とある芦毛の障害ウマ娘【完結】   作:CK/旧七式敢行

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とある芦毛の障害ウマ娘、決戦前夜の物語【第19話】

中山大障害まであと一週間を切った日曜日、俺とグレイテンペストは特別登録のため学園内の窓口にやってきた。

「すみません、特別登録お願いします」

「はい、届けを確認しますね」

受付の職員に中山大障害の特別登録の書類を渡し、確認を待つ。

「中山大障害、グレイテンペストさんで特別登録を受理しました」

「ありがとうございます」

控えを受け取り、待たせていたグレイスと合流する。

「無事受理されたよ」

この後は水曜日に最終追い切り、木曜日に出走投票。金曜日は中山レース場に前乗りしてグレイスとコースを確認。

24日の土曜日14時45分、中山準メインの第10レースが決戦となる。

 

迎えた水曜日、ラチ沿いに立つと身を切るように冷たい風が吹き付けた。

ニュースでは最低気温が氷点下を観測したといっていた。

今日は最終追い切りで大障害の前にグレイスのパフォーマンスを確認する。

二人のウマ娘が白い息を吐きながらコースを駆けてくる。

芝コースでの並走、グレイスは本番を想定して外だ。

残り2ハロン、キンと冷えた空気を切り裂いてグレイスが前に出ていく。

内で頑張るキョウワソルジャーを3バ身ぶっちぎってグレイスは俺の前を通りすぎた。

「ぜぇ、はぁ……もうまぢむり……芦毛ちゃん強すぎ……」

併せてもらったキョウワソルジャーは、真っ白な息を吐きながらへたり込んだ。

「トレーナー、タイムは?」

息も絶え絶えなキョウワソルジャーと対称的に、グレイスは軽い足取りで俺のもとへ寄ってきた。

「67秒フラット、上がり3ハロンが37秒5」

「追っかけてて心臓が爆発するんじゃないかと思ったよぉ。有マに出た方がいいんじゃない?」

「……出ませんよ、特別登録もしてないし」

「ごめん。冗談だって……」

ぞっとするような低い声で答えるグレイスに、俺もキョウワソルジャーも気圧された。

 

「出走投票、してきたぞ」

トレーナー室に戻ると、グレイスが勝負服をスーツケースにしまっているところだった。

最終追い切りに出走投票も終わると、いよいよ緊張が高まってくる。

明日の昼前には中山に出発してスクーリング。

各種のメディアも週末に向けて盛り上がっていくだろう。

ただ唯一の懸念はーー

「やはり有マ記念の見どころは芦毛対決ですね、ここまでの2戦はタマモクロスが勝利していますがオグリキャップが雪辱を果たすのか注目ーー」

グレイスはため息をついてテレビの電源を切り、リモコンを置いた。

やはり、注目の集まるグランプリよりも扱いが地味なことが不満なのだろう。

「グレイス、ちょっと買い物付き合ってくれないか?」

「え? 今からですか?」

ちょっとレース以外のことでリフレッシュさせてやらないと。

 

府中の商店街はトレセン学園とは対照的にクリスマスムード一色だ。

お目当ての書店には昨日発売のURA公式の雑誌も平積みされている。

当然ながら表紙はオグリキャップとタマモクロスが向かい合う構図で、「有マ記念直前特集」の文字が踊る。

俺はそれを手に取った。

「お、グレイスの記事もちゃんとあるぞ」

「え?」

少し不機嫌そうにしていたグレイスの声色が変わった。

「今月の重賞レース回顧」のコーナーをめくると、カラー写真のコーナーに「私も芦毛の最強ウマ娘、グレイテンペスト」の見出しとともに京都大障害で生垣を飛越するグレイスの姿が紹介されている。

