セキエイリーグチャンピオン(合法ロリ転生者)の憂鬱   作:大小判

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気が付いたらランキング1位……?
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一体何が起こっているのが分かりませんでしたが、沢山の方からの応援があって嬉しい限りです!

原作キャラから見たチャンピオン・タチバナのお話は今後も投稿しようと思います。読者の皆様が気になる原作キャラとの絡み、出てきてほしい好きなポケモンがあれば、是非とも活動報告に設置したアンケートに答えていただければ幸いです


傍から見たロリチャンピオン(シロナ編・後編)

 ボールを投げたのは同時。現れると同時に強烈な砂嵐をフィールド全体に吹かせつつ、戦場に降り立ったのはサンドパン。対してシロナが繰り出したポケモンは――――

 

『シロナ選手が繰り出したのはトゲキッス! そしてあの顔に付けているのは……〝ぼうじんゴーグル〟でしょうか? 砂嵐対策はバッチリのようです!』

 

 ゴーグルを装着し、舞い上がる砂塵から目を保護しているトゲキッスが空中を旋回する。

 タチバナのバトルの詳細は、同じチャンピオンにすら伝わっていない部分も多いが、彼女がその異名の通り砂嵐という天候を味方につける特性を持つポケモンを使うことは確かだ。

 恐らく長期戦になるだろう……そうなった時、砂嵐によって徐々に体力を削られるのは見過ごせない。

 

(本当ならミカルゲやミロカロスで様子見を考えたけれど……それは余り得策とは言えないかもしれないしね)

 

 そして砂嵐使いであるとは別に、タチバナのポケモンたちは攻撃的な戦法を取ることが多いとも聞く。下手に防御に回っては何もできないまま貫かれて倒されるかもしれない……それならば、こちらも攻めの姿勢は崩さない。攻撃を最大の防御として、飛行タイプ特有の強さを活かして翻弄しながら立ち向かう。

 

「さぁ、行きなさい! トゲキッス!」

 

 シロナの声に応え、トゲキッスが上空へと舞い上がる。サンドパンの爪による攻撃も届かないほど、どこまでも高くに。

 飛行タイプを始めとする、空中戦が可能なポケモンの最大の強みはバトルフィールドを三次元的に移動できるという点だ。ただそれだけで同じ土俵に立てないポケモンは攻撃を満足に当てることが出来ず、一方的に甚振られることも珍しくはない。

 特に地面技を得意とするサンドパンにとって、これほどやりにくい相手は居ないだろう。まして特殊なルールで交代が出来ないとなれば猶更だ。

 

「〝ステルスロック〟」

 

 しかし、それを打破してこそのリーグチャンピオンのポケモン……サンドパンは鋭く尖った無数の岩を空中に浮遊させた。

 素早さを活かしたポケモンにとって、この手の障害物を大量に生み出す技は鬼門だ。それは空中戦を得意とするトゲキッスも例外ではなく、自分のフィールドである上空に無数の岩を設置されたことでその動きは制限されてしまう。飛行ポケモン対策としては正解の1つと言っていいだろう。

 

「でも、その程度で止まるほど私のトゲキッスは軟じゃないわよ!」

 

 トゲキッスは臆することなく大量の岩が浮かぶ空間に突貫する。一見するとただの自殺行為にしか見えない所業だが、なんとトゲキッスは岩と岩の間を的確に縫うように潜り抜けていった。

 

『トゲキッス、華麗かつ鋭い動き! 〝ステルスロック〟による妨害をものともせず、サンドパンを攻撃の直線状に捉えたぁぁああ!』

 

 技が岩に当たることもなく、それでいてサンドパンの攻撃も届かなさそうな絶妙な位置。更にそれだけではなく、〝かげぶんしん〟によって無数の虚像を生み出して判断に迷いを生じさせる。

 分身による攪乱は恐らく数秒ほどしか持たないだろうが、それだけあれば十二分……トゲキッスは得意技、〝エアスラッシュ〟でサンドパンに先手を取ろうとしたが、それよりも先に違和感に気が付いたのはシロナだった。

 

(あのサンドパン……目を瞑っている……!?)

