とある芦毛の障害ウマ娘【完結】   作:CK/旧七式敢行

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2戦目で障害未勝利戦を勝利した葦毛の障害ウマ娘、グレイテンペスト。
昇級した最初のレースの相手は初めての障害戦で逃げきったスコリアファストだった。


とある芦毛の障害ウマ娘、レコードタイムの物語【第6話】

「スコリアファスト先頭、いま最終障害をジャンプ! リードはまだ4バ身くらい、グレイテンペストが続きます!」

ターフビジョンには最終障害を飛越したスコリアファストと、追いすがるグレイテンペストの姿が大写しになっている。

事前の予想通り、逃げたスコリアファストに終始5,6バ身のリードを取らせて二番手でピッタリとマークしていたグレイスがじわじわと位置を押し上げていく。

「第4コーナーを抜けて最後の直線に入った!」

だが、その差がなかなか縮まらない。

「スコリアファスト先頭! グレイテンペスト迫る! 残り200! 3番手争いはシエラグリーンか!」

最後のハロン棒を通り過ぎてもなおスコリアファストが粘る。

「スコリアファスト! 二番手グレイテンペスト、リード3バ身! 今ゴール!」

ゴール板を通過したグレイスはぐんと速度を落として頭を垂れた。

「スコリアファストが2連勝! 勝ち時計3分38秒0、グレイテンペストも頑張りましたが2着! 3着には大差でシエラグリーン。確定までしばらくお待ち下さい」

「おっしゃーーーー!!」

「あーーーーダメだった!」

「やられたーーーーー!」

掲示板のウマ番号が点滅を始める。グレイテンペストのゼッケン番号10は2着の位置で点滅していた。

結局上位二人は人気順のとおりに決着。ラチの前に詰め掛けていたスコリアファストのファンは歓声を上げてウイナーズサークルの前に急ぎ、グレイスを応援していたファンはすごすごとスタンドへ退場していく。

俺は人の流れを横切りながら関係者用のゲートを通って控室に戻った。

「グレイス、入るぞ」

「どうぞ、鍵は開けてます」

ドアを開けるとグレイテンペストはすでにプロテクターを外して俺を待っていた。

ぐっしょりと汗で湿った芦毛が彼女の額に張り付いている。

位置取りも、タイムも悪くなかった。逃げ馬をどこで捕らえに動くかは今後の課題にするとして――

「お疲れ様、よく帰ってきてくれた」

俺のやるべきことはまずは無事に帰ってきた彼女をねぎらってやることだ。

「次は勝ちます、絶対」

グレイスの肩にタオルをかけてやると、彼女はずいぶんと長いこと顔を拭った。

「すみません、汗が目に染みちゃって」

細い肩を時折震わせる彼女が落ち着くまで、俺は静かに見守ってやることしかできなかった。

「グレイス、次のレースは少し間隔を開けようと思う」

ようやくタオルを顔から離したグレイスに半ば無理やり経口補水液を飲ませて一呼吸置いてから俺は切り出した。

「しばらく練習は軽めのメニューだけにする。何日かは全休日も作るからゆっくり休んでくれ」

中2週の過酷なローテでもグレイスは泣き言一つ言わずについてきた。

今は短期間でも休養させて態勢の立て直しをさせたい。

「ならトレーナー、今月末の日曜日ってお休みですよね?」

「見に行きたいんです、ローマン先輩の走るジャパンカップを」

 

 

