなの。
カフェ:不憫度は減った。
スカイトレーナー:♂。ウマ娘の告白を三度退けたとんでもトレーナー。担当ウマ娘とは恋愛関係にはならないと心に誓っている。好きな飲み物はオレンジ味の水。
諸事情で投稿頻度がめちゃんこ少なくなりそうですが、よろしくお願いします。