セキエイリーグチャンピオン(合法ロリ転生者)の憂鬱   作:大小判

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原作ブレイクは原作開始前から始まっているのがテンプレ


傍から見たロリチャンピオン(キクコ編)

 

 カントーとジョウト、二つの地方に跨るポケモンリーグの最高峰、セキエイリーグ。その頂点に僅か14歳という若さで君臨した女性チャンピオン、タチバナの最強のエースポケモンであるバンギラス。

 強大で珍しい種族ではあるか、総体的に特別という訳でもないポケモンの調査にポケモン研究の権威であるオーキド博士が乗り出したのは、他のチャンピオンと比べてメディアへの露出が少ない彼女のバトルシーンを目にしたからだ。

 

 尋常ではない攻撃性能を持つサンドパンに、絶対防御と呼ぶべき壁系の技の展開速度を誇るクレッフィ。これまでに聞いたことすらないほど能力が高いギガイアスやシンボラー、大量の砂を集めて巨人化するシロデスナ……どれもこれも型破りであり、常識破りの、種族としての限界を超えているとしか思えないポケモンばかり。

 そんなポケモンたちを育て上げたタチバナの手腕にも興味があるが、今回オーキド博士が何よりも興味を引いたのがバンギラス……より正確に言えば、そのバンギラスがメガシンカした姿であるである、メガバンギラスだ。

 

 カロス地方を発祥とする、リザードンやカメックスなど進化の限界に辿り着いたはずのポケモンを、一時的にだがもう一段階進化させるメガシンカ。珍しくはあるが一部の有力なトレーナーならば使える者もチラホラ見受けられる技術であり、タチバナもその内の一人だ。メガシンカを使えるだけならばオーキド博士もわざわざ動こうとは思わなかっただろう。

 メガシンカすることでタイプや特性が変わるとされるが、バンギラスにはそれがない。メガシンカしようがしまいがタイプは岩と悪の複合であり、特性は〝すなおこし〟……これはメガシンカを専門に研究しているカロス地方のプラターヌ博士も提唱していた。

 

 だがタチバナのバンギラスは、その常識を打ち砕いた。

 ボールから出て戦闘態勢を取った時に発動する〝すなおこし〟。技としての〝すなあらし〟。そしてメガシンカした時に再び発動する〝すなおこし〟。この三つの工程によって三度巻き起こる砂嵐は、ポケモンが発生させる天候の一つである従来の砂嵐よりも遥かに強大なのだ。

 

「……凄いですね。メガバンギラスの事は幾度も研究してきましたが、このような現象は見たことがありません」

「うむ。間違いなくバンギラスというポケモン……ひいては砂に纏わるポケモンの研究の歴史に名を遺すじゃろう」

 

 セキエイ高原研究所敷地内で、タチバナのバンギラスを研究するにあたって協力を要請したプラターヌ博士は、オーキド博士と共に強化ガラス越しにその力を振るうメガバンギラスを見ながら目を輝かせてキーボードを叩く。

 実験場の各地に設置されたカメラのレンズは吹きすさぶ砂嵐によって傷だらけになり、強化ガラスからはバチバチバチと絶え間なく砂がぶつかる音が響き渡る。幾度が実験に付き合ってもらったポケモンと軽くバトルをしてもらった結果、この強力な砂嵐の事で分かったことが3つ。

 

 1つは、メガバンギラスになった時に〝すなあらし〟を使うことで発生すること。恐らく特性によるものなのか、あるいは特性と技が合わさって発生しているのか、確かなことはまだ分からないが、ただ砂嵐を発生させる特性や技を他のポケモンが重ね掛けするだけでは同じことは出来ないだろう。

 2つ目は、一度発生してしまえば、メガバンギラスがその場から居なくなるまでいかなる技や特性でも上書きが出来なくなることだ。恐らく同等の力を持つ特性か、〝ノーてんき〟のような天候そのものを消し去る特性でもなければ対処できないだろう。

 3つ目は、従来の砂嵐以上のおよそ2倍もの効力があるという事。巻き上がる砂塵が岩タイプの表皮に張り付くことで耐久力が上がるのはこれまでの研究で明らかになっているが、その砂塵の量が増えれば増えるほど表皮に張り付く砂も増え、その分耐久力が上がる。

