セキエイリーグチャンピオン(合法ロリ転生者)の憂鬱 作:大小判
ただ主人公を引き立てるために原作キャラがアンチされてるって思われる描写になっている可能性は否めないので、そこら辺だけはご注意ください。
「凄まじい快進撃だな、今年のルーキーたちは」
セキエイリーグ。ポケモンリーグの総本山ともいえる、世界中から挑戦者が集う場所で、目の前のポケモンバトルを見ながら感嘆の声を漏らしたのはポケモン協会カントー支部の支部長だった。
1年に1度、地方の各地に設立されているポケモンジムに挑戦し、バッジを8個を集めてきた選りすぐりの挑戦者たちをトーナメント形式で戦い合わせ、その優勝者だけが門番である四天王を倒し、最強であるチャンピオンに挑む権利を与えられるのだ。
しかし近年では余りに狭すぎる門を広げることとなり、セキエイリーグではトーナメントを2つに分けることで、四天王及びチャンピオンへの挑戦権を毎年2人に与えるようになっている。
それでも過酷な道のりなのには変わりはない。トーナメントへの参加条件であるジムバッジの獲得は言わずもがな、トーナメントは世界各地から強者が集う。これらを潜り抜けて四天王たちに挑むのは並大抵のことではない。
そんな過酷な試練を乗り越えて、四天王に挑み、チャンピオンの前まで辿り着いたのが同じ年に2人……それもどちらも11歳の少年であるのだから、カントー支部長の感嘆と驚きは当然と言えるだろう。
「1人はオーキド博士の孫グリーン……サラブレッドの血、という訳か」
初代ポケモンリーグの優勝者であり、ポケモン研究の権威として世界に名を轟かせているオーキド博士の孫。トーナメントや四天王との戦いの時も常に自信に満ち溢れた不敵な笑みを絶やすことなく、次々と四天王を打ち破ってきた正真正銘の天才少年だ。
年齢に比例して、精神的に未熟な面が多々見られるが、順調に育てばチャンピオンとして相応しい器と強さを得られるだろう…………他の地方でなら。
「そしてもう一人は無名の少年、レッド……彼もマサラタウン出身なのか」
おそらくグリーンと互角……あるいはそれ以上の才覚と実力を兼ね備えた寡黙な雰囲気の少年の資料に目を通す。
まるで相手が繰り出すポケモン、技、戦略を直感的に予知しているかのような天啓的な指示をポケモンたちに飛ばし、それら全ては実に的確。グリーンが知識に裏付けられた戦略家なら、レッドは天才的な直観の持ち主といったところか。
2人の手持ちのポケモンたちもそう。付き合い方に差はあれど、どのポケモンたちもトレーナーであるグリーンやレッドの事を深く信頼しているということは見ればわかる。
どちらも幼いながらも1流のポケモントレーナーであると、数多くのトレーナーをその目で見てきたカントー支部長は内心で太鼓判を押す。もしかしたら、オーキド博士の薫陶の影響かもしれない。あれほどの天才児、一地方に1人いればいい方だろう。
(だからこそ……不安でもある。彼らが《姫》を前にして、絶望しないかどうかが)
バトルフィールドを映すモニターが設置された観戦室の外からポケモンセンターから派遣された医者の慌ただしい声と、カラカラと車輪を鳴らすストレッチャーの音を聞きながら、カントー支部長は着任して1年しか経っていないチャンピオンの姿を思い返し、前途ある2人のトレーナーの無事を祈るのだった。
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初めてトレーナーズスクールでポケモンに触れ、バトルをした時から、自分は他の子供たちとは何かが違うのだと、レッドは自覚していた。
他の子供たちが考えなしにポケモンの状態を考えずに指示を飛ばす中、レッドには自分のポケモンの体力や状態、相手のポケモンが何をしてきて、どんなポケモンを使ってくるのかが直感的に理解できてしまったのだ。
これはポケモンバトルにおいて大きなアドバンテージとなる。ポケモン自体の能力と同様、トレーナーの指示が勝負の明暗を分けるポケモンバトルにおいて、自分のポケモンの状態を明確に把握し、相手の手の内が事前にわかるのは反則と言ってもいい、まさに天賦の才能だ。
そんなある意味で異常者と紙一重だったレッドが人との関わりを絶つようになったのは、ある意味必然だった。
同年代の誰もが……時にはトレーナーズスクールの教師たちですら、レッドの才能を妬んだ。ポケモンバトルに勝利しても浴びせられるのは称賛の目ではなく、嫉妬と逆恨み、諦観に満ちた視線のみ。
そのような環境に身を置いた少年が、果たして真っすぐで純真な心など手に入れられるだろうか?
