酒場の喧騒は変わらず、だが話は耳に入ってくる。
海賊退治の話らしい。ただ、海賊を退治する場所は船上ではなくて根城の方だったようだ。
言われてみればこのあたりには海賊が多く出るようになっていた時期がある。未だになくなったわけじゃないが、酷い時は物流が滞り、品物の値段が徐々に上がってくるという状況だったのを思い出す。柄の悪い連中が港に増えており、もめ事も増えて噂によれば小競り合いによる人死にも出ていた。
商売をしている店同市でも、そろそろ領主が動くかどうかで身の振り方を考えなくてはならない雰囲気でもあった。
その頃、冒険者一行は被害に遭ったやつから情報を聞き出すことに成功したらしい。被害に遭った商会からも援軍を出してもらい、囲んで潰しにかかる、という事になった。
吟遊詩人が口に出していた商会の名前には聞き覚えがある。この件だとは知らなかったが、積み荷を取り戻すことで商売をする界隈では一目おかれるようになったところだ。噂によると奪われた以上の品を手に入れて景気がいいというやっかみも出ていたな。
つい聞き入ってしまったが、どうやら海賊が手荒かったのにはもう一つ理由があったらしい。なんでも邪悪な神に仕えるやつが海賊団に混じっていたらしい。
それならあの被害の厳しさも納得がいく。何にしても、今となっては海賊はずいぶんと大人しくなっているし、港湾のギルドたちは領主に大きな借りを作らずに済んだことを喜んでいるに違いない。
冒険者たちにすれば海賊の一つを潰しただけだったようだが、お陰で値段を変えずに商売を続けていられると思うと、なるほど確かに英雄だろう――
「そんな感じの話さ。柄が悪い連中だと金を払ってくれなかったり殴られたりで面倒が多いから、自分としても商売がしやすくなって助かっているってわけ」
吟遊詩人の方でも痛い目にあっていたのか、いい気味だといってから勢いよくエールを飲み干した。
「あら、それなら商売敵が増えるんじゃ無いの?」
「いやl、そうでもないんだよね。何となく吟遊詩人がいるな、くらいな方がこっちとしてはやりやすいし流行なんかも判るからね。あ、おかわり!」
金を払ってもらえるなら文句は無いので、追加の1杯を準備する。それを見た魔術師の女は、はちみつ酒の水割りを注文してきた。思ったより楽しかったのだろうか、すっかり話を聞かせてもらうつもりで椅子に腰掛け直している。代金払わず話だけ聞くんだとしたら、実にしたたかなものだ