玉藻の前に取り憑かれた『天狗』の子   作:赤い靴

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12話です!
色々詰め込んだ結果、文量がかなり多くなってしまいました……。

楽しく読んでいただければ嬉しいなぁと思ってます!!




第12話 上位者の落胤(らくいん)

 001

 

 

 この特殊な領域に居て分かった事がある。

 まず1個目は、『空間が歪んでいる』こと。

 これは少しめんどくさいが別に大した問題ではない。領域内の空間の体積と、領域展開を『発動する際』の結界の体積がイコールでないと『歪む』。

 その歪みによるデメリットは基本的に無い。

 しかし、僕の神足通は『空間に座標を打って移動する』のでややダルイ……。

 

 空間に干渉する術式の持ち主なら、きっとこの『歪み』は天敵なのだろうか?

 

 

『AAAAaaAA!!』

 

 ダゴンによって生み出された人型の呪霊攻撃をかわす。

 態勢を整え、すかさず腹に腕を槍の様に刺し込み呪物を引き抜く。僕の手には、小さい頭蓋骨に木の杭が2本刺さる呪物。

 調べれば『どんなものか』が分かると思うが、そんな時間と余裕はない。

 

 その呪物を首の後ろに回し、玉藻さんに手渡す。

 渡すといっても『手』だけ現れるので、五条先生との縛りに触れていないらしい。

 玉藻さんが居るのは『僕の生得領域』内。常に『玉藻の前』以外の『モノ』に術式を発動しているので、呪物の持ち運びは最適解だ。

 しかし、対象が多くなるほど呪力量が増える。

 便利だが不便。

 

 あ────!!僕も六眼が欲しいよ~!目ん玉、片っぽ貰えないかな!?

 

 息切れを起こす僕に玉藻さんは語り掛けた。

 

『体感では30分戦っていますが…領域外ではホンの数分…。外では乙骨さまと夏油さまが……。応援は未だ当分来ませんわね…。今すぐにでも私も参戦したいのですが…』

 

 複数の呪霊の攻撃を避け、呪力量が一番高い箇所を目掛け反撃を繰り出す。

 呪力量が高い=弱点、となる訳では無いが相手は1級、特級レベルの集団。少しでも『還源術式』で相手を削り、ダゴンに近寄らなければならない……。

 5体居る内の3体を祓い、呪物を生得領域に仕舞いダゴン等から距離をとる。

 

 ジュウゥゥゥ……

 

蝕爛腐術(しょくらんふじゅつ)ッ!?そんな呪霊(モノ)まで『持っている』のか…」

 

 先ほどの呪霊の攻撃を受ける為に左腕でガードした。

 しかしその行為が仇となった。傷口から物凄い勢いで腐食が始まった。祓ったというのに腕が蝕む。

 

 岸辺に座礁した木船まで移動し反転術式を施す。

 腕は治るが呪力消費は半端ではない。

 もうかれこれ30分戦った。致命傷になる傷は治しつつ、どうにか保っている。

 だがもう僕の呪力は……ハッキリ言ってもう無い。

 

「玉藻さん…神核1つ、尾が1つ増えるだけでも違う?」

 

『…。ええ、そりゃ勿論♡』

 

 何が違うかを瞬時に察した玉藻。顔こそ見えないが、きっと口角を上げ言ったのだろう。

 ならば攻守交替──

 

 ダゴンの領域に入る前に黒閃をキメている。ゾーンに入っていて『この始末』だ。

 なら本日2発目の黒閃を出すしかない!!

 しかも、ダゴンに黒閃を繰り出せたとしても、目当ての『神核』が出るとは限らない……。

 玉藻さん曰く「呪物と呪力がごっちゃで、存在は確認できるが位置は不明」との事だ。

 

 

 ならここは賭けてみますか!!

 

 

『やっちゃって下さいご主人!!できる範囲でサポートしますわ!!』

 

 

 忌々しい風が吹く中、一枚の紙切れが僕の足に引っかかる。ダゴンの領域外から入って来た物だろう。

 きっと領域の侵入は僕と同じでガバガバなのだろう。

 その紙をピッシっと開き、見る。そこには乙骨の字でこう書かれていた。

 

 〈皆を回収して反転術式を施した。任せて〉

 

『あらあら、カッコいい事を言えるようになりましたわね。乙骨様』

 

「確かに…。玉藻さん…こっちも負けてられないね!」

 

 

 

 

 002

 

 

 

 

 ダゴンに向かって駆ける。

 この領域内の空間はヤツの手中。

 逃げ、守りの神足通は『ゆるされた』が、攻めの神足通はどうだろか?

 カウンターが来るかもしれない。いや、有るならもう使っているかもしれないが…。

 

 これ以上深いダメージを負いたくない一心で神足通を使用せず突っ込んだ。

 

 蟲群れに蝕みながら進み、灼熱の炎に巻かれながら進み、飛び掛かる無数の刀を受けながら進んだ。

 もう見飽きた赤が僕の身体のあちこちから漏れ出す。

 玉藻さんの加護が無ければ生きていなかった。尾が3つでこの効果。優先するものは初めから決まっていた。

 己の命よりも玉藻さんの神核。

 

 そして、目標のやせ細った呪霊の手前。僕は脚を踏み込み、腰を落として右拳に100%の呪力を集めた。

 ガードにまわす呪力は0。

 そんな無謀な僕を戸惑うように見るダゴン。

 

 的先はダゴンの右肩。そして『取れ易くなった右腕』を奪う!!