 

 無数の分身の中から本物を見分けようとするどころか、敵前で目を瞑るなど自殺行為だ。並のトレーナーやポケモンなら絶好の好機とばかりに全身全霊の力を込めた一撃を叩き込もうとするだろう。

 だがシロナもトゲキッスも並ではない。好機と感じるよりも警戒が先立ち、それは一気に悪寒と化した。

 

「トゲキッス、〝まもる〟!」

 

 攻撃から反転し、トゲキッスが防御態勢を取るのとほぼ同時……凄まじい衝撃波がトゲキッスを吹き飛ばし、バトルフィールドを覆う安全用のシールドに叩き付けた。

 今トゲキッスが使った技、〝まもる〟は連発は効かず、範囲も狭いながらも破壊不可能の強固な障壁を展開する技だ。故にトゲキッスは衝撃波の直撃を受けるのは免れたが、〝まもる〟を使ったポケモンを正面から吹き飛ばす威力の技など、ごく一部の例外を除けば見たことも聞いたこともない。直撃を受ければ大抵のポケモンは瀕死確定だ。

 

(なんだというの、今の技は……!? 今まで見たことが無い上に威力もさることながら、あれほどの技をノーモーションから死角である背後に向かって放つだなんて!)

 

 無数の分身に紛れたトゲキッスはサンドパンの背後を取り、攻撃しようとしていた。だがあのサンドパンはトゲキッスの位置を正確に察知し、振り返ることもせずに背後に向かってノーモーションかつ不可視の攻撃をしたのだ。

 そしてその威力も極めて強力……少なくとも、トゲキッスではどう足掻いても出すことが出来ない破壊力だ。

 

(……もしかして、砂? フィールドに舞う砂塵の流れから、トゲキッスの位置を正確に割り出した……?)

 

 技の正体は不明だが、トゲキッスの位置を正確に割り出した方法にシロナは見当をつける。

 所詮、〝かげぶんしん〟で生み出される分身は実体のない虚像だ。煙は素通りするし、雨を弾くこともない。故に分身と本体を見分ける方法はいくらでもあるのだが、あのサンドパンは砂嵐の僅かな気流の変化を察知して本体の位置を見分けたのだ。

 まさに砂使いとはよく言ったものだ。この砂塵がフィールドを舞い続ける限り、目晦ましは通用しないと考えた方が良いだろう。

 

「トゲキッス! 再び上空へ!」

 

 不可視の攻撃による衝撃で思考能力が阻害されたトゲキッスの状態を察知したシロナの指示でトゲキッスは再び上空へと舞い上がる。瀕死になっていないのなら何度でもチャンスを窺えばいい……そう思っての指示だったが、それだけでは足りなかった。

 特性〝すなかき〟によって加速したサンドパンが、浮遊する岩を足場にして上空にいるトゲキッスを自身の間合いの内側に収めたのだ。

 

(しまった……! 最初の〝ステルスロック〟は動きを制限するのではなく、こっちが本命――――!)

 

 判断ミスを悔いるよりも前にサンドパンが動き、毒を纏った十字斬りがトゲキッスの急所を裂いた。

 

「トゲキッス!?」

 

 効果は抜群だ。辛うじて意識はあるが、このままでは地面に叩き付けられるだろうし、サンドパンは追撃を仕掛けようとしているのが分かる。恐らく、あの不可視の衝撃波でだ。

 このままではトゲキッスは単なる犬死になってしまう……そうはさせるものかと、シロナは今出来うる最善の指示を飛ばした。

 

「〝はどうだん〟!」

 

 ポケモンの波動に反応し、その軌道を自在に操ることが出来るエネルギー弾が放たれるのと、不可視の衝撃波が放たれたのは同時。トゲキッスは地面に減り込んで気絶し、衝撃波を迂回したエネルギー弾が空中で足場を失ったサンドパンに直撃してダメージを与える。

