玉藻の前に取り憑かれた『天狗』の子   作:赤い靴

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第6話目です。

今回は、鈴谷の過去の話です。

①とある様に、続きます…
本当は1話で終わらせたかったのですが、区切りが良かったのでここで。

では、ごゆっくり


第6話 鈴谷宗一①

001

 

2001年 3月 19日

 

3月も過ぎ去ると思われていたが、予想以上の冷気が身体を包む

確かに寒い。だが、この程度の冷気など妙漣寺(みょうれんじ)を語る上では、些細な事だった

 

「顔を上げよ。<宗蓮(そうれん)>よ」

 

29代目、<妙漣寺正長(まさなが)>の年老いた声が部屋に響く

 

「はっ‼︎」

私は顔を上げる

 

「人攫いはこれで最後じゃ……。なんせ、俺の地位を狙うネズミ(馬鹿共)は沢山おる……。こうやって、2人でまじまじと話せるのも『似た思想を持つ者』同士だからの」

ニヤリと薄ら笑いをし、正長はそう言った

 

「では、『30代目』は……。この私が……?」

淡い期待も持つ

 

妙漣寺の黒い歴史を知ったのは、私が25歳の時だった

六神通のうち、1つを身につけた際に私は『執行人』として初めて人を殺した

 

『ある程度』まで弱らせた失敗作(人間)の目を潰して、手に(かせ)を繋げ山に登る

少し拓けた地で、その人間達の手足の腱と、喉を潰す──

 

あとは、その山に住む『呪霊』に処分してもらう──

 

その日の夜は今でも覚えている

 

全てを焼き尽くしたいと思うほど、腹の底から黒くドロドロとしたモノが込みあがり、その夜は寝れず、眉間に皺を寄せ、ただひたすらに『よきもの』に成るにはどうすればと、ひたすらに──

 

その夜を期に決心を固めた

『良き妙蓮寺を創る──』

 

だが、29代目からの言葉は、現実的で、かつ冷たく、期待を裏切る言葉だった

 

「まだならぬ。まだ。まだ。……確かに俺は、『人攫い』をこれで終わりにし、『失敗作』の処分も辞めようとは、思っとる。だが、それは早すぎるのだ。これまでの28代は、平気で人を殺し、処分し、攫ってきたのだ。舵を急に切っては、下の者共は納得して来る訳が無い」

 

現に25代目は『これによって無惨な死を迎えた』と最後に付け足した

 

「……お前、宗蓮は誰よりも『強く』成り、『30代目』として、振る舞わ無ければならん。つまりは──」

 

「『妙漣寺当主』の座を狙う者どもを跳ね除け、そして改革も進める……」

宗蓮は重い口を開けて、29代目の後に続けて言った

 

「その為の『俺の(だい)最期(さいご)の人攫い』だ。せいぜい、ネズミ(馬鹿共)に殺されない様に、精進せい。……だが、『目』が、因果と言っておる。しっかり育てろ」

 

「はっ!では、これにて。……最期に挨拶を──」

宗蓮は再び頭を下げ、一言付け足した

 

「お世話になりました。我が師。猩猩(しょうじょう)──」

 

「ふッ……。ここで古い名を出すか……。お前が戻って来るまでに、『名』を考えておこう」

 

宗蓮は立ち上がり部屋からでる

 

通常、『人攫い』は『当主』に『命令された者』が子を見定め、攫う。だが、今回は異なるケースだ

29代目が、直々に『ピンポイント』で子を攫えとの命令が下ったのだ

 

これには必ず『意味』がある。29代目、正長には『漏尽通』、自らの宿命を知れる神通力を持つ

『因果』と言ったのも、宿命を知れたからなのかも知れないが、宗蓮には漏尽通は取得していない

全ては、その『子』に出会えば全て理解出来るはずである

 

簡単に支度(したく)を済ませ、和服から、スーツに着替える

 

3月の21日──

 

それが、宗蓮と赤子が出会う日であった

 

 

 

002

 

2001年 3月 21日

 

朝7時48分

 

コーヒーの香ばしい匂い。そして甘い香りが気持ちを落ち着かせる

新聞を広げ、熱々のコーヒーに手を伸ばす

 

