気前よく持ちネタを披露して大丈夫か心配になるが、よく考えたら同じようなテーマでも吟遊詩人の腕前一つでどうとでもなるのだから余計な心配というものだろう。
それに、この男の腕前の良さというのは自分もよく知っている。
だからこそ、こうして多少は気を使ってやるわけなのだが……
さて陸での海賊退治の次は、鉱山に向けた冒険談らしい。
前回の貢献で商会の信頼を得たた冒険者たちは、ちょっとばかりやっかいな依頼を頼まれたらしい。どうやら鉱山に置き去りにされた職人の道具を回収するという依頼だ。
やっかいな話に間違いは無いが、冒険者たちのうち一人がドワーフに思い入れがあるらしく、すんなりと依頼を受けた。
どこの村でもゴブリンには悩まされる。依頼の舞台となった村には洞窟があり、そこに住み着かれてしまったらしい。 下手に増えられると最悪で、農作物などを荒らしに来たり、最悪の場合は人死にが出る。そうなる前に冒険者を呼んだり領主に助けを求める事が多く、今回もそういったパターンだ。
道中で蛇に襲われたり、村の近辺で光を放つ大型の昆虫が出たりと中々に難儀だったようだが、なんとかゴブリンの討伐まで無事に終えることができたらしい。
言われてみれば、その職人の名前は聞いたことがある。元々、ドワーフの職人に名工が多い事は知られているが、そんなドワーフとお近づきになれるチャンスは少ないし、道具を手に入れることはもっと少ない。
そんな中で、最近勢いのある商会はドワーフの職人製の品物を扱えているらしい。この依頼のお陰で、包丁を1本調達することができたが、その切れ味や手のなじみ方といったら武器としても十分に信頼できそうな品だ。これが現役の冒険者時代に手に入っていれば、と思いたくもなる。
他の二件と比べると地味な話かもしれないが、個人的な恩恵で言えば海賊よりも、こちらの方が大きい――
「この手の話だったら、職人が多い酒場でウケる」
「確かに、大事な道具を取り返すことができたらそれは嬉しいわよね。わかるわ」
同意する事でもあったのか、うんうん、と頷いている
「へぇ、そっちにも取り返したい道具があったのかい? 」
「そんなところよ」
冒険者が冒険をする理由は、その数だけ存在する。
俺は何で冒険をしていたんだっけか……と言われたところで料理の注文が入ったので、肉を切りることにする。
この厨房こそが居間の俺にとって冒険の舞台で、その手には魔法のダガーならぬ名工の包丁がある。酒の注文があるかもしれん、とだけ給仕に言ってから、仕事に取りかかった。