 従来の砂嵐によって岩タイプの耐久力が1.5倍になると仮定するならば、タチバナのバンギラスが巻き起こす砂嵐は岩タイプの耐久力を2倍近くにまで跳ね上げるだろう。

 

「さらに砂嵐が強くなるということは、岩・地面・鋼タイプなど以外の、この天候に適応できないポケモンに与えるダメージも増加するという事。しかもピカチュウなど体重の軽いポケモンなら、砂嵐に巻き上げられてまともに動けなくなるじゃろう」

「その上、砂が目に入って視界も封じられることでしょうしね。あのバンギラスを倒せるのは、同じ土俵に立てるポケモンだけだという事ですか」

 

 岩・地面・鋼タイプのポケモンなどは、主に砂漠や洞窟内といった、粉塵が巻き上がる場所に生息していたり、地中の中を動き回ることも多々ある。

 そういったポケモンは長い年月をかけて特殊な角膜によって目を保護するように進化しており、この砂嵐の中でも問題なく活動できるだろうが、それ以外のポケモンではタチバナのバンギラスの前に立つだけで視界を封じられ、まともに戦うことすら出来ないだろう。

 

「いずれにせよ、彼女のバンギラスが他のバンギラスとは違うというのは明らかじゃ。ポケモンと人間は互いに影響を受け合って変化するという説があるが……うぅむ、実に興味深い」

「数百種ある数々の技を独自に改良、組み合わせることで新たな技を作り出していると言いますしね。アローラのククイ博士にも意見を聞きたかったところですが……」

「彼にも話を通してみたんじゃが、先約があるからと断られてしまってのぅ。ククイ博士も悔しがっておったよ。外せない用事がなければセキエイ高原まで飛んで行ったのにと」

 

 南の地方でポケモンの技を専門に研究している変人を思い浮かべながらオーキド博士は苦笑する。

 いずれにせよ、チャンピオンとしての責務や副業に忙しい彼女と、何かと多忙な自分たちの予定がかみ合ったのは本当に運がいい。この幸運に感謝し、観測と実験を続けようとしたその時、杖を突いた一人の老婆が部屋に入ってきた。

 

「タチバナが何かやってるって聞いて様子を見に来てみれば……オーキド、アンタいたのかい」

「おぉ、キクコか! 久しぶりじゃな! そっちは四天王の仕事か?」

「元、四天王だよ。セキエイ高原に来たのは単なる引継ぎ作業の為さ。それも今日ようやく終わって、肩の荷が下りたところだってのに、何たってお前の癪に障る面なんぞ見にゃならないんだい」

「そっちからここに来たんじゃろう。相変わらず性格のキツいやつじゃ」

 

 長年に渡りセキエイリーグの四天王を務めてきた、世界でも屈指のベテラントレーナー、キクコ。かつてはオーキド博士とライバル関係であり、顔を突き合せればバトルに発展するような血気盛んな間柄だったが、今は2人ともいい年をした老人。キクコの方は棘がある態度だが、2人の間にあるのは穏やかな空気だった。

 

「……そうか。お主もとうとう引退か。セキエイリーグも寂しくなるのう」

「まぁね。だが後進は育っているし、あたしとしては後悔はないさね」

 

 キクコは強化ガラス越しにメガバンギラスと、そのトレーナーであるタチバナの姿を眺める。その瞳は、険のある態度が目立つ彼女にしては珍しい、優しさすら感じられるものだった。

 

「そういえば、お主はタチバナとは深い交流があるらしいのう。何でも、彼女が駆け出しトレーナーの時からの知り合いで、次期チャンピオンとして指導したとか」

「へぇ、そうなんですか?」

「チッ……耳聡いジジイだね。一体どこからそんな話を耳にしたんだか」

 

 キクコは忌々しそうに舌打ちをし、ポケットにしまっていた煙草を咥えて火を点けた。

 それは前回のセキエイリーグ開催時、トーナメントを突破したタチバナとキクコが親しげに会話しているのを見た観客や他の参加者が流した噂話だが、事実は違う。

 

「バトルを指導したことはあるけどねぇ、別に大したことは教えちゃいないし、リーグに勧誘もしちゃいないよ。あたしはちょっと背中を押して、後はタチバナが勝手に育っただけさ」

 

   =====

 

