燦然と輝く勝利の加護 作:光車
『更に早く、更に強く。例え力を失おうとも』
声が聞こえる。
『私は負けん。もう二度と、彼奴らには』
恐ろしいほどに低く響く声が、僕に語りかける。
それには何処か、悔しさが滲み出ていた……ような気がする。
『だが私だけでは勝てん。アレだけでは結果は変えられん』
声は無力感を噛み締めるように、ギリリと歯軋りをした。
何処にいるのかわからないけど、誰かそこにいるのか?
『だから貴様を呼んだのだ。人間なぞの手を借りるなど癪だが……』
一つ、息が聞こえた。
強く息を吐いていたのか、結構大きな音だったけれど。
『不純物になるが仕方あるまい。貴様を入れる事で運命が変わるのであれば──』
声は更に何かを喋ろうとして、大きくノイズが走る。
大きな息も声も、全て掻き消す大きなノイズが。
『ッチ。三女神め、もう気付いたか。まぁ良い。私の願いを叶えろよ、人間』
直後、何も見えなかった世界に光が満ちる。
その光は僕を一瞬で飲み込んで──
〜-〜-〜-〜
「……ここは?」
「あ、起きたか? エルドラド」
目が覚めて、辺りを見渡す。
けれど、見覚えのない場所。
僕が寝ている場所は椅子の上か。
不思議に思いながら、近くに居た男性に尋ねる事にする。
「……あの、ここは何処ですか?」
「え?」
男性は目を丸くして驚いた。
そして、すぐに僕の肩を両手で掴んで言った。
「もしかしてさっきので記憶を失くしたのか!? もしかして俺のことも……」
焦った様子で僕に聞く男性。
さっきの、というのはわからないものの少し頭が痛い気がする。
そしてこの人のことがわからないのも事実だ。
返事をしようとして、頭がズキンと痛んだ。
「っう」
「大丈夫か!?」
焦りに焦りまくる男性を尻目に、僕の頭の中に記憶が入ってくる。
おそらくこれは、この体の持ち主の記憶なのだろう。
少しだけだが、そのおかげで直前の行動だけは思い出すことはできた。
「……うん、大丈夫。でも、ほとんど忘れちゃったみたい」
けれど、大きな記憶の欠損がある。
この人との関係はその僅かな記憶で分かったけれど、全て分かったとは言い難い。
なにせ思い出せたのは2、3分の記憶だけ。
ほんの少しだけの記憶しか、今の僕にはなかった。
「……そう、か」
男性の手は肩を離れ、力無く垂れる。
その間に僕は何か思い出そうとして……一つ気づいた。
今、僕の中にある記憶は今思い出した2、3分程度の記憶。
それを違和感無く受け入れていたけれど、よく考えれば僕の身体や声とか、色々おかしいものがあることに気づいたのだ。
僕の頭が混乱し始める中、目の前の男性が一つ深呼吸をした。
そして、僕に話しかけてきた。
「……エルドラド、何か俺に聞きたいことはないか?」
〜-〜-〜-〜
数分後。
僕は頭を抱えていた。
「どういうこと……」
この数分の間に、ある程度のことを聞く事ができた。
そしてそのいろんな事が僕の理解を超えていたから、結果的に僕は頭を抱えることとなった。
まず、僕がウマ娘であるという事。
これはまだ良い。
いや良くないけど、まぁまだ理解は追いつく。
ウマ娘ってなんだーとか、聞きたいことはあるけれど置いておく。
けど、そのウマ娘が走るレースが世界的競技になっていたり、この男性が僕のトレーナーだったり……。
僕の知らない世界が広がりすぎていて、直ぐには飲み込む事ができなかった。
更には記憶を失うまでの僕の記憶というか、この体の持ち主の夢はかなり難しいものらしく。
情報量は多分そこまで多く無かったと思うけど、今の僕に処理できる量は確実に超えていた。
「落ち着けそうか?」
「がんばる……」
何分か掛かりながら頑張って自分を落ち着かせた後、僕は口に出して整理した。
「……つまり僕はエルドラドって言うウマ娘で、無敗の三冠の為に一生懸命努力してて。そんな時に疲れか何かでふらついた所で頭を打って、今に至る……と」
「まぁ、そういうことだな」
……やばい、罪悪感がすごい。
それって間接的には僕がその子を殺してしまったようなものじゃないのか?
そんな風に思ってしまうくらいには、罪悪感を感じている。
だって僕が入ってきたからふらついたのかもしれないし。
それにその無敗の三冠ってのが達成できる気がしない。
聞いてるだけでも難しそうだったのに、それを一発勝負でやれだなんて。
「それに次走も決まってるからな。次走っていうかデビュー戦」
「え?」
デビュー戦というと、メイクデビューってやつだろうか。
さっきトレーナーが言っていた、初めてレースに出走するウマ娘が出るレース。
「デビュー戦はオープンクラスのコスモス賞。元々のお前が『ここで負ける様ならどのみちいずれ負ける。だったら早めに負けて路線変更した方がいい』とか言って選んだレースだ」
けれど教えられたレースは全然違って。
むしろなんか難易度高そうなレースで。
「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」
思わず僕は叫んだ。
なんてことしてくれてるんだ