海沿いの喫茶店。人はまばらで、店の中央にあるテレビの音がこの空間を支配する

 

『先日、行方不明になっている女優の<高辻(たかつじ)ひより>さんは…………』

 

「全く、映画の撮影中に事故だなんて。しかも『お腹に子ども』も居るのに……。救われぬ世の中だね?そう思うだろ?旦那ぁ?」

喫茶店の店員、歳は60過ぎで腹がまん丸と出ており、いかにも『店長』と感じが溢れていた

 

「えぇ、そうですね。まだお若いのに。残念なニュースですね」

宗蓮は新聞をたたみ、席を立つ

「お勘定を──」

 

カラカラとドアを開けて外に出る

 

『人攫い』の任が有るとはいい、このぐらいの休憩はさせて欲しい

なんせ山に入れば、甘いものなど殆ど口に入れることが出来ないのだから

かといって情報収集もしなくてはならない。先程の新聞とニュースであらかた『分かった』

 

宗蓮はそのまま、海に沿って歩くことにした

 

恐らく『対象となる子』は、女優の赤子に違いない

20日の昼ごろ、映画の撮影中に事故は起きた

スタッフや、役者を乗せるボートが突然『転覆』したそうだ

原因は不明。今のところ、『巨大な海洋生物に衝突』が有力なのだろうが、本当の原因は『呪霊』だろうか

 

全14名の内、4名が溺死。9名が保護され、残り1人──

つまりは、その女優が今なお『行方不明』

 

 

トボトボと歩くこと50分程度

その事故現場らしき場所にたどり着いた

 

警察車両が並び、捜索隊、報道陣が浜辺にうじゃうじゃと居た

 

「ここには居ないか……」

少し落胆した。だが良い情報が手に入る

 

宗蓮の目には微かに残った『呪力』を捉えることが出来た

天眼通の能力だ。これなら、その跡を辿り出逢える事ができる

 

それを頼りに、更に進む

整備された道を歩き、廃れた道を行き、挙句の果てに人が足を踏み入れて居ないであろう場所を進んだ

 

もうどのぐらい歩んだのだろうか

 

辺りには人の生活感は一切無く、鋭く尖った崖を渡り、押し寄せる波が作ったであろう洞穴に行き着いた

 

『そこに』、『赤子』は居た──

 

黒く、暗く、スライムの様に蠢く呪霊にそっと抱かれる赤子が。その傍らには、腹を裂かれた、美しい顔と、白髪の女性──

 

悍ましいモノを見た宗蓮は嗚咽を漏らす

天眼通に写る呪霊はとても異様で、呪力に底は無く、深海の様に深く、ただひたすら深く……。恐ろしいものだった

 

思わず後退りをする。ザッと音が洞穴に響く

 

この音に気付いたのだろうか

赤子を抱く呪霊が宗蓮の方に向く

2つの点。目の様なものが見つめる

 

時として5秒

 

威圧的で冷ややかな重圧。もう耐えられまいと、自死の手刀を首まで攻め立てたが、なんとか踏み留まった

 

『妙漣寺の再建』。たったこれだけの為に──

 

その呪霊は、まるで子供が興味を失ったかの様に、赤子を母親の裂けた腹に戻し、ポチャンと音を立てて海に消えた

 

少しの間、放心した

しかし赤子の泣く声で我にかえる

 

「そうだ……。私にはやるべき使命が……」

折れた心に喝を入れるように呟く

宗蓮は赤子に目を移す

 

母親と同じ白髪の子

泣く声はまるで鈴の様に凛としていた

 

震える両手で、母親の血に濡れた赤子を優しく抱き寄せる

 

名前、名前を与えなければ

 

『鈴』。そして私の宗蓮の『宗』──

 

「お前はこれから『鈴谷 宗一』だ──。そこの母親よ、名は知らぬが、この赤子、貰い受ける。誰よりも『強く、優しく』育てて見せよう」

 

振り返ろうと足を動かす

 

カツン

 

何か、小さなものに足先に触れたようだ

赤子を落とさぬ様に、恐る恐る下を見る

 