 ジムリーダー、四天王、チャンピオン……肩書は数多くあるが、ポケモン協会に所属するトレーナーはポケモン犯罪やトラブルへの抑止力となるように義務付けられている。

 警察や自衛隊に変わって犯罪を犯したトレーナーや暴れている野生ポケモンを制圧する権限を与えられており、キクコ自身も長年四天王として数多くのポケモン犯罪に対処して来た。

 しかし、キクコも彼女のポケモンたちも歳だ。体力的に限界が近づいて来ていたし、近年活発化していた指定犯罪組織、ロケット団との戦闘でキクコは足を負傷している。

 

 動かせないほどではないが、杖を突いての歩行を余儀なくされるほどの後遺症を抱えてしまい、キクコは引退に向けて行動に移すことにした。

 だがカントーだけではなく、様々な地方できな臭い組織が動き出している今、四天王の席に穴が開くのは大きな痛手だ。その上、ここ十数年の間は平和だったこともあって、世間のトレーナーの質が大幅に落ちている節がある。キクコの後継となるトレーナーを見つけるのは、容易なことではなかった

 

 そんな肉体に鞭を打ちながら四天王としての業務と後継探しを両立していたある日。所用があってハナダシティに数日滞在することになったキクコは、ハナダジムの様子を覗いてみることにした。

 ここ数年の大会で目ぼしい実力を持つトレーナーは新たに現れず、トーナメントを突破したトレーナーも四天王の1人目にあえなく敗退する者ばかり。ならば無名のトレーナーの中から才ある者がいないかどうか、キクコは殆ど期待することなく若いトレーナーたちの様子を見に行ったわけである。

 

 その際に見かけたのが、後のチャンピオンのタチバナだ。

 まだまだ10歳の子供……と言っても、容姿だけは昔と殆ど変わらないが、年相応に未熟であったタチバナはジムリーダーに挑むでもなく、観客席から他の挑戦者たちとジムリーダーの戦いぶりを、手持ちのヨーギラスとサンドと共にジッと眺めていた。

 

『そこの貴女! 今日はどうする? 挑戦しないの?』

 

 その様子に気が付いた当時のジムリーダーはタチバナにそう声をかけたが、タチバナは静かに首を振ってジムを去っていった。

 それが少し気になったキクコはジムリーダーに話を聞いてみることに。キクコが四天王であると知っていたおかげか、快く答えてくれたジムリーダーによると、タチバナは初めてハナダジムを訪れた数日前からずっとあの様子で、ジムリーダーの戦い方を偵察しているらしい。

 それを聞いたキクコはタチバナの腹積もりを理解できた。ハナダジムは代々水タイプを専門とするジム。それに対して彼女が連れていたヨーギラスとサンドは、水技が苦手なポケモンだ。

 

 相性が不利なりに敵を偵察し、対抗しようとしているのだろう。少なくともジムに挑戦するつもりだというのは、ヨーギラスとサンドの闘争心を宿した目を見ればわかった。

 だが同時に解せない。ハナダシティの近隣には草タイプのポケモンも電気タイプのポケモンの姿も見られたのに、なぜそういった水タイプに強いポケモンを捕獲して挑戦しようとしないのか……その答えをキクコは翌日になって知ることになる。

 

 朝になって滞在しているホテルのバルコニーで一服していると、木の実を片手に野生のビリリダマへ話しかけるタチバナの姿を見かけたのだ。一体何をしているのかと思って様子を眺めていると、ビリリダマに木の実を渡して、視線を合わせながら何かを話しかけて居たタチバナだったが、ビリリダマは胴体と一体となった頭を左右に振り、そのまますたこらと逃げて行った。

 

『何やってんだい。捕獲したけりゃ弱らせてボールを投げりゃいいだろうに』

 

 慰められているのか、ポムッとサンドパンとヨーギラスに背中を軽く叩かれるタチバナ。そんな様子を見かねて思わず話しかけたのが、二人の交流の始まりだった。

 タチバナは驚くほど整った容姿を持つことを除けば普通の子供だった。普通にポケモンが好きで、普通に優しくて、普通に旅を楽しみたいだけの、どこにでもいる駆け出しトレーナー。

 ビリリダマに木の実をあげて話しかけていたのも、やはりと言うべきかハナダジムへ挑戦するために新たな手持ちとして加えたい為であり、連日ジム戦を様子を眺めていたのも水技が苦手なヨーギラスたちと共に対抗策を練っていたかららしい。