 

 ダゴンの肩に深々と拳が刺さり次第、僕の術式を流す。これにより破損部の回復が還源術式によって阻止できるはずだ。そしてそのまま千切るように腕を奪取する。

 

 右拳の呪力オーラを槍状に鋭く変化させる。そのまま玉藻による呪力のブーストを籠め右肩に目掛け一撃を与える。

 ダゴンに拳が接触する刹那。黒い閃光が辺りを照らした。

 僕の人生の中で一番の衝撃。何十も重なった呪力の装甲を貫くような感触。

 

 そして──

 

 還源術式を駆使し、ダゴンの腕は千切れていった。

 

「ッ!!」

 

 その腕を回収し距離をとろうと神足通を使ったが、移動する瞬間に攻撃を受けてしまった。

 身体の防御にまわす呪力は0だった。

 承知はしていたが…ここまで抉れるなんて想定すらしていなかった。

 

 グシャり、と音を立てて船の上に倒れこむ。

 自分の状況は見なくとも理解した。

 

 右側の腹部がごっそり無くなっている。

 

『ご主人!神核は2つありましたわ!これで……ご主……ん……!!』

 

 

 音が消えていく。

 あの腕から玉藻さんの神核は2つも奪えたそうだ。

 彼女の呪力量が馬鹿らしい程に上昇したのが、こんな僕でも感じ取れた。

 

 完全顕現は成功した。

 

 後は玉藻さんが如何にかダゴンを退治してくれるだろうか……。

 

 これで穢れた妙漣寺も終わり。

 

 あぁ、じじいは僕を叱ってくれるのかな…………。

 

 

 

 ダゴンの領域内

 48分間戦闘し鈴谷宗一は息を引き取った

 

 

 

 

 003

 

 

 

 眼を開ける。

 一面霧に包まれた場所。

 

「はい?ここ何処?地獄……じゃないな……」

 

 独り言をつぶやく。

 辺りを見回しても、意識を集中させても何も感じられない。

 

「おいそこの小僧!」

 

「うぃす!!」

 

 メチャクチャ驚いた。その所為で変な声が出た…。

 後ろを振り向くとそこには、丸太に座る男が一人。え?誰?

 

「まぁ警戒すんな…。ここに座れ」

 

 知らないオッサンが命令口調で隣に指さしてる……。従わないと殺されそうだ……。まぁ多分死んでますけどね。

 

「…あ、じゃあ、失礼します…」

 

 沈黙

 

 これほど胃が痛む静けさは体験したことがない。助けて……。

 

「あ、名前……。僕は…鈴谷宗一と言います。貴方は…?」

 

 オッサンは少し口を籠らせた。

 自身の名前を言いたくないのだろうか?

 表情こそ変わらないが、きっとこの人は考えているのだろう……。

 僕が一番『理解』し易い名前を…。

 

 数十秒経って彼は言った。

 

 

「お米の神様だ」

 

「嘘つけ────ー!!!!!」

 

 そんな事ある訳ないだろ!?

 さっきの長考は?意味が分からない。何なんだこの人は……。

 

「あぁ、間違えた間違えた……。いささか大雑把だった…」

 すまぬ、と軽く謝りゴホンと咳払いをした。

 

 そうですよね?お米の神様じゃあ意味が分からないよね……。

 

「稲穂の神様だ」

 

「????????」

 

 日本で神と言っても種類が多すぎる。稲穂の神…この霧の空間…合点がいかない……。

 どんな呪霊……いや、神霊だ?

 

 もういいや。

 

 

「そんなことよりも、俺と取引しないか?」

 

「取引…。何を……」

 

 空気がガラリと変わる。

 

「小僧を生き返らせてやる。お前は少々『めんどくさい死に方』をした。反転術式で治しようのない…まぁ、言ってしまえば『魂を壊された』。それを直してやるのさ」

 

「魂を壊された…。見返りは?」

 

「小僧が再び死んだとき、天国にも地獄にも行かせん。お前が来るのはココだ」

 

「?」

 

 何を言っているのかが分からなかった。

 僕は妙漣寺、天狗党の修験者。その者は死後、天国にも地獄にも行けないと教わっている。

 しかも、僕が習得している『漏尽通』。それは『自身が生まれ変わることが無い』事を知らすもの……。

 

 僕にとって『当たり前』を彼は言っていたのだ。

 それは到底『見返り』とは言えず、僕の認識では天秤は傾いている。

 取引、契約はバランスが取れなければならない……。それなのに何故…?

 

「いや待って下さいよ!それは…当たり前の認識で

「なら取引成立だな」

 

 彼が黙々とそう返すと、徐々に霧が濃くなっていく。

 気づいた頃にはもう彼の姿は見えなくなった。

 

「あぁ、一つ言い忘れた…。キミは間違いなく六神通を極める。しかしそれは『五条の坊や』と同じ状況になる」

 

 ぼやけた声が響く。

 

「……。それは、呪霊が多くなる…ということですか…?」

 

「違う。古い神々を目覚めさせるだけだよ。基本的に人間が失態を起こさない限り無害だろう」

 

 彼が言い終わるなり霧が渦を巻くように覆ってきた。

 急に意識が遠のく。この濃霧が原因か…?

 

「神…々……」

 

「そうさ、みんな新しい赤子に興味深々なんだよ」

 

「…………」

 

「──────」

 

 

 

 004

 

 

 

「ギャッ!」

 

 僕が目を開くと同時に玉藻さんの悲鳴が耳に入った。

 寝ている体の状態を起こし、現在の状況の整理をする。

 

 僕が死ぬ前に移動した船の上。身体の傷は全てきれいに治っている。

 あと…玉藻さんの完全顕現……。これ五条先生怒るよな??まあいいか!!

