とある芦毛の障害ウマ娘【完結】   作:CK/旧七式敢行

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オープン戦を制し、その年最初の重賞レースに挑む芦毛の障害ウマ娘、グレイテンペスト。
レース前に「見せたいものがある」と担当トレーナーは彼女をレース場の片隅へと案内する。


とある芦毛の障害ウマ娘、重賞挑戦の物語【第11話】

3月12日、阪神レース場ーー

トレーナーと私は1レースの本バ場入場が始まる頃に現地入りした。

「第1回阪神競バ、5日目の今日は今年最初のジャンプの重賞、阪神障害ステークス(春)が行われます」

場内アナウンスが今日の開催内容を伝えている。

「昨夜までの雨が止み天候は曇り、バ場状態は芝ダートともに不良の発表となっております」

「うーむ、こりゃどう頑張っても重までしか回復しないか」

蓋をするように厚い雲が広がった空を見上げながらトレーナーがため息をつく。

「グレイス、障害コースもたぶん内側は半分沼みたいに……機嫌良さそうだな」

「アナウンスで読み上げられるようなレースに出るの初めてで……そんなにですか?」

こちらを向いたトレーナーが意外そうな表情を浮かべる

「耳と尻尾にバッチリ出てる」

「あぅ……」

慌てて私は耳を押さえた。自分では隠しているつもりでも、やっぱり感情が出てしまう。

「でも安心した。その気持ちを忘れるな。いいレースをして来い」

「はいっ!」

「控え室は11時からか。よしグレイス、ちょっと見せたいものがある」

そう言い残すとトレーナーはインフォメーションに駆けて行き、案内の人に何かを訪ねて礼を言うと駆け足で戻ってきた。

「こっちだ」

中央コンコースのエレベーターを上り、喫煙所を曲がったところにそれはあった。

「優勝レイ……」

「阪神障害ステークス春」と金色の糸で刺繍された優勝レイとトロフィーがガラスケースの中に展示されている。

私はこれから、あれを賭けて走るんだ。

そう思うと不思議と体に力がみなぎるのを感じた。

 

スターターが旗を掲げ、特別競走のファンファーレが流れる。

「条件戦をレコード勝ちしたグレイテンペストが現在一番人気」

手拍子と拍手がスタンドの空気を震わせる。

「連勝で重賞制覇となるでしょうか。枠入り順調……」

向こう正面に置かれたゲートが開く。一拍遅れてバネの弾ける音が響いた。

「スタートしました!」

グレイテンペストは悪くないスタートだが、スタートダッシュに成功したウマ娘3人がぐんぐん前に出ていく。

「ややバラけたスタート!」

グレイスは無理に食いつかず中団につけて最初の障害に挑む。

「ヴァンガードジョンが先頭ですがこの飛越でスコリアイーデンも絡んでいく!」

オープン戦でグレイスから逃げ切ったヴァンガードジョンと、同じく逃げウマのスコリアイーデンが先頭争いをしながら後続を引き離していく。

阪神障害コースの一周目は逆回り、二つ目の生け垣を飛び越えた2コーナーの手前でグレイスは囲まれることなく内ラチよりにつけた。

逆回りにスタンド前に戻ってきたウマ娘たちに拍手が上がる。

ホームストレッチの障害は生垣と竹柵の合計三つ。

先頭二人は抜きつ抜かれつを繰り返し、後続を引き離しながら竹柵を横並びに飛び越える。

逆回りの4コーナーでスコリアイーデンが少しリードをとって先頭の態勢が決まった。

グレイテンペストは4番手の位置を守っている。

「縦長になりました、まずはスコリアイーデン差がなくヴァンガードジョン、そこから10バ身離れて3番手にメイシンスキー、グレイテンペスト」

先頭2人が10馬身ほどリードをとって襷コースに入る。

「生垣を踏み切って飛越!」

障害飛越は問題ない。あとは位置取りだけだ。

「続いて水壕障害」

最後の一周を考えるとここで内ラチ側にポジションを変えてほしいが、隣を走る3番手集団が邪魔でグレイスはコースの真ん中を走らされている。

水壕障害を飛越。グレイスの隣を走っていたウマ娘が水しぶきをあげた。

「おい、芦毛の子掛かってないか?」

「ここでグレイテンペストが5バ身差の単独三番手にあがってまいりました!」

ーーダメだ、早すぎる!

