とある芦毛の障害ウマ娘【完結】   作:CK/旧七式敢行

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とある芦毛の障害ウマ娘、台風襲来の物語【第18話】

「エールシェブロン先頭で最後の生垣障害踏み切ってジャンプ!」

好位につけて最終障害を飛越したグレイテンペストが動いた。

「グレイテンペストあがってまいりました! 三番手から二番手!」

第4コーナーで2番手にいたパイレーツバレルを並ぶ間もなくかわし、最終直線でバ場の三分どころに持ち出す。

「最終直線に入った! グレイテンペストが来ている!」

「いけー!」

「突っ込めーーーーっ!」

最終直線に入る頃には逃げたウマ娘を捉え、スタンドから歓声が上がる。

「グレイテンペスト先頭に変わった!200を通過! エールシェブロン二番手。三番手争いはパイレーツバレルとアイアンハート!」

歓声に応えるようにグレイスは後続を突き放してゴールを通過した。

「グレイテンペスト差し切りました。2着エールシェブロン、3着は接戦ですがパイレーツバレルがわずかに有利か?」

毎回のことながら、ちゃっかり掲示板に食い込んでくるアイアンハートもなかなかタフだ。

「京都第5レースは休み明けもグレイテンペストの圧勝でした、芦毛旋風は秋も続くのか!」

休み明けでも動きは文句なし。ポジションも飛びも上々。

秋の始動戦のオープンを楽勝し、今日でグレイスは連勝記録を4に伸ばした。

 

ウィナーズサークルでの撮影を終えて控室に戻ると、グレイスは大きく伸びをした。

「お疲れ様。今日もよく頑張ったな。じゃ、脚見るぞ」

「はい、ちょっと汗臭いかもしれないですけど」

椅子に腰を下ろしたグレイスは靴下を脱いで俺に足を向ける。

撮影の間に汗冷えしたのか、グレイスの脚はひんやりしている。

「熱くないか?」

「ん、ちょうどいいです」

蒸しタオルでグレイスの脚を拭いていく。傷ができていないか、腫れているところはないか

「んー、これは竹柵にやられたな。しみるか?」

右膝の上辺りにできた引っかき傷をタオルで軽く押すと、グレイスは眉を寄せた。

「ん、ちょっとだけ」

「いつもの貼っとくぞ」

傷を洗って湿式絆創膏を貼る。ほかはサイハイソックスが守ってくれたおかげで目立った傷はない。

「うん」

ガーゼと透明フィルムでその上を覆って傷の処置は終わりだ。

「グレイス、怒らないで聞いてくれるか?」

そして俺はようやく、夏合宿から感じていたことを伝える覚悟を決めた。

「えっ? はい」

グレイスはかしこまった様子で膝を揃えた。

「脚、ちょっと太くなっただろ?」

「んなっ!?」

グレイスの顔がかっと赤くなり、耳が絞られる。

ギリギリかわした俺の眼前をグレイスのつま先が掠めた。

「ステイ! ステイ! やめろさすがに死ぬ!」

「なんでわかったんですか?」

やはり、本人も自覚はあったらしい。

「走るたびに触ってれば手が覚えるさ」

「……トレーナーのえっち」

グレイスはそうこぼしてそっぽを向いてしまった。

 

秋の京都大障害を目前に控え、私のトレーニングも日毎に強度があがっていく。

今日は同室のスターサンシャインさんとダートでの並走トレーニング。

彼女の担当はトウカイローマン先輩のトレーナーだった豊田さんだ。

「グレイス、ジュニア相手だからって手加減するんじゃないぞ!」

「スター、ビビらず落ち着いて走るんだぞ!」

なんだけど、私達よりもトレーナー二人のほうが熱が入っている気がする。

「テンペスト先輩、よろしくお願いします」

「負けたほうがにんじんスムージーおごりね」

「いいですよ! 負けませんから!」

スターさんも先月のデビュー戦を上がり最速で勝利している。偶然にも条件は私の唯一の平地勝利と同じダート1200。

「よーい、ドン!」

じゃんけんで決めた内にはスターさん。私は外側。

2コーナーまでは1バ身ほどスターさんを先行させて風よけにしつつ、顔に砂を被らない距離を保つ。

向こう正面の中ほどで私は外からスターさんの横に並ぶ。

「っ!」

私に驚いた表情を浮かべるスターさんを追い越し、被せるように3コーナーの入口でハナを奪う。

末脚勝負がスターさんに有利、私はロングスパートで粘り勝つしかない。

コーナーを曲がりながらちらりと後ろに意識を向ける。

スターさんはまだ3バ身後方で脚を溜めている。

まだ私の脚は十分残ってる。

ーーいける!