 倒すには至らないが、防御が間に合わない絶妙なタイミングで一撃を入れてくれたトゲキッスに内心で感謝しつつボールに戻し、シロナは先ほどまでの攻防を思い返す。

 

(さっきサンドパンが見せた技……〝クロスポイズン〟? サンドパンがあの技を使うなんて、聞いたことが無いけれど……)

 

 知的好奇心が豊かなシロナは、専門である考古学の他にもポケモンの生態に関する知識が深い。ポケモンの技を研究するククイ博士の論文には全て目を通したし、様々なポケモンの研究結果にも目を通してきたが、サンドパンが〝クロスポイズン〟を使うなどという研究結果があっただろうか……?

 如何せん、リーグではマイナーなポケモンなので情報も少ない。シロナは頭を切り替え、次のポケモンを繰り出す。

 

「行きなさい、ガブリアス!」

 

 自身の相棒にして最強のポケモンの登場に観客席から一斉に喝采が湧く。そんな余計な音には一切耳を貸さず、隙も無く構えるサンドパンを睨むガブリアスが、シロナには何時にも増して頼もしく映った。

 

『ここでチャンピオン・シロナの相棒、ガブリアスの登場だぁあああ! これまで打ち破ってきた挑戦者は数知れず! まさにエースと呼ぶに相応しい貫禄です!』

 

 ……だが、トゲキッスをほぼ一方的に倒し、余力も残しているあのサンドパンは尋常な個体ではない。ガブリアスであっても、何の代償もなく倒せるような甘い相手ではないだろう。

 

(ならば温存はしない、最初から全力で挑むのみ!)

 

 シロナのブレスレットに嵌め込まれていたキーストーンが放つ光と反応し、ガブリアスはその姿を変える。

 体格はより優れ、両腕は極めて攻撃的な形状をした鎌へと変化し、ステータスが大幅に上昇した姿……メガガブリアスへの限定的な進化だ。

 

「〝りゅうせいぐん〟!」

 

 ガブリアスはメガシンカすることで特攻も大幅に上昇するポケモン。そこから放たれる攻撃は決して無視できるものではない。

 加えて、敵に向かって無数の隕石を振らせるドラゴン技の秘技。攻撃範囲はもちろんのこと、威力もまた尋常ではないのだ。あのサンドパンは必ず繰り出すはず。

 

『何という技だ! メガガブリアス、無数の隕石を振らせますが…………それら全てを打ち砕いたサンドパン! 一体何をしたのでしょう!? 私の目には、何か見えない攻撃で相殺したように見えますが……!?』

 

 迎撃の技である、不可視の衝撃波を。

 そしてその僅かな隙を、メガガブリアスは見逃さない。強力なエネルギーを推進力にして体当たりをする技、〝ドラゴンダイブ〟によって加速と攻撃を両立させながら一気に間合いを詰める。

 それに対してサンドパンは両爪を盾にして受け止めるが、そこで止まらないのがシロナのエースポケモン。直撃は防がれたものの、メガガブリアスは姿勢を低くしながら両腕の鎌でサンドパンの体を拘束。そのままかち上げるように、サンドパンを遥か上空へと連れ去った。

 

(……〝すなかき〟でサンドパンのスピードはガブリアスを超えている。長期戦はかえって危険……だったらダメージを覚悟で速攻に倒す!)