答えは、否。人から悪意の視線を向けられるようになったレッドはいつしか人との関わりを拒絶し、ポケモンと、ポケモンバトルにのみ関心を向けるようになった。
本能的な部分が強い分、ポケモンは人間と違って純真だ。人間に対して敵意を向けるポケモンもいるが、人間ほど複雑怪奇なほの暗い感情は抱かない。レッドとしても、ポケモンとの付き合いでだけなら、年相応の少年として接することが出来た。
ポケモンバトルに関心を抱いたのは、まだ何も知らなかった幼い頃からの延長によるものだ。どれだけ人との関わりに絶望したとしても、かつてテレビに釘付けになるほど熱中したポケモンバトルへの熱は冷めることはなかったし、ポケモンたちとチャンピオンという頂を目指して旅をするのは本当に楽しかったから。
強くなるための努力など碌にせず、人の才能を妬むばかりの三流トレーナーなど捨て置き、ジムリーダーや四天王のような心身ともに鍛え抜かれたトレーナー以外に、レッドが興味すら示さなくなって久しく、気が付けば彼は11歳という幼さで四天王を打ち破り、チャンピオンの前まで辿り着いていた。
……同年代の中でレッドが唯一認めたトレーナーであり、ライバルでもあるグリーンとの約束を果たすために。
人付き合いが極端に希薄になったレッドにとって、家族を除けばグリーンだけは例外だった。
初代チャンピオンにしてポケモン研究の権威の孫という血統がなせる才能はレッドに勝るとも劣らず、何時も自信に満ち溢れた態度に反することのない確かな実力を持つグリーン。そんな彼とは昔から何かと縁があり、何かにつけては勝負をしたものだ。
グリーンの人を煽る性格もそうだが、それ以上に自分と同じ年齢で、同じようにポケモンバトルの才覚に恵まれていた分、この男にだけは負けられないのだと、レッドは柄にもなく対抗意識を燃やし続けた。
そんなグリーンと同じ日に旅を出て間もなく、レッドとグリーンは約束をした。何時かポケモンバトルの頂点、ポケモンリーグの総本山であるセキエイリーグで決着を付けようと。
約束は推進力となってレッドたちの足を動かし、2人とも無事にリーグへの参加条件を満たすことは出来た。早く決着を付けたいという気持ちとは裏腹にトーナメントで当たることはなかったが、むしろそれで良かったとすら思っていた。
何せ2人とも四天王を乗り越えることが出来たのだから。きっとこの扉の先では、以前までのチャンピオンを先に倒したグリーンが、新たなチャンピオンとしてレッドを待ち構えている。
きっと「この俺様が世界で一番強いってことなんだよ!」と言わんばかりの顔をしたグリーンと、頂点を賭けて戦えるのだと、レッドは疑っていなかったのだ。
だから信じられなかった。
チャンピオンの部屋から、ストレッチャーに乗せられたグリーンが運ばれていく光景なんて。
怪我をしたのは攻撃で吹き飛ばされたポケモンの下敷きになってしまったらしい。幸いにも軽症で意識のあったグリーンに詰め寄って聞いたところ、グリーンはチャンピオンと戦い、そして敗れたのだとか。
それも信じられないことに惜敗ではなく、チャンピオンの手持ちポケモンを1匹も倒すことが出来ないという、惨敗という形で。
「気を付けろ、レッド……あの扉の向こうにいるのは、正真正銘の化け物だ……!」