 

「僕が倒れてどのくらい経った?」

 

「あ、そ、そうですね…。10秒程……。何かあったんです?」

 

「…なんでも無いや。守ってくれてありがとう」

 

 玉藻さんの質問から、僕が死んだ事は認識していないらしい。

 なら…あの霧の出来事について質問しても意味ないか……。

 

『キミは間違いなく六神通を極める』

 あの言葉を思い出した。

 普通ゲームや漫画なら『死に生き返り、強くなる』という展開が……!!と期待したが、変化なし。結構ショックだ……。

 というか、あのオッサン最後に何か言っていた。………。思い出せない……。

 それにしても──

 

「玉藻さんってそんなに『強かった』んですね…。もともと尾が3つであの迫力だったのに……」

 

「うふふふ。そのように言ってくれますと玉藻、嬉しさのあまりテンション上がりますよ」

 

 などと言っているが玉藻の前は、鈴谷がやや引くほどテンションが上がっており、鼻歌交じりに現在の身体を堪能していた。

 そんな『特級呪霊』を眼前に、ダゴンが繰り出した3体の呪霊が我先にと走り出した。その理由は不明。

 

「飛んで火に入るなんとやら……ですわ」

 

 玉藻の前がそういい終わると札を呪霊に向け放つ。その後、札を中心に巨大な火柱が立った。

 業火──

 その火力に耐えられず呪霊たちは、呪物を残さず灰と化した。

 

「すご…」と鈴谷は感嘆の声を漏らす。

 

 玉藻の前は少し黙り込み言った。

 

「さあ主様、私たちによる『反撃』を開始いたしましょう…。ですが私には『ダゴン本体を攻撃出来ません』……。私の攻撃は『ダゴンの養分』となりましょう…。今気づきました。ダゴンを打破するにはご主人の還源術式しかないようで……」

 

「え……。じゃあ僕がダゴンの相手すんの?ちょっと無理っすよ!一回しんdeeee…やられてますから。どうすれば?」

 

 鈴谷にはダゴンを倒すビジョンが浮かばなかった。その皮膚は鋼板のように固く、一撃は鋭く重く、呪力…ダゴンの体力は未だ底が見えない。

 

 だが鈴谷は1つ思い出した。

 それは妙漣寺を自らの手で終わらせた時、『自分は似た体験』をしたことに。

 30代当主である妙漣寺重蔵に対してだった。

 その時、玉藻の前から力を借り30代目を斬り倒した。

 それと同じことをすればいい、と彼は瞬時に思いついた。

 

「なぁ、玉藻さん…。僕とまた契約しようよ……」

 

「…………」

 

 玉藻の前は口を開かない。彼女の表情は悲しげで、全て『こうなる』と完全に理解した顔だ。

 

 この状況ですらダゴンが次々と呪霊を放ち、攻撃を辞めずにいる。

 玉藻の前からの補助もあり、呪霊を倒しつつ目標から距離を開ける。まだ攻め時ではないと鈴谷は判断したからだ。

 

「ねぇ玉藻さん」

 

 鈴谷は玉藻の前に語り掛ける。

 

「僕は数か月前は、自分なんて死んでしまえばいいんだって思っていた。だけど、今は違う。自分の命を落としてでも『守りたい友達』が出来たんだ」

 

 玉藻の前からの応答は無い。

 

「いや。死んでも守る。そのために玉藻さん…。僕と一緒に堕ちてくれないか……?」

 

 ピコンッ!!

 

 あ、この音は……と鈴谷は絶句した。

 入学当初、憎き五条悟にやられた事を思い出す。

 

「いい『モノ』撮れましたわ~♡やはり五条様と仲良くして正解でしたわ」

 

 鈴谷の後ろで玉藻の前がキャッキャウフフとスマホを操作している。

 今なお先ほどの録音された音声が何度も流れる。しかも最後の言葉をメインで……。

 

「うふふふふ♡招致いたしましたご主人♡ですが……ダゴンを倒すなるとかなりの呪力提供になります。ご主人の呪力生成では、返済に2,3年は必要かと……」

 

「2,3年……。その間、僕はどうなるんだ?」

 

「あの時と同じように、返済が完了するまで昏睡状態になりますね」

 

 玉藻はそう告げた。

 五条先生の話によると、妙漣寺で僕を回収してから5日間『僕は死んだように寝ていた』と言っていた。ん?あの30代目で5日?まさかあのジジイ、手加減を……いやいや、今はそんな事はどうでも良いんだ。

 

 鈴谷は息を吸い、一言。大きな声で言った。

 

 

「反撃開始だ!」

 

 

 

 005

 

 

 

 ダゴンの身体の破片と呪物が宙を舞う。その呪物を器用に玉藻の前は回収する。

 

『AAAAAaaaAaa!!』

 

 ダゴンの咆哮と共に、背中から幾本の槍の様な触手が鈴谷を襲う。

 それを神足通で躱し、ターゲットを失い硬直している触手を根本から引き抜く。

 

 ブチブチブチ!!

