転生したらダイワスカーレットの兄になっ………えっ!?姉ですか!? 作:ミレニア
「キングカメハメハ!1着はキングカメハメハです!!!史上初の無敗変則二冠の達成です!世代の頂点!日本ダービーの栄光に輝いたのはキングカメハメハぁぁぁぁぁ!!!」
『『『わあああああああああぁぁぁぁぁ!!!』』』
大量の観客達による歓声と拍手。それはそこ場にいる全てのウマ娘達に送られている。
他のウマ娘よりはマシとはいえ、それでも大量の汗を流しながらも観客の前へと赴き、腕を広げて宣言する。
「ふはははははっ!我が栄光たる勝利を讃えよ!そして記憶しろ!我が名はキングカメハメハ!最強の大王である。───ってね!」
大胆不敵な表情から一変して、ウインクを行いながらVの二本指を掲げるキングカメハメハに更なる歓声が飛び交う。キングカメハメハを讃える者。ダイワメジャーやハーツクライに次があると慰める者。
しかし、勝者は一人でありその他は敗者なのだ。
「…くそっ。僕が勝つ…はずだったのにっ!」
ハーツクライが歯を噛み締め、ただキングカメハメハを睨め付けた。
「はぁ…はぁ…。スタミナが…実力が…足りなかったですね…」
コスモバルクは自身の着順に反省するしか無かった。
「────────は、ぁ?」
ただ一人。膝を付いたまま、電光掲示板に映し出される事実を理解出来ずにいた。
「はぁ…………はぁっ…………!」
極度の疲れもあるだろう。いつもより照らされた暑さのせいでもあるだろう。
「はぁっ……………ハァッ……………!」
視界がボヤける。ただそこに映し出された数字だけがハッキリと見える。
「───なん、で…どうなって…どう、し…て。私が勝つ、はずだったのに…私は………
私はぁぁぁぁぁ───!!!」
1着 12 キングカメハメハ 2:22.9 R
2着 4 ダイワメジャー 2:23.0 ハナ差
3着 5 ハーツクライ 2:23.1 1/2バ身
チームシリウスの部屋。その隣に位置する別室にて、ダイワメジャーのトレーナーはパソコンを鳴らす。
「…これでいいかな。…うん、よしっと。………」
パソコンから窓へと視線を移して空を見上げる。そして思いを馳せるは一か月前の日本ダービー。
(あの後、メジャーの事が心配だった。あれだけのレースをしたんだ。もしかしたらは常に付き纏う。結果としては疲労はいつもより色濃く出ていたがその後のライブも問題なかった。もちろんそれだけじゃなく、精神面でも気にかけているが…)
改めてレース後にライブが始まる前の時間で顔を合わせたが…。
(平気平気と笑ってはいたが、とてもそんな風には見えない位には………拳を握りしめていたけど。それについても聞いたし、何かあったなら言って欲しいとは言ったけど今も何も聞かされては無い。だが、その後に付いても違和感が拭いきれない。チームメンバーとの交流は変わらない。トレーニングだって変わらず大人しくこなしてる。…いや、大人しすぎる。いつもならもっとトレーニングを強請ってるはずなのに、そんな素振りが無くなった。
メジャー。大丈夫なのか…?)
トレセン近くの山にて。ある程度の設備が整っている場所で一人のウマ娘が走り続けていた。
「うあああああああああああぁぁぁ!!!」
既に靴を何個もボロボロにしては走ってを繰り返し、一ヶ月。息も絶え絶えに地面に寝転ぶ。
「ハァ…ハァ…!…ま、だ…!」
ガクガクと揺れる足を立たせようとして、崩れる。
「…ハァ……ハァ……!く…そっ!」
(あの日、俺は負けた。大王に、キングカメハメハに。あの大王に勝つ為に、何をしてきた。デビュー前からそのトレーニングを積んできた。チームシリウスのメンバーにどんな状況でも走れるようにレースをしてもらった。スカーレットやデジタルに勇気をもらった。…何よりトレーナーを勝たせたかった!皆に私のダービーレイを見せたかった!
何が悪かった?作戦は完璧だった。確実にハマってた。皆の位置取りも予想通りだった。そりゃ前世の記憶とほぼ同じだったから。ならなんで負けた?そんなの一つだ。
俺が弱い。
もっとトレーニングを積むべきだった。いつもの体力のギリギリまでなんかじゃなくその先まで…。ダービー前だからっていつもより軽いトレーニングだったから。…何より俺ならって驕っていた自分が憎い!
何が無敗二冠だ!何が妹に誇れる姉だ!
チームメンバー、トレーナー、デジタル、スカーレット。皆の期待を踏みにじって何が運命を超えるだ!
…それに、あれからずっとキングカメハメハの姿が離れない。俺の前を走り続けるあの姿!どんなに近づいてもハナ差で負ける!)
GⅡ オールカマー
「1着は─────しかし、1番人気のダイワメジャー。なんと最下位の9着。一体どうしたのでしょうか?」
GI 天皇賞・秋
「ゼンノロブロイ!1着ゼンノロブロイが初のGI制覇!────しかし4番人気ダイワメジャーがまたも最下位!───」
(ずっと、ずっと見える。遥か先を走る姿。なんで………)
「勝てない…?」
「休養だ。レースもトレーニングも無し」
「…何言ってるの?」
二人きりの部屋。しかし雰囲気は最悪であろう。
「メジャーの為だ。レースの成績は最悪。トレーニングも身が入ってない。疲労だけが積もりに積もってる。そんな状態でこれ以上過ごしてたら本当に壊れてしまう」
ダイワメジャーは黙ったまま俯いている。
「君が隠れてトレーニングをしていたのは知っている。どうにか頑張って疲労も減らしてバレないようにもしている事もね。だから今まで見逃してきたけど、もうダメだ。…それに、余り詮索はしたくなかったけど。メジャー、君はあの日から段々とチームメンバー達から遠ざかり、妹や友達…確かデジタルさんだっけ。彼女達の連絡も無視している事を知ってる。…お願いだ、話して欲しい。メジャーの事を」
「……………知らない。何だっていいでしょ?…レース禁止はいいよ、まだね。トレーニング禁止は何?私に勝つなって?…それとも、私を見限った?」
「違う。そんなことは無い!俺はいつだってメジャーの事を──」
「なら放っておいてくんないかな!?私は強くなんないといけないの!じゃないとあいつに勝てない!あの大王に!あいつに勝てなきゃ私は…!………なんでもない。休むよ。トレーニングもしなきゃいいんでしょ。…じゃあね」
扉が締まり、静寂がその場を包む。
一人の男がただ黙々と思考を続け、立ち上がる。