何時もの強気な態度など見る影もないグリーンが運ばれるのを見届けた後、レッドはどうしようもない口惜しさと、得も言われぬ高揚と共にチャンピオンの元へと向かう。
グリーンとの約束が果たされなかったことは遺憾だ。セキエイリーグでチャンピオンの座を懸けて戦うという、これ以上はない大舞台でライバルと雌雄を決したかった。
だがそれと同時に、あのグリーンすらも完膚なきまで叩きのめしたというチャンピオンの実力を見てみたいという欲求が膨れ上がるのも抑えられない。少なくとも、この先にはまだ見たことのない強さを誇るトレーナーが待ち構えている。レッドが立ち止まる理由など存在しなかった。
「ようこそ、挑戦者」
そしてバトルフィールドまで辿り着いたレッドを出迎えたのは、鈴を転がしたような綺麗な声を放つ、ポケモンにしか興味を示さないレッドですら可憐と感じる小柄な少女だった。
年は自分と同じくらいか、下手をすればそれよりも下かもしれない。足まで届く長い銀髪と輝くような碧眼、そして舞台衣装のようなパーティードレス姿はどこか現実感を感じさせない。
一見するとただの飾り立てられた少女にしか見えない彼女だが、静かな威圧感を感じさせる……そんな姿だった。
「本当ならチャンピオンとしての言葉を贈りたいところですが、生憎と言葉を弄するのは苦手でして…………伝えるべきことは、
それはまるで、武人が言葉ではなく剣で信念を語るかのように、ペコリと頭を下げたチャンピオンから向けられたモンスターボールに反応し、レッドも腰のモンスターボールを手に取る。
「セキエイリーグチャンピオン、タチバナ。全力で挑戦者を迎え撃ちます」
レッドとチャンピオン、タチバナ。2人のモンスターボールが放たれ、中からポケモンが飛び出してきたのは同時。
レッドは二門の大砲を背負ったような外観をしたポケモン、カメックス。そしてタチバナのモンスターボールから飛び出してきたのは――――
「ぐっ……サ、サンドパン……!?」
目を覆いたくなるような〝すなあらし〟と共に現れた、背中に無数の棘を背負った小柄なポケモン、サンドパンだ。
チャンピオンが使うにしては随分と平凡なポケモンが出てきたとレッドは思った。このような言い方も何だが、サンドパンというポケモンはお世辞にも強いポケモンではない。
ポケモンの能力というのは種族によるところが大きい。自分の相棒のような例外もいるにはいるが、サンドパンという種族自体は中の下程度のポケモンであり、これまでの旅で何度か戦っても苦戦した覚えがない。
似たような戦い方が出来るドリュウズという強力なポケモンの存在もあり、強いトレーナーがサンドパンを使っているところなど、少なくともレッドは見たことがなかった。
だがそれらを考慮してもチャンピオンの手持ちだ。見ただけでよく鍛えられているのは分かるし、油断は厳禁。
幸い、タイプの相性ではこちらが勝っている。フィールドを舞う猛烈な砂嵐でカメックスの体力が徐々に削られているのが気になるが、ここは一気呵成に弱点を突いて勝負を決めに行くべきだ。
「カメックス、〝なみ――――」
そう判断したレッドはまずオーソドックスともいえる最善手を取ることにした。カメックスの得意な広範囲に及ぶ水技でサンドパンに大ダメージを与えようとして…………その直前に、いつの間にかサンドパンがカメックスに触れるほどに近づいていた。
(……〝すなかき〟……!)
