燦然と輝く勝利の加護 作:光車
コスモス賞。
それは僕のデビューレースであるオープン戦。
9月7日に行われるそのレースのため、僕はトレーナーにフォームの矯正をされていた。
「べったりと地面に足をつけるな、つま先で走るんだ」
「は、はいぃぃぃ」
何度目かもわからないような指示が飛ぶ。
時には体に手を触れて矯正するようなこともあった。
しかしそうなるのも仕方ないのかもしれない。
「まさかレース本番の1週間前にこんなハプニングが起こるとはなぁ……」
そうなのだ。
コスモス賞までもう1週間もない。
すでに3日ほど、フォーム矯正に費やしている。
「ごめんねトレーナー、こんな風になっちゃって」
「お前が気にすることじゃない、俺がちゃんと管理できてなかったのが悪いからな」
ここのところ、ずっとこういう風に謝り合っている。
お互いに精神的な不安があるのかもしれない。
けれど僕はそんなことを気にしてる暇はなかった。
だって、僕のせいで負けるかもしれないなんてことは、絶対に駄目だと思ったから。
でも、だったら。
「……ねぇ、トレーナー」
「ん?」
考え込んでるトレーナーに話しかける。
もうすっかりトレーナーっていうのに慣れたなぁって思いつつ、僕の決意を言う。
「絶対勝つから。前の僕のことは覚えてないけど、絶対勝ってみせるから」
笑ってそう言ってみた。
するとトレーナーは目を丸くした後吹き出した。
「ちょ、ちょっとなんで笑うのさ!」
「いや、なんでもない……ククッ」
「トレーナー!?」
さっきまで重苦しい空気だったのに、今はなんだか空気が軽かった。
〜-〜-〜-〜
「なんとか仕上がったな……」
「うん」
数日後、コスモス賞直前の地下バ道にて。
僕の初レースにして、まともに走る最初の機会。
緊張するけど、ここで緊張して負けていたら無敗の三冠は達成できないだろう。
そもそも無敗の三冠は一回も負けず達成するから無敗なのであって──
「ていっ」
「いたっ」
色々考えていたら、トレーナーに頭を軽く叩かれた。
「何するのさ、トレーナー」
「お前はそんなふうに考えなくて良いんだよ。今はレースに集中しろ」
抗議してみたけど軽くいなされ、むしろ説教されてしまった。
でもまぁ確かにそうだ。
今の僕の仕事はレースで勝つこと。
それのために集中力を高めていく。
「……エルドラド、そろそろレースだ」
「うん、わかった。行ってくるよ」
僕はそれだけ言うと、地下バ道からコースに出る。
その先には、人が集まったからこそ生まれる熱気と、ウマ娘達の覚悟で燃える空気があった。
「……っ」
一瞬だけ、気圧される。
けれど目を閉じて、気を鎮める。
深呼吸をして目を開いた時にはそよ風のように感じるほどで、一切の気負いもなくターフへ足を踏み出した。
そしてそのまま、ゲートに入るまで全く気負うこともなく、自然体で居ることができた。
『4枠4番、11番人気エルドラドです』
『既に1勝はしてきているウマ娘達の中、唯一デビュー戦としてこのレースを選んだウマ娘です。実績では見劣りするかもしれませんが、一発見せてくれるかもしれませんよ』
ゲートに入る時、僕のことを評価する実況の声が聞こえる。
やはり僕の評価は低いみたい。
それもそうか。実況の人も言ってるけど、この中で一勝どころか1レースも走ってないのは僕のみ。
むしろ13人立てで11番人気なのは高いと言っていいんじゃないだろうか。
「けど、負けるわけには行かないよね」
頬を吊り上げて笑みを浮かべる。
不思議とプレッシャーは無い。
本当におかしな話だ。さっきまではとても緊張していたのにターフの上に来ただけで緊張が止まった。
けれど、僕の魂が言っている。
『勝てる』と。
『8枠13番、10番人気ダイコーブリザードです』
『少し見劣りするかもしれませんが、調子はなかなかに良い様ですね。その調子で一発見せて欲しいところです』
『これで全員がゲートに入りました。……札幌レース場本日のメインレース、コスモス賞スタートです』
全員がゲートインし、僕達も走る準備を整える。
心臓が鳴る、少しずつ速くなっていく。
ガコン、とゲートが開いた。
『スタートしました。4番僅かに出遅れ』
特に良いスタートというわけでもなく、むしろ少し遅めにゲートから出る事になった。
僕の今回の作戦は差しであり前方に出る必要がないから遅めに出たのもあるけど、少しゲートに慣れていなかったかもしれない。
けどだからなんだ。
今回勝つのは僕だ、他の
ゆっくりとレースが進んでいく。
第1コーナー、第2コーナーを通過して向こう正面に入る。
けれど速度は速くなく、これは先行有利と言える展開か。
けれど焦らない、焦りが微塵も生まれない。
この程度なら簡単に差し切れる、そんな気がした。
『この辺りで第3コーナーに差し掛かります。やはりかなりのスローペース。この展開はどうでしょうか』
『後方のウマ娘には辛い展開ですね。先行争いになりそうな展開です』
けれどやはり実況は後方には辛いと評価する。
それを聞いて、僕は自然と笑みを浮かべた。
良いだろう、そこまで僕のことを弱く見るというのなら。
僕というウマ娘を、見せつけてやる。
『第3コーナーを通過して第4コーナー、とここでエルドラド上がってきます』
『ものすごいスピードだ、あっという間に最後方から先頭に躍り出る!』
第4コーナーを迎える前に、僕は全てを抜き去って先頭に出た。
それは許さないと全体がペースを上げるが……遅い。
さらに速度を上げて、後続を引き離しにかかる。
『なんという実力だ! エルドラド、もはや独走状態!』
『5バ身、6バ身と引き離します! これは本当にこのウマ娘のデビュー戦なのか!?』
残り100mのハロン棒を通過して、笑う。
これが僕だ。
絶対王者になる者だ。
『そのまま更に差を引き伸ばしてゴールイン! 圧倒的です!』
『デビュー戦であるという不安要素を吹き飛ばしての圧勝です。これは今後のレースが今から楽しみです』
結局、7バ身もの差で圧勝したのだった。
主人公の性格が変わってるって?
意図的です。