 

 引き抜く際、呪霊の背骨も触手と同時に引きはがされた。

 悲痛な断末魔を浴びながら、鈴谷はさらなる一撃を与える。それは黒い稲光を発した──

 

 ダゴンの頭部が弾け飛んだ。しかし、その呪霊は未だ呪力量は健在で、頭部の再生が急速に始まる。

 

 今までの鈴谷ならば、カウンターを恐れ距離を取っていた。

 しかし、今の彼は神足通を使用せずにいた。

 かの五条悟が体験したという『確信』を感じ、鈴谷は笑っていた──

 

 玉藻の前の協力な呪力提供、合計13回の黒閃。常人ならざる体験を経て未収得の神通力を習得した。

 天耳通、他心通、天眼通の3つを──

 

 6つの神通力を習得した少年は、この瞬間『人ならざる者』となった。

 

 

 

 ──今はただただ、この世界が愛おしい──

 

 

 

 それは上位的思想であり、彼は『この世でで私より尊い者はいない』と悟った。

 

「天上天下唯我独尊」

 

 鈴谷は六神通、其の凡てを取得して、初めて言葉を放った。

 

 ダゴンが頭部の再生が終わる瞬間、鈴谷は手で印を組んだ。

 

自世限下理(じせいげんかり)

 

 ダゴンを包み込むように、鈴谷の領域が広がっていく。ダゴンは状況を把握し、ただた広がりつつある鈴谷の領域を見つめるだけだった。

 

「やってしまいなされ!ご主人様‼︎カッコいいですわよ!!」

 

 パシャリパリャリ!!とシャッター音が無限に音を鳴らす。容量は大丈夫なのか?と鈴谷は思った。

 

 

 鈴谷の領域内は、日本神話で例えるならば『天地開闢』の時。

 空は神々しい光が降り注ぎ、下は暗く混沌とした海が暴れている。

 その狭間。まるでそこにガラスの板が有るかの様に鈴谷と玉藻の前、ダゴンは立ち尽くしていた。

 

 この領域内では『対象の呪力が減る』。この権能は六神通により大幅に強化された。

 いままでは『引算』のみの対応だったが、今では『四則演算』のように自由に『呪力を操作』できるようになった。

 

「いくら無限に近い呪力とて、『割合』で削れていけば辛かろう?」

 

 最大呪力量を毎秒1%で削っていく。完全に祓うまで100秒。これが今の最大だ。

 

 つまり、この領域に入れてしまえば『呪力を持つモノ』なら2分と待たずに決着が着く。

 例え、噂話にしか聞いたことがない『呪力から解放された』人間ですら、鈴谷はその者に『呪力を付与』すればいい、と考えた。そうすれば縛りは狂い、『天与呪縛』から解放され、『本来生まれるハズ』の状態になる……。

 

「そうかそうか、あの時、あの時代に僕が生れていれば君は生きていたかもしれないんだね……」

 

 自身の前世を思い出す。しかし今更、そう思っても仕方がない。鈴谷はダゴンに視線を移した。

 現在8秒経過した。

 身体から漏れだす呪力に驚いた様子だったが、ダゴンは理解したらしく、自らの身体を引き裂き幾匹の呪霊を生み出した。

 その行為はデメリットしかないが、鈴谷を殺して領域なら脱する、という面では理にかなっていた。

 先ほどまでの戦闘で、1対1の戦闘は不利だと学んだのだろう。

 故に可能性が、那由他の彼方に存在するとしても、ダゴンはその選択をしたのだ。

 

『AAAAAアアア!!!』

 

 叫び声と共に、何百と群れを為す呪霊が行進した。

 その呪霊に対しても、鈴谷の術式が働いているので、呪力量が少ない呪霊はその場で呪物と化した。

 

「さあ、罪深き者達よ。仕事だ」

 

 鈴谷の前方から続々と人影が現れ実物と成す。ある者は太刀を構え、ある者は槍を手に持ち、ある者は屈強な拳を──

 

 その者達は『はっ』と声を揃え、呪霊の群れに突っ込んでいく。ただ一人を除いて……。

 

 鈴谷は幼少期から不思議に思っている事があった。それは、妙漣寺、天狗党の修験者。その者は死後、天国にも地獄にも行けない、と言うこと。

 そして今、その意味を汲み取った。

 修験者たちは死後、その魂を囚われる。覚者の『物』となるようだ。

 

「まさか…こんな所で再び会うとは…。これだから人生とは面白い」

 

 頬面を装備した老人が言う。

 

「僕も同じですよ……30代目当主、妙漣寺重蔵……」

 

 鈴谷がそういい終わると老人はカッカッカと盛大に笑った。

 

「もう全て『終わった』んだな……妙漣寺は……」

 

「……千年の歴史も、僕で終わりです…。僕は、やりましたよ、じぃさん……」

 

 涙を浮かべていたのか、袖口を目元にやるとじんわり湿った。そんな中、玉藻の前が口を挟んだ。

 

「あの~しんみりしている中恐縮ですが、ダゴンさん、いよいよ『本命』を取り出しましたわ」

 

「はい???」

 

 鈴谷はふとダゴンを見る。

 その呪霊の右手には1本の長い物体が。それは白い肉のような塊がこびり付き、その周りを太い血管が脈を打っている。

 その物体から忌々しいオーラを感じた。

 アレは鈴谷を『殺した』元凶。稲穂の神様曰く『魂を壊す』モノ。

 その物体は鈴谷の領域効果を、持ち主であるダゴンを中心に中和させている。これでは『時間による消滅』は絶たれ、直接ダゴンを祓うしか通用しなくなった。

 

 鈴谷はあの肉塊の本性を、天眼通によって読み解く事ができた。しかし……それは……

 

 

草薙剣(くさなぎのつるぎ)?どうして奴が……?」持っているんだ、と小声で言った。

 

 そんな鈴谷の独り言に玉藻の前は反応した。

 

「平家の滅亡の王手を指した戦、その際、かの宝剣は海に没しました…」

 

「……。壇ノ浦の戦い……」

 

 そう言われてみれば辻褄が合うと、鈴谷は理解した。

 ダゴンの領域。その様は全てが終わった海戦そのもの。座礁した木船も、血に染まった海も…。

 