 だがそれだと、なぜバトルで弱らせてビリリダマを捕獲しようとしなかったのか……それを聞いた時、タチバナは凪のように静かな瞳でこう答えた。

 

『……私たちの都合の為だけにいきなり攻撃して、いきなり捕獲するのは、何か違うと思ったから……だから会話で何とかならないかと思って話しかけました。……断られましたけど』

 

 それを聞いた時、タチバナはあまりバトルに向いていないとキクコは思った。聞けばジム挑戦も闘争心に燃える手持ちポケモンたちに請われたから挑戦するだけであり、リーグなどには興味もないのだとか。サンドとヨーギラスにしてもバトルを介さず、ひょんなことから手持ちに加わったらしい。

 バトルの才能云々は置いておいて、気性が優しすぎる。それ自体は尊いものだが、ポケモンの身になって考えすぎて、ポケモンバトルで上に行くことが出来ない類のトレーナーだ。この世界でトレーナーとして生き抜くには向いていない。

 

『ポケモンと人間はそう変わりゃしない。良い奴も嫌な奴も、真面目な奴も怠け者も、臆病な奴も勇敢な奴もいる。色々さ。でもね、過酷な野生の中で生きてるだけあってどんなポケモンでも大なり小なり闘争本能を隠し持ってんのさ。だからポケモンバトルなんて興業が成り立つんだよ。力も示さずアンタに従ってくれる奴なんてそうそういやしない。だからトレーナーがポケモンを捕獲する時はバトルを介するのさ。このトレーナーになら付いて行って安心だ、このトレーナーにこそ付いて行きたいって思わせるためにね」

『…………』

『アンタがどうしようが知ったこっちゃないけどね、そんな甘ったるいやり方で新しい手持ちを迎えられなかったらどうするんだい? ジムは諦めんのかい?』

 

 少しキツいが、長年をかけて辿り着いたポケモンとトレーナーの真理を交えて聞いてみると、意外にもタチバナは首を横に振った。

 

『前もってこの子たちと話し合って決めました。新しい手持ちを迎えられなくても、強くなってジムに挑もうと。バトルは苦手ですけど、私はこの子たちの親ですから……私と一緒にいることを選んでくれた分、この子たちが望むなら、私も出来る限りのことをするって……一緒にいて良かったって思えるようなトレーナーになると決めたんです』

 

 静かで、感情の起伏はあまり感じられないが、ポケモントレーナーとしてタチバナなりの芯を感じさせる言葉だった。少なくとも、ただ優しいだけで臆病な少女などではないとキクコに思わせる程度には。

 それを聞いたキクコは少しだけ愉快な気持ちになった。世の中、信念を持ち合わせず、中身のないトレーナーなど掃いて捨てるほどいる。トレーナーの殆どがチャンピオンになりたいだの、ポケモンマスターになりたいだの、ただ自分の夢ばかりを見てポケモンを利用する者であり、自分なりのポケモンとの向き合い方とは何なのかという答えを持つ者は、意外なほどに少ないのだ。

 

『ポケモンの為の生き方ってかい? はっ! 甘い、甘いねぇ! ポケモンっていうのはバトルをさせてなんぼさ! 力が物言うこの世界、そんな消極的な考え方じゃ、自分自身も自分のポケモンも守れやしないんだよ! アンタだってここまでの旅で、野生のポケモンなり悪質なトレーナーなりに襲われて危ない場面くらいあったんじゃないのかい?』

『それは……はい』

 

 タチバナはこの幼さでその答えを持っている……キクコは緩みかけた頬を引き締め、やれやれと言わんばかりに肩をすくめながら悪態をつく。

 少しお節介をしたくなった。長年ポケモンに関わってきた1人のトレーナーとして、この少女が将来どのようなトレーナーになるのか、その成長を促すことで見てみたくなったのだ。その為に危険を排除し、艱難を乗り越える力を少しくらい与えてみても良いだろう、と。

 

『特別サービスだ。この四天王のキクコが直々にタイプ相性をひっくり返す戦い方っていうのを教えてやるよ。アンタみたいなナヨナヨしてて覇気のないトレーナーは見てられないからねぇ』

 

