貪底にて   作:Y-K4183

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第2話

「……?」

 

 目覚めた。

 何故? 

 疑問が浮かぶが直ぐにどこかへ行く。

 手足を動かそうとして、激痛が走る。上体を起こすだけでも一苦労だ。

 起き上がった所で少女は辺りを見渡した。視界に入ったのは、妙に広い部屋。

 だだっ広く、その割に物が少ない。部屋の中央に置かれた円形の机と、隅に置かれた冷蔵庫。

 それだけがその部屋に有る物だった。

 

「起きたか」

 

 声のした方に振り向く。

 あれがいた。

 さっき自分の意識を吹き飛ばした何か。圧倒的な力を持って、自分より遥かに強い。

 

「殺さないでください」

 

 少女の口から命乞いの言葉が漏れる。

 少女はその言葉の意味をよく知らない。

 だが、死がどういう物かは知っている。そして、その言葉は死ぬ前の物が良く使っていた言葉だという事を、知っている。

 

「殺さねえよ、テメエみてえな雑魚なんざ」

 

 フン、と男は鼻を鳴らす。

 

「しっかし、お前、弱えわりに頑丈だな。俺が二回蹴ったってのにまだ生きてやがる」

 

 ……? 

 少女に男の言葉の詳しい意味は解らなかった。が、男に自分を殺す気が無いのは分かったようだ。

 何度か腕を動かそうとしているうちに、痛みが引いてくる。どう考えてもあり得ない速度で傷が癒えているのだ。

 だが、少女にとっては不思議でも何でもない。寧ろ、先ほどまでの傷ついていた状態の方が異常だ。

 その内、痛みは引き、足も動くようになったので少女は立ち上がった。

 しかし、特にそこから何をするわけでも無く、唯呆然と佇んでいるだけだ。

 

「……私は、何を、したら、いいんでしょうか?」

「知るか」

 

 少女の疑問を男は切って捨てる。その時点で少女は首を傾げたまま動かなくなった。

 数分程、少女はその場に佇み続ける。不意に、少女の腹が鳴った。

 

「……お腹が空きました」

「あっそ」

 

 その言葉も男に切って捨てられる。男は既に少女に興味を無くしていた。

 

「何か、食べるもの、有ります?」

「冷蔵庫に肉なら入ってるぞ」

 

 そう言われて少女は辺りを見渡す。が、少女に冷蔵庫の知識は無い。

 

「冷蔵庫って、何で、す?」

「あれ」

 

 男は部屋の隅にある冷蔵庫を指でさす。それでやっと少女は理解した様だった。

 歩み寄り、扉に手を掛ける。途轍もない力で引かれた扉はあっさりと冷蔵庫から外れた。

 

「……?」

 

 取れた扉を掴み、不思議そうに少女は見つめる。何度か振り回し、あっさりと扉が取っ手から引きちぎれ、中を舞う。

 壁に叩きつけられた扉は大きな音を立てた。

 だが、男はそれにも興味を示さないようで、部屋の中央近くに座り込んだまま明後日の方を眺めていた。

 少女は手に残った取っ手を不思議そうに眺めると、それを放り投げた。

 少女は冷蔵庫を覗く。中にはほとんど物が入っていない。故に、少女でもあっさりそれを発見する事が出来た。

 肉の塊があった。

 凡そ人が食べられるように加工されていないそれに、少女は食いつく。

 噛み、引きちぎり、飲み込む。

 何度かそのサイクルを繰り返した所で肉は全て少女の胃へと消えた。

 

「……」

 

 肉は無い。だが、まだ腹は減っている。

 

「足りません」

「知るか」

 

 その言葉も男に切って捨てられる。だが、今度は少女も譲らない。

 

「何かありませんか?」

「ねえよ」

「……」

 

 少女は無言のまま男へ近寄り、その体へ食いついた。

 瞬間、衝撃が走り少女の体が壁へ叩きつけられる。

 食いついたはずの口内には血の一滴さえついておらず、顔には激しい痛みがある。

 男が目にも止まらぬ速さで少女を殴り飛ばしたのだ。

 

「何だこのボケ!」

「……お腹が空きました」

「知らねえよ! 適当に喰ってろ」

 

 拳を振りぬいた姿勢から再び座った体勢に戻る。流石に噛みつかれたら鬱陶しくは思ったようだ。

 少女は破壊痕が残った壁から降り、また呆然と立ちすくむ。

 

「……ご飯は何処です?」

「どっかに有るだろ」

 

 投げやり極まる男の言葉だが、少女は動き出した。

 緩慢な動作で家を出て、どこかへと歩き出す。数分後、悲鳴と絶叫が外