 

「あの子は今も苦しんでいるのでしょう…草薙剣という呪縛と、絶えず川から流れる人々の呪いや呪物によって……」

 

 

 古くから日本には『様々な思いを川に流す』という習慣がある。

 形代流し、人形流し……。はたまた、呪符を燃やし、その灰を川に流してきた。

 それは、到底『呪術師』と言えない、矮小な人々による習慣だ。

 

『人は呪いに対し無力であり、それを逸らすことしかできない』

 

 その為の呪術師だ。

 

 だが鈴谷はダゴンに対し、何も出来ず立ち尽くしていた。

 あの忌々しい呪いに強化された『三種の神器の一つ』は、玉藻の前による呪力供給、妙漣寺の愚者によるバックアップ、鈴谷の六神通を持ってでも祓えないと悟った。

 

 

 火力がまだ足りない──

 

 

 そんな中、鈴谷の領域外で2つの大きな呪力の衝突を感じた。

 乙骨と夏油によるものである。

 そのぶつかり合いは5秒と絶たず勝敗が決まった。

 

「夏油様……」

 

 玉藻の前は今、消えかかる夏油の命の灯を察し呟いた。

 その時であった。

 鈴谷の領域に『ナニカ』が入り込んだ。

 ヒトではない。それは鈴谷の目も前に落ちた。

 

 夏油の呪力の残穢が残る『呪具』だった。

 

 赤色の三節棍。その名を游雲(ゆううん)──

 

 一目見て分かった。この呪具があればダゴンを祓えると。

 

 

「夏油さん…」

 

 鈴谷は游雲を拾い上げる。

 

「本当は誰よりも優しいヒトだったんですね…」

 

 三節棍は鈴谷にとって初めて扱う武器だった。だが天性の才能により、扱い方を瞬時に理解しダゴンに向かって駆け出した。

 

「ありがとうございます」

 

 何故このタイミングで夏油が游雲を手放したのかは、鈴谷には見当も付かなかった。

 ダゴンと協力関係に有るならば、その行為は裏切りだ。

 それでも事実は変わらない。

 

『────────―!!』

 

 全ての(しもべ)を失ったダゴンは甲高く雄たけびを上げ、肉に覆われた剣を空高く構える。

 その剣から淡い光が漏れ出す。この領域を破壊するつもりだろうか。

 

「ッ!!」

 

 宝剣の目の前に神足通で瞬間移動した鈴谷は、小さいな身体、だが屈強な筋肉を弓の様に張り詰め游雲を振るった。

 少年の攻撃に合わせるかのように、妙漣寺の亡霊たちもダゴン本体にダメージを与える。

 筋という筋を切断させたダゴンは、万足に宝剣を振れないまま鈴谷の游雲と衝突した。

 

 

 特級呪具 『游雲』

 その効果 術式効果が付与されていない純粋な力の塊。故に威力は使用者の膂力(りょりょく)に大きく左右される。

 

 

 人間という型を逸脱した鈴谷による一撃は、黒閃も相まってダゴンから宝剣を引きはがす程の威力となった。

 剣を失った呪霊は砂の様に崩れ消滅し、その元凶は玉藻の前の前方に転がり落ちた。

 

 

「疲れた……」

 

 余りの疲労の所為もあり、彼はうなだれ小言を吐いた。

 

「ご苦労、と言いたいところじゃが鈴谷……。お前は『これから地獄を見る』ことを理解しているのか……?」

 

 頬面を外した30代目が鈴谷に警告した。

 

「今更だが、儂の天眼通()が告げている。鈴谷お前は6つの神通力の1つ、漏尽通が『中途半端』だ。到底『六神通を取得した』など言えぬ…。仏に近い人間の末路は知っているのか……?」

 

「知ってる……だけど!漏尽通を完全に取得したら僕の心は『人間でなくなってしまう』!!」

 

 そう叫んだ鈴谷に対し、重蔵が言った『地獄』が訪れた。

 眼が溶けるほどの激痛。脳内に流れる幾万の人々の怒号、悲痛。それに耐えられず地に伏せる。

 その苦痛が耐えられず、まるで赤子の様に涙を流し喚く。

 

「ご主人……尾が7つに戻りましたが…もう私に貴方を守れるほどの呪力が無くなってしまいましたわ……」

 

 玉藻の前は悲鳴を上げる鈴谷に言った。彼にその言葉が届かないと知っていながら。

 

 両手で目を覆いうずくまる少年は叫ぶ。人の温かみを忘れたくなかった、と。

 

「おい、天照。この場合、鈴谷はどうなるんだ?」

 

「あら、やはり『眼』が良いですね。まぁそんなことは置いといて……。そうですね……私に呪力の返済のために5年間昏睡状態になりますが……ご主人の意識は『生得領域内で苦しみ続けます』」

 

「どうにかならんのか?」

 

「なりません」

 

「そうか」

 

 重蔵は鞘から刀を抜いた。

 当然、玉藻の前は見過ごさず間に割り込む。

 

「ここで殺すのが救いだろう?違うのか?天照」

 

「ご主人をここまでのどん底までに陥れた人間が……よく言いますわね?」

 

「妙蓮寺を終わらせる為だ」

 

「全く、ふざけた話ですわ」

 

 玉藻の前の言い分は、他の妙漣寺の当主にも理解ができた。

 しかし彼らは『鈴谷宗一』とは深く関わっておらず皆、口を一の字にした。ただ2人の選択が決まるのを待っていた。

 

 その時である。

 

『あらよっと!ごめんよー』

 