 今思えば、短い間ながら自分とタチバナは師弟の関係だったのではないかと思える。自分のブルンゲルを相手に必死に策を巡らせ、戦い方や技の出し方を工夫するタチバナを見た時、何とも言えぬ穏やかな気持ちを抱いたものだし、自分が教えた技術と知識をモノにして、見事ジムリーダーに打ち勝った時は思わず拳を握ったのを、キクコは今でも思い出せる。

 

 その後、ハナダシティの入り口で別れを済ませ、遠くなっていく小さな背中を見送ってからタチバナの姿を直接見ることは4年近くなかったが、弟子の話題は地方を超えてキクコの耳にも届いていた。

 ジムや地方のバトルの大会、コンテストなどに挑戦する傍ら、ポケモン犯罪と直面し、成り行きで解決へと導いていると聞いた時は驚くとともに声をあげて笑ったものだ。どうやらあの日見た優しさはメッキなどではなかったらしく、義によってポケモンの誘拐組織や密猟団体を幾つか壊滅させ、それが出来るまでには強くなったというのだから。甘さを克服し、他の為にその力を振るえる、優しさと強さを兼ね備えたポケモントレーナーに。

 

 そして出会いと別れから約4年後……タチバナがセキエイリーグへと挑戦したと知った時は、キクコは年甲斐もなく血が滾った。あの少女の成長をバトルで直接確かめることが出来る……もしかしたら、長らく四天王の座に居座り続けたロートルである自分に、終止符を打つかもしれないと。

 その期待に応えるかのように、タチバナは破竹の勢いでトーナメントを勝ち抜き、3人の四天王をも乗り越えて、チャンピオンであるドラゴン使い・ワタルを守る最後の四天王のキクコの元へと辿り着いた。

 

『ふん……少し見ない間に、ちょっとはマシな目をしたトレーナーになったもんだね』

『だとするなら、それはキクコ先生のおかげです。強さこそが自分とポケモンたちを守る術……先生の言葉を胸に、何とかトレーナーとしてやってこれました』

『はっ! こっ恥ずかしいセリフを吐くんじゃないよ。……それで? 何たってセキエイリーグに挑戦しに来たんだい? また手持ちのポケモンが望んだからとか、そういう理由かい?』

『……それもあるのですが、その……』

 

 

『この場所なら、先生に私たちの成長を見てもらえると思って、私から進んでリーグに参加しました』

 

 

 少し言いにくそうにしながら精いっぱい伝えられたその言葉に、キクコは思わず胸が詰まった。

 高齢と怪我の後遺症で引退を余儀なくされても、なぜ今日まで四天王の座に居座り続けたのか……それは、タチバナという新しい時代のトレーナーが、キクコという先の時代の残党を超えていく瞬間を見たかったからではないのか。4年前にお節介を焼いた自分の本音に、ようやく気付けた気がした。

 

『言うじゃないか。だったら見せてもらおうか。新しい時代のトレーナーの力って奴をねぇ!』

 

 こうして始まった師弟対決。その結果だけを言えば、清々しいまでにキクコの完敗だった。

 かつて教えたバトルの基礎を軸とし、砂嵐を活用した見事な戦術に、オリジナルと言って差し支えないほどの改良、洗練された技の数々。そして何よりもタチバナと深い信頼で繋がった屈強で異色な戦い方をするポケモンたち。

 いずれも新時代の幕開けを告げるかのような強さを携えたタチバナとそのポケモンたちは、勢いに乗ったままワタルすらも打倒し、見事セキエイリーグの頂点へと上り詰めた。

 

『見事だったよ、アンタたちは。まさしく新時代に相応しい戦いぶりだった』

『……先生』

『さぁ、胸を張りな! 今日からアンタは最強の看板を背負って立つんだ。……この世界の平和を頼んだよ』

 

 その言葉の後に、キクコは大々的に引退を宣言。トレーナーとして一線を退くこととなった。

 悔いはない。最後の試合は負けこそしたが、かつての弟子が見事に師を超えたことを証明して見せたのだ。これからチャンピオンとして、頭角を現して久しいロケット団などといった犯罪組織と向き合うこととなるだろうが、タチバナならば大丈夫だと確信している。

 

 チャンピオンや四天王、ジムリーダーがポケモン犯罪の抑止力として悪質なトレーナーと戦うことを義務付けられているのは周知の事実だし、タチバナもその辺りのことを踏まえた上でリーグに挑み、頂点を極めたはずだ。