 

 そしてサンドパンを下敷きにする形で上空から急速落下……重力による加速を加えた、〝ドラゴンダイブ〟最大パワーだ。

 これをまともに食らって耐えられるポケモンはそうは居ない。特攻を犠牲にし、〝りゅうせいぐん〟を囮にしたこの一撃でサンドパンを沈めようとしたメガガブリアスだったが……突如叩き込まれる衝撃に意識が飛んだ。

 

「ガブリアス!! お願い、耐えて!」

 

 ノーモーションで衝撃波を放つ以上、こうなることも織り込み済みだった。故にサンドパンの一撃を最低1回は耐えなくてはならない……まさにここが勝敗を分ける分水嶺だ。

 とても種族としての力で劣るポケモンが放ったとは思えない一撃に意識が飛び、サンドパンを拘束する両腕の力が緩みそうになったメガガブリアスだったが……その脳裏に仲間のポケモンたちと、シロナの姿が浮かび上がる。

 

 自分はチャンピオンの手持ちポケモン、その柱なのだ。ここでむざむざと敗北し二枚抜きされる絶望は、チーム全体に波及するだろう……メガガブリアスは牙を食いしばって無理矢理意識を覚醒させ、全身から更なるエネルギーを噴出し……サンドパンを地面に叩きつけた。

 そしてそこで油断はしない。追撃として、相手の砂嵐を逆手に取った特性〝すなのちから〟で強化された〝じしん〟を叩き込む。

 

『き、決まったぁ~~~~~! メガガブリアスの強烈無比な猛攻がサンドパンに直撃! バトルフィールド全体が砕け散ったぁあああああ!』

 

 まさに爆心地と表現するに相応しい破壊の中心部から砂煙を突き破ってメガガブリアスがシロナの目の前まで跳躍し、その膝を地面に付ける。

 

(なんてダメージ……! まさかメガシンカを含め、サンドパン1匹に半壊させられるとは……!)

 

 もはや気力で持ちこたえている状態のメガガブリアスを見て、シロナは苦虫を噛んだような表情を浮かべる。

 ボールから放たれるリターンレーザーの光が見えたことから何とかサンドパンは倒せたようだが、まさかたったの一撃でメガガブリアスをここまで追い込むとは……シロナはまだ見ぬ2匹のポケモンを考えて頭を抱えそうになる。

 しかし現実は待ってくれはしない。少しのスタミナも回復させないと言わんばかりにタチバナが繰り出してきたのはバンギラスだった。

 

(この威圧感……! 見ただけで分かる……あのポケモンこそがタチバナのエースであると……! そして……)

 

 シロナはタチバナの首から下がるネックレス、その装飾台に嵌め込まれたキーストーンを見逃さない。

 キーストーンから放たれる強い光はバンギラスと結びつき……体内で渦巻く膨大なエネルギーで背中が裂け、一本の長い角が聳え立つ。

 バンギラスがメガシンカした姿……、メガバンギラス。その出現と共に、フィールドの砂嵐がさらに激しく吹き荒ぶ。

 

『さ、先ほどまでとは比較にならない凄い砂嵐です! チャンピオン・タチバナが繰り出したバンギラスがメガシンカした瞬間、実況が困難なほどの砂嵐が……!』

 

 もはやトレーナー側からはフィールドの全容を視認するのが難しいほどの砂嵐。これが噂に聞く、タチバナの特殊な力を持つバンギラスかと、シロナは冷や汗をかく。

 だがタイプの相性だけならメガガブリアスの方が有利。それを知らずに出してきたとは思えないが、まだ勝機があるはずだ……そう思ったシロナだったが、遠くに離れたメガバンギラスが拳を引いた瞬間、背中に氷柱でも差し込まれたかのような悪寒に襲われた。

 

「いけない! ガブリアス、避けなさい!」

 

 アマチュアトレーナーのような指示を出してしまったシロナだったが、今回はそれが功を奏することをすぐに思い知ることとなる。

 メガバンギラスが何もない空間に向かって拳を突き出した、その瞬間。絶大な冷気を伴う衝撃波がメガガブリアスに向かって真っすぐに放たれたのだ。

 瀕死寸前の体で何とか攻撃の範囲内から逃れるメガガブリアスだったが、フィールドは先ほどまでとは一転。大量の砂が混じる大量の氷が散乱していた。

 

「な、なんなの……これは……!?」

 

 先ほどのサンドパンの時も思ったが、このような技は知らない。チャンピオンとして数多くのポケモンと戦ってきたシロナも……この大会をテレビ越しに観戦していた、ポケモン研究者たちも、メガバンギラスが何をしたのか理解できなかった。

 ただ分かるのはサンドパンと同じく見えない衝撃波を放ったことと、その衝撃波に氷の力を付与していたという事だ。

 

(まさか、技と技を組み合わせたとでもいうの……!?)