天候が砂嵐の時、素早さを大幅に上げる特性〝すなかき〟。あのサンドパンがボールから飛び出ると同時に〝すなあらし〟を使い、フィールドの天候を変えていた。それはカメックスにダメージを与えるだけではなく、特性を発動させるための行動だったのだろう。
もちろん、レッドとて〝すなかき〟を警戒していなかったわけではないが……このサンドパンは本来鈍足な種族とは思えないほどに速いのだ。フィールドの外から俯瞰していたレッドだけでなく、人間よりもはるかに動体視力で勝るカメックスですら、間合いの内側に入れられるまでサンドパンの動きを捉えられなかった。
「〝からにこもる〟!」
だがこの程度でやられるようではここまで勝ち上がってこられない。レッドは即座にカメックスの頭を手足を強固な甲羅の中に収納させた。
レッドのカメックスは強固な甲羅の中に手足と頭を入れることで弱点部位を消し、両肩の砲から攻撃するという、攻防一体の戦法を得意としている。この状態のカメックスを倒すのは至難の業だ。
故にレッドはこの選択は正しいと、そう思っていた。…………実際は、悪手であるということも知らずに。
「〝じしん〟」
大気が激震するほどの振動が、カメックスへと叩きつけられた。気が付けばカメックスは甲羅から力なく手足と頭を垂らし、ピクリとも動かない。誰の目から見ても明らかな瀕死だ。
自分が知っている〝じしん〟とは明らかに違い過ぎる……レッドはサンドパンが何をしたのか、まるで理解が出来なかったが、それも無理はないだろう。
本来、〝じしん〟という技は発動したポケモンを中心として全方位に向けて地面を伝う衝撃波を叩き込む技だ。その固定観念を打ち砕き、本来広範囲に及ぶ衝撃波を、一匹のポケモンに全集中させて放つことで体内部まで破壊、威力を飛躍的に向上させるように技を改良させたなど、一体誰が思うだろうか?
「……戻れ、カメックス……!」
「戻ってください、サンドパン」
レッドは瀕死のカメックスをボールに戻すと同時に、無傷のサンドパンをボールに戻すタチバナを見て、思わず舌打ちをする。
相手のポケモンを倒すと同時に自分のポケモンをボールに戻すことで、次に相手に出させるポケモンを悩ませると同時にポケモンのスタミナを回復させるのはトレーナーのテクニックの1つだ。勿論ケースバイケースな戦法ではあるが、チャンピオンであるタチバナも慢心していない証拠である。
本来ならこの強敵とのバトルを楽しみたいところだが、こうもあっさりと自慢のポケモンが倒されては、このような当たり前のテクニックですら脅威に感じる。
それでもレッドは臆していなかった。闘志は枯れるどころがむしろ燃え上がったくらいだ。これまで見たことのない強さを誇るトレーナーをどうやって倒してやろうか……そう思いながら次のポケモンを繰り出した。
……それが、悪夢の続きであるということに気付かずに。
自分が繰り出したエーフィに対し、タチバナが同時に繰り出したのは鍵束のような小さなポケモンだった。少なくともカントー地方では見かけないポケモンではあるが、レッドは一切の油断をすることなく、数多のバトルの経験からあのポケモンはサポートが得意なのではないかと直感する。
その直感は今まで通り間違いではなかった。あの鍵束のようなポケモンが主に使ってきたのは〝リフレクター〟や〝ひかりのかべ〟を始めとした豊富な補助技だ。……問題は、その異常なまでの展開速度。
特性〝いたずらごころ〟によって大量の〝ひかりのかべ〟が高速で張り巡らされ、エーフィの攻撃をさながら城塞に引き籠るかのように防ぎ切り、素早い身のこなしを得意とするエーフィの動きをこれまた大量の〝リフレクター〟や〝まきびし〟で阻害……まるで障壁で檻を作り出すかのようにエーフィの身動きを完全に封じ、〝ラスターカノン〟の集中砲火でエーフィもあっけなく瀕死に追いやられてしまった。
次に出してきたのはレッドも他地方から来たトレーナーとバトルした時見たことがある、四本足の巨体を持つ岩単タイプのポケモンだ。対するこちらは背中に大輪の花を背負った草タイプのポケモン、フシギバナ……完全なる出し勝ちだった。