 しかもタチバナは幾度もポケモン犯罪組織と戦い、その悉くを壊滅へと追いやってきたという、年端のいかぬ少女とは思えないほどの実戦経験を積んでいるし、これから先も悪と戦う気構えが出来ているだろう。

 これでセキエイリーグも安泰だ……キクコは長年背負い続けた重責を下ろし、数十年ぶりに一息つくのであった。

 

 

 

 

『…………え? ちょ、あの、先生? 世界の平和って、それどういう…………?』

 

 なお、そんな新チャンピオンの言葉は、万雷のような歓声に紛れて誰の耳にも届いていなかった。

 

   =====

 

 そして現在。タチバナにセキエイリーグの未来を託したのは間違いなどではなかったのだと、キクコは改めて確信している。

 年若く型破りな戦法を取るチャンピオンに影響されて、この1年にも満たない期間で多くのトレーナーがその質を向上させつつあるし、最近ではカントーやジョウトで活動しているロケット団のみならず、地方を跨いで数多くの悪の組織に大打撃を与えたことで、名実ともに最強の抑止力として君臨しているのだから。

 中には余りの実力差にバトルを引退してしまうトレーナーもいるらしいが、ここはポケモンバトルの最高峰であり、一流トレーナーのみが戦うことが許されるセキエイリーグ。敗北を己の糧にもできない弱卒に居場所などない。

 本物の一流とは、心身ともに鍛え抜かれた不屈の者を指すのだから。

 

「しかし、彼女の後に続く新米トレーナーたちも大変ですね。チャンピオンの座を手に入れるには、歴代最大の壁を越えなければならないのですから。確か、博士のお孫さんも今年トレーナーとして旅だったのでは? 今10歳ですよね?」

「ほう? そりゃいいねぇ。オーキドの孫ということはさぞ自信満々な癪に障る面してるんだろう? タチバナに負ける瞬間を是非とも拝んでみたいもんだ」

「相変わらず趣味が悪い奴じゃ。じゃが、わしの孫は贔屓目抜きにしても中々のものじゃぞ? 案外チャンピオンすら喰らってしまうかもしれんな!」

 

 観測室に3人の話し声がしばしの間響き渡る。

 後に、カントー・ジョウトに住まう数多のトレーナーから「チャンピオンになる」という夢と希望を打ち砕き、《絶望の魔王》と呼ばれるようになるチャンピオン・タチバナ。そのエースであるバンギラスがメガシンカした際に発動される新特性に、〝ぜつぼうのさじん〟と名付けられる、少し前の出来事である。

 

  




この小説のキクコさん、原作の赤・緑開始時にはすでに引退していて、レッドたちが倒した四天王の内の一人は登場予定すらないモブになっています。
尚、キクコの人物像に関しましては、設定資料の少なさから作者の独断と偏見に満ち溢れた、未熟だった頃の主人公の師匠ポジに落ち着きました。
キツイ性格をしたツンデレ老婆で、自分なりの信条を持つトレーナーに交換とか抱いちゃう、なんだかんだで弟子が可愛いと思ってる人。

そんなキクコさんに萌えたという読者の皆様には、大小判から特別なバンギラスを配布いたします。詳細は以下。

バンギラス
性別:♂
性格:いじっぱり
特性:ぜつぼうのさじん
個体値:6Ⅴ
持ち物:絶望のバンギラスナイト

技構成 ストーンエッジ
    じしん
    れいとうパンチ
    りゅうのまい
 
本小説に登場する主人公、タチバナのエースポケモン。このバンギラスに特別な持ち物、「絶望のバンギラスナイト」を持たせた状態でバトルに出すとメガシンカ(剣盾・BDSPではフォルムチェンジ扱い)して種族値が大幅上昇し、バンギラスが場にいる限り天候を〝つよいすなあらし〟状態にして、岩タイプのポケモンの特防を2倍、更に岩・地面・鋼タイプ以外のポケモンの命中率を2段階下げ、毎ターンの終わりに最大HPの8分の1のダメージを与える。
更に特殊な特性以外では天候を上書きできない。簡単に言えば〝おわりのだいち〟などの砂嵐版。

20022年、4月1日に配布予定。
配布後のランクマ使用率がどうなるのかが気になる。
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