とある芦毛の障害ウマ娘【完結】   作:CK/旧七式敢行

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初春、鹿児島のある牧場で一頭のサラブレッドが静かに息を引き取った。
平地でこそ目立った勝利を挙げられなかったが、障害競争転向後は12戦9勝2着3回、連対率100%を記録した「グレイテンペスト」号

これはその魂を受け継いだウマ娘のお話


とある芦毛の障害ウマ娘、出会いの物語【第1話】

「残り400! 先頭プレスリンクイーン! しかし外からはホライゾンシグナル! 内からコンティジェンシー! 並んだ! 大外グレイテンペストはちょっと間に合わないか!? ホライゾンシグナル! わずかにホライゾンシグナル優勢! ゴールイン!」

先頭から1秒遅れでゴール板を駆け抜けた彼女は唇を噛んだ。

23戦1勝、初めての勝利から数えても8戦、ここ4戦は入着すらできていない。

「うぅ……」

悔しさで握りしめた爪が手のひらにくい込む。

「グレイ、お疲れ様。惜しかったな」

控え室に戻った彼女に担当トレーナーがドリンクとタオルを差し入れてくれた。

「ごめんなさい、また勝てなくて」

「短距離ダート路線をやめたほうがいいってことが分かっただけでも収穫だよ。ライブも頑張ってな」

それだけ伝えると、トレーナーは優しく肩を叩いて控室を後にした。幾度となく勤めた「Make debut」のバックダンサーに今日もなる、それだけだ。

「I believe 夢の先まで♪」

センターを獲り、条件戦を脱したウマ娘を称える歓声。

揺れるサイリウムの海にスポットライトの当たらない笑顔を向けるのにも、随分と慣れてしまった。

悔しい気持ちが薄れて、純粋に羨ましいという気持ちしか残っていなかった。未勝利戦を制したあの気持ちが、今は遠い。

「グレイ、大事な話がある」

トレセン学園に戻る新幹線の車内で、担当トレーナーはグレイテンペストが幕の内弁当を食べ終わるのを見計らって話を切り出した。

<ただいま岐阜羽島駅を通過>

の表示からトレーナーの方へ顔を向ける。

「俺は、お前の担当を外れることになった」

「はい」

「思ったより驚かないんだな」

担当トレーナーとウマ娘は「最初の三年間」を二人三脚で駆け抜けるのが定石だ。――ただし、その旅路が順調であるなら。

「私の走りがダメなせいですから」

「後任のトレーナーは、きっと君に向いてるレース……君の輝ける場所を見けてくれるはずだ」

「芝でも、ダートでもダメだったのにですか?」

そう口にしてから、グレイテンペストは言いすぎたと思った。

少なくともデビュー前からこれまでの1年半を支えてくれたトレーナーへの言葉にはふさわしくない。

「ほ、ほら、中長距離とか……」

デザートのシュークリームは、塩気が強かった。

翌週、正式な専属契約解除の書類を持ってトレーナーが来た。

「今までありがとうございました」

判に押したようなお礼の言葉はゲートが開いた時よりも滑らかに出た。

「グレイも元気でな。困ったことがあったら相談してくれ」

「はい」

深くお辞儀をして、涙がこぼれないように祈った。

 

 

 

「そろそろ担当に会いにいくか」

読み終わった引き継ぎ資料をデスクに投げると、トレーニング内容や面談の記録されたノートの隙間から一枚の写真が出てきた。

「笑うとこんな顔なんだな……」

『グレイテンペストの初勝利』と裏に書かれた写真の中で、芦毛のウマ娘が前任トレーナーと並んで写っていた

「えー、芦毛芦毛……」

レース用に初任給をはたいて買った双眼鏡を覗き込んでトレーニングコースを

「芦毛で、前髪の真ん中だけ黒……と」

芝コースの外側を黙々と走るグレイテンペストの姿を見つけるのに、そう時間はかからなかった。

「おーい!」

ラチ近くまで歩いていき、彼女に向かって手を振る。

こちらに気づいたグレイテンペストは確認したいのか、走りながら自分の顔を指さす。

大きく頷いて反応すると、彼女は一旦コースの内側へ振ってから俺のいる外側に進路を変えた。

「……ん?」

そのまま速度を落とすことなく、それどころかこっち目掛けて加速しながら彼女は向かってくる。

そしてーー

《踏み切ってジャンプぅ!》

子供の頃、祖父にもらったお下がりの携帯ラジオで何度も聞いた実況の声が聞こえた気がした

 

 

グレイテンペストはラチを軽々と飛び越えると、俺の前で足を止めた。

「君がグレイテンペストだね?」

「はい、あなたは?」

「君の新しいトレーナーだ。宜しく頼む」

俺の差し出した手に少し戸惑ってから、グレイテンペストは右手で握った。

「よろしくお願いします」

「前任と話して、資料も見させてもらった。さっきまで走ってるところも」

「なら、最近の成績は言わなくてもご存知って事ですね」

そう口にした彼女の表情がわずかに翳った。

「ファンもそんなには増えない、大怪我もするかもしれない。二度と走れなくなるかもしれない。それでも担当するからには勝ってもらいたい」

「そりゃ私だって負けたくて走ってるわけじゃありません」

「だよな! なら話は早い。グレイテンペスト、飛ばないか?」

「……はい?」

(とんでもねぇ大馬鹿野郎が担当になりやがった)

とでも言いたげな表情のまま、グレイテンペストは首を傾げた。

「さっき、ラチを飛んでみせただろ?」

「その方がくぐったり跨ぐより速いですから……」

「アレをレースでやるんだ」

「それってつまり……」

「障害レースを走るんだ」

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