悪事を働かない、あくタイプ使い   作:羽虫の唄

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あくタイプはかっこいい、異論は認める。


悪事を働かない、あくタイプ使い

 春。

 

 キレイハナやドレディア、メブキジカと言った草タイプポケモンが一斉に花を咲かす、命芽吹くこの季節は、同時にトレーナーズスクールを卒業した少年少女たちが、夢と期待を胸に、大冒険の一歩を踏み出す季節でもあった。

 

 生まれ故郷である町を離れて目の当たりにする、数々のポケモン。世界の広さ。

 彼ら彼女らは、道中様々な出会いを繰り返しながら、一歩一歩と進んでいく。例え、火の中水の中草の中。相棒さえいれば、どんな困難だって乗り越えられる──そんな思いと共に。

 

 

「あわわわわ……」

 

 

 ()()()、なのだろう。

 トレーナーズスクールを卒業したばかりの、10歳前後の少年少女たち。年頃の彼ら彼女らは、心強い相棒の存在と、未知の世界を前に浮き足立ち、『自分たちならどこにでも行ける』『どんな困難でも乗り越えられる』……と言った、根拠の無い全能感に取り憑かれてしまうことがままあった。

 故に、この様な失態を犯してしまうのだろう。

 

 場所は、ファストタウンから東へ進み、スクールのあるセカンシティを抜けた先。トライシティへ向かうその途中に存在する、適度に生い茂った森林だ。

 

 木々はそこまで高くなくある程度の日照量が確保されており、付近に清潔な小川も存在することで生存場所としてはかなりの安全地帯である。

 その為、比較的温和な性格の多くのポケモンが存在し、むし・くさ・みず・ひこう・ノーマル、それと少数ながらかくとうと言った具合にタイプも豊富であることから、初心者にはうってつけの場所として認知された森。

 

 

「──ククク…。こりゃあまた、可愛らしいお客さんだ」

 

 

 通称『ビギンの森』と呼ばれるそこで、先日スクールを卒業したばかりの少年・カモミが出会ったのは、不気味に口角を吊り上げて笑う一人の男性だった。

 

 10歳のカモミはもちろん、同年代の平均身長を大きく越す男性は、目測でも190はあるだろう。

 娯楽の少ない田舎育ち、日々野山を駆け回っていたカモミは短パン小僧然としたしっかりした体付きではあるものの、相対する男性とは天と地の差。服の上からでも分かる、鍛え上げられた筋肉は見事の一言に尽きる。

 

 服装からしてエリートトレーナー。ヒメンカを思わせる萌葱色の前髪を、気障ったらしく流した彼は目前で震えるカモミを前に、その笑みを崩すことなく一歩近づいた。

 

 

「ククク…。スクールを卒業したばかりの新人トレーナーは、自分の力を過信して無茶をすることが多い。無謀にも格上に挑んで退き際を誤ったり、欲を出して危険地帯に自ら飛び込んだりなァ……」

 

 

 あわわわ……、と震えるカモミは、男性の言うとおり、欲をかいて森の奥深くへと足を運んでしまっていた。と言うのも、『ビギンの森』の奥深くには時折強大な力を持ったポケモンが出没すると言う噂を小耳に挟んだからである。

 回復アイテムには余裕があり、相棒のヒトカゲもまだまだ元気いっぱい。そんな余裕……いや、慢心が、この事態を引き起こしていた。

 

 

「ここは森の奥深い場所。人目につき辛く、助けを呼んだところで意味がねェ。──こうは考えなかったのか? 強いポケモンがいるって言う『噂』の真意は、駆け出しのトレーナーを言葉巧みに騙くらかし、人目につかない場所で襲撃するための下準備だってよォ」

 

 

 ククク…、と笑いながらこちらに近づいて来る男性。彼の発する言葉を聞いたカモミは、男性の正体について理解する。

 ──初心者トレーナー狩り。知識・経験・身体能力に物を言わせ、右も左も分からない駆け出しのトレーナーを文字通り『狩る』、最低の行いをする輩。

 

 彼らとのポケモンバトルに負けて待ち受けているのは、ポケモン協会が制定した賞金額を遥かに上回る金銭の要求や、酷い時には手持ちポケモンを奪われるケースも存在した。

 

