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001
あれから数日経ったある日。
1年一行は外での稽古が終わり、五条先生の愚痴を挟みながらトボトボと歩いていた。
「ん?」
鈴谷は気配を感じ空を見る。
乙骨も何かを察したのか、同様に首を上にする。
「何か…感じなかった…?」
ポリポリと頭を掻く乙骨にパンダが冗談を飛ばした。
「里香が四六時中、隣に居れば呪力感知もガバガバになるわな…カワイソス」
「……。それだと鈴谷もガバガバ扱いになるだろうが…。おい!どうしたんだ?」
真希は鈴谷に声をかける。しかし、その声は白髪の彼の元には届かなかった。
鈴谷は小言で「夏油さん」と呟いた。
秋の冷たい風によってかき消された言葉は、誰にも届く訳も無く、鈴谷は空をただひたすら見つめていた。
002
ペリカンを何十倍も大きくしたような呪霊から続々と人が降りてきた。
降りる、といっても背中ではなく、口の中なのだけど……。
「やあ」と言わんばかりに僕に向かって夏油が手を振る。
この異変を嗅ぎつけ、先輩、教師などが続々と集まりつつある。
五条は既に到着していて、夏油を警戒している様子だ。
先ほどの夏油の話である『呪術師だけの世界を作る』という、到底理解できぬ思想を吐き出したが、誰一人賛同せず、逆に困惑しているようだ。まぁ、そりゃそうだよな……。
「それにしても悟。今年の一年は豊作じゃないか……」
「特級被呪者」
「突然変異呪骸」
「呪言師の末裔」
「禪院家の出来損ない」
「おいテメェ!!」
真希が声を上げるが夏油はそれを無視して続ける。
「妙漣寺の最高傑作」
夏油と目が合うが直ぐにずらした。
「いやー以前、鈴谷クンをスカウトしようと思ってお茶会をしたんだけどねぇ…断れちゃったからまた来たよ」
夏油の言葉を聞き、皆の視線がこちらに向く。唯一1人だけ…五条は夏油に対し威嚇するように睨んでいる。
僕は深く息を吐くなり夏油に言う。
「夏油さん…あなたの望む世界は………好きじゃない」
「はは……そうか……。また、振られてしまったな…。分かってはいたが、辛いね……」
トホホと泣く夏油に五条は確信を迫った。
「なら、一体…。どういうつもりで来たんだ?」
「フフ……そりゃあ勿論、宣戦布告さ!」
両手を開き、自らを囲む敵の一人ひとりに視線を合わせてから夏油は高らかに宣言した。
「来たる12月24日!!日没と同時に、百鬼夜行を行う!!場所は呪いの坩堝、東京 新宿!!呪術の聖地、京都!!」
僕は理解した。夏油のこの発言は嘘が無いことに。ならいっそ……今ここで!!
「存分に呪い合おうじゃないか」
ニヤリと笑う夏油の首を目掛けて手を伸ばす。
術式、神通力も使用した最高な一撃だ。このまま喉を潰して骨を折る!!
ぬるり、と夏油の影から黒い何かが、勢いよく動き僕の腕を止めた。
伸ばした右腕。手先から腕まで黒色のスライムのようなものに浸かった。
その腕から嫌と言うほど感じる『不快感』。人間の負の感情を鍋にぶち込んで、煮詰めたような感覚だ。常人ならまず耐えられないと察した。
「!!お、驚いた…。鈴谷くん…キミの一撃がこんなにも早いとは…。だけど我々の方が一枚上手だったようだね」
そのスライム状の呪霊から腕を引き抜き後ろに下がった。
5秒間、術式を使用しても『呪霊の呪力に大きな変化が無かった』。5秒間触れれば2級までの呪霊は消滅する。1級ですら大ダメージだ。
つまり、スライムの呪霊は『呪力がほぼ無限にある』と解釈できようか…。
奴の体内、何やら沢山の呪物を取り込んでいる様子だ。
時間をかけて呪物を取り出せば祓えなくも無い…だけど、今この場でやることでは無い。
死者が出てしまう──