 幼い子の声が響いた。

 黒髪のおかっぱ頭で、白い小袖(こそで)姿の少年が鈴谷の元に駆け寄った。

 

 敵意は無い、と判断した重蔵は一旦刀を仕舞う事にした。そのな老人をみて玉藻の前も警戒を解き、少年に視線を移した。

 

 今なお地面に這いながら苦しむ鈴谷の目の前で少年は屈み、あるモノを取り出した。

 

『これ、キミのおとしものでしょ?川から流れてきたから拾っていたんだ!返すよ!……ぼくを退治してくれて、ありがとうな!!』

 

 少年は何かに握った手を差し出した。声が届いたのか鈴谷は震える手を懸命に伸ばす。

 

 コロッ……

 

 鈴谷の手のひらには、幼少期に投げ捨てた深紅の卵が転がっていた。

 鼻や目、口が装飾されたナニカ。

 それはいきなり震えだし、血の涙を流すと口から血液のような液体を吐き出し、皮膜のように鈴谷を包み込んだ。

 その数秒後、深紅の膜は溶け白髪の少年があらわになる。

 

「ご主人!?」

「鈴谷!?」

 

 一人の老人と一匹の呪霊は鈴谷に近寄った。

 それに反応するかのように白髪の少年は目を開いた。

 

「…?痛くない……治った???」

 

 ポカンと口を開ける鈴谷に少年は言った。

 

『人は呪いに対し無力であり、それを逸らすことしかできない……。…今のキミはまだ未完成だ。だからその卵はキミの漏尽通を回収した。其の時が来れば卵はキミを再度飲み込む』

 

 そういうだけ言って少年は砂の様に消えていった。

 

「じゃあ今は、5/6の状態……。助かったぁぁぁぁぁ~~~~~。誰が仏になるか馬鹿」

 

 鈴谷は状況を整理し、安堵のため息を漏らした。最後に愚痴を添えて。

 

「ご主人~~!!良かった~~!!タマモ、不安で死にそうでしたぁ~」

 

「よく言うわ、この女狐め」

 

 重蔵がそう呟くと玉藻の前は物凄い目つきで睨みを効かせた。

 

「って待て!!玉藻さん!?僕が『寝る』までどのぐらい余裕ある?」

 

 その言葉を聞いた玉藻の前は察し、「あと3分ほど」と返した。

 それを聞いて鈴谷は急いで領域を閉じ始めた。

 

「じぃさん!また後で!」

 

 そういい終わると白髪の少年は「笹食ってる場合じゃねぇ!」と動き出した。

 

 鈴谷が居なくなった領域。29代目当主である正長は、30代目当主の重蔵に語り掛けた。

 

「笹?おい、重蔵、どういう意味だ?」

 

「あぁ、アレは友に会いに行ったんですよ。鈴谷は…」

 

「友?…フフ……それは良いことだ。ところで、小僧の名。新しき31代目の名は決まっているのか?」

 

「ゥッ!相変わらず痛いところを突いてきますね…。もう決まってますよ、猩々。それを受け入れてくれるかは、鈴谷自身の問題ですが……」

 

 天国にも地獄にも行けない彼らは、酒も無いもにも関わらず大はしゃぎをし、殺し合いを始めた。

 自らを『悪の化身』と銘打って天狗に堕ちた者共。

 その存在理由は『最高傑作を守ること』。

 魂を囚われ、疑似的に『不死』となった彼らは、より牙を研ぎ澄ますため殺し合いを始めた。

 欠損した部位は瞬時に治り、金切り声を上げ武器を、拳を振るった。

 その一人一人が一級呪術師並みの技量を持っているが、彼らはさらに求めたのだ。

 鈴谷宗一という光が示した『強さ』を──

 

 さぁさぁ、ここは堕落した妙漣寺の修験者が行きつくところ。

 そこは(まさ)しく天国であり、地獄でもあった。

 

 

 

 006

 

 

 

 領域を出た。

 地に足をつけると乙骨たちが寄って来たが、鈴谷は断りを入れ『游雲』が残した呪術師の元に走り出した。

 

 幾つも曲がり、暗い裏路地に彼は居た。それと彼の目の前には、最強の呪術師が立っていた。

 

「ん?まさか、君が来るとは…。思ってもなかったよ。鈴谷宗一くん」

 

「鈴谷……」

 

 二つの顔がこちらに向く。夏油は満身創痍で、左腕を失っていた。

 

「いつかのタダ飯のお礼を……いや……」

 

 少年は息をのんだ。彼が死ぬ前に伝えないといけない事があった。それが呪術高専にとっての裏切りだとしても……。

 

「僕は……夏油さんが言っていた『世界』に少し賛同していました……」

 

「……?じゃあ、君が私の2代目になってくれるのかい?」

 

 夏油はからかう様に鈴谷に問うた。

 

「なりません!」

 

 即答。その様に夏油は笑った。

 

「僕は……」

 

 神に成りかけた少年は口を開いた。

 

「たった一瞬ではありますが『世界中の呪いの声』を聴きました。それは『平等に造られなかった人間の悲鳴』でした……。だから僕は……」

 

「少しでも多くの善人が、平等を受けられるように……僕は不平等に人を救います」

 

 ははは、と擦れた声で夏油は笑った。

 

「それが上位的視線を持った、君の考えなのだね……分かった。では、私から君に呪いを……。キミが夢見た世界が、いつの日か成就することを願っているよ……同志よ……」

 

 鈴谷は夏油の言葉をしみじみと聞いた。そして呪具の感謝の言葉を述べた。

 