 

 今思えば、サンドパンが〝クロスポイズン〟を使った時も違和感があったが、あれも複数の技……〝シザークロス〟と〝どくどく〟を組み合わせたものなのだとしたら……そう思ったシロナだったが、すぐに頭の中で否定する。

 2つの技を同時に使い、複合する。言うだけなら簡単だが、ポケモンは技を1つ使うのにもかなりの集中力を必要とする。タチバナのポケモンがしたようなことをするなど、脳が2つはないとできない芸当なのだ。

 

(でも現実として実際にやっている……! そんな、これまでのポケモンバトルの常識を覆すようなことが、可能だというの……!?)

 

 そう思っている間にも、メガバンギラスは再び拳を引く。……その動作を見た時、シロナは希望的ではあるがある推測を思い至る。

 似たような攻撃をする2匹だが、サンドパンと違い、メガバンギラスは手を起点とした一定の動作が無ければ不可視の衝撃波は放てないのではないか……もしそうならまだ回避の余地はある。実際に初見の状態でもギリギリ対処できたのだから。

 そう考えてメガガブリアスに指示を出そうとしたシロナだったが……メガガブリアスは先ほどよりも明らかに悪い顔色で両手と両膝を地面に付けてしまった。

 

「ガブリアス!?」

 

 そのまま無慈悲に冷気を纏う衝撃波の直撃を喰らい、メガシンカが解除されたガブリアスが瀕死に追いやられる。

 一体どうして……そう思ったシロナは、ガブリアスの首筋に刺さった、一本の針を見つけた。

 

「まさかサンドパン!? 倒される直前、〝どくばり〟を打ち込んでいたというの!?」

 

 とんでもない練度だ。自分が倒される瀬戸際に、後続が有利になれるように毒を仕込むポケモンを育てるトレーナーなどそうそう居るものではない。

 技も力も格上の敵を久しぶりに見た……瀬戸際に追い込まれたシロナはガブリアスをボールに戻し、最後のポケモンを繰り出す。全身を強固な鱗で覆った格闘ポケモン、ジャラランガである。

 

 詳細不明な氷の技を使ってくるものの、バンギラスにとって格闘タイプは天敵中の天敵。更にこのジャラランガの特性は〝ぼうじん〟であり、普通ならまともに戦うことが出来ないであろう強烈な砂嵐の中でも戦えるだろうと、シロナが対タチバナ専用に連れてきたポケモンである。

 

「そしてこの子はあなたのバンギラスとの戦いを想定した切り札でもある! ジャラランガ、〝ブレイジングソウルビート〟!」

 

 キーストーンが嵌め込まれた腕輪が装着されたのとは逆の腕の手首、そこに装着されたZクリスタルが光り輝き、ジャラランガを中心とした破壊的な音波攻撃がバトルフィールド全体に響き渡る。

 この砂嵐下、岩タイプであるバンギラスをそれだけで倒すことは出来ないだろう。だがシロナがアローラ地方を旅し、その地に伝わるこのZ技の真骨頂は、攻撃をしながらジャラランガの全能力を底上げすることにある。

 

 これでメガシンカポケモンすらも圧倒しうる能力を得たジャラランガは、ほぼ無傷の状態のメガバンギラスに向かって防御を捨てた超近接攻撃、〝インファイト〟を繰り出す。

 反撃も許さない怒涛の連撃によって4倍の弱点を取れるメガバンギラスを一気呵成に倒し、残りの1匹もそのまま倒してしまおう……そう思っていたシロナだったが、砂嵐の向こうにうっすらと見える光景に、愕然とする。