まるで卵の形をした、真紅の石の様なものが

大きさは手のひらに、丁度収まる程度……

 

一見するとただのネックレスのようだった

 

あの母親の物なのか、何かの儀式に使用する為の呪具なのか、或いは先程の呪霊が寄越した物なのか

 

深く考えたが辞めた

無意識に手が伸び、ソレをポケットの中に放り込んだ

 

今はそんな事よりも、この赤子が優先だ

呪力で赤子を覆い、保護する

 

洞穴を抜け、人の痕跡が有る所まで引き返す

ふと海を見る

 

まるで絵画だった。引き込まれる様な感覚、それとただひたすらに、夕陽が美しかった

 

 

 

003

 

「かの赤子。連れて参りました。今は乳母に預けて有ります──。このままいけば4年、5年程度で……」

私は29代目の長正に報告をいれる

 

「そうか……。で、どうであった?」

 

どうだったのか?

どう出会ったのか?

 

どちらの意味だろうか。だが1つ言える事は……

 

「まるで海の様な呪霊に、抱きかかれておりました。……それと『コレ』を──」

私はポケットから、あの時拾った真紅の石を取り出す

それを長正に渡す

 

「ふん……。奇妙な石じゃ。(まぶた)、鼻、唇……。位置は人と異なるが……。見た事も無い」

 

「これと言って呪力も無い。ただの装飾品でしょうか?」

 

「分からぬ。その鈴谷と言ったか……。その子が大きくなった時渡してみるのも良いかもな……。それまで、オマエが大切に取っておけ」

 

「わかりました……。では私はこれで……。鈴谷を見てきます……」

立ち上がり、襖に手を掛ける

 

「あ、そうそう。オマエの名。もう決まったぞ。これからは、覚悟して生きよ」

フフフッと笑いながら長正は言う

 

 

それから8日後

 

29代目 妙漣寺長正が亡くなった

 

遺書には、

『妙漣寺、30代目は <林 宗蓮>に任命する

これに伴いその者の名を<妙漣寺 重蔵>とする』

と、いかにも淡白な内容だった

 

そして私は30代目、妙漣寺当主となった

 

 

004

 

やはり当主となると、私の意に背く者が現れた

『人攫い』と『失敗作の処分』を禁止としたからだ

 

急に舵をきった所為でも有る

だが、そんな事は想定内だ

意に背くものは、私が打ちのめしてきた

 

それでも、まだ諦めきれない者が居るならば、最後の最後に殺した

 

そんな事を繰り返し5年、経過した

妙漣寺の風通しが良く成ると思っていたが、まだ足りなかった

裏でコソコソと蠢くネズミが出てきた

29代目が『ネズミ』と言っていた事を酷く理解した

 

この時期に私は2つ目の神通力を取得した。『漏尽通』である

 

これで私の周りでは、神通力を取得している9名の中では、群を抜いて強くなった

だがそれは、一時(いっとき)の間だった

 

鈴谷宗一である。わずか5歳にも幼い子が『神足通』を取得した

私が聞いた話の中では、神通力の取得は早くても20歳を超える

それをまだ10にも満たないこの子が取得して見せた

妙漣寺当主のこの私ですら28歳で、一つ目を取得したのだから……

 

寺の修験者どもは2つの派閥に分かれた

『神仏、菩薩の御子』と頭を下げる一派

『魔の使い』『人ならざる者』と恐れ慄く一派

そのどちらも熱狂的であり、私の改革など範疇の外となっていた

 

『せいぜい、ネズミ(馬鹿共)に殺されない様に、精進せい』

29代目の言葉を思い出す

まさにそれであった

 

2つの派閥。そのどちらとも鈴谷の稽古は厳しくあたった

 

崇拝心が深すぎるがあまり、過激になる者

畏怖、妬み、嫉妬し息の根を止める勢いの者

 

このままではいずれ壊れてしまう、と感じた私は鈴谷に『呪霊狩り』を誘う事にした

妙漣寺の山には、古くから呪霊が吹き溜まる

多すぎてはならない

この狩りは代々、妙漣寺の当主が行なってきた

 

ならば、好都合だろう?