「流石だね、最高傑作は頭の出来すら、その辺のゴミと違うらしい。話が分かってくれて嬉しいよ」
嬉しそうに夏油は言った。
「あ────!!夏油様!お店が閉まっちゃう!!!」
スマホを見て金髪の少女が声を上げた。
彼女の一声で夏油一行は、ペリカンの口の中に入っていった。
「あぁ、そう。鈴谷くん。このスライムの呪霊なんだけどさ、君に縁があるらしいんだ。私の能力では従えられなくてね…利害が一致したから共にしているんだ…」
嘴から上半身を出し、小さくなったスライムを片手で撫でつつ彼は呟いた。
「そうそう!この子の名前は私が付けたんだ!教えてあげよう!来る日、キミは戦わないといけないからね。この子の名前は……
ダゴン
そう残して、巨大なペリカンは空に旅立った。
「ふぅ──!!一時はどうなるかと思ってヒヤヒヤしたよー!!ところで!すーずーやーくーんー!!夏油とお菓子食べに行ったんだってね?詳細、詳しく!!」
先ほどの張り詰めた最強はそこにはおらず、いつものウザい五条先生が居た。
きっと空気を読んで、敢えて壊しにきてくれたのだろう。
ならばここは僕も乗っかってやらないと行けない…。
「夏油の財布が空になるまで食い尽くしましたよ!!!」
003
謹慎。それが僕に与えられた罰だ。
秘匿死刑が決定している僕に対して謹慎とは…いささか甘い御三家だこと。
まだ妙漣寺を利用したい魂胆なのだろうか。
「夏油の狙いは『里香』、『鈴谷』と仮定して……では何故新宿と京都に百鬼夜行を起こすのだ!?」
学長が机に拳を打ちつけた。
その衝撃により、僕の茶のみに入る熱々のお茶が溢れた。
「もぐもぐ……。まぁ、戦力を割りたいからで無いですかねー?アイツらしい」
ハッピー●ーンを食べつつ五条は返した。
「……なら、24日の当日は…僕と憂太くんを別々のところに置いたらどうですか?そうすれば『物理的に距離が有る』ので、一気に2個取りは無いと思いますが…」
アルフ●ートを齧りながら僕は言った。
夏油さんの狙いは確定している。分かっている以上、どう対応するかが大切だ。
「鈴谷はよくても乙骨はダメだ。里香の制御がきかない…。東京、京都のどちらかに乙骨を置いてしまうと、乙骨が居ない方の戦力が低くなる。夏油は『里香の暴走』を狙ってくるでしょう…。我々は乙骨を死守しなければならない…」
顎に手を置き五条は俯いた。
「ならいっそのこと、憂太くんを学校に置くのはどうですか?もし暴走しても『人的被害は2ヶ所よりも圧倒的に少ない』。ですが…憂太くんの守りは薄くなる……」
謹慎室と言う名の『五条の部屋』に3人集まり、菓子とお茶で休憩を挟みながら、議論している。
もうかれこれ3日目だ。
表面上では良い顔をして会議に出席している学長だが、この空間内では苦虫を噛み潰した顔をしている。
部下の士気を下げてはいけない。そんな思いが彼から溢れて見えるのだ…。
「ガッデム!!万が一、里香が暴走するならば此処が良い…。だが鈴谷、お前はどうするんだ?」
「僕は……」
迷う僕に五条の声がかかる。
「京都に行かせましょう。京都高も居ますし、七海も居る。そこが1番いい」
「五条、お前はどうするんだ?」
「東京。それしか無いでしょ?特級呪術師が各エリアに1人ずつ……。それがイイ…。詳しい内容はまた明日でも……。もう疲れたー」
時計は午後11時近く。
現在12月の22日。まだ検討するには時間が有る。
椅子にふんぞりかえる五条を横目に、僕は新しい菓子袋を開いた。
004
12月24日。午後4時53分──
冬の時期だけあって、陽の落ち方が早い。
民間人の避難は1週間前から始まっていて、街は光だけが灯る活気の無い、どこか悲しい雰囲気を出していた。
避難の内容は『不発弾の処理』だそうだ…。なんだよそれ、舐めてんのか?