そして、最終直線でスターさんが追ってきた。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

スターさんの足音が近づいてくる。2バ身、1バ身。

彼女の息遣いが聞こえる。

――まだいける、あと少し。

ストップウォッチの音が、私を現実に引き戻した。

「何秒だった?」

「おぉ~」

ストップウォッチを見たトレーナーと豊田さんが感嘆の声を漏らした。

「トレーナー!」

「私が先ですよね!?」

携帯のカメラで並走を撮っていたトレーナーがスロー再生に切り替えてゴール前の瞬間を再生する。

4人で画面を覗きこむ。

「うーん」

何度見ても、内の私と外のスターさんは完全に重なっている

「これ同着じゃないですかね」

「あってもハナ差未満だなぁ」

豊田さんも私のトレーナーと顔を見合わせる。

「じゃあ引き分け、ってことで全員文句ないな?」

「はーい」

「なら、今日はここまで!」

「お疲れ様でした!」

お互いをねぎらって今日のトレーニングは終わりになった。

「じゃあテンペスト先輩、また後で」

手を振って別れたスターさんは来年のローテーションの話をするためトレーナー室のほうへ向かっていった。

「頑張ったな、グレイス。レースと違う緊張があっただろ? 今日はだいぶ負荷かけたから一応見せてくれ」

「はい」

ベンチに腰を下ろしてジャージのズボンを脱ぐ。

「ちょっと動かせるか?」

トレーナーの指示に合わせて曲げ伸ばしたり爪先を回したりする。

左膝に触れたトレーナーの表情が固まった。

「グレイス、ちょっと手を――わかるか?」

「っ!?」

トレーナーの示したところを触り比べてみると、左の膝がわずかに熱を帯びていた。

「痛みは?」

「ありません」

動かしてみても、違和感はない。ただじんわりと熱だけを感じる。

「とにかく明日はプールだけにしよう。今日はまっすぐ帰ってしっかり休め。湿布はまだあるか?」

「はい、まだ一袋あります」

「わかった、何か変だと思ったらすぐ連絡してくれ」

 

お風呂を上がった私が左膝に湿布を貼っていると、ちょうどディスタントスターさんが部屋に戻ってきた。

「テンペスト先輩、膝が痛いんですか?」

「うん、実はね――」

私は脚のチェックで膝がほんの少し腫れて熱くなっていたことをスターさんに話した。

「来週の京都大障害は絶対獲りたいんだけど、これじゃどうなるか……」

私の秋初戦と同じ日、タマモクロスは秋の天皇賞を勝って「皇帝」シンボリルドルフですらなし得なかった天皇賞を春秋連覇。

同じ芦毛として、路線は違っても春秋連覇にかけるファンの気持ちに応えたい。

「うーんと、テンペスト先輩……障害の皆さんってそんなに距離近いんですか?」

「え?」

「というか無防備ですよ生足触らせるとか!」

ローマン先輩からも同じことを言われた気がする。

「でもいつも練習後にチェックしてもらってるし。平地はしないの?」

「しませんよ!? テンペスト先輩のトレーナーって脚フェチなんじゃないですか!?」

「そんなことはない」

ふいに、京都のオープン戦のあとで言われた脚の肉付きの話を思い出した。

「……とは言い切れないかも」

「ほらーーーーーーーーっ!」

幸い、翌週には脚の腫れは治まって私は無事にレース当日を迎えた。

 

