玉藻の前に取り憑かれた『天狗』の子   作:赤い靴

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13話です。

誤字脱字等ありましたら、報告よろしくお願いします。


第13話 因果律

001

 

 

自らの生得領域に囚われた鈴谷は茫然としていた。

 

玉藻の前という、無限に言葉が湧いて出る神霊が居るのだが、今は話す気になれず座り込み、混沌と波打つ海を眺めていた。

 

体感で8時間は経った。返済終了期間は5年。そのことを思うとゾッとした。

思わずため息を漏らす。

 

「こうなるなら、ぎりぎりまで粘って五条先生に対処して貰えばよかった…」

 

この独り言に突っかかるように玉藻の前は言った。

 

「いえいえ、ご主人の還源術式と神通力があってこそ祓えた呪霊ですわ。あの子も喜んでくれていると思います」

 

「はあ」鈴谷はダゴンとの戦闘を思い出す。

 

あの少年が『そう』だったとして、僕になんの因果が…?

壇ノ浦の戦い…源義経の子孫だったりして?義経は、かなりのプレイボーイと聞いたぞ…。もしかしたら、もしかするかもしれないぞ?

その理論でいくと、僕は源氏側の人間。果たしてあの少年は喜ぶのか……?

 

「ご主人…。この状況、何とかなるかもしれません」

 

聞き間違えかと耳を疑ったが、彼女の顔を見て心の中で訂正した。

なんとなく察してしまった。だから僕は言った。

 

「嫌だ!」

 

「しかし、それをしなければなりませんわ。五条悟らと私の縛りが無くなった時に『ご主人に命』は、おおよそ想像が出来ました……。ご主人が生き残るにはこの方法しかありません」

 

玉藻の前は淡々と言葉を並べる。

 

「夏油さまに言っていましたよね?『不平等に救う』と。ならばその『不平等』に私が入りますわね。……もし、私が解放された暁には、人間など皆殺しの勢いで殺戮を始めますわ。ご主人以外、興味がありませんので♡」

 

その言葉は嘘偽りがないことを、他人通が見通した。つくづく最悪な機能だ。

 

「…ですからそんな顔しないで下さいまし…」

 

「なぁ、玉藻さん。…また会えるかな……?僕たち」

 

「ええ。貴方が望むなら、幾らでも頑張れますわ」

 

 

 

002

 

 

 

乙骨憂太の咆哮と共に振りかざされた短刀の刃先は、鈴谷の心臓に狙いを定める。

「より痛みが無いように」と願った結果だ。

その意味を理解した東堂は、構えていた両手を下げ、ベットで眠る『弟』を見ていた。

 

鈴谷宗一を救出する条件が全て絶たれた。

その後、訪れる状況は誰もが想像した通りになった。

 

布団越しではあるが、その担当は確実に心臓を貫いた。

しかし、『結果』は皆の想像しないモノとなった。

 

「…どうして……どうして!!…宗一くん……」

 

乙骨はその場で項垂れた。

それを五条悟が見逃す訳なく、未だ眠る鈴谷の布団を剥ぎ、笑った。理解したのだ。

 

五条は鈴谷の首に視線を移す。

紐。否、首飾り。それが今回の元凶。

手に手繰り寄せ、鈴谷の頭を通して外す。

 

「赤い石?人の顔がまばらにある…。何かの呪具か?(ほの)かに温かい」

 

掌サイズの石を転がすように見る五条。「あったあった」と嬉しそうに見るは、先ほどの短刀による刺突痕だ。

 

その石から視線を外す為、真希は首を逸らした。

 

「で、どうしようか?まだ続けるかい?」

 

皆に促すように問う。それに東堂はいち早く答えた。

 

「さすがにリスクがある。一度失敗したならば、二度目は無い。マイブラザーに取り憑いているのは『玉藻の前』だ。俺はやらん。なんだったって高田ちゃんが俺を待っているからな!こんなところで死ぬのは御免だな」

