「楽しみだね、猿渡くん!」
そう無邪気に笑う巴と対象的に、俺__猿渡音也はあまり気乗りしなかった。巴と知り合ったのは物心つく前だったからあまり憶えていないが、何時からだっただろう。彼女と一緒にいる時、とても不安を感じるようになったのは。
「ん?、どうしたの猿渡くん。もしかして、あんまり楽しみじゃないの?」
「あ〜、いや。最近外に出てなかったから久しぶりに泳げるか心配なだけ。」
どうやら顔に出ていたらしく巴が顔を曇らせて訊いて来るので軽く言い訳をする。外に出ていなかったのは本当なので嘘は言っていない。絶対に。
「な〜んだ!大丈夫よ。だって私がついてるもの!」
すると巴の顔が満面の笑みに変わり、謎に自信満々でそんな事を言うので、
「いやどういう理論だよ…フフッ。」
と、つい笑ってしまう。
「ハハハ、ママ。どうやら私達の愛しい我が子は既に運命の人を見つけているようだよ?」
「ちょ、ちょっとパパ!」
「あらあら~。マミったら家では音也くんの事ばっかり話すものね、パパ。」
「ママまで!もう……。私はクラス委員として、幼馴染みとして学校に来れない猿渡くんを心配してるだけなんだから……!」
相変わらず巴の家族は仲がいい。なんなら巴の両親は結婚して16年だが未だに毎朝おはようのキスをしているようだ。ちなみに去年巴の家でお泊り会(当時小学6年生)をしたとき、学校に行く前に現場を見せられてその日の間巴と変な空気になったのはいい思い出……でもないな。今でも恥ずかしいわ。
「というか良かったんですか?俺なんかが一緒に来ちゃって。久しぶりにおじさんとおばさんの休暇が重なって家族水入らずだっていうのに。」
「何言ってるのよ〜。音也くんとはお隣さんなんだから実質家族みたいなものでしょう?ねえ、パパ。」
「ママの言う通りさ。それに音也くんならマミの一生を預けられるしね。」
「いやマジでやめてください俺なんかが巴に釣り合う訳ないでしょうそれこそ将来はモデルになれる程の美人の上俺なんかにかまってくれる優しい性格を持ち合わせる完璧美人ですよ?それでいて無茶し過ぎて弱ってる姿は年相応の儚さがあるんですからそりゃああんなの見せられたらそのへんの男子はイチコ「もう!猿渡くんのバカ!」むぎゅ」
何故だ。巴の魅力を語っただけなのに俺は口を塞がれてるんだ?
「は、恥ずかしいからやめてよ…///」
そうしていたがある交差点に入ったとき、平穏は崩壊した。大きく野太いクラクションを響かせながら前から突っ込んでくる大型トレーラー。おじさんがハンドルを切ったが間に合わず衝突。俺は交差点のど真ん中に投げ出された。通行人の叫び声を聞きつつ最後に見たのは…
白い獣に手を伸ばす巴だった。
夢を見た。俺はテレビを観ていて、そこに映るのは魔法少女もののアニメ。その中で戦っているのは…、
「巴、か?」
そう呟く間にも巴はぬいぐるみのような生物にマスケット銃を放ち追い詰めていく。そして巨大な大砲を作り出し、
『ティロ・フィナーレ!』
その掛け声と共に発射、ぬいぐるみを貫いた。だけどそう。このシーンを俺は観た事がある。
「駄目だ!巴、逃げろ!」
そう叫んでもテレビの中に届く訳もなく、ぬいぐるみの中からお菓子の魔女本来の経法巻きの様な姿の化け物が魔法少女まどかマギカ、第3話のシナリオ通り巴の首は噛みちぎられ、死んだ。
「………。」
その時全ての記憶がダムが決壊したように流れ込んできた。そう、俺は……転生者だ。なんで死んだかとか忘れたけど。
「やっとお目覚めか。待ちくたびれたぞ。」
「ここ真っ暗だし、トランプもないしね。」
「暇、だった。」
目の前に立つのは紫色の不死の怪物、翡翠の魚人、そして蒼い人狼。本来この世界には存在しない筈の者達。
ウルフェン族 ガルル、またの名を次狼。
マーマン族 バッシャー、またの名をラモン。
フランケン族 ドッガ、またの名を力。
仮面ライダーキバに登場する数少ない味方のファンガイア3体だった。
「なんでこんな所にいるんだよ…。」
「その事はまた今度教えてやる。とにかく目覚めたらお前のクローゼットを探れ。そこに俺達の………。」
そこで目が覚めた。ここは…何処かのベットに横たわっているのはわかる。そのまま辺を見回す。薄緑のカーテン、花瓶に生けられた花、身体中に巻かれた包帯と、ピッ、ピッと鳴り響く心電図。病室か…。確か事故に巻き込まれて……、アレ?多分だけどあの事故ってマミさん…いや巴が魔法少女になるきっかけの事故だよな。だったらなんで俺は生きてる?普通死ぬと思うんですけど。
てか俺なんで前世で死んだか憶えてないし、転生特典もなんなのか知らないんですけど。しかも俺の中?にファンガイアいるし……。
「あ〜もうどうでもいいや、寝よ。」
と呟き布団に潜ろうとするが、
「いや、先生呼ぼうよ。」
そう隣のカーテン越しに誰かが言う。
「誰?」
「え!あ、その……。暁美、ほむら、です。」
マジで?なんか事故と共に運命の歯車回り過ぎてない?
