肉を焼いて別の客に出した後に戻ってくると、まだ話は続いていたようだ。どうやら、次の冒険の話だったらしい。机を見るに、エールがさらに注文されているようだ。まだ大丈夫そうだが、このままでもうまくない。まぁ荷物はあるだろうし、取りはぐれることが無いように気をつけるばかりだ。
吟遊詩人曰く、その冒険者たちのうち一人が、邪教の一団がいるとされる場所の調査をするよう命じられたらしい。
聖騎士と認められるには貢献が必要なのだが、単なる奉仕活動をコツコツやっているだけでは届きそうに無いらしい。
道中では蛇やイノシシ、飢えたネズミなんかを恐れるべきだろうが、運が悪いと、もっと悪い連中……賊のような連中や、恐ろしい人型の種族たちとかち合うことになる。
心得のある冒険者たちはなんとかできるかもしれないが、単なる農民や商人などでは立ち向かえないことも多い。単なる略奪で済めばいいが、時として命まで失うことになるだろう。
その時は、運の悪いノームが襲われていたらしい。比較的善良な冒険者に救われたのは、まさしく幸運だった。ついてるんだかついてないんだかわからんな。
ノームに事情を聞いたところ、コボルドというトカゲ人間に襲われたのだという。近くの村まで送り届けて話を聞くと、調査目標にしている場所は、確かにあるようだ。
洞窟を目指す一行の前には、呪われた氷の彫像やアンデッドと化したコボルド、そして実際に潜伏していた邪教の信徒たちが立ちはだかってきたらしい。
それらは冒険者たちの手で討ち取られたのだが、一行によればコボルドらの信仰していたものを奪うかたちで、恐ろしい化け物を生み出して余にはなつ計画があったとされている。
「それが何なのかはわからないが、悪の企みは潰されたのさ」
というとジョッキの中身でのどを潤した。吟遊詩人はこれをどうアレンジするのかで悩んでいるという――
「あら、そのまま演じればいいのに」
「それでもいいんだけど、うっかり関係者が聞きつけたら何をされるか判らないし、何なら本人たちにも迷惑がかかるからね。あえて話を変えるのも互いの身のためなのさ」
「ふうん。まぁ迷惑な奴らね。諍いに巻き込まれたら、たまったものじゃないわ。ああ嫌なこと思い出してきた。ねえ、お酒もう一杯ちょうだい。エールがいいわ」
人それぞれに何かしらの物語はあるんだろう。店としては断る理由がないので出すことにする。
出したエールを女魔術師は勢いよく飲みきり、ぶどう酒を注文してきた。おいおい、最初とは別の意味で警戒したくなってきた。こいつら代金は払えるんだろうな。