一週間で登録者1万人行かないと死ぬTS電脳V配信者~掲示板を添えて~   作:イベリ子

2 / 2
死ぬ描写があります。掲示板もTSもありません。気をつけて!


12/17 イッチの話

「そういやイッチの最近見てるVって誰?」

 

 12月17日。映像研究サークルの飲み会でそんな話が出た。んぐむ、折角酔ってたのに少し嫌な気分。コイツに話してないんだっけ? 

 

「あーダメダメ、いっちゃんはもうV見てないから」

 

「え? V布教マンだったのにどしたん? レポート忙しいとか?」

 

 友人Bに咎められたのに不思議そうに続ける友人A。コイツちょっと空気読めてない所あるよなあ、まあ今回に限っては俺の地雷を予測してくれってのも無理な話か。

 

「いや、忙しいとかじゃないよ。単純に最近見る気しないってだけ」

 

 でも行動が伴ってくれるかは別の話で、ずずずとカシオレをすすりながらぶっきらぼうに答える俺の態度は不機嫌そうに見えただろう。それを見てふーん? と納得してなさそうに引っ込む友人。……ちょっと雰囲気悪くしちゃったかな。

 

「違う違う、いっちゃんは推しのVが引退して凹んでるだけよ」

 

「おーい言うんかい」

 

「推し、ああラウラマッマか! イッチずっと推してたもんなあ」

 

 悲しいよなー、分かる分かると頷く友人たち。別に隠してることでもないからいいんだけど。Aはサンライブの箱推し、Bは雑食切り抜きだけ見る勢だからAはともかくBに推しの引退の悲しみを分かる分かるとか言われたくないんだけど。あれ、サンライブも今の所引退した人いなくないか? 

 

「お前らに分かるわけないやろこの悲しみがぁ!」

 

「はーいどうどう落ち着け落ち着け」

 

「わははすまんすまん、でもイッチ本当ラウラママ好きだったよなあ」

 

 唐突に気炎を吐いても適当に流してくれる友人たち。まあ度々やってるから慣れてくれてるんだろうけど。

 

 はあああ、と長い溜め息をつく。そう、好きだったんだよなあ。俺がVのことを知ったのは高校二年生の冬休み、ニマニマ動画でバーチャルメスガキ吸血鬼おじさん配信者というパワーワードが話題の動画に上がったときだった。それからぽつぽつと出てきた個人のV配信活動をまとめている動画にチラウラちゃんねるはあった。

 

 

 

 

 

 

 

『わざわざチラシの裏までお疲れさまです。千野ラウラと申します』

 

『ここはネットのチラシ裏。書き連ねたことも、放ってしまった言葉も、全部まるめてポイ出来る場所です』

 

『いつか私と一緒にポイされるまで、普段言えないことでもなんでも話に来てください。私は"ここでは何でも言っていい系V配信者"ですので!』

 

 

 そのころにしては珍しいいきいき2Dを使った、ロングの白髪に白い肌、大きな丸い黒い目に黒い稲妻のような模様が髪と頬に走っているというかっこよさげな厨ニデザインだけど目と声で可愛いイメージになるアンバランスなV、というのが初印象だった。特に声、というか話し方が特徴的で、少なくともそのまとめ動画の中では声やアバターが一番俺の好みだったのは間違いない。

 

 それから本配信のアーカイブを見て可愛かったのでチャンネル登録したのがラウラちゃんとの出会い。ラウラちゃんはつぶやいたーと質問箱を活用してリスナーからの質問を集め、ラジオのような配信を定期的に行うスタイルだった。最初の頃は質問の内容も混沌としていて「バーチャル配信者名乗るなら3D用意しろ」とか「顔出せ」とか荒らしみたいなのも多かったけど(よく切り抜きされてた)いわゆるV界全体の清楚枠として定着してから割と真剣な悩みとか疑問とかに厳選されていった。

 

 だから高校三年生になり、受験に向けて成績が伸び悩んでいた時、俺も質問を送ってしまった。くだらない、英語が伸びないんですがどうしたらいいでしょうみたいな勝手にしろとしか言えないような質問。でも質問を送ったのが初めてだった俺は、もしかしたら呼ばれるかもってドキドキしながら配信を見ていた。

