他のテーブルへの給仕をしながら戻ってくると、次の冒険の話が続いていた。今度は船に乗っての冒険譚らしい。
南の方で、ドラゴンのいた場所を調べに行くらしい。俺は本物のドラゴンと出会うような冒険などはしたことがないが、確かに出会ったことのある冒険者の話を聞いたことがある。
この手の話では、ほら吹きが多い。本当にドラゴンに出会ったかどうかなんて調べようが無いからだ。そんな中でも本当の話だと思わせる冒険者は、どこか格が違ったような気がする。
聞けば、今を生きるドラゴンでは無くかつて存在した痕跡を追いかける方の話だった。どうやら多少の手応えを感じる調査結果だったらしいが、個人的には村を占拠していたらしい魚人の話こそが興味深い。
村に定期的に捧げ物を要求してくる連中に対して、調査のために訪れた冒険者たちは抵抗を訴えかけたらしい。そうして最初は及び腰だった村の人々も協力し、ついには陸地で迎え撃ち勝利を収めるという話だ。
これはアレンジのしがいがある話らしく、吟遊詩人もどう演じた者か色々と悩みがつきないそうだ。
遺跡については隠されていた場所でであったドラゴンとの混血児の話があったが、細かいことは他のテーブルの注文対応や料理の忙しさで追い切れていない。
ただ、遺跡を調べているフリントとかいう学者は記憶にあった。少し前に、ドラゴンにまつわる話を聞いて回っていた学者だったからだ。又聞きした話とはいえうっかりドラゴンの話をしたら、早口でまくしたてながら色々聞かれて引いたのを覚えている。情熱があるのはいいことだった。
そんなことを振り返っていると、そろそろ吟遊詩人も魔術師も酒が回り、できあがってしまっている。そろそろ会計をしてもらった方が良さそうだ。
「まだ話のストックはあるんだけど、今日はしゃべり過ぎちゃったな」
「楽しかったわ。色々な話が聞けて」
「その、よければこの後……」
「それはパス。ただ、面白い話のお礼にちょっとしたお礼をしてあげるわ」
「へえ、どんなお礼?」
「この金貨をあげる。換金してもいいし、何かの話の種にしてもいいわ」
見たこともない金貨が一枚、テーブルの上に残された。
魔術師は、このあたりで出回っている普通の金貨で支払いをするとフラフラとした足取りでどこかに去って行く。
吟遊詩人は手元で、金貨をいじりながらぼんやりとしていた。
「あのさ、ここの支払いは……」
「その金貨じゃ受け付けないぞ。普通に払え」
「だよね……」
なるほど、見たことの無いデザインだ。
「まぁ聞いた話は面白かった。銅貨1枚くらいは値引きしてやろう」
「あ、ずるいぞ。それならタダにしてくれたって」
「今日はもう営業しないと言ってたじゃないか。それに荷物にも注意を払っておいたんだからお互い様だ」
それもそうか、と吟遊詩人は酒を飲み干した。