後々調べて種族的にサンドパン以上に動きの遅いポケモンだと知っていたし、それはチャンピオンのポケモンだとしても例外はなかったので、レッドはフシギバナに強烈な催眠効果を持つ粉塵を振りかける技、〝ねむりごな〟を指示し、見事命中。チャンピオンのポケモンを眠らせることが出来た。
「フシギバナ、〝ハードプラント〟!」
そして繰り出すのは草タイプ最大火力の技。巨大な樹木の根が岩タイプのポケモンに叩き付け、一気に戦闘不能へと追いやろうとしたのだが……相手のポケモンは、ビクともしなかった。
砂嵐によって舞い上がる大量の砂塵が岩タイプのポケモンの表皮に張り付くことで肉体硬度を引き上げると聞いたことがあるが、いくらなんでも効果抜群の超火力技を受けてほぼ無傷というのは尋常ではない硬さだ。
しかも今の一撃を受けて即座に覚醒し、凄まじい咆哮と共に〝じならし〟をすると同時に、地面から無数の岩の刃を突き出す大技、〝ストーンエッジ〟によってフシギバナは切り刻まれ、あっという間に瀕死に。
信じられないほどの超耐久と超火力を併せ持つポケモンに呆気を取られるのも束の間。次に出してきたのは、鳥を擬えたかのような奇妙な姿をした、首と思われる部分に宝玉が付いたアクセサリーを付けた飛行ポケモンだった。それに対してレッドが繰り出したのは尻尾に火を灯す竜のような姿をしたポケモン、リザードン……三次元的な動きを見せる飛行タイプはそれだけでも有利であると考えれば、十分に出し勝ちと言える出だしだったはず。
ところが、砂嵐によって少しずつ傷付いていくリザードンに対し、岩や鋼、地面タイプなど、砂嵐によるダメージを受けないタイプには見えないタチバナのポケモンは一切傷付く様子が見られなかった。
そしてその火力と機動力も尋常ではなく、高い飛行能力を誇るリザードンの背後にピッタリと張り付きながら、極大の風の刃で撃ち落とされ、そのまま瀕死にされてしまう。
次にレッドが繰り出したのは彼の手持ちの中で最も重量級のポケモンであるカビゴン。それに対してタチバナが繰り出したポケモンは……砂嵐に紛れて、その姿を見せなかった。
レッドは特性〝すながくれ〟によるものであると即座に看破できたが、その隠形は尋常ではない。傍目から見ても、タチバナのポケモンがどこにいるのか全く分からないのだ。
実はまだ、タチバナはポケモンを繰り出していないのではないのか……? そんな疑問が脳裏に沸き上がった、その瞬間。突如として現れた、砂で形成されたかのような巨大な腕にカビゴンは鷲掴みにされ、そのまま持ち上げられてしまった。
体重400キロを優に超えるカビゴンを持ち上げるなど凄まじい力だ。カビゴンも必死で藻掻き、技を放つが、まるで実体のない砂そのものに攻撃しているかのような虚しい手応えを感じるばかりで、一向に脱出できないまま、上空から地面へと叩きつけられる。
この時になって、レッドは初めて相手のポケモンの全容を見た。まるで砂の城を象ったような体を持つ、これまで出会ってきた中でも特に大きな巨人の姿を。
結局カビゴンは地面が吹き飛ぶほど強力な〝だいちのちから〟を無防備な背中にゼロ距離から浴びて瀕死に。タチバナの手持ちポケモンを1匹も削ることが出来ず、レッドに残されたのは1匹だけとなった。
これほどまでに絶望的な状況は、今までで一度でもあっただろうか? レッドは走馬灯のようにこれまでのバトルを振り返る。
これまでの道中で戦ってきた木っ端トレーナーたち。難敵であったジムリーダーたち。何度も何度も危ない場面に持ち込まれた四天王。そして永遠のライバルであった、グリーン。無敗であったなどとは言わない。だがここまで圧倒的で絶望的なポケモンバトルが、今までになかった。
……いや、こんなものは最早ポケモンバトルですらない、一方的な蹂躙だ。これまで培ってきた経験も、練り上げてきた戦略も、鍛え上げてきた力も、天賦の才能も、その全てを磨り潰すかのような圧倒的な実力差。まさしく、レベルが違うとはこのことだ。その上、戦い方も明らかに異常。従来のポケモンバトルとはまるで違う、レッドの常識の埒外にある。
それでも、レッドの胸の中の闘志の火はまだ消えていなかった。何故なら彼の手に握られたモンスターボールの中には、レッドにとって一番の相棒がいるからだ。
電気技が効かないはずの地面タイプを電気技で倒し、種族として圧倒的上位に君臨するドラゴンポケモンを倒し、これまで数々の困難を共に乗り越えてきた、小さいけれど誰よりも頼もしいポケモン。