あと一周残っている。今からスパートしたら4コーナーを抜ける頃には脚が一杯になってしまう。

「グレイス、まだだ!」

届かないと分かっていても声に出てしまう。

第2コーナーを抜けて残り半周、最後の向こう正面でこれまで控えていたウマ娘たちが次々にペースをあげていく。

仕掛けの早かったグレイテンペストを二人のウマ娘が追い越し、ずるずると垂れてきたヴァンガードジョンも加わった3人に前を塞がれたまま彼女は向こう正面の生垣を飛び越えていく。

綺麗な着地と同時にグレイスが再び位置をあげていく。

「内でグレイテンペストもう一度盛り返しを見せる!」

ーーまさか。

下がったのではなく、飛越に合わせて息をいれたのか?

3コーナーで並びかけるように外から別のウマ娘も上がってくる。

「ミユキユイもあがってきた! 現在2番手!」

「3番手の位置にサーペントリングとグレイテンペスト」

「サーペントリングが転倒!」

3番手集団でグレイスの内側を走っていたウマ娘が最終障害に足をとられて転倒し、スタンドから悲鳴が上がる。

にじり寄るように先頭に2番手の二人が距離を詰める。

あと3バ身、グレイスの脚が残っていれば射程圏内だ。

「第4コーナーを抜けて最後の直線に入ります!」

「グレイテンペストあがってくる! グレイテンペスト現在2番手!」

あと300メートル。最後の急坂、ここで勝負が決まるはず。

「スコリアイーデン、リード1バ身で粘っている!」

内ラチ沿いを走っていたグレイスはコーナーを抜けた勢いをそのままにバ場の三分どころに持ち出す。

「外からはグレイテンペスト! 並んで」

残り1ハロンのところでスコリアイーデンと並ぶ。

「一気にかわしたぁ―ーーッ!」

俺の芦毛が前に出た。

「ウオオオオオオ!!!!」

「がんばれーーーーーっ!」

追い越したスコリアイーデンを振り切り、グレイスはさらに前へと出る。

「二番手はスコリアイーデン、三番手ミユキユイ! リードを開いていくグレイテンペスト!」

3バ身引き離してグレイテンペストはゴール版を駆け抜けた。

「グレイテンペスト快勝でゴールイン! 2着スコリアイーデン、3着にはミユキユイ!」

「一番人気に応えて重賞を初挑戦で制しました、グレイテンペスト!」

歓声をあげるファンと共に、俺は手が痺れるまでガッツポーズをするグレイスに拍手を送り続けた。

 

ウィナーズサークルに現れた私とトレーナーに向けられたのはたくさんの拍手とカメラのレンズ、嵐のようなフラッシュ。

係員のお姉さんが私の肩に優勝レイをかけると、向けられたカメラからマシンガンのようにシャッター音が鳴り響く。

「これより阪神障害ステークス春の表彰式を行います」

司会のアナウンスで騒がしかった場内が水をうったように静まり返る。

15センチほどの壇上に立つと、スタンドにいるファンの顔がよく見渡せた。

「優勝したグレイテンペストさんにトロフィーが贈られます」

表彰式のBGMに合わせて、金色に輝く優勝トロフィーが運ばれてくる。

「おめでとうございます」

思ったより重いトロフィーを抱えると、ピカピカに磨きあげられた表面が私の吐息で曇った。

「グレイテンペストさんは今回が重賞初制覇となりますが今のお気持ちをお聞かせください」

トロフィーを係員の人に預けて私はマイクを握る。

「本当に、あの……なんて言ったらいいんですか?」

緊張で頭が真っ白になり、控え室で考えてきた言葉がまったく出てこない。

私はちらりと隣のトレーナーに目を向けて助けを求めた。

「ありがとう、でいいんだ」

私にだけ聞こえるよう、小声でトレーナーが口にした。

「ファンの皆さんの応援のお陰です、ありがとうございました!」

「富岡トレーナーからも一言お願いします」

「グレイス……グレイテンペストは去年から私が担当交代して、慌ただしい中で障害レースに出てもらって弱音も吐かずにこれまで頑張ってきてくれました」

こんなに大勢の前でトレーナーにべた褒めされると嬉しさとむず痒さが混じって耳と尻尾が落ち着きなく動いてしまう。

「飛越のセンスがあるのでこれからも大きなレースでいい走りをしてくれると思います。これからもグレイテンペストを推してください!」

そう締めくくったトレーナーはマイクの電源を切って係員に返すと、

「お疲れさま」

とねぎらいの言葉をかけてくれた。

「富岡トレーナー、ありがとうございました。皆様もう一度大きな拍手をお願いいたします」

拍手の轟くスタンドに、私とトレーナーは頭を下げた。

 




参考レース:第41回阪神障害ステークス(春) https://youtu.be/NqmIdqasrKM
※現在の阪神スプリングジャンプ(JG2)
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