 最悪だ、とカモミは心中で嘆くも、既に後の祭り。見るからに優れた身体能力を持っている男性から逃げ切る自信は湧かず、かと言って、立ち向かったところでポケモンバトルの行方は、ホルスターに収まった6つのボールの種別がハイパーボールであることから一目瞭然である。

 

 

「俺様もなるべく手荒な真似はしたくねェ。お前が黙って言うとおりにすれば、コトは一瞬で終わる……」

 

 

 万事休す。自身に降り掛かる不幸を前に、カモミは諦観し、その目を固く閉じた。

 そして──。

 

 

「──ククク…。俺様直々に出口まで案内してやる。着いて来な!」

 

 

 えっ、優し…。

 その人相や独特の笑い声に反した、予想外の発言を聞いたカモミ。不覚にも、先導を始めた男性の背中に惚れそうになった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「ククク…。最近、ここら一帯は初心者トレーナー狩りが問題になってきていてよォ。セカンシティのスクール卒業生として、こうして俺様は警邏(けいら)を始めたってわけだ」

 

 

 後輩愛がすごい。

 ポケモン協会から指示を受けたわけでもなく、OBとして相談を受けたわけでもなく、自ら初心者狩り対策に身を乗り出したと言う話を聞き、カモミは素直にそう思った。

 

 不気味に口角を吊り上げたエリートトレーナー。その人相とは酷く釣り合わない優しさに、カモミは自分でも不思議に思うほどに鼓動を早めていた。いわゆる、ギャップ萌えと言うやつである。

 

 

「ククク…。ファスト生まれ、セカン育ち。…俺様の地元(シマ)で好き勝手するとはいい度胸だ。初心者狩りなんてする反吐野郎は、見つけ次第身柄を拘束してあらゆる証拠を揃え、ジュンサーさんに突き出してやらねェとなァ……」

 

 

 地元愛がすごい。

 ついでに問題解決方法も一般常識的である。てっきり怒りに身を任せ、暴力に訴えるかと思ったのだが、カモミの予想に反して男性の口からは物騒な単語が飛び出すことはなかった。

 一体何故か? 思わず理由を訊ねたカモミに返ってきたのは、次の言葉である。

 

 

「例え悪人だろうと、暴力を振るったら加害者になるのは俺様だ。トレーナーズスクールのOBである俺様がそんなことをすりゃァ、後輩であるお前たちにも示しがつかねェし、迷惑がかかっちまうだろォが、ククク……!」

 

 

 えっ、優し…。

 まさかまさかの、卒業生として後輩たちに万が一が起こらない様にしての考えであった。ギャップにカモミの胸キュンが止まらない。

 

 さて、そうこうしている内にすっかり出口である。長年、多くのトレーナーたちが歩んだことによって、自然と生まれた平坦な道を進む間、男性の口から飛び出して来る地元愛・後輩愛に溢れる言葉の数々…。

 

 先輩トレーナーとして送られた、激励やアドバイス、過去に彼が経験した冒険譚が終わってしまうことに、カモミは少なからず肩を落としてしまっていた。

 出会いがあれば別れもある。本音を言えばもっと会話に花を咲かせたいところなのだが、口を一文字に固く結び、カモミはそれを堪える。欲を出し、一歩間違えば初心者狩りに巻き込まれていたかもしれない事実を思い出してのことだった。

 

 何事も程々に。

 足るを知らなければ、と自制をしたカモミは、男性に頭を下げつつ礼を述べると、別れを惜しみながら、ビギンの森を後にする。

 

 

「──おっと、待ちなぁ!」

 

 

 ……後にしようとして、そこに待ったをかける者が現れた。

 

 カモミの前に立ち塞がったのは、ルガルガンを思わせるワイルドな髪型の少年である。纏う衣服は多くのトレーナー御用達(ごようたし)の、スポーツウェアである。素人目に見ても高性能・高価格なそれはゴテゴテと多様なアクセサリーで飾られており、少年の他者を見下した様な表情も合わさることで、見る者に悪印象を抱かせた。

 現に、カモミは少々むっと表情を曇らせている。男性との別れの後の第一歩を邪魔されたことで、余計に。

 

 不快です、と表情で語るカモミを前に、その心境を知ってか知らずか少年は続ける。

 

 

「ここを通るには通行料が必要なんだ! 通りたかったのなら、この僕に10,000円払うんだね!」

 

 

