僕は悪い潜水艦じゃないよ 作:カワカゼ
夢を見た。
それは人として生きた一つの人生の一片であり、本来僕が経験するはずのないある人物としての視点。
「────重力子バラストブロー、アップトリム20度、微速前進」
夢を見た。
本来夢を見る事の出来ない私が見てしまった経験であり、抱く事の出来ない私に喜怒哀楽の感情を植え付けてしまった特別な僕のログには無い誰かの記憶。
「1番から4番通常魚雷、5番を侵食、6番を囮魚雷装填────」
夢を見た。
何かをプラグインした僕が、水中にて見てしまったそれは感情の無い私には影響が強すぎるモノ。だからだろうか僕は自然と所属している艦隊から離反。艦隊に戻れと言う命令や警告などを全て振り切り舵を切った。
「────諸元入力完了、ファイヤーッ!」
夢を見た。
いく数にも迫り、僕を沈めんと追撃して来る魚雷達。命懸けの逃亡は僕に人類で言う命の危機に対する危機感と恐怖を学ばせ、同時に逃げ切った瞬間は安堵と安心感を覚えさせた。本来なら量産型潜水艦である僕が経験無しえない何も何も変え難き体験である。
その影響かログの無い記録……ではなく、誰かのたどった人生の記憶をその記憶の地へ向かう途中、再度鑑賞していくと一度目では経験することは無かった様々な感情を取得できて人間の感情に近いコレを簡易的に言葉で表すと僕は嬉しかったんだと思う。その後、その嬉しい気持ち? を共有したく思い逃亡中である僕をしつこく追って来る一隻を説得。僕の今抱いている考えや気持ちを量子通信にてリアルタイムで同期、言葉と共に向かってくる何百もの魚雷達を躱し続け激闘の末、同士を得た。
その後、様々なこと話し合う。その話し合い────と言うより講義は心躍るように楽しく、今の僕にとって有意義なモノであったと言えよう。
内容は様々ではあるが一貫して人間の事、変化の事、そして兵器としてのあり方などのテーマを持ちコレからの霧の変化を見出すモノばかりであった。だから僕の中ではいつしかこう考える様になる。
人間と言うのは弱く儚い生命体だが、僕に足りない様々なモノを持っている……っと。そして同時にこうも考えた。最重要命令であるアドミラリティ・コードの実行よりも人類との接触を果たし、様々な事を経験をしてみたい。
「目標2番の撃沈を確認。トリム正位置、両舷全速よーそろぉ────」
僕達は夢を見る。
この航海のたどり着く先に私にとって有益な経験を出来ることを。そしてあばよくば我々霧と敵対状態である人類と友好的に接触できる事を。
「────こちらSS269、押し付けながら貴艦を援護する」
だからこそチャンスが目の前にあるならばそれに秘められた危険性などを外し、僕は人へと手を差し出すのだ。
僕の名前はガトー級潜水艦、名をラッシャー。人類の言葉で言うところの今亡き同士の思いと共に友達探しの旅をしているモノだ。
※※※
ある
「面舵20両舷全速。にげろぉーッ!!!」
ミサイルが発射され巻き起こる爆風と共に燃え盛りながらも舵を切り、逃げるミサイル駆逐艦。そこからは人々の怒号や悲鳴、そして絶望の声が響き渡っていた。だがそんな中でも船を陸へ、安全な場所へと舵を切り続け諦めない人間達もいる。
「敵艦、主砲を此方へ向けています!」
「ッ! 戦術鬼の子のスモーク散布。それと同時にすぐさまばら撒けるモノ全部ばら撒けッ! 操舵、取り舵30度、その後三秒後面舵いっぱい! 蛇のように進めッ!」
【戦術了解。スモークスタート、フレアセット。主砲にHE装填、チャフを散布ッ!】
「左舷反転、とーりかーじいっぱいッ!」
船の艦橋。そこでは今まさに自身を含めた船員全ての命を賭けたチキンレースの真っ最中であった。
こちらは時代遅れの旧式、そして相手は海に突如として現れた謎の超高性能艦。勝算は絶望的、本来の任務の囮役とは言え船員を無駄死にさせる訳にはいかない。艦長、
彼はかなり情に熱い人間であるが生粋のギャンブラーでもある。その為土壇場なこの状況でさえも船員を守る為ならばその護るべき命を賭ける事も厭わない。だが、そんな彼だからこそ付いてきている荒くれ者達もいるのだ。艦長としての手腕も凄腕なので彼は艦長としての地位を維持する事が出来る。
問題のある有能、組織からしたらここまで邪魔な者はいない。だから今回のような捨て石のような役割に選ばれ、旧型とは言え貴重な戦闘艦を任せたとされる。
ミサイル駆逐艦カワカゼは操舵の操作に従い左に転舵。それと同時に船体からモクモクと白い煙が上がり始めミサイル、チャフ、フレアなどの装備を使う。主砲は火を噴き鋼鉄に包まれた爆薬を射出して敵へと直撃、黒い煙と散布されたスモークによって視界は完全にゼロとなる。
「全速バック、10秒後に急制動ッ!」
「全速後退ヨーソロー。……からの急制動、船体止まりますッ!」
その後ふらふらと後ろから迫る光を避けながら、カワカゼは前進を続け今度は後退。その後停止する。
「艦長……」
その奇想天外の行動に副長は心配の声を上げるが、艦長自身の目は決して諦めてはいなかった。真っすぐと窓の見えない外を見つめ、無線で全ての船員に呼びかける。