状況は絶望的。しかし彼ならばやってくれるはず……根拠はなくとも、そんな全幅の信頼と共にレッドは最後のポケモンを繰り出した。
「頑張れっ! ピカチュウっ!!」
「ピッカァァッ!!」
普段物静かな〝おや〟の叫びに応えるように、頬の電気袋を激しく帯電させるねずみポケモンは戦意を滾らせる。自分たちならばきっと奇跡を呼び寄せることが出来る……ピカチュウがともす雷の光は、まさに希望の光そのものであった。
レッドとピカチュウの枯れない闘志を突き付けられたタチバナは兜の緒を締めるように改めて真剣な表情となり、ポケモンを繰り出す。
――――現れたのは、全ての希望を砕く絶望の化身だった。
もはや何が起こっているのか、何をされているのか、レッドには全く理解できなかった。気が付けば一寸先の前すらも分からない濃密な砂嵐がピカチュウの体を削りながら上空へと巻き上げ、漆黒に輝く極大のエネルギー波がピカチュウを天空ごと貫いた。
ボロボロの姿になり、気絶して落下してくるピカチュウを何とか受け止めるレッドだが、その目は焦点が合っていない。決死の覚悟も、相棒へ寄せられた信頼も希望も、何もかもを一瞬で打ち砕かれた彼が思い出したのは、かつてレッドに嫌な視線を送ってきた、弱いトレーナーたちの姿だった。
自分の弱さを棚に上げ、碌に努力もせずに他人を誹り、妬むことばかり一人前の軟弱なトレーナーの事が嫌いだった。そんな思考や行動に時間を割くくらいなら、ポケモンと共に強くなるための努力をするべきなのだと、レッドも内心で彼らを誹り、見下していた。
だが今なら、彼らの気持ちが痛いほどに理解できる。自身の埒外にある力とは、努力が虚しくなるほどの才能の差とは、何もかも諦めたくなるような実力差とは、こんなにも恐ろしいものなのかと……!
戦いが終わり、よろいポケモンが主人に勝利を捧げるかのように上げる咆哮がレッドの鼓膜に鳴り響く。圧倒的な強者が放つ威圧と、それを従えるトレーナーの威光に目が眩んだレッドは、目の前が真っ暗になった。
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セキエイリーグチャンピオン、タチバナ。若干14歳でセキエイリーグで殿堂入りを果たし、それから4年に至る現在まで最強の座に君臨し続ける、歴代最強と名高いチャンピオン。今まさに世界でもっとも有名と言って過言ではない彼女には数多くの異名がメディアやファンによって付けられる。
その髪色と砂嵐を活用した戦法を得意とすることから、《銀色の砂塵姫》。
神秘的で幼い美貌で可憐にバトルフィールドに立つ姿から、《戦場の妖精姫》。
チャンピオンとの兼業でもある広告を兼ねた副業から、《蒼銀の歌姫》。
上記のようなプラスイメージを持つ者たちからは、略して《姫》という一文字で呼ばれることもしばしば。世間では彼女の事を若く可憐な凄腕のトレーナーであり、ポケモン犯罪に対する大きな抑止力として好意的に受け止めている。
……しかし、実際に彼らと戦ったトレーナーたちの一部からは、世間一般でのイメージとはかけ離れた異名を付けられてもいた。
曰く、冷徹に相手のポケモンを完膚なきまで叩きのめす《碧眼の悪魔》。
全てを削り砂に変える現象である風化をイメージして付けられた《滅びの風》。
チャンピオンを夢見て旅立つトレーナーたちの夢と希望を砕く《絶望の魔王》。
神すらも想定外であった野生のチートによって、本来辿るべきだった未来が捻じ曲がっていくこの世界で、彼女が一体何をなしていくのか……それはまだ、誰も知らない物語。
先に言っておきますけど、作者はレッドさんのことが嫌いな訳じゃないですよ? あのコミュ障っぷりを察するに、こういう事情でもあったのかなって思ってのキャラ設定でしたし、嫌いだからポケモンもメンタルもボコったわけじゃないという事だけはご理解いただきたいです。
ちなみに主人公のタチバナの名前の由来は、蜜柑の昔の名前である橘のことです。ポケモンのキャラ名は植物がモデルであることが多いですし、被りのない名前で良い感じのを探すのに苦労しました。
ちなみに、次回は手持ちポケモンの解説も兼ねた掲示板会にしようと思いますのでお楽しみに