 お前は高速道路のETCか何か、とカモミがツッコミを入れるよりも早く、少年に声が発せられた。カモミの背後にいた男性である。

 カモミの隣へ移動した彼は、片手でカモミを自身の背後に移動させながら。

 

 

「ククク…。駆け出しトレーナーには到底払えない額だなァ。そうして相手はポケモンバトルを挑むが、初心者相手じゃァ、当然敵うはずがねェ。お前は負かした相手から金銭や持ち物を取り上げるだけ取り上げる。……テメェが噂の初心者狩りだな、神妙にお縄に付きなァ」

 

 

 男性の言葉を聞き、カモミは義憤の念に駆られる。

 なんと言う陰湿なやり方だろうか。相手からバトルを挑ませるところなんか、特に酷い。

 

 男性の言葉を聞くも、初心者狩りの少年はくつくつと嘲笑を零すだけだ。余程、自身の腕に自信があるのだろう。

 

 

「おいおい、人聞きの悪いことを言わないでおくれよ。僕がやっているのは、先輩トレーナーとしての『講義』じゃないか。講義には料金が必要だろう? 当たり前のことを要求して何が悪いってんだか…。感謝こそされ、非難されるのはお門違いもいいところさ」

 

 

 やれやれ、と言わんばかりに肩を竦める少年。腹立たしさを覚えたカモミが「ふざけるな!」と声を荒げ、それを背中で受け止める男性は、ホルスターから1つのハイパーボールを取り出した。

 

 

「おっと、ポケモンバトルかい? 負けたらもちろん、分かっているよね? ──来い、ムクホーク!」

「ホォーック!」

 

 

 男性の戦意を確認した少年。彼が放ったハイパーボールから飛び出したのは、特徴的なトサカを持った大型の鳥ポケモン・ムクホーク。

 ビギンの森にも生息している、むくどりポケモンであるムックルの最終進化形態であり、素早い飛行と高い攻撃力を誇るポケモンだ。ムックルが捕まえやすいこと、比較的に進化までが早いこともあり、多くのトレーナーがパートナーに選んでいる。

 

 相当鍛えられているのであろう、素人目に見てもかなりの強個体であり、その鋭い眼光を前にしたカモミは、自身が戦うわけでもないのに思わず冷や汗を流してしまう。

 

 そんな彼とは異なり、男性は落ち着いた様子だ。少年に続き、彼もハイパーボールを目前の地面目掛けて投擲(とうてき)する。

 

 

「いきなモルペコ。──その腐った性根、叩き直してやれ」

「うらら〜!」

 

 

 開閉したボールから光線が放たれ現れたのは、寸胴鍋の様な胴体に小さな手足と耳を備えた、小柄なポケモンだった。ムクホークと比べるとその体長は1/4程度。ぱっちりとした目をしたそのポケモンは、ピカチュウやイーブイに似た愛嬌を持っている。

 

 えっ、かわいい…。

 男性の人相とのギャップに、思わずカモミが声を漏らした。続いて、少年が失笑。腹を抱えて笑い始める。

 

 

「あっははは! おいおい、随分と可愛らしいポケモンじゃないか! ──そんな弱そうなヤツでこの僕に勝てるとでも? 人を馬鹿にするのも程々にしてほしいね。…ムクホーク、いけっ! 〝ブレイブバード〟だ!」

 

 

 繰り出されたのは、ひこうタイプの技の中でも強力な部類に入る代物だった。反動を受けるデメリットに目を瞑ればその威力は折り紙付き。また、少年のムクホークの特性が〝すてみ〟であることも合わさり、その攻撃は必殺の一撃と化す。

 だが、しかし。

 

 

「──先輩として1つ言っておく。自分(テメェ)の知らないポケモンを前にしたのなら、相手の特性・タイプを見極めてから指示を出せ。戦ってンのはテメェじゃねェ、テメェのポケモンだ。思考放棄のゴリ押し戦法は無駄にパートナーを傷つけるだけなんだよ、クソ野郎。……モルペコ、〝オーラぐるま〟」

 

 

 30cm程の小柄な体躯目掛けて飛びかかるムクホーク。

 弾丸の様な速度で接近するムクホークに、しかし、男性もモルペコも笑顔を崩すことはなかった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「──クソっ、離せ! あんなポケモンに僕が負けるわけないんだ、クソぉ!」

 