 

それに続くように真依が声が上がる。

 

「…そうね。私もまだ死にたくないから。あ、そういえば御三家は妙漣寺に『大きな貸し』があるのよね?ほら、後継ぎがいない時の『接ぎ木』として。あの禪院家当主(バカ)にそう言うのも面白いかもしれないかも」

 

「真依…」真希がつぶやく。

 

「まて真依。その理論でいくと、私と鈴谷くんは疑似的だが兄弟になってしまう」

 

顎に手を置く加茂に「そんなわけねぇだろ」とパンダが突っ込みを入れる。

 

「あ、そういえば鈴谷くんと交流会をしていないんですよね?どのぐらい強いんですかね~?気になりますね!メカ丸!!」

 

「イヤ、昨日鈴谷ニ介抱されていただロ?ぅむ…ダガ、特級とは一度、手合わセしたいものダ」

 

「しゃけ……」

 

「全くいい子たちだな…。これを見習ってほしいものだよ…。さて、憂太」

 

嗚咽をもらす乙骨の背中に手を置き、五条は言う。

 

「老人たちはあぁ言っているが、僕に任せてよ」

 

 

「そうそう。メンドクサイ事は全部、五条先生に任せればいいのさ。憂太くん」

 

それは乙骨にとって、もう二度と聴くことのないと覚悟を決めた『声』だった。振り返ると上体を起こした彼が居た。

 

『鈴谷ぁ(しゃけぇ)』と東京高1年の声が重なる。同時に室内がやや賑やかになった。

 

「よく戻ってこれたな」五条から声が掛かる。

 

「玉藻さんが『全部』持って行ってくれた」

 

「そうか。その目は?」

 

「見たくないモノまで『見えてしまう』から閉じてる」

 

「まるで僕の六眼のようだな、六神通は」

 

「いまは五神通ですけどね」鈴谷は笑って最強呪術師に言った。

 

 

 

003

 

 

 

あれから3日経った。

 

玉藻の前が居ない生活。それは想像以上に虚しいモノだった。

昨日、僕は妙漣寺に向かった。「また玉藻の前に出会えるとはず」という淡い期待に覆われて。

結論を急ぐならば、出会えなかった。

しかし、成果もあった。草薙剣の複製だ。

 

僕の清算を玉藻の前が『引き受ける』時に宝剣を持って去っていった。

本物の宝剣を知っているからこそ、これは『偽物』だと理解した。そしてこれを作ったのは…………。

 

 

 

「おい鈴谷!なにボサッとしてるんだ?私たちが大金支払った肉が食えねぇのかよ!?」

 

「あの…金額の5割、僕の手持ちなんですけど…」

 

「嫌味か特級?残りの5割でも私たちの貯金は0なんだよ!!」

 

ドンと黒塗りの高価そうな机を叩く真希。壊れたら弁償しないといけないんだ…辞めてくれ……。

 

ジュージューと肉を焼く音と、軽やかなBGMが部屋を満たす。

鈴谷たちは今、高級焼き肉店に居る。しかも個室!!

パンダが自由に動けるようにそうしている。

 

5人全員の皿にタンやらハラミやら聞いたことのない肉の部位が行き届いた。

 

「じゃあ」

 

パンダがコーラが入ったグラスを持つ。

 

「乙骨憂太と鈴谷宗一の解呪を祝って――」

 

それに続き鈴谷も、お茶の入るグラスを持つ。

 

 

乾杯!!!!