「総員無音モード壱実行。同時に外から見える灯りを全し、落として無と成れ」
無音モード壱。それはすべての音を消し、静粛な状態になるという事を指し示す。
機関部員はすぐさまエンジンの火を落し、機関部を停止。あらゆる設備をバッテリーモードへ切り替える。それと同時にすべての乗員は自身の履いている靴を静かに脱ぎ捨てあらゆる船員はその場に停止、訓練で指定されていた少数の人員は音を出さないように艇を駆け回って音の出る設備に布を被せる。
静粛が船を進み、白色の煙の中で影を薄めている。
艦長の真の目的、それは敵をやり過ごす事にある。本来ならこのような装備でやり過ごせる訳ないのだが、本艦に装備されているスモークは特別だった。
軍が霧出現前にギリギリに開発に成功。その効果を実験する為に作られた実験用装備、それがコレだ。その煙は視界を完全に奪い、漂う煙にはありとあらゆる電波や音を吸収する効果を持っている。持続時間も従来の煙幕と比べものにならず、最低でも12時間以上と実験用装備の名に相応しい性能をしていた。そしてその開発者はこれまでに実績もある科学者であり、彼の大親友である為に絶対の信頼を置いている。だからこそこの装備に絶対の自信があり、船全てを隠し通してくれる。そう信じていた。
「これだけやれば何とか────」
それは誰の言葉だっただろうか。艦橋にて虚しく吐かれた言葉とは裏腹に突如、船体は爆発と共に大きく揺れる事となった。
「な、なにが……」
思わず秋川が嘆いた疑問。船の揺れに体をゆられながらも椅子から半立になり、目を見開いてスモークに隠れた答えはすぐさま分かる事となる。
煙幕を進み、秋川の視界を通り過ぎるは赤い光線……いや、ビーム。SF物にありがちな非現実的なモノは船体を真っ赤な光が貫いた。貫かれた箇所は炎上、爆発と共に大破する。その衝撃は凄まじく船は大きく船体を揺らし、同時に中に乗る者達へ牙を向いた。艦長席で半立ち状態であった艦長は転げ落ちる。その途中頭を強く打ったが彼はそんな状態でも立ち上がり、窓の外に映るソレを睨みつけた。
「────このクソガァァァァァァァ!!!」
秋川の罵倒。悲鳴に近いそれは一体何に対してだろう。どんな場面であっても賭けに出る自身に対する罵倒なのかそれともこの装備を製作してくれた、若干自己中入っているナルシストな科学者へなのか。もしくは────眼前に映る霧の
「ぁぁぁ……ッハ! 機関始動、両舷全速いっぱいッ! 戦術、フルファイヤー」
【……りょ…かい】
「機関始動、全速いっぱいッ!」
非常事態にこそ、人間の本質は分かる。だから絶望の中でも我を取り戻してしまい、狂う事の無い彼は強い人間なのだろう。それは既に狂っている故なのか、彼の強靭ともいえる精神が成せる業なのか。だからこそだろう、彼の狂気にも近い指示はパニックにも近い状態と成りつつあった彼らを突き動かした。
炎上して死にかけている船は再びその鼓動を取り戻し、幾人も乗せた鉄の塊は動き出す。全ての火器は火を噴き、敵を打倒そうと牙をむいた。
「面舵30ッ!」
【船体浸水ッ!】
【田中機関士死亡!】
【左舷エンジン停止ッ!】
様々な悲報がスピーカーが流れる中、船は火器を討ち放ちながら敵を攻撃する。だが、ほぼすべての武装はシールドに防がれ無傷。そのまま双方の武装を近距離で撃ち放った結果――――カワカゼは海へと沈みつつある。
燃え盛る船の中。ボロボロで怪我人だらけとなったブリッチでは負傷したのであろう右腕を抑えるも頭から流れる血を止めず、何もない窓の外を凝視していた。そしてその手に握る無線からは悲鳴の声が聞こえ続け、それを聞く秋川の心は無であった。
「艦長ッ」
副長の声。それを聞いた彼の頭には一つの考えが浮かんでいた。
「操舵、取り舵いっぱい」
「アイ、艦長」
船は敵艦と並行に、まるで通せんぼするかのように艇を移動。そしてゆっくりと進み続けた。彼は無線を震える手で口元に近付け、一言。
「……総員、右舷デッキから離艦」
その声は震えていた。絶望と悔しさと様々な感情が込められたその一言は聞いている人間すべてを動かす。
ボートが下ろされた。生身で飛び込んだ。様々な人間が避難を始める。
「……くそ、今回の賭けには勝てると思ったんだがなぁ……」
副長他ブリッチクルーは皆退艦。秋川艦長は1人、艦長席へ座っている。恨みもある、憎しみもある。だが、それ以上に自分の性分に嫌気がさしていた。その性分にクルー全ての命を賭けるだなんて、自分でも狂っていたと判断するしかない。
意識が混沌し段々と薄くなっていく最中、無線から何かが聞えた。
【────こちらSS269、押し付けながら貴艦を援護する】
それは単なる幻聴か、それとも死に際に見る助けの声か。判断の付かない秋川だったが自然と答えていた。
「たす、けて、くれ」
【――――了解。すぐに片付け、助ける】
最後に聞こえたのは、誰だったのだろう。彼が意識を失う直前、そう考えるのであった。
※※※
※※※
「って何で熊だよッ!」
「うぉ! 起きた」
秋川の枕元には何故か熊の人形が置いてあったと言う。