「じゃあ、今の僕には時間が無いので!!お互い地獄でまた会いましょう!!!」

 

 そう言って鈴谷は裏路地の影に消えた。

 

「…………。面白い事を言うね、彼は……。なぁ悟、『あの時、あの場所』に鈴谷くんが居たら、私たちは変わっていたのかな……」

 

「さぁな…。だけど、もし『そういう過去』があれば今頃、『5人』でつるんでいたんじゃねぇの?」

 

「あははは……それはそれは…楽しそうだな……」

 

 

 この後、少しの会話を経て、夏油傑は五条悟の手によって深い眠りについた。

 

 

 

 007

 

 

 

 あの広場に着いた。

 そこには皆が揃っていた。

 

 泣き崩れている乙骨を囲むように、真希、棘、パンダが立ち尽くしている。

 折本里香の気配が完全に無くなっていた。解呪に成功したのだろうか……。

 

「あ、鈴谷ぁ!?てめぇ今までどこ行ってたんだ!?」

 

 真希の怒号が鈴谷の脳内に響く。怒っていらっしゃる……。

 

「あ、あの…少しヤボ用を…」

 

 視線を逸らして言う少年に、彼女は言い返した。

 

「心配したんだぞ……」

 

 予想外の返しに鈴谷は驚いた。

 心配……そうか、心配なのか。ここは、『ただいま』と答えるのが正解だろう?

 

「ただいm……!」

 

 その時であった。清算が始まったのである。

 

 一瞬意識が遠のき、その場に倒れこむ寸前に真希の腕に包まれた。

 

 まだ意識はある。だが身体が動かない……。

 

 自身の状況が明るみになり、軽い絶望を感じる。

 

「おい鈴谷!聞こえてるのか!?」

 

 真希の声を筆頭に、乙骨、棘、パンダの声が耳に届いた。

 しかし少年の脚は、次第に重力すら抗うことが出来ずその場で倒れこんだ。幸いに真希に抱き付いた状態での出来事だったので、地面と衝突せず、彼女の膝の上に頭を置く体勢となった。いわゆる、膝枕である……。

 

 

 

「玉藻の前との縛りだな?どのぐらい寝る予定なんだい?鈴谷」

 

 五条悟は六眼を鈴谷に向け言った。

 

「2、3年と聞いた。けどもっと長いかも…」あはははと笑い、鈴谷は五条に言った。「これ、戦利品」

 

 右腕を横にめいいっぱい伸ばし、ダゴンから奪った呪物を放出した。

 

 呪われた刀及び槍×18、鬼の右腕×1、ナニカの目玉×3、木乃伊の新生児×1、血が滴る臓器の一部×1、気色の悪いナメクジ×3、蛇の抜け殻×2、焦げた仏像×1、貝殻の首飾り×4、遺体が入った壺×7、神木の破片×2、龍の髭×1、両面宿儺の指×2、病創の皮膚×7、人形×28、背骨×2、歯や指の骨×12、などなど……

 

「うえ……沢山隠していたね…。気持ち悪くないの?」

 

「なるに決まってんでしょ……」

 

 鈴谷はそう答えた。宝剣は隠しておくことにした。あの五条悟の事だ。壊しかねん……。

 

 五条はパンパンと手を鳴らした。

 

「さぁ男ども!鈴谷が持ってきた呪物に呪符を巻くぞ!!早くしないと呪霊がやってくる」

 

「高菜!?」

「え、早く持ってこないと!!」

「俺の腕片っぽ無いから、乙骨、棘、荷物持ちな?」

 

 各自、今できることをする為に校舎に向かって走り出した。

 

「じゃあ僕も乙骨たちの手伝いにいこうか。じゃあ、真希。鈴谷を頼んだ」

 

 えええええええええ……。行ってしまうのかよ……。

 

 辺りが一斉にしんと静まりかえる。

 そんな中ですら、鈴谷の清算は徐々に本格的なものとなっていく。

 意識が薄れるさなか、真希は口を開いた。

 

「待ってる」

 

「……?」

 

「私『たち』は待ってるからな!2、3年?……笑わせんな!10年だとしても余裕だ!!」

 

 鈴谷の頬に点々と涙が落ちる。それが誰のモノか、なんて探りを入れるのは失礼だと少年は思った。

 

 意識が落ちかける。

 

「そうだよな……僕たちは友達だもんな……」

 

 そう告げ、玉藻の前に憑りつかれた『天狗』は静かに眠りについた。

 

 

 

 008

 

 

 

「ありえない…」

 

 12月25日。

 五条悟は怒りに満ちていた。

 

「何度も言うが、妙漣寺の小僧は昏睡状態だ。これは『玉藻の前を祓う』という条件を完璧に成立させた!」

 

「いかにも。我々との『縛り』が強制的に解けたのだ。それは即ち我々と同格の存在から、『人類の敵』という高みまで至ってしまった…」

 

「当時の『鈴谷宗一の死刑』と現在を比べてみろ!!圧倒的に『今』が理想的……いや、それ以上の状況を作り出しているんだ!」

 

「10年ほどの猶予?そんなものは要らぬ!!今すぐ鈴谷宗一の殺害、および玉藻の前の排除を行うべきだ!!」

 

 老人どもは口を揃えて「殺せ」と言う。

 

 それだけなら五条は『落胆』程度で済むハズだった。

 しかし、今日は状況が異なる。

 

 五条の視線の先に『乙骨憂太』が居るからだ。

 

 今、老人どもは乙骨に対し『鈴谷の殺害』を進めている。呪術高専で成した『友情』をへし折ろうとしているのだ。

 