 

『では、次のお筆さんですね』

 

 配信が始まってしばらくして、そう言って画面に表示されたのは俺の質問だった。うわ、と声が出たと思う。ラウラちゃんの声で俺の拙い質問が読み上げられて、コメント欄は受験生かあ、悩むよね ラウラママに泣きつかずに勉強せい 英語無理よね それで俺理系とチラホラと反応されてて、無性に恥ずかしくてウィンドウを閉じたくなった。

 

『大学受験、懐かしいですね。このお筆さんは現実では高校3年生とのことで、忙しいのにこんな所まで来ていただきありがとうございます』

 

『そして、人生の節目になる大事な時期に質問をありがとう。私は、苦手なことまで無理して頑張る必要はないと思いますよ』

 

 いつもどおりの口調で、丁寧に言葉を選んで話してくれるラウラちゃん。

 

『受験っていうのはゴールがある競争ですから。もちろんゴールはそれぞれ違うので、例えばとりあえず良い大学に行きたい、授業料が安くなる大学に行きたい、住んでみたい街にある大学に行きたい、まず自分のゴールは何かしっかり確認して、そのために必要なことをしっかり考えるのがおすすめです』

 

『受験勉強を頑張ってるってことは、お筆さんは良い大学に行きたいのかな? 偉いですね。それならまずは、自分の有利なとこで勝負出来るゴールがあるか探してみましょう。得意三科目で戦えたり、二次試験に英語がない大学を調べて、そこに満足できるゴールがないのであれば苦手教科も頑張る。そのくらいでいいと思いますよ』

 

『がんばれ、受験生!』

 

 最後にいつもとトーンの違う、キリッとした声でエールを送られて、俺の質問への回答はそれで終わり、つつがなく次の質問へと続くラウラちゃん。顔が熱い。今度こそウィンドウを閉じてベッドにダイブする。

 

「~~~ッ!」

 

 うわあ嬉しい! 恥ずかしい! なんだこれ! 

 自分に向けて話してくれたことも悩みにちゃんと答えてくれたこともめちゃくちゃ嬉しいんだけどすっごい恥ずかしい! なんであんな質問したんだ俺の馬鹿! 馬鹿! 

 ベッドの上で足をバタバタしてたら「イチカうるせえ!」と妹に怒られた。ごめん。……あ~~~。好きだ、ラウラちゃん。

 

「……ラウラちゃん、すきだ」

 

 うわ声に出しちゃった! 恥ずかしい! うわあ恥ずかしい! また足をバタバタさせてしまい「うるさいって! 勉強しなよイチカ!」と妹にまた怒られた。申し訳ない、でも勉強はもうちょい待って。

 

 

 

 

 かくして、俺はまあ、ラウラちゃんが最推しになったわけだけど。そんで受験も最終的に英語使わずに行ける大学でそこそこのランクのところに入れて、大学で出来た友人にVを布教しながら過ごしていたんだけど。

 

 

 

 

 

 

『私、千野ラウラは6月31日を持ってチラシの裏と一緒にポイされようと思います』

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで思い出して、またはあああ、と長い溜め息をつく。胸が苦しい。どうしてやめちゃったんだろう、ラウラちゃん。

 

「重傷だねえ、イッチ」

 

「ガチ恋勢だったもんな。いやーやっぱりガチ恋するのはやめたほうがいいって。時代はバ美肉よ、バ美肉」

 

「あれお前ネカマいけるん?」

 

 バ美肉。バーチャル美少女受肉の略で、基本的にその後におじさんがつく。ボイチェンや両声類で女性っぽい声を出してV配信している人たち。メスガキ吸血鬼おじさんがその走りと言ってもいいけど、彼が地声そのままでやってたのに比べて声やアバターの進化も凄まじく言われないと男性って気づけないような人も増えてきた。

 

「バッカお前バ美肉はネカマとは違うから。あれは中の人とかじゃなくてめちゃくちゃかわいいV配信者を作り上げた作者がいるだけだから。元は男だったとしても仙兎きりちゃんはメスだから」

 