ジャパンカップの開催される東京レース場。

「スコリアファスト! スコリアファストが3連勝で京都大障害を制しました!」

「……レイス、グレイス!」

京都レース場の中継が映るターフビジョンを食い入るように見ていた私は、肩を叩かれるまでトレーナーが戻ってきたことに気づかなかった。

「あ、トレーナー。あの子、また逃げ切りました……」

「スコリアファストか。姉譲りの見事な逃げ足だ」

ターフビジョンに映るレース映像を見たトレーナーは腕組みをしながらシートに背を預けて唸った。

「たしか前にトレーナーが言ってたお姉さんの名前はスコリア……イーデンさんですよね」

「あぁ。障害のオープンでも実績があるし、クラシックではあの『皇帝』シンボリルドルフとも一緒に走ってる」

「ルドルフ会長と……」

クラシックどころか、初勝利まで15戦かかった私とは走ってきた世界が違う。

「怖い顔になってるぞ。ほら、本命ドーナツ買ってきたから」

「ありがとうございます」

トレーナーさんにお礼を言ってまだ温かい袋を開けるとふわっと甘い匂いが広がった。

「あ、小さいほうもらっていいか」

「どうぞ」

本命印の◎を模した大小二つのドーナツの小さいほうをトレーナーに渡す。

「うーんローマンは12番人気か、やっぱり世界の壁は厚いな」

ターフビジョンの人気投票の順位を見たトレーナーはドーナツを一口かじった。

メインレースとなるジャパンカップの人気投票は海外勢が人気上位を独占している。

「ローマン先輩はあと2戦、悔いのないように走るって言ってました」

「そうか、ローマンもあと2戦か……」

私たちウマ娘がレースで最大のパフォーマンスを発揮できるのは人生のうちの短い間。

「はい」

たぶんトレーナーたちが、それを一番分かっている。

場内にファンファーレが流れ、ジャパンカップの前に行われる最後の一般競争のゲート入りが始まった。

「第9レースは、ダートのクラシック一勝クラス。ダート1400メートルで競われます」

私と同じ、平地一勝クラスの条件戦に挑むのウマ娘たちがゲートに収まっていく様子がターフビジョンに映る。

「この後はいよいよジャパンカップ、場内も盛り上がってまいりました。向こう正面枠入り順調……今スタートしました!」

ゲートの開く音が少し遅れてスタンドに響いた。

 

 

「んあーーーーーっ! 沁みる……はぁ」

大きく伸びをしたローマン先輩は小さくため息をついて再び湯船に首まで浸かった。

結局、今年のジャパンカップも日本勢は3着に食い込むのがやっとだった。

「ごめんねレイちゃん、かっこ悪い所見せちゃって」

フランスから来たリュミノジテがレコードタイムを更新した一方、バ群に囲まれ抜け出せないままローマン先輩のジャパンカップは終わった。

「私は有馬が最後だけど、レイちゃんは来年もまだ走るでしょ? 応援に行くからね」

栗東寮の大浴場にいるのは今は私とローマン先輩だけ。

「ローマン先輩のためにも私、次は勝ってきます!」

「うん、その意気。私ね、最近のレイちゃんはすごく変わったなって思うの」

「そうですか?」

「レイちゃんに嘘はつかないよ。去年の今頃よりずっといい顔してるもん」

私が初めての勝利のあと、体調を崩して走れなかった時期だ。

「私そんなにひどい顔してました!?」

「府中の大欅の下に出るって噂のウマ娘のオバケみたいな顔してたよ」

「ちょっとやめてくださいよ!」

「もー、冗談だってば。でも、いいトレーナーに出会えてよかったね」

最初のトレーナーに二勝目を見せてあげられなかった私はどう返事をしたらいいか少し悩んだ。

「やっぱり思い出す? 前のトレーナーのこと」

頷いた私の耳をローマン先輩の手が撫でた。

「レイちゃんはほんとにいい子だね」

 

 

迎えた12月の阪神レース場第5レース、京都で障害で初勝利したときと同じように中盤から先頭に立ったグレイテンペストは襷コースを抜け、そのまま後続を引き離して向こう正面でレースを引っ張る。4コーナーの最後の障害も難なくクリアした。

「障害コースを出てダートコースに入りました!」

力強く砂を撒きあげながらグレイスが最終直線を駆け抜けていく。

仁川の坂を登り切った彼女に続く者はまだ見えない。

引いたアングルのターフビジョンがかろうじて後方の2番手集団を映している。

「先頭はグレイテンペスト! これは強い! 後続を置き去りにして大差で今ゴール! 二番手接戦、スナックリンガーとマウントホープがほぼ並んでいます。勝ち時計は3分19秒4……レコードが出ました!」

かこん、と乾いた音がしてから俺は紙コップを地面に落としたことに気づいた。

開幕3日目のまだまだ綺麗なバ場だし、グレイスはダートも10回以上走っているから時計の出る条件はそろっていたが――

「グレイテンペスト人気に応えてレコード勝利、堂々とオープン入りです!」

レコードタイムを祝福する拍手に拳を突き上げて応える担当ウマ娘にかける言葉は、一つしかなかった。

「おめでとう!」

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