 

「嘘でしょう……!? 格闘タイプの攻撃を、同じ近接戦闘で凌いでいる……!?」

 

 ジャラランガが放つ打撃の雨を、メガバンギラスは冷気を放つ拳で1つ1つ的確に撃ち落とし、逸らしているのだ。

 メガガブリアスの時に見せた剛撃とは一転して、風のごとく柔らかな動き……その戦い方は、もはや膂力と耐久を武器とする、鈍重な大型ポケモンのそれではない。

 

(あの近接戦闘のテクニックは軽量級の格闘タイプのそれに匹敵している……一体どんな育て方をすればあのようなバンギラスが――――!?)

 

 もはやマシンガンの撃ち合いにも見える打撃の応酬だったが、その均衡が見る見る内にメガバンギラスの方へと傾いていき、シロナは今度こそ言葉を失った。 

 始めの内はジャラランガの攻撃を凌いでいただけだったのに、気が付けばジャラランガに攻撃をするだけの余裕を見せつけ始めている……恐るべきことに、メガバンギラスのパワーとスピードが、ジャラランガを圧倒するほどに上がっていっているのだ。

 

 話は少し変わるが、〝りゅうのまい〟や〝ちょうのまい〟といった、ボールに戻さなければ半永久的に自身の能力を上げる技は、効果の強力さとは裏腹に使用するトレーナーは少ない。

 理由は単純。普通の攻撃技と比べても高い集中力が必要かつ、特定の動作をする必要があり、敵の前で悠長に使える技ではないからだ。それこそ、ジャラランガのように全方位への強力な攻撃と両立する特殊な技でもない限りは。

 だがタチバナのポケモンは違う。使い難い技という先入観を排し、編み出したのだ。攻撃、回避、移動、防御といった戦闘中の動きの中に、自身の能力を引き上げる舞を組み込む技を。踊りの中に技の秘奥を隠した格闘家のように、戦いと舞踏が一体と化した戦舞とでも呼ぶべき体捌きを……!

  

「……そして、〝わるだくみ〟も終わりです」

 

 ボッ! という音速の壁を突き破る音を置き去りにし、冷気を纏う強烈なボディーブローがジャラランガの腹に突き刺さり、そのまま上空へとかち上げる。

 そして上空で逃げ場を失ったジャラランガに対し、口から放たれた強烈な冷凍光線が直撃。冷気を苦手とするドラゴンタイプのポケモンは、全身を氷漬けされてそのまま地面に落下した。

 

『しょ、勝者セキエイリーグチャンピオン・タチバナァァァ!! これがポケモンリーグ総本山を預かる王者の実力なのか!? 3匹目を見せることなく、シロナを圧倒しましたああああ!!』

 

 お互いのポケモンをボールに戻し、響き渡る歓声の中で二人のチャンピオンは互いの健闘を称え、手を握り合う。

 完敗だった。理不尽に感じる気持ちが一周回って、むしろ清々しいまでに。……それでも、シロナの中に恨み節はなかった。タチバナとそのポケモンたちは革新的な戦い方を以てして、見事自分を下して見せたのだ。

 

 まだ少女と呼ぶべき年の頃にはシンオウリーグに君臨し、それ以降は無敵の戦績を誇っていたが、今宵タチバナには更なる上のステージを見せてもらった。

 悔しさは勿論ある。自分の愛するポケモンたちが殆ど何も出来ずに敗れていったこと、それはトレーナーとして不甲斐ないばかりだ。だがそれ以上に、自分たちにもまだまだ強くなる余地があるのだと、教えられた。

 

(それに……私の心配は杞憂だったようだしね)

 

 タチバナは試合前に言った……生半可な気持ちだけでチャンピオンを夢見る者に、頂点の座は渡せないのだと。

 一見平和なこの世には理不尽が渦巻いている。正しく生きようとしている者たちを狙ったポケモン犯罪は絶えることなく、10歳で冒険に出た頃に抱いていたはずの夢と希望の世界は、力ある者が戦わなければ守れない、夢幻に等しいものだったとシロナも思い知らされた。