逃げたミストレスコブラと並んで飛び、舞い散る生垣の葉も相まって迫力満点のショットだ。

回顧のページには記事と合わせて俺とグレイスのインタビューもある。

「これ、編集部にオリジナル貰ってトレーナー室に飾っとくか」

隣のページには優勝レイをかけてウィナーズサークルで満面の笑みを浮かべるグレイスの写真も掲載されている。

「本物がここにいるじゃないですか」

「いてっ」

グレイスの肘が脇腹に刺さった。

「やっぱりカップルばっかりだなー」

並んで歩く男女にぶつからないように避けていると、グレイスは少しだけ俺の方に寄って手を取った。

「ねぇトレーナー、トレーナーはクリスマスに欲しい物ってある?」

「そりゃあグレイスが無事に帰ってきてくれるのが一番のプレゼントだけど……」

「そんな当たり前のものじゃプレゼントにならないじゃないですか」

きゅっと軽くグレイスが手を握る。

ーー当たり前、か。

中山大障害ともなると、オープンクラスのウマ娘でも転倒や競争中止がある。

それを今彼女は自信たっぷりに当たり前のように帰ってくると言い切った。

「いや待て、一つあるな」

「教えてください」

「今年の冬は冷えるからマフラーが欲しいな。できれば赤がいい」

「赤……ですか。やっぱり生地はカシミアとかメリノウール……あっ」

グレイスは少し考え込んでから、ぴんと耳を立てて俺に顔を向けた。

「クリスマスまでには用意しますね」

「楽しみにしてる」

この反応を見るに、俺の欲しいプレゼントの目星はついたようだ。

そのまま商店街を歩いていると、人だかりのできている一角があった。

「そこのウマ娘の嬢ちゃん、3等でもりんご箱のチャンスだよ!」

「りんご……」

その誘い文句でグレイスがぴたっと足を止めた。

商工会議所の前には「明後日で最終日! まだまだ豪華商品残ってます!」というポップが貼り出され「クリスマス大抽選会開催中」ののぼりが立っている。

特賞は有名テーマパークの宿泊つき招待券で1等は温泉ペアチケット、さらに2等は選べるグルメギフトそして3等でもリンゴ一箱とかなり豪華なラインナップだ。

「これ、一番いい等級のやつですね」

「おっ、嬢ちゃん詳しいね。リンゴは好き?」

「大好物です」

嬉しそうに尻尾を揺らすグレイス。

「3000円分のレシートで一回か」

商品の豪華さを考えると納得の設定だ。

「うーん、3000円……すみません、これってレシート合算でもいけますか?」

「いけますよー」

「グレイス、2000円くらいで女の子が使うものってあるか?」

「尻尾用のトリートメントがもうすぐなくなるので、それと小物を合わせたら多分いけます」

「おし、俺も髭剃りと救急ポーチの小物買うからそれで6000円にしよう」

グレイスと一緒にドラッグストアに入る。

彼女が迷わずカゴに入れたのは高級な尻尾用トリートメントと色つきのリップクリーム。

「あとはこれで2回、かな?」

徳用パックのカミソリの替え刃と二本セットのシェービングフォーム、それに救急ポーチの補充用の衛生用品を買って俺の会計は4000円くらい。

「お支払は?」

「カードで」

端末にカードを読ませて決済を終えると、先に隣のレジを通し終わったグレイスが興味深そうに俺を見ていた。

「なんか、カードで払ってると大人って感じがします」

「いや、単純に財布に千円札3枚しか入ってなかった」

「もー!」

グレイスに尻尾で叩かれながら店を出てレシートを並べる。さっき買った雑誌と合わせて二人合わせてちょうど6000円を少し越えたくらいだ。

抽選会場に戻ると、さっきよりも列が長くなっていた。

並んで5分ほど待っていると、俺達の順番が回ってきた。

「次の方どうぞ~」

「これで合計」

「はい、参加賞の飴ちゃん」

「なんじゃそりゃ」

俺はおっちゃんにもらった飴をポケットに突っ込んだ。

