きせキャン△   作:ロシアよ永遠に

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ゆるキャン△にハマり出した結果、こうなってしまった


ノルド高原と熊男

高原特有の冷たい風と、そして新鮮な空気が肺を支配し、長旅で疲れた体を奮い立たせる。

悪路を超えるためにシート下から伝わる、すっかり慣れた振動は、やがてなだらかなものへと変わりゆく。

高原という高地へとたどり着くため、人々から住まう地域からは悪路しかなかった。

別に交通の便が無いわけではない。

帝都ヘイムダルからルーレで電車を乗り継ぎ、高原境目まで線路は走っていた。

だが敢えて彼女は別の方法でたどり着いた。最近乗り始めたこのバイクで、時間をかけてやってきたのだ。

早朝にリーヴスから出立し、今はすでに日が傾きかけている。これでも何度か休憩を挟んだものの、それでも早いほうだ。

一度、とある事情でやって来たことがあったが、その長閑な風景が脳裏に焼き付いて離れず、こうして冬期休暇を利用してやって来たわけである。

あいも変わらぬ吸い込まれそうな高原は、なんかこう、グッとくるものがある。

そんな中で、ポケットに押し込んである携帯端末であるアークスが振動する。

開けば、自身がよく知る同学の少女からのメッセージだった。

 

『おはようございました。』

 

『おはよう、アル。っても、もうお昼すぎだけど。』

 

『今どこですか?』

 

『ノルドについたとこだよ。』

 

『では写真を撮ったらまた送ってください』

 

『オッケー!』

 

『ついでにお昼ゴハンのパンケーキも買ってきてください。』

 

『だ が 断 る』

 

『余裕でいられるのも今のうちですよ。

 

貴女のいるノルド高原に刺客としてヒツジンとポムとシャイニングポム100匹を放ちました。』

 

『うわなにをするくぁwせdrftgyふじこlp

 

レベルが上がっちゃったじゃないかアル。』

 

『それはそれは…フッフッフッ…じゃぁ次の特別実習は、レベルがモリモリ上がったユウナさん一人でお願いしますね。』

 

『おいまじか』

 

とまぁ、そんな他愛のないやり取りをしながら、アークスのカメラ機能を起動。手を出来るだけ上に伸ばし、見下ろすようにパシャリとノルドの景色を撮影すると、7組のグループメッセージに貼り付ける。

 

『無事ノルドに着きました。』

 

『結構かかったじゃねぇか。』

 

『相変わらず素晴らしい景色だな。また僕もいずれはノルドを馬に跨って駆けてみたいよ。』

 

『ユウナさん、写真、沢山撮って送ってくださいね。』

 

『お土産ヨロシクです。』

 

送信後まもなく、他のメンバーからのメッセージが次々送信されてくる。相変わらずアルことアルティナはちゃっかりしている。苦笑しながら端末を閉じようとした矢先、最後に一人のメッセージが入る。

 

『体に気をつけて楽しんできてくれ。』

 

担当教官からの短くも、そして自身を思いやるメッセージに、思わず頬が綻ぶ。

 

「よ〜っし!もうひとっ走り行くわよ〜っ!」

 

気合を一つ入れ、アクセルをひねる。

目指すは高原の最奥にあるという湖。

タンデムやサイドに多量のキャンブ用具を取り付けた導力バイクは、ユウナ・クロフォードを乗せてのどかなノルド高原を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、ようやく……ついた…。」

 

先述の出発から更に1時間

高原を抜け、長く緩やかな上り坂を経てようやくたどり着いたのは、ノルド高原の奥地にあるラクリマ湖畔。

開けた盆地に広々と広がる湖。

その湖に水を供給している壮大な滝。

魚釣り用か何かの為に拵えられた桟橋。

その景色は一言で言えばまさしく絶景。

奥にひっそりとロッジが見えるものの、実質貸し切りである!

 

「それじゃ、とりあえずササッとテント建てちゃいますか。」

 

絶景スポットとして、正面に滝が見える所をチョイスしたユウナは、早速導力バイクを停めて、積んできた数多の荷物を広げていく。

 

「えっと……先ずはグランドシートを……。」

 

テントに同封されている説明書、そして動力ネットを用いて予め下調べして、テントを建てるときにすべき事を記したメモに目を通しながら、拙いながらも自分の寝床を作り上げていく。

ポールを立てて、テント本体を吊り下げ、ペクを打ち立てて固定。さらにその上からフライシートを被せれば…。

 

「よし!まぁ上出来上出来!」

 

悪戦苦闘し、30分近くかけて、ようやっと寝床が完成と相成ったわけである。

あとは中にエアマットと、その上に寝袋を敷けば完璧!

