とある芦毛の障害ウマ娘【完結】   作:CK/旧七式敢行

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条件戦をレコード勝ちした芦毛の障害ウマ娘、グレイテンペスト。
晴れてオープン入りを果たした彼女にはウマ娘たちの憧れである勝負服を着る権利が与えられた。


とある芦毛の障害ウマ娘、勝負服の物語【第7話】

「うー……」

「レイちゃん、すごい顔になってるよ……」

鏡の前に立つ私の肩越しにローマン先輩が覗き込んでくる。

「だって明日の服が決まらないんですよ!?」

明日はトレーナーと一緒に勝負服のデザインを選びに立川にいくことになっている。

障害競走振興のため、障害を走る私たちに与えられた特権のひとつがオープン戦からの勝負服の着用だ。

「どうせサイズ測るときは脱いじゃうでしょ?」

「言い方ぁ!」

「ごめん、レイちゃんが可愛いからつい」

私をからかったローマン先輩は首をすくめた。

「上はこのニットにしようと思うんですけど、下が決まらなくて……」

私は白のニットを鏡の前で合わせる。

「この時期だとホットパンツにストッキングとかもかわいいと思うけど」

「ホットパンツってなんか落ち着かなくて……」

何より、障害練習で傷だらけの脚を見せる格好が嫌だった。

「レイちゃん練習のときはショートパンツでしょ」

「そうですけど……」

「メイクはどうするの?」

「一応色つきリップは買ってきましたけど……」

「甘い! いいレイちゃん? デートは第一印象が大事なんだからね?」

「だからデートじゃないですって!」

結局ローマン先輩との作戦会議は消灯時間ギリギリまで続くことになってしまった。

 

 

「お待たせしました」

立川駅のデッキウォークで今週のレース情報をチェックしていた俺は聞き慣れた担当ウマ娘の声で顔を上げた。

「ん……おぉ!? 悪いな休みの日に」

普段は制服やジャージ姿ばかり見てきたが、私服のグレイテンペストと出かけるのは今日が初めてだった。

身長もあるせいか、大人っぽいコーディネートに身を包んだ彼女は女子大生でも通りそうだ。

「……トレーナー、何か気になる?」

「すまん、大人っぽい私服なんだなと思って」

ぴくん、と彼女の耳が動いた。

「いきましょう、トレーナー」

彼女に促され、俺たちは北口のデッキウォークを歩き出す。家電量販店やファストフード店の立ち並ぶ通り沿いに進んで信号を渡ったところが目的地だ。

「URAファシリティーズ立川事業所」と書かれた自動ドアが開く。

「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」

受付のウマ娘は俺たちに気づくと綺麗なお辞儀で出迎えた。

「すみません、勝負服のデザイン打ち合わせに来た富岡です」

アポイントのスケジュールが伝わっているのか、すぐに話は伝わった。

「少々お待ち下さい、今担当の者を呼び出します。もしもし、受付です。パリダイダさん、14時からの富岡様がおみえです」

受付も、歩いているのもほとんどがウマ娘だ。

グレイテンペストもそれに気づいたのか珍しそうに辺りを見回している。

URAファシリティーズはURAの関連団体であるが、レースを引退したウマ娘の受け皿という面もある。

「担当しますパリダイダです、よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げたパリダイダと名乗る鹿毛の小柄なウマ娘が俺たちの担当らしい。