「どうかしましたか?」
「ん?いや何でもないよ!?あ、俺は猿渡音也な、よろしく。」
「えっと…よ、よろしくおねがいします。」
そうやってお互い挨拶をしていると不意に入り口のドアが開かれた。
「失礼します。ほむらちゃん、今日の気分はどう…って猿渡くん!?先生!猿渡音也くんが目を覚ましました!」
えっとこれって面倒くさいやつ?
そのまま診察室に運ばれた俺は、俺の手術を担当したという先生から説明を受けていた。
「まず、飛び散ったガラス片が刺さって大量出血。事故衝撃で肋3本、両足の靭帯も損傷。車から吹き飛ばされて頭蓋骨にはヒビが入り折れた肋が肺に刺さっていた。そんな状態でここに運ばれてきて手術中にも血を大量に流しながらもしぶとく生き残っただけでも凄いというのにそれから2週間後には外傷は完治。それから半年間眠り続けたからもう目覚める事はないと思ったのに30分前に覚醒…。君実は人間じゃないだろう?流石に目覚めて30分で歩けるのは異常だよ………。」
「先生が分からないなら俺に分かるわけ無いでしょ。強いて言うなら身体が頑丈だったとかじゃないですか?あと俺は一般人ですよ……多分。」
親の顔も知らないからなんで音也ってつけられたのか分からないが多分そういう事だろ。知らんけど。
「はあ、兎に角この3月中は検査とリハビリの為に入院してもらうよ。リハビリは要らないかもしれないが。」
その後は採血とレントゲンの日程を知らされ俺は病室に戻ろうとしたが、
「そうだ、これだけは伝えておかないとな。」
「はい?なんですか?寝起きで頭が回ってないからこれ以上は覚えきれませんよ?」
「なに、ちょっとした世間話さ。君と一緒に運び込まれた巴マミくんだけどね。この半年間ずっと君の病室に通い詰めていたよ。『私のせいで猿渡くんはこんな状態になったんだ』ってね。………、私の方から連絡はしておいた。もうすぐ到着するだろう。それだけ動けるなら下まで降りて出迎えてやれ。スタッフには通しておく。」
「……、ありがとうございます。」
そう言って診察室を後にし、エレベーターを使い1階へと降り正面玄関を出る。あいつずっと通ってたらしいけどクラスで上手くやってるのか?まあ、引き籠もりの俺が言えたことじゃないけど。
「猿渡くん!」
そう叫びながら巴は俺に飛びついて、俺は支えきれずに押し倒されてしまう。
「ちょ、巴。病み上がりなんだから飛びつくのはやめろ。いや別に身体は問題ないけど身体弱ってるから支えきれない。」
「ご、ごめんなさい。でも、でも!ずっと怖かった!お父さんもお母さんもあの事故で死んじゃって!猿渡くんだって目覚めなくて!もうこのまま一人ぼっちになっちゃう気がして!帰っても誰もいなくてぇ、寂しかったよぉ。」
………。そうだよな。おじさんとおばさんは助からなかったから。巴には俺しか残されてなかったんだ。だったら
「ごめんな巴、ひとりにして。でもこれからはずっと一緒にいる。楽しい時も辛い時も、ずっっといっしょだ。だから安心しろよ。俺が…」
そう、俺が
「お前を支え続けるから。」
そう言った途端、巴の顔が真っ赤に染まる。
「え、ずっと?ずっと一緒?そ、それってぷ、プロポーズ………。」
ぷろぽーず?プロポーズ?プロポーズ!?