 

「ん〜!まだ日も高いし、ちょっとぶらっとしよ〜かな。」

 

誰もいないこの贅沢空間を味わい尽くさなければ、ここまで足を運んだのに勿体ない。

そう天啓を得たユウナは、ぶらり探索へと駆り出したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクリマ湖周辺は滝方面の崖とその対面側は平地。その境目には小さな林がある。平地もそうだが、この林もキャンプ地とするには丁度よい環境だった。

だが冬期である今は、その木々の葉は枯れ落ち、残る幹と枝が物悲しく感じられる。だがユウナにとってはそれもまた風情があり、季節独特の風景として目に映っていた。

 

「………あれ?」

 

アークスで風景を撮影する中、木々の間から空に向けて薄ら黒い煙がモクモクと立ち上っていた。

まさか山火事だろうかと、恐る恐るその火元を確かめに進んでいく。

やや進んで開けた広場に出た。

木の陰から、煙の大本をユウナは覗き込む。

そこにいたのは…

 

「熊…?」

 

のような初老の男性だった。鼻下、そして上から顎まで生え伸びる白く豊かな髭。

右目を隠す眼帯。

その身体はユウナの例えと違わぬ程に太く、そして大きい。太いと言っても一概に太っているわけでないようで、鍛えられた肉体の果てのようだ。

そしてその眼光は猛禽類を思わせるかのように鋭かった。

その場にいるだけで圧を感じるほどに。

 

(…あの人も…キャンプなのかな?)

 

見れば、彼の後方にはワンポールテントが張られており、その影には導力バイクが停車していた。

だがユウナの乗ってきたものとは違う。

もっと厳つく、大型のものだ。

見ているだけでヤバそうな人だとわかる。

ゴクリと固唾を呑むユウナの鼻先に、とある香りが漂ってきた。

 

(…あれ?これって…。)

 

その匂いの元。それはクマ男の手元にあった。

日がごうごうと燃える焚火台の上のスキレット。その中には数個のニンニクと共に熱に焼かれる塊肉である。

ジュゥゥゥ…と言う、油の弾ける音と共に漂うニンニクの香り。まさに暴力的なまでの存在だ。飯テロである。

気付けばユウナは、その肉が焼ける光景に食い入る様に魅入ってしまった。

ジュルリ…

溢れ出す唾液

そして

グゥゥゥゥゥ!

盛大な腹の虫が我慢できずに飯の催促をしてくる。

 

「ん?」

 

そんな大きな腹の虫は熊男にも聞こえたらしい。

その鋭い左眼をじっとこちらに向けてくる。思わずユウナは自身の身をビクリと跳ね上がらせてしまう。

見つめ合う2人。

無言で見つめてくる熊男。

喰われるのかと怯えて震えるユウナ。

どれほど見合ったか。

不意に熊男がその大きな手を上げると、手先だけで手招きする。

厚意で呼んでくれてるらしい。だが油断はならない。不測の事態に備え、熊男までの道程にある木々の影でカバーリングしながら近付いていく。

そして最寄りの木の陰に着いたユウナに熊男は一言。

 

「肉、食うかい?」

 

肉…

 

肉っ!!!

 

「い、いいんですか?」

 

そんなユウナの問いに、熊男は返事とばかりにナイフでスキレット内の肉を切り分け、一切れをフォークに刺して手渡してくる。それを恐る恐る受け取ったユウナは、じっと手渡された肉を見つめる。

表面はしっかり茶色くなるまで焼かれ、しかし中は赤い。見事なまでのミディアムレアだ。

実に…

実に美味そうである。

 

「い、いただきます。」

 

今までの旅の過程で数多の美味を食してきたユウナ。

だがこの肉は、そのどれにも当てはまらぬ方向性の旨さが待っている。

そんな期待を膨らまし、その肉を口に運んだ。

そして、

噛みしめる。

 

 

 

じゅわ…

 

 

「〜っ!!美味しい…!」

 

噛み締めた瞬間、溢れ出る肉の旨味。

味付けはシンプルに塩コショウとニンニクのみ。

だがこの旨味はなんだ!?

噛み締めるごとに口いっぱいに広がる肉本来の味。

それは、ユウナが今まで味わったことの無い鮮烈なものだった。

そんな肉の感動に打ち震える彼女を見て、

熊男はニヤリと口元を緩めたのだった。


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