 

 自分の好きな世界、そこに住まう人やポケモンを守りたい……そう思って邁進し、チャンピオンになったことにシロナは後悔はない。それはきっと、他のチャンピオンたちも同じだろう。

 だが、何の覚悟もなく社会の裏に渦巻く闇に直面することとなる少年少女たちはどうだろうか? 外見だけで相手を侮り、慢心してチャンピオンに挑むようなトレーナーが、たとえ実力があったとしても、血と陰謀に塗れた裏世界で戦い続けられるだろうか?

 

 否だ。未来のことを決め付けるのは趣味ではないが、シロナ自身だって精神的に未熟なトレーナーに犯罪抑止力であるチャンピオンの座は任せられないと思う。

 きっとタチバナは、篩にかけるつもりで挑戦を受けたのだろう。ポケモン犯罪者との戦いはルール無用の理不尽さが付きまとう……いくら声高に叫んでも、卑劣と呼ぶべき手段を厭わない者たちは大勢いるのだ。それこそ、ポケモンや人を人質にし、時に殺してしまうような悪が。

 

(そんな者たちと戦い続ければ、心の未熟さが目立つトレーナーはいつか心を病んでしまう。それこそ、バトルで大敗することで自信を失うよりも深刻なレベル……人間不信や、ポケモン恐怖症に陥るレベルに。そうなってしまえば本格的に社会復帰が出来なくなる)

 

 夢だけでなく、守るための戦いを覚悟したシロナでさえも身に覚えがあるのだ。生半可な覚悟もなくチャンピオンの座は譲れないというのは理解できる。

 だからこそ、タチバナはチャンピオンを目指す者たちを夢を砕いてきた。各地方で巨大な組織が一斉に結成されるほどの悪の最盛期、そんな時代に生まれた王者の宿命として、その小さな体に悪の矛先を一身に集めているのだ。

 トレーナーたちに、本当の意味での絶望を与えないために。あえて仮初の絶望を与えることで、子供たちを世界の闇から遠ざけるために。ただバトルで酷い負け方をしただけで立ち上がれない弱者を守るために。

 

 彼女のポケモンたちも、そんな親の覚悟を共にすると腹に決めているのだろう。ポケモンは純粋な分、トレーナーの精神の影響を直に受ける。

 倒される間際に毒を打ち込む精神力を持つサンドパンと、想像を絶するような鍛錬で理不尽なまでの力を身に付けたバンギラスは、真っ直ぐにトレーナーを慕う眼をしていた。だからこそ、バトルをすればタチバナの言葉に嘘はないのだと分かる。

 もしも彼女を代わる者がいるのだとすれば、それはタチバナが与えた絶望を乗り越えた、心身ともに磨き抜かれたトレーナーだけなのだろう。そういった意味でも、彼女は自分に挑む者たちを篩にかけてきたのかもしれない。

 

(……でもこれは、違う意味で放っておけないわね)

 

 何という不器用な優しさだろうか。タチバナにそうさせているのは、彼女と比べて自分たち大人の不甲斐なさゆえだろう。  

 強くならなければならないと、シロナは思った。今よりももっと強くなって、この小さなチャンピオンが背負う重責を分かち合う、そんなチャンピオンになろうとシロナは思いを新たにするのであった。

 

 




他のチャンピオンの強さは、メガシンカ込みならバンギラス以外のポケモンを倒せるくらいに強くしておきました

今回のバトル回は寝落ちとの戦いでした。仕事とか書籍化活動とか色んなことをやってる合間の息抜きで執筆してるんですけど、それでもなお眠くて眠くて投稿が遅れてしまい、読者の皆様には心よりお詫びしたい。
なんかこう、眠気を一発で吹き飛ばすような運動とか無いものですかね? 腕立て伏せとかスクワットをしたら眠気飛びます?
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