「鈴谷宗一。一人の命でこの先の何百名もの命を救うことになるのだ!」

 

 如何に驚異的かという議論から、英雄的選択という罪悪感をより減らす弁論に移行した。

 

「その救える命には、お前のクラスメイトの存在や同僚、はたまた新しき後輩も含まれる…」

 

 五条はこの真意を把握した。

 鈴谷に危害を与えれば確実に玉藻の前の『呪い』が降りかかる。その呪いで乙骨を……いや、五条悟の教え子の死去により、メンツを潰しに来ている、と。

 例えその状況になっても、五条悟の地位は動かない。それを老人たちは考えるまでもなく理解しているのだろう。

 この行為の確信は単なる『いやがらせ』だ。

「どうせ死ぬなら足を引っ張ろう」という幼稚な考えが、五条をより激高させた。

 

 老人のいくつもの重なる声をかき消すように乙骨は言った。

 

「僕が……!!……鈴谷宗一を……殺します……」

 

 その一言で、この空間に居る殆どの人間の口角を上げさせた。

 

 

 

 009

 

 

 

 乙骨と五条は長い廊下を歩く。

 呪いの女王から解き放たれた少年の手には、一本の小刀が握られていた。先ほどの議会にて渡された『呪具』であった。

 

 いつもは長いと感じた廊下が、今はこんなにも短いものなのか、と乙骨を困惑させる。

 

「本気、なのかい?乙骨」

 

 五条が声をかける。数秒の沈黙の果てに乙骨は言った。

 

「宗一くんにとって…真希さんや棘くん。パンダくんが傷つくのは本意じゃない…と思ってる……。それが例え、あのヒトたちの思惑と一致しているとしても…」

 

「そうか」

 

 その答えを聞き、不意に夏油の事を思い出した。それが友達というモノなのか。

 

 それから二人は会話もないまま進み、鈴谷が眠るドアの前で立ち止まった。

 

 ガチャリと音を立てて部屋に入る。

 

 大きな室内の中心。ベットに横になる人影が目に入る。人影の真横には点滴スタンドが有り、そこから管がのびている。壁には覆いつくさんばかりの呪符が貼られ、無造作に置かれた椅子には東京校をはじめに、京都校のメンバーや鈴谷に関わりがあった呪術師が居た。

 

 鈴谷の隣で観察していた家入は、五条の存在に気づくと状況を報告した。

 

「あぁ五条。彼への点滴は『許された』よ。いや、そもそも点滴など要らないと踏んだが…。10日間、様子を診て……」

 

「必要なくなった」

 

「ん?」

 

 五条は乙骨に視線をずらした。それに導かれるように、家入も目を動かした。小刀が映る。

 

「あぁ、そういうことね」

 

 自分の仕事が無くなったと察し、彼女は(きびす)を返し椅子に座った。

 

 乙骨は進む。それに対し誰も制止しなかった。

 真希、棘、パンダとは一晩中話し合い日が昇ると共に、友を助けられないと結論が出、断腸の思いで飲み込んだ。

 故に残された東京校の皆は乙骨を見ていた。

 そうなった以上、京都校は勿論、他の関係者もただ見守る事しか出来なかった。

 

 ベットの真横。彼の顔が良く見える位置まで移動した乙骨は、得物を両手で固く握りしめた。

 

 白い髪。

 整った中性的な顔は、初めて会った際に女性と間違うものだったと、乙骨は思い出す。

 それを皮切りに、さまざまな思い出がよみがえる。

 武器の振り方、手製サポーターの巻き方、好きなお菓子の話や、皆でファミレスに寄ってパンダによってちょっと店内がパニックになった事、など……。

 

 しかし、その思い出が霞んで見えるほど『玉藻の前』の存在は恐ろしいモノに成った。

 五条曰く、尾は7つ集まったそうだ。のこり2つで完全体だ。最悪に事態になる前に、先手を打つしかなかった。

 

 乙骨は鈴谷の心臓を狙い、刃先を下にした。あとは振り下ろすのみ。

 

 その体制のまま彼は固まった。

 10秒程経ち、ついに動いた。

 

 乙骨憂太は鈴谷宗一に対し、短刀を大きく振りかぶった――

 

 




お疲れさまでした!!!!!

次話で一応終わりです。

出来るだけ早く投稿したいです(白目)!!
まぁ、次話は書くこと無いんで、すぐ書けると思いますが……。

今更ですが、サブタイトルにルビって振れたんですね……初めて知りました……。

落胤の意味は多々ありますが、落とし子、と受け取ってください。
烙印と文字遊びしようと思いましたが……断念しました。難しいね♨

今回はここまでで、蛇足に入ろうかと思います~~。

~~以下蛇足~~

この為だけに古事記を読みました。メチャクチャで、なんか、面白かったです。
言ってしまえば資料収集ですね……。一言で言い現わすと「カオス」です……。
なんだよ八千矛神って……。チ●ポが沢山って……。ゼウスか?お前は???さすがイケメン……。
まぁ、そのおかげで色々勉強になりました。
伏黒の十種影法術って十種神宝なのでしょうかね?布瑠部由良由良も十種神宝の神話からでしょうし……。アッ(察し)
伏黒ぉぉぉ!!幸せになってくれ~~泣
古事記は面白かったので、皆さま、もし興味がありましたら読んでみるのも良いかもしれません。

あとテスカトリポカが欲しかった。引けなかった。何故??(FGO)
2部7章はとても面白かったです。デイビット好き。ORTヤバい。
あと新差分をちゃっかり貰ってるメリュ子…。お前は何なんだ……。


今回はここまでになります。

ではまた~
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