燦然と輝く勝利の加護 作:光車
「普通ですね。エルドラドは」
「そうなんですか?」
2002年、7月中旬。
だいぶ暑くなってきたこの時期、馬の夏バテに気を配りながら調教するのは難しいらしい。
僕はエルドラドを預けた調教師、右川優さんの厩舎へお邪魔していた。
これは普通の事であり、僕が特別というわけではない。
ただの定時報告会みたいなものだ。
「調教の速度も普通ですし、特別覚えが良いわけでも無いです。それにちょっと体が硬いかなと。ただ力やバネには目を見張るものがありますね。あれは凄い武器になりそうな予感がします」
そこで聞かされた事は、エルドラドは普通だという事だった。
意外だった。
あれほどまでに光り輝いていたエルドラドが、そんな評価を受けるなんて。
やっぱり僕の相馬眼は当てにならないのか?と思い始めた。
「んー、重賞は勝てそうですか?」
「まだ気が早いとは思いますが……そうですね。そのうち勝つ事はできると思いますし、運が良ければGⅠにも手が届くかもしれません」
それは良かった。
しかし、GⅠクラスの才能ではないと聞いて、少しだけ残念に思った。
エルドラドには期待してたんだけど……やはりダメなのか?
「そんなに気を落とさないでください。GⅠに勝ちたいのは私も分かりますし、しっかり仕上げていくつもりですよ」
そう言ってはくれたが、結局競馬とは馬の実力である。
ブラッドスポーツと呼ばれるが、それはあくまで準備の段階。
最後に勝敗を分けるのは、結局馬の実力なのだ。
そしてこの後、エルドラドを見てみたのだが。
初めて見た時の輝きは無く、普通の馬がそこに立っていた。
やはり少し残念に思いながら、僕の勘は外れたのだと悟った。
〜-〜-〜-〜
「館山君が張り切ってくれましてね。正直私としては普通ではないかと思うのですが、彼にとっては違うらしく……」
「いえ、でもエルドラドを館山さんほどの騎手が認められたという事でしょう?」
8月下旬。
次走を決める為の希望を伝える為、僕はまた右川さんの厩舎に訪れていた。
そこで僕は嬉しい話を聞いた。
「そうですね。館山君も良ければ主戦を任せていただきたいと言われています。どうですか? 主戦は館山君にしますか?」
なんと有力ジョッキーである館山さんが、エルドラドの主戦騎手を希望してくれたのだ。
最近は少し成績が振るわないところもあるが、それでも累計1000勝を達成している騎手であり間違いなく上位ジョッキーだろう。
もちろん、そんな人に主戦を希望して貰って受けないわけがない。
「ええ、それでお願いします」
「分かりました。そして次走についてなのですが……、本当にコスモス賞をデビュー戦にする気ですか?」
そして、次走の話へ移る。
僕が予定した次走はコスモス賞。
9月7日のOPだ。
「はい、コスモス賞でお願いします」
「ですが……」
しかしエルドラドはまだ新馬戦も走っていない。
なのに何故コスモス賞に出るかと言えば、単純に僕が踏ん切りを付けるためだ。
きっと強い馬ならば、デビュー戦がOPだとしても負けないと思う。
勿論将来のGⅠ勝利馬が居たりすれば分からないけれど。
ここで負けるならすっぱり諦める、そういうつもりでコスモス賞に出走させる。
そんな考えだった。
それを右川さんに伝えてみれば、ある程度納得してくれた。
「……わかりました。では次走はコスモス賞で確定という事で」
「お願いします」
最終的に折れてくれた右川さんに感謝しつつ、3週間後のコスモス賞に思いを馳せた。
〜-〜-〜-〜
そして、コスモス賞当日。
OPがデビュー戦という事で少し話題になっているエルドラドだったが、やはり当然人気は無い。
現状は11番人気だが、まぁ妥当と言ったところじゃないだろうか。
馬主席からパドックを見てそう思う。
「エルドラド、勝てるかな……」
その可能性は低いとは分かっている。
けれど、良ければ勝利を見せてほしいと願う。
それはパドックから本馬場に入場しても変わらない。
そんな風に、弱気になっていたからだろうか。
エルドラドがゲート入りし、続いて次の馬がゲート入りしようとした時。
エルドラドが、強い黄金の輝きを纏ったように見えた。
「……えっ」
見覚えのあるその輝き。
それは、初めて見た時の輝き。
あれほどの輝きではなかったけれど、僕が初めて見た時、確かにあんな輝きを──
ガコン!
ゲートが開いた。
いつのまにか全頭ゲートに入っていたらしく、コスモス賞はスタートした。
エルドラドは未だに黄金の輝きを纏ったまま、中団に位置している。
ペースは遅く、先行有利。
エルドラドは脚質差し寄りらしいからあの位置に付いているのだろうけど、流石に無理かなと思い始める。
しかし、中団に位置したまま第3コーナーを過ぎて、第4コーナーに差し掛かって。
エルドラドが一瞬更に強く、輝きを放った。
勿論それは幻覚なのだろう。
他の誰も、それに気付いていなかったのだから。
けれど、その輝きはきっと本当に放たれたものだ。
何故ならその輝きを放った直後、エルドラドが爆発的に加速したのだから。
「……!」
あっという間に他の馬をごぼう抜きにして、先頭に躍り出た。
第4コーナーを過ぎた時には既に先頭に居て、更に後続を引き離していく。
「あれは……」
「なんという加速だ……」
他の馬主から驚愕の声が聞こえるが、僕はそれどころではなかった。
自分の馬が、エルドラドがそれほどの圧倒的な能力を見せるなんて思っていなかったから。
そして結局7馬身もの差をつけて圧勝。
OPをデビュー戦にしたエルドラドは、圧倒的な能力の差で全てを叩き潰したのだった。