「あ、えっとそういう意味じゃなくて…いやあのその……。そ、そう!幼馴染みとしてさ!?部屋も隣同士だし!?」
「あ、そ、そうよね……。」
や、やめろぉ!そんな捨てられた子犬みたいな顔をするなぁ、そんな顔されても……。俺みたいなイレギュラーじゃ巴を幸せには出来ないんだよ………。
「……まあ、取り敢えず病室に戻るか。詳しい事はそれからだ。……、そろそろ人目も気になって来たし。」
そう。お互い気を向けていなかったがなんとここまでずっと巴は俺の上に馬乗りのまま会話していたのである。そりゃあめっちゃ見られるしくっそ恥ずい。
「え!?う、うん!そうね。ほ、ほら!掴まって?」
どうやら巴も気付いたようですぐに俺の上からどき、俺に手を差し伸べる。俺はその手を握ってそのまま引っ張られ、体が浮く。
「と、巴!?速いからぁ!俺浮いてるからぁ!?」
「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……。」
いやこのまま病室まで行くほうが恥ずかしいからぁ!
「マジで止まれ!?危ないから!他の人にぶつかるからぁぁぁぁ〜!?」
結局巴はそのまま病室まで突っ走り、このあと滅茶苦茶俺まで叱られた。なんかリア充爆発しろとか言われた、解せぬ。
「……と、いう事であと1ヶ月は入院生活だってよ。それからも暫くは通院して検査しないといけないらしい。…、面倒くさいけど。」
それから病室にて、俺は巴にこれからの事を話していた。
「面倒くさいなんて言わないの!さっきも言ったけどずっと心配してたんだから。まあ、猿渡くんらしいとは思うけど。フフッ」
そう笑う巴の顔は何処か雪のように儚げで、春の日差しで溶けてしまいそうなほど冷たく感じた。やっぱりもうあの時……。
「なあ、巴。お前なんか俺に隠してるだろ?」
「っ……。なんの事かしら。別に隠してることなんてィないわ「じゃあその指輪はなんだよ!」こ、これは…、その……。」
誤魔化そうとした巴に指輪について問い掛けるとついに彼女は押し黙る。
「それになんだよお前の肩に乗ってる白い獣は。俺とお前以外には視えてないみたいだし明らかに怪しいんだよ!」
だんだんと口調が強くなっていく。
「な、なんでキュウべぇが視えてるの?魔法少女やその資質がないと視えない筈なのに……。」
やっとボロを出したな。
「答えろ、巴。俺が眠っている間に何があった!」
最後とばかりにそう叫ぶと、巴が俯いた代わりにとうとう白いクソ生物が口を開いた。
「まさかボクが視える男の子が現れるなんてね、流石に予想外だよ。」
「へえ〜。で?お前は何者だ。」
「ボクはキュウべぇ。早速だけど君は魔法少女の存在を知っているかい?」
まだ猫は被るか……、まあいい。本性は巴のいない時に暴けばいい。
「いいや、知らないな?」
「だよね、よし!1から説明していこうか。」
ああ、さっさと話せ。もし…もしアニメと違う事があるなら…これからの行動も変わってくるからな。
「ボク達キュウベエは普通の人には視えない。視えるのは魔法少女の資質がある10代未満の女の子だけなんだ。ボク達はその少女達の願いを叶える。その代わりに生み出されるのが、ソウルジェム。それを手にした者は魔女と戦う運命を課される。マミの指輪はそのソウルジェムでいうなればカモフラージュかな。形状は人それぞれだけどね。」
建前上の説明をキュウべぇは続け、
「さて、ここまでで質問はあるかい?」
「そうだな……。魔女ってのはなんだ?まさか童話に出てくるようなババアじゃないだろう?」
キュウべぇの質問にそう返す。
「そうだね。魔法少女が希望を守るなら、魔女は絶望を振りまく存在、かな。」
そこで巴がようやく口を開いた。
「…例えば、ね。理由不明の自殺とか、突然の災害、それと行方不明事件なんかも、大半は魔女によって引き起こされてるらしいの。あの事故だって…魔女さえ存在しなきゃおこらなかった。」
「………それを倒すための魔法少女って訳か。」
「その通り!魔女を野放しにすれば、この世界に待つのは残酷な滅びだけ。だからこそ、魔法少女は必要なんだよ。」
「だから、私は戦うの。もうこれ以上パパやママみたいに魔女に殺される人がでないために。」
「いつか死ぬかもしれないとしても、か。」
巴は首を縦に振り、俺の言葉を肯定する。やっぱ、覚悟を決めた巴を止めるのは無理か。
「……そうか。じゃあ俺も手伝うわ。」
「え⁉だ、駄目よ!猿渡くんは魔法少女じゃないんだから「じゃあ幼馴染みが死ぬかもしれないのに俺には何もできないのかよ!」で、でも……」
「な〜に。あくまでサポートに徹するよ。俺、ただの引き籠もりだし。」
「そ、それなら…いいの、かな?」
「いいんだよ。だって俺達……
幼馴染み、だろう?」
巴が魔女如きに殺されるなんて認めない。巴の為なら、俺はなんにでも
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