 

ある稽古終わりの日、私は鈴谷の元へ行く

 

「これはこれは、30代目さま。どうなされましたか?」

鈴谷の数ある稽古人の1人。<島田>が大袈裟に、ゆっくりと言う

歳は42。オールバック、常に眉間に皺がある

そして高身長、首周りは太く、胸も筋肉で厚い。ドンと胸を張る男に私はこう返した

 

「鈴谷と話がしたくてな。少し2人きりになりたい」

 

「そうですか。承知しました、30代目。では、俺はこれで」

軽く頭を下げ早々に消えていった

 

「さて、鈴谷……」

私は屈み、目線を合わせる

 

道着の隙間から痛々しいアザが幾つも見える

髪は少しばかり長く、まだ幼い。女優の子というだけ有り、整った顔。中性的でもある。しかし口元にも、ぶたれた跡が残る

 

「なぁ、明日。儂と呪霊狩りに行かんか?」

 

『儂』だなんて今まで使った事が無かった。もう歳も60を過ぎた……。自然と、この子の前では張ってきた気も解けてしまう

 

「良いですけど……。重蔵さん。良いんですか?僕となんて……」

両手を合わせてモジモジとしている

 

「いいんだよ。むしろ鈴谷。お主の力量を見たくてな。あと、重蔵さんだなんて、硬くならなくて良い。呼びやすい名で呼べ」

 

「じゃあ、『じぃさん』。そう呼ぶよ‼︎」

元気な声が響いた

 

「そうか、じぃさんか。そんなに老けて見えるのか?」

思わず聞き返した。私の側近は「いつまでもお若い」と言っていたので、疑問に思った

 

「髪の毛、僕と同じで少し白くなってるでしょ?みんな歳を取ると、白くなるって後藤(ごとー)さんが言ってたよ」

 

白髪のことか……

確かに当主となった辺りから、汚れ仕事は自ら行ってきた。側近の『若い』とは、『いつまでも技量が落ちない』の意味だったか……

 

そうか、私も29代目の様に老いてきたのだな──

 

あと後藤よ。私と同期で、たった1人の親友だからと言って、この子にそれを吹き込むのは……。きっといつもの調子で言ったのだろうか。実際に見て居なくとも、その風景が目に浮かぶ

 

「そうだな。もう儂もジジイだからな……。では、呪霊狩りは明日。朝6時には、ここを出る。今日は早くお休み。島田には儂から言っておく」

頭を軽く撫で鈴谷に告げた

 

わかりました!と鈴谷は返し、テクテクとその場を後にした

 

 

あんな無邪気な子供が、あざだらけになるまで稽古だなんて

猩猩。貴方は『これで最期の人攫い』と言っていた。

確かに、鈴谷には才がある

 

けれど、しかし……

 

「あの子をここまで痛めつけて、何となるのでしょうか?私には一切、因果、はたまた宿命すら見えません。このままで良いのか、明日、鈴谷と話して決めたいと思います……。我が師よ──」

 

重蔵、否、宗蓮は1人夜の闇が迫る中そう呟いた

 

 

 

 




お疲れ様でした!

今回は、妙漣寺30代目の重蔵の視点で書かせて貰いました。
多分次話も、そうなると思います。

ここで少しだけ解説を……

妙蓮寺は、当主が代わるごとに名前を変えます。

29代目も『長正』の名ですが、当主になる以前は『猩猩』と言う名でした。
ですので、『古い名』と長正は言ってます

きっと、猩猩と宗蓮は良い師弟関係だったのでしょうね。


あともう一つ。
鈴谷に稽古をとって居た<島田>ですが、『鈴谷大嫌い』派閥の一員です。(本作で言う所の後者になります)
島田は数少ない神通力持ちです。40歳の時に取得しました。
現在、歳は42なので、本当に最近取得した感じです。
あまり神通力も使えこなせず(所得するのにも才能が必要な様に、十分に使いこなすにも、当然厳しい修練と才能が必要です)、その腹いせもあり、鈴谷の稽古をしてます。

こんな感じですねー。
次回、この続きを出せるようにしたいと思います。

出来るだけ早く投稿できるようにしたいです…。

では、また〜
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