 

 初心者狩りのトレーナーが暴れる声が、カモミの背後で発せられる。

 用意周到なことに、少年との一連の会話は男性によって録音されており、それが証拠として少年は駆け付けたジュンサーたちに連行されて行った。

 

 

「ご協力、感謝します!」

「ククク…。1人のトレーナーとして当然のことをしたまで、お勤めご苦労様です」

 

 

 えっ、礼儀正しい…。

 口角を吊り上げた不気味な笑顔に反し、ピシッとした敬礼を返されたジュンサーさんが思わず声を漏らした。その顔は、少し前のカモミと同じくギャップから来る胸キュンにより、若干赤くなっている。

 

 無事トレーナーは身柄を拘束され、初心者狩りの問題は解決した。少年を乗せたパトカーがサイレンを鳴らしながら向こう側へと消えて行き、その姿が見えなくなると、終わったとばかりに男性が独特な笑いを漏らす。

 

 

「ククク…。これで一件落着だな。それじゃあ気をつけて行けよ。…餞別にすごいキズぐすりをくれてやる。精々頑張りなァ、ククク…!」

 

 

 カモミの様な駆け出しトレーナーにとっては、破格の施しをさも当然の様に手渡して来た男性。トライシティを目指すカモミとは逆に、森の中へと歩みを進めるその背中に向けて、カモミの声が発せられた。

 

 

「ありがとうございますっ! ──あの、俺、カモミって言います! チャンピオンを目指していて……あの、そのっ。今はまだ、駆け出しだけど…! いつか、もっともっと強くなった時、俺とポケモンバトルをしてくれませんか!?」

 

 

 …チャンピオンを目指して始めた、カモミの地方巡り。しかしこの日、少年の目標は頂点から目の前の男性へと切り替わる。

 最終進化形態のポケモンを相手に、その体格差など問題にならないとばかり、真正面から打ち倒した彼のモルペコ。繰り出された〝オーラぐるま〟によって()()()()()()()()()()()()()()を見て、カモミの体は感嘆から震えを覚える。

 

 目前の男性の様なトレーナーに成りたいと思った。そして、それと同時に戦い、勝ちたいとも。

 

 

「ギガンだ」

 

 

 カモミには顔を向けず、背中越しに男性・ギガンは答えた。

 

 

「テメェの名、覚えたぜカモミ。『その時』を楽しみに待ってるぜェ、ククク…!」

「──はい!」

 

 

 そのやり取りを最後に、2人は別れる。足取りは互いに力強く、確かなものだった。

 

 

「すごかったなヒトカゲ…! 俺たちも、あんな風になろうぜ!」

「カゲッ!」

 

 

 まずはトライシティにてトライジムを打ち破る。相棒のヒトカゲを連れるカモミは、ギガンのバトルを目の当たりにした熱が冷めず、自然と走り出していた。それは彼の相棒も同じらしく、彼らは揃って3番道路を駆けて行く。

 

 

「ククク…! あくタイプのエキスパートであるこの俺様に、あんなギラついた視線をむけるたァ、なんとも見所のあるガキだ。これは気を抜いてられねェぞ、モルペコ…!」

「うらうらっ、うら〜」

 

 

 ──これはあくまで、『序章』に過ぎない。

 あくタイプ使いのトレーナー・ギガン。ある者は彼を目指し、ある者は彼と啀み合い、またある者は彼に想いを寄せる。ギガンを中心に巻き起こる喧騒は、いつしか地方全体を巻き込んだ大事件にまで発展するのだが……それはまだ誰も知らない、先のことだ。

 

 ポケットモンスター、縮めてポケモン。不思議な生き物と共に生きる彼らの冒険は、まだまだ始まったばかり──。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「──ククク…。それじゃあ始めるとするか。メチャクチャにしちまったフィールドの、後片付けをなァ…ッ!」

「手伝いますッ!!」

「うォッ!?」




こんな感じの見た目勘違いもののポケモン二次が読みたい。

好きなポケモンのタイプは?(忖度無しでお答え下さい。)

  • ノーマル
  • ほのお
  • みず
  • でんき
  • くさ
  • こおり
  • かくとう
  • どく
  • じめん
  • ひこう
  • エスパー
  • むし
  • いわ
  • ゴースト
  • ドラゴン
  • あく
  • はがね
  • フェアリー
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