 

 

その乾杯の意味合いは一人ひとり違っていた。それを皆知っていたし、あえて口には出さなかった。

『百鬼夜行を生存できた』という意味でも良いし、『乙骨と鈴谷、それぞれの解呪の成功』と言う意味でも良い。

つまりこの会に深い意味など無く、『ただ今を楽しもう!!』という青春を体現したものだった。

 

「さぁさぁ、鈴谷~。お前、魚ばっか食ってるから肉の美味しさを知らないだろ?」

 

パンダが鈴谷に圧を掛ける。それを面白がってか、真希も同様にちょっかいを仕掛ける。

 

「野菜が食いたきゃ、焼き野菜屋に行くんだな。牛・牛・豚・鶏・牛・内臓・内臓の順番がおススメだ」

 

「………」

 

今思えば、肉がトラウマに成っていたのではないのか?と思えてきた。

幼少期から人間の血と脂の匂いを嗅いで育った。それが起因していたのかもしれない、と。

 

ふと鈴谷は思い出した。玉藻の前が、現代の調理レシピと睨めっこしながら小さなハンバーグを作ってくれた事を……。

とても美味しかった記憶がある。

 

鈴谷は盛られた肉を箸で取り、タレや塩、レモン果汁をつけずに口に入れた。

 

「あ。美味しい…」

 

それは嘘偽りのない、純度100%本心から来る『本物』の言葉であった。

 

その後、金欠となった東京高1年たちは家入硝子の友人の元、コスメショップ「玉ティナ城」にて、時給600円で働かされることとなった……。

 

 

 

004

 

 

 

「いやー、こうして見ると女の子にしか見えないね~。この学生証、性別の欄を直してやろうか?」

 

鈴谷の2つある内の1つ。『名前』が違う学生証をクルクルと回しながら五条は言う。

 

「殺しますよ????…まぁいいとして……。この『呪布』、かなり性能良いですね…。ほとんど感じない…」

 

鈴谷は目を覆う様に、かつて五条悟がつけていた呪布を巻き終わり呟いた。

 

「僕の特級品さ。欲しかったらあg…

 

「やったーー!!」

 

「…………」

 

呪術高専。五条の部屋にて2人は話をしていた。

お互いの『眼』の話もあるが、もう一つ重要な事が……。

 

「やっぱり家入さんは『あの後』僕に付きっきりで、『夏油さん』の遺体は違う人に任せていたようです…」

 

「高専内に夏油の死体を持ち去った者が居る…。しかも、僕と鈴谷の『二重の眼』によるチェックを持ってしてでも網に掛からなかった…狙いは何だろうね…」

 

はぁとため息を吐き、鈴谷は言う。

 

「遺体の警護をしていた人間は『行方不明』…。痕跡が見えなかった…いや、消されていた??」

 

「だとしても狙いが不明だ」

 

 

そう、僕がダゴンと対決した翌日、夏油傑の遺体が無くなった。

本来遺体は、家入さんが処分することとなっていたが、僕の介抱を優先した。

つまり、『家入硝子では無い人間が遺体の処理をする』ことになってしまった。その結果、その人間と遺体は消失した。

 

このことは一部の人間しかまだ知らされていない。

 

 

「じゃあ五条先生。僕、これから仕事が有るので」

 

「お土産は?」

 

「?東京内ですよ…」

 

「いーからさ。ほらほら、美味しいモノ沢山あるだろ?」

 

「じゃあ…日本酒で」

 

「なめんなよ?」

 

その後、共に笑い、呪布を巻いた少年がドアを開けた。

 

「コレは?」

 

五条は学生証を突き出した。

 

「今回は、鈴谷宗一で行くつもりなんですけど…」

 

「まぁそういうなって。いい名前じゃんか?使ってやれよ?」

 

「…じゃあ、そうしますね」

 

鈴谷はその学生証を受け取った。

 

彼の顔写真と特級のマーク。学籍ナンバーの下に、大きく名前が印字してあった。

 

妙蓮寺 鴉郎(あろう)

 

新しき妙蓮寺31代目当主の名前である。

 




お疲れ様でした。いかがでしょうか?
もう少し続く予定でしたが、一刻も早く虎杖を曇らせたいので本編を書こうと思います!!

これで呪術回線0の時間軸である<玉藻の前に取り憑かれた『天狗』の子>は終わりになります。
また新しくタイトルをつけて本編を始めようと思います。

ありがとうございました。
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