パリダイダの案内で3階にエレベーターで案内された俺たちは降りてすぐ正面の部屋に通された。

「先にグレイテンペストさんのサイズを測定しますので、富岡様はこちらでお待ち下さい。そこの給茶機はご自由に使ってください」

「ん、いってこいグレイス」

「いってきます」

俺は試着室に入るグレイテンペストを見送ると紙カップを取って給茶機のコーヒーのボタンを押す。

「さぁ脱いで! あ、ごめんね言い方悪くて。ヌードサイズ測るからね」

「あ、あの……」

困惑するグレイスの声を聞きながら椅子に腰掛ける。

「わぁ、結構ボリュームありますね! ウエストは……あぁ~いいですねぇワガママボディ」

男の口から出たら即座に何かしらの罪でしょっ引かれそうな発言が飛び出し、俺は思わず紙コップを取り落としそうになる。

「ヒップはこれくらいの安産型と……次は太もも周りいきますよ」

「そこまで測るんですか!?」

「当たり前じゃないですか障害ウマ娘こそ脚の部分は重要なんですよ」

「ひゃっ! 今そこわざと触りませんでした!?」

健全な青少年男子にはとてもではないがお聞かせできない発言を思考からシャットアウトしてインスタントコーヒーの粉っぽい苦味に集中する。

「はーい、オッケーです。お疲れさまでした」

「お疲れ様、グレイス」

試着室から戻ったグレイスの頬は赤く耳はぴったりと伏せられており、中でどんな事が起きたのかは聞かないほうがいいだろうとすぐに解った。

「身長もありますしスタイルもいいですから勝負服選び放題ですよグレイテンペストさん」

パリダイダはワキワキと手を怪しく動かしながら椅子に腰を下ろす。

勝負服、と一言で言っても家やウマ娘、担当トレーナーによってピンキリだ。

「はい、では頂いた要望と合わせながらコーディネートを考えていきましょう」

今回俺とグレイテンペストが選んだのは既製品をベースにしつつも差し色の変更や追加加工のできるプランだ。

既製品だけの組み合わせが当然最も手頃で納期も短いが、当然ながら他のウマ娘とコーディネートが被ってしまう事がある。

グレイスや彼女の家の意向もあって予算をある程度抑えつつも彼女らしさの出せるこのプランになった。

パリダイダがパソコンを操作しながら次々に組み合わせるアイテムをピックアップしていく。

「ひとまずこの2案でどうでしょう」

「わぁ……っ!」

「おぉ」

パリダイダはディスプレイをこちらに向けてコーディネートを見せてくれた。

「まずはアクティブ系、もう一つは優等生系ですね」

どちらもグレイテンペストが好きだと言った水色が入っている。

アクティブ系はポロシャツとグレーのスカート、手足をオーバーニーソックスと機能性インナーでカバーする障害競走を走るウマ娘としては保守的な組み合わせだ。

「これ、かわいいです!」

「だいぶ平地っぽいデザインだな」

グレイスが興味深そうに耳をピクピク動かしながら見入っているのはパリダイダが優等生的と言った方のコーディネートだ。

「ちょっと寂しいのは小物をアクセントにすれば十分オリジナリティ出せますよ!」

グレイスの好きだといった水色のジャケットに純白のシャツとネクタイ、グレーのプリーツスカートとアシンメトリーなデザインのオーバーニーソックスを組み合わせたコーディネートだ。

かっちりとしている中での七分丈のシャツとそこから覗く機能性インナーが障害競走の荒々しさを表している。

「私、こっちがいいです!」

ほぼ即決で、あとはディティールを追加するための小物選びでグレイスの勝負服のデザインは決定した。

 

 

サイズを調整し、差し色や小物を付け加えた勝負服の完成品が届いたのはクリスマスの直前だった。

「勝負服届いたぞ」

と放課後を見計らって彼女に送信したメッセージにはすぐに既読がついた。

「10分で行きます」というメッセージが送られてから5分も経たないうちにドアがノックされる。

「わぁ……」

段ボール箱を開けたグレイテンペストはアクセントに赤いストラップやバンドの追加された勝負服のジャケットを取り出して目を輝かせる。

「ちょっと着てみますね!」

段ボール箱を抱えたトレーナー室の隅をパーテーションで仕切った仮眠室兼用の着替え用スペースに姿を消していく。その後ろ姿は嬉しそうに揺れる尻尾以外この年代の人間の少女と変わらない。

「どうですか、トレーナー?」

パーテーションから出てきたグレイテンペストは胸を張ったポーズをとってみせる。

「おぉ、カッコいいしかわいいぞ。ただ……」

「?」

俺が言い淀んだことにグレイテンペストは首を傾げた。

「飛越のときにスカートの中がカメラに映らないか心配だな」

「それなら大丈夫ですよトレーナー、ちゃんとスパッツ履いてますから」

スカートの裾をつまんでめくりあげた彼女にどう言葉をかけるか、俺は少しだけ悩んだ。

「……本番では履き忘れないようにな」

「――っ!?」

俺の言葉の意味を理解したグレイテンペストが硬直し、手の力だけが抜けてスカートが垂れる。

「今見たものは忘れるようにする」

「……はい」

湯気が出そうなほど赤くなったグレイテンペストの耳がしおれた。

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