賑やかな酒場で、一仕事を終えた吟遊詩人が上機嫌に酒を飲んでいる。今宵は評判がよかったので懐が温かいのだろう。上機嫌に、いつもより一杯多くエールを頼んでいる。
「こんばんは、景気がいいわね」
そんな吟遊詩人に声をかけたのは、黒い衣を身にまとっている者であった。見ない顔だが、衣装以外の小道具――杖、首飾り、ベルトポーチなどなど――というものが町の住人では無く、いわゆる冒険者と呼ばれるものたちだという事は間違いない。おそらく戦士というより魔術を使う者だろう。
「ご覧の通りさ。悪いが今日の仕事はおしまいだよ」
「いいのよ。ただ、こちらをお忘れなんじゃない?」
平べったくなってひもで縛られた羊皮紙が冒険者の手にある。
吟遊詩人は心当たりがあったのだろう。足下の鞄と羊皮紙を交互に見比べている。
「届けてくれたのかい? それは、まだ書きかけなんだ。いま勢いのある連中のうち一組の話をまとめていてね」
「ふうん、そうなの」
興味深そうに羊皮紙を眺めた後、吟遊詩人に手渡す。
そして隣に腰掛けると、中身を教えてくれないかと持ちかけた。その目には、うっすらと蠱惑的な輝きがある。
吟遊詩人はお礼のつもりか、すっかり色々話すつもりらしい。
「そこのお客さん、何にします?」
見ていられないので、声をかけた。細かい事情はしらないが、目の前で魅了の魔術をちらつかせられてはたまらない。
「あら、それならぶどう酒をくださる?」
「あ、それならこっちはエールを一つ。えーと、じゃあ最初の方から、ちょっとずつ色々と話そうか」
魔術など必要なかったようだ。すっかり気前よく話し始めた吟遊詩人を横目に酒の準備をする。ここもまた、冒険者の宿だ。港町には何件か、そういった場所がある。
元冒険者のよしみで、吟遊詩人の荷物には少しだけ気を配るかわりに、その話に半分だけ耳を傾ける。さほど忙しくない時間帯だ。それくらいの報酬はあるだろう。それにしてもこいつは油断しすぎじゃないか? やれやれ。
最初の冒険録
※原作・・・サンプルシナリオ『腐敗の影』より
仕事が無い連中に仕事が来るだけで十分に物語なのだが、この件の始まりも確かに例に漏れずそうであった。行商人がチーズやソーセージを売るために町を移動し、そのついでに冒険者たちに振る舞ってくれるという。
悪くない話だ、といった冒険者たちは依頼を請け負った。魔術師や、吟遊詩人のような人間や、傭兵から転身して冒険者となるような連中だ。よくあるといえば、よくある話。
道中ではネズミ二襲われたりしながらもうまいことをやったらしい。
ところが積み荷を届けた先の村で、ネズミ被害が普通では無いレベルにまで達する事態に遭遇。チーズとネズミにいやな予感を覚える一行だったが、本題はネズミの方だった。
もたらされる疫病は徐々に村をむしばみ、疲弊させていく。治療薬を作るにも材料も乏しい状況であった。わずかな救いは、癒やしの術の心得がある聖戦士がいたことだ。見た目は平凡な人間では無い。二足歩行する竜といった出で立ちだが、味方でいる分には心強い。
ネズミの出所を探っていくと、町外れの洞窟に住み着いている怪しい奴がいた。どんな企みなのかは冒険者にもよくわからないが、どうやらろくでもない教義の信徒だったらしい。
そいつを倒した冒険者たちは、しこたま酒とソーセージを楽しんで凱旋したらしい――
「そんな感じの話でね。ここよりも、もう少し離れた土地で演奏すると受けるかな、と思ってるんだよね」
「ふうん、悪いことをする人もいるものね」
興味深そうにグラスを傾ける魔術師の声に、吟遊詩人も頷いた。他にもいくつか書き留めている話があるようで、くたびれた羊皮紙を手元でゴソゴソといじり、次の話を見つけたようだ。
「次の話は、この町みたいな港町じゃウケがいいんじゃないかと思っているんだ」
魔術師は言葉こそ言わないが、ワインを少し飲んでから続き促すようなしぐさを見せると、気持ちよく話し始めた。
こんな感じで短い話をログ代わりに残すチャレンジです