「もう時期ですかね…七海さん……」
腕を捲り、時計を何度も確認する男に僕は問うた。
「そうですね…。もうそろそろでしょう……。ほら」
街の影。そこからウジャウジャと大小様々な呪霊が湧き出した。
「鈴谷くん。貴方は出来るだけ温存して下さい。夏油さんの計画。その中に貴方も入っていますから」
何十回も聞いた。だからと言って、ハイハイと適当に流してはいけない。
僕の敵はダゴンと言う呪霊。アイツはヤバい……。僕の勘と玉藻さんが全力でそう言っているから…。
「……。………」
「ん?どうしたんですか、七海さん…。何か言いたげですけど……」
カチャっとメガネに手をやり、七海は告げた。
「つい先ほど入った情報ですが…30代目当主、妙漣寺重蔵が亡くなられました……。こればっかりは貴方に伝えなければならないと思いまして……」
長い沈黙の果てに鈴谷は七海に返した。
「あ、そうなんですか。へぇーやっと…ね…。ありがとうございます。ですけど僕は大丈夫です。その気で、妙漣寺を滅ぼしたので。覚悟は決まってました」
005
するりするりと刃が抜けてゆく。
2級、3級の有象無象のゴミに対しては力など入れなくとも、ゼリーに刀を入れるように斬れてゆく。
退屈──
鈴谷にその感情が支配した。
自分を殺せるのもは、もはや五条しか居ないのでは無いのかと考える。
もし…そう、もし神通力を全て取得してしまったら、この世界は酷くつまらない物になってしまうのでは無いのか、と恐れた。
ただで死ぬのは嫌だ。打ちのめされ、全力を出し切って死にたいと言う、ある種の『性癖』が妙漣寺と言う環境にて育ってしまった。
自分よりも強いものに蹂躙されるのが好きなのか?
自分よりも強いものを蹂躙するのが好きなのか?
言葉にすると、とても脆く、あやふやになってしまう。
何が『要因』なのかすら分からない。
何が『原因』なのかすら分からない。
だけど一つだけわかることがある。
きっと今の僕は自暴自棄になっているのだと──
「あ、ありがとうございます!!」
長い水色髪の娘が、尻もちして体勢で礼を言う。
「別にいいよ。さぁ、どうぞ」
僕は手を出す。重ねてお礼を告げて彼女は僕の手を借り立ち上がる。
京都高。三輪とか言っていたような…。
「簡易領域も術式も使用しないで…素の呪力で倒してしまうなんて……。もし交流会に鈴谷くんが居たら、本当に完敗でしたね…」
トホホと彼女は愚痴をこぼす。
「三輪!!怪我は無いか!!」
後方から男の声が聞こえる。
あの若き加茂家の嫡男だろうか…。ならば離脱して良さそうだ。
「じゃ。宜しく伝えといて」
僕が言い終わるなり、ビルを粉砕しながら巨大な呪霊が現れた。
すかさず身構え刀を構えるが、僕の頭上を飛ぶように何者かが移動した。
ものの数秒で巨大な呪霊は祓われ、砂煙と共にある大男が現れた。
「ほぉ、交流戦に居なかったヤツか……。ならば俺はお前に問わなければならない事が有る!…どんな女が
ん?はぁぁぁ!?
こんな状況で良くそんな事言えるな!この東堂っつう男は!?
交流戦当日に仕事が入って行けなかったのが今になって響くとは…。
パンダ先輩。あなたの言うとおり、東堂っつう男は変態です。
しかし、しかしだ。問われた質問は返すのが僕。……好みのタイプかぁ〜。
玉藻さんを上げたいけど、人外はダメだよな……。
ふと街を煌々と照らす大型ビジョンが目に入った。
テレビ番組の番宣。つまるところCMがやっていた。
あ、高田ちゃんだ。
『高田ちゃん』こと高田延子のぶこは、この日本では珍しい長身アイドルだ。身長は180cm。
やや渋めのアイドルという事で、ハマるには狭き門だが、好きになってしまっては虜になってしまうほどだ。
かくいう僕は、高田ちゃんのファンである。
高身長。太もものサイズ。時たまに毒を吐く。はかそことなく、玉藻さんに似ているので好みなのだ。
しかし何度も言うが、ファンはかなり限定されていて、『好きな女のタイプ』で答えるにはヤヤ適していないであろう。
だがしかし、東堂と言う男は『めんどくさい男』と聞いた。
ならばここは『高田ちゃん』と本心を言い、引かれてしまうのが手っ取り早い。
何度でも言うが、高田ちゃんのファンは極めて稀だ(鈴谷調べ)!!東堂が高田ちゃんのファンの確率は限りなく0に近い!!
この間たったの0.2秒で整理し、僕は東堂に告げた。
「人だと高田ちゃん。理想は高身長で、腰回りがいい感じに大きい子が好きかな」
下を向いて言った。どんな顔しているかは僕にだって理解できる。
だけど…それなのに、東堂の返信が来ない。
フと顔を上げて確認した。
鼻水と涙をこぼし、身体が震えている東堂が写る。
「どうやら俺たちは…『親友』だったんだな……」
「はぁ!?!?」
お疲れ様でした!!
如何でしたか?
12/24が百鬼夜行の当日なので、次話も同日に投稿したいなぁ、と考えてます。
この物語も、もう直ぐ終わります。
最後まで見ていただければ、とても嬉しいです。
ではまた〜