「めちゃ早口になるじゃん。いやでも仙兎きり可愛いよね、たまに切り抜き見るけど本当に男か信じられんもん」

 

 Bに仙兎きり勧めたの俺なんだけど。しかも勧めたの二年位前なのにすごい語るなこいつ。でもバ美肉系もどんどん進化してるし、ハマるのに遅いも早いも無いからな。バ美肉なあ。

 

「……俺もなれたらなあ」

 

「「え?」」

 

 ぽろっと口に出してしまった言葉に二人が反応する。やべ。

 

「えー何イッチVになんの!? いいじゃんやってやって!」

 

「バ美肉になんの!? いや絶対行けるやんやってやって!」

 

「いややらねえよ! 冗談だよ冗談!」

 

 なんでだよやってみろってーと引き下がってくる二人。畜生酔ってるな? もう結構いい時間だし出来上がってきてるなコイツら。あれ、今何時だろ?

 確認しようとしたとき、ちょうど店員が「すいません、お席の時間になりましたので……」と声をかけてくる。見てみるともう23:46。ラストオーダーも終わってしばらく経っていた。

 

「あ、ごめんなさい。ほらさっさと帰るぞ」

 

「はーい。イッチぃ、もしVの絵ほしいなら言いな? 俺描いたるよ?」

 

「先会計済ませとくわ。いっちゃん動画編集なら任せな?」

 

「いつまでその話引きずってんだよ……」

 

 会計を済ませて外に出る。息を吐くと白くなり、冷たい空気が火照った身体に気持ちよかった。

 駐輪場まで行き、自分のチャリを持ってくるとAもBも店先で待っていてくれた。

 

「じゃ、今日はお疲れ様ってことで」

 

「うーい。んじゃまた来週なイッチ」

 

「道凍ってるかもしれんから気をつけろよいっちゃん」

 

 あいよ、またなと言い残してチャリを走らせる。今年の12月はまだ暖かくて、上着と手袋だけでも充分暖かく感じた。

 走らせながら考える。バ美肉じゃなくても、Vになれたらなというのは以前から少しあった。人気になるかどうかとかは分からないけど、ラウラちゃんと仲良くする他のVが少し羨ましくて、Vになったら話せるかな、みたいなうっすい願望。

 でも、今は。自分そのままで人気出るわけないし、バ美肉になっただけでも人気出るわけない。でも、ちょっと有名なVになったら、誰かとラウラちゃんについて話したいと思った。ラウラちゃんが活動停止して悲しいヤツがいるんだよって伝えたら、もしかしたら、活動を再開してくれないだろうか、とか。

 

 坂道を上がり、川をまたぐ橋のたもとの赤信号で立ち止まる。この上り坂が一番きついが、橋を渡った所から一気に坂を下れるのでこの橋を渡るルートが好き。

 もう半年か、と思う。最初に告知を聞いたときから考えるととっくに半年は経っていたんだろうけど、ラウラちゃんのことは全く色褪せる気配がない。動画は全て公開されたままだし、何度も見返してるから当然っちゃ当然なんだけど。

 

 信号が青に変わる。ああ暗い気分が取れないな、なんか歌いながら帰ろうかな。

 

 

死にたい僕は 今日も息をして

生きたい君は 明日を見失って

 

 

大して歌は上手じゃないけど、スピードを上げて風を切りながら声を出すのは気持ちいい。暗い気分のときのほうが感情込めて歌える曲ってあるなあ。

 

 

なのにどうして悲しいのだろう

いずれ死するのが

 

 

 

「がっ!?」

 

 

下り坂を降りきる手前で凄い衝撃と共にチャリが浮かぶ。サドルから身体が浮いて前に転ぶなんか道に硬いのがあったのかやばい勢いついてる手を付かないと

 

 

ゴキャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?なんだこれ。暗い。どうなっ《どうも、神様です》うわあああああああああああ!?

 

 

 

 

《おはようございます。身体がなくてたいへんでしょうが、神様の話をお聞きください》

 

 






もううちにはなにもないんです……感想欄も無情なものばかりで……どなたかどうかお慈悲を(誰か続き描いて♥)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。