特別競走のファンファーレが淀の秋空に響く。

「曇り空のもと、京都レース場はここから特別レースとなります。第9レースは京都大障害、障害3270メートル。コースは良バ場の発表となっております」

心配だった膝も無事に回復し、バ場もグレイスの快速を発揮できる状態で舞台は整った。

「そして春の勝者グレイテンペストが一番人気。連覇をかけて挑みます。2連勝中のクイーンリフォーが障害の王者、グレイテンペストに待ったをかけるのか?」

――王者とは、ハードルを上げてきたな。

場内実況は枠入りを待つグレイスにも聞こえているだろう。

ターフビジョンに映る当のグレイスはというと、悠然と構えて順番を待っている。

「枠入り順調です――スタートしました!」

最後のウマ娘が収まり、ゲートが開いた。

「グレイテンペスト好スタート、最初の障害を飛越! ミストレスコブラが先頭に立ちました」

出遅れることなくしっかりとスタートを決めたグレイスはいつものように控えて好位につけた。

「グレイテンペストは3番手です、クイーンリフォーは中団」

他のウマ娘はグレイスを警戒しているのか、あまり動くことはなく向正面に入るころには自然に隊列は定まっていた。

「さぁ向正面に入りました。生垣をジャンプしました! いよいよ大障害コースに入っていきます」

二股に分かれる京都の障害コースの内側へウマ娘たちが駆けていく。

「さぁ大生垣を、あっと転倒! ミストレスコブラか!? いや、パイレーツバレルが転倒しました!」

2番手のウマ娘が足をとられて転倒する。

「グレイテンペストとパイレーツバレルがいきました」

目の前の転倒で動揺したのか、グレイスが位置をあげていく。春の阪神障害ステークスと同じだ。

「うげっグレイちゃん掛かってないか!?」

隣で応援していたファンが頭を抱える。

じりじり先頭に接近するグレイテンペストは二週目のホームストレッチで先頭のミストレスコブラまで1バ身に迫る。

「大生垣をいまジャンプ!」

勢いに乗ったグレイスはこの飛越で先頭に並んだ。

「続いて大水壕です」

「アイアンハートがトモを落としたか、少し下がりました」

低く長いジャンプでグレイスは難なくこれをクリア。後続で一人が飛沫を上げる。

スタンド前最後の難関、三段跳びが迫ってくる。冷静に飛べるか心配する俺をよそにグレイスは見事に4完歩で飛び降りて第1コーナーへ向かっていく。

「押し出されるようにグレイテンペストが先頭に立ちました。残り一周、第1コーナーに入っていきます」

リードは4、5バ身。あと一周、脚を残したまま逃げ切れるか?

向正面に入ると一周目でハナを切っていったミストレスコブラが飛越のたびに少しずつ詰め寄ってくる。

「がんばれ、グレイス……っ!」

「グレイテンペストが依然先頭をキープ、3バ身のリードを付けています」

「先頭からシンガリまでは20バ身」

前はグレイスを先頭に固まってきた。

「混戦の二番手集団からクイーンリフォーが接近!」

2番人気のウマ娘がグレイスと差を詰めてくる。

「最終障害踏み切って飛越!」

「ダートコースを横切って4コーナーを出ます! グレイテンペストが先頭! 押し切れるか!?」

「クイーンリフォーは後退していく! 代わってアマギライダー!」

対抗と目されていたクイーンリフォーが力尽きて後退していく。

「内からはアイアンハート、おっとラチに接触したか!?」

強引に内から前を狙ったウマ娘がよれてラチにぶつかり、スタンドがどよめく。

「200を切りました」

最後のハロン棒を過ぎてもグレイスの脚色は衰えない。

「春と秋、連覇なりそうです! リードはまだ3バ身から4バ身! 2番手争いはアマギライダー」

グレイスはそのまま後続を振り切ってゴールした。

「グレイテンペスト5連勝で京都大障害を連覇しました! 勝ち時計3分42秒0。グレイテンペスト、早々と先頭に立って一旦は後続を引き付けて突き放しました!」

満面の笑みを浮かべる愛バが、ターフビジョンに映っていた。

 




参考レース
1988年 京都大障害(秋)
https://youtu.be/k2N6bT6PRTI
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