しかもよりによってりんご味。おぉ俺の4000円よ、こんなに変わり果てた姿になっちまいやがって。

抽選券を握りしめたグレイスに場所を譲る。

「りんご出るといいねえ、嬢ちゃん」

「りんご、りんご、りんご……」

だめだこいつ、完全にリンゴのことしか考えてない。

「いきますっ!」

ころん、と赤い玉が転がり出た。

「赤は何等だ?」

俺が賞品の表を探すよりも早く、おっちゃんが威勢よく鈴を鳴らした。

「出ましたーーーーーーっ! 1等、温泉ペアチケット! おめでとうございます!」

「えええええええ!?」

ピーンと伸びるほど尻尾を逆立てるグレイスは初めて見た。

「ど、どうしようトレーナー」

「グレイスの好きな人と行けばいい」

「ん、そうします」

少し間があってからグレイスは頷いた。

「さっきもらった飴、りんご味だったけど……食べるか?」

「もらいます」

中山大障害が終わったら好きなだけトウカイローマンの教えてくれた店のアップルパイを奢ってやろう。

 

「これが中山のバンケット……」

中山大障害を翌日に控えた私は、同じく中山大障害に挑むキョウワソルジャーさんと襷コースのバンケットの前に立っていた。

「いやー、噂にゃ聞いてたけど崖だねこりゃ!」

大きく窪んだ高低差5メートルの谷は地獄の口のように見える。

「んでここ登ってきてアレを飛ぶんだろ? あたし達を殺す気か?」

キョウワソルジャーさんの指差す先にあるのは、数多のウマ娘達の夢を阻んできた大竹柵と大生垣。

背丈ほどある2つの固定障害が使われるのは年に2回の中山大障害でだけ。

「ねーねー芦毛ちゃん、これって試しに跳んじゃダメかな?」

「ダメダメ、それじゃ全員やらなきゃ不公平になるだろ」

キョウワソルジャーさんのこぼした言葉を聞いたトレーナーは首を横に振った。

「ちぇー」

「トレーナー、軽くリズム取るのならいいんだよね」

「あぁ、大丈夫だ」

私は本番をイメージしながらバンケットを登って大竹柵と大生垣までの距離を自分の足で確かめる。

「イーデン」

「わかってます、今回は勝ちます」

短く言葉を交わしたあと大竹柵を睨んでいるのはスコリアイーデンとそのトレーナーだ。

一緒に走るのはファン感謝祭のエキシビジョンレース以来だけど、じりじりと焦がすような雰囲気を今日も纏っていた。

 

「うーむ……」

近くの大浴場でひとっ風呂浴びた俺はベッドに身を投げだして俺は天井を見上げる。

一年前、俺は初めて会った日にラチを飛び越えてみせた彼女を障害に誘った。

そして今、こうして中山レース場近くのホテルで決戦前夜を迎えた。

スマホを取ると、通知に新着が来ていた。

「トレーナー、ちょっと電話してもいい?」

10分前にグレイテンペストからのメッセージが届いていた。

時計は9時37分。出走ウマ娘の滞在する宿舎の消灯まではあと30分もない。

「すまん、風呂入ってた」

返信するとすぐに既読と返信がついた。

「いまは大丈夫?」

「OK」

スマホの画面は既読がついた直後に着信表示に変わった。

「トレーナー、ごめんさいこんな時間に」

「どうした?」

「なんか……急に心細くなっちゃって」

無理もない。中山コース初挑戦の彼女に圧倒的一番人気の重圧がのしかかっている。

「ねぇトレーナー。私、勝てるよね?」

「グレイス。ここで勝てなきゃ、俺たちはこの先ずっとオグリキャップやタマモクロスに追いつけない」

少し強めの言葉を使ったが大丈夫、今の彼女ならこの程度で折れはしない。

「勝って、オグリキャップやタマモクロスを平地のグレイテンペストと呼べるぐらいになってやろう」

「はいっ! ありがとうございますトレーナー」

「……それと、俺は信じてるぞ。おやすみ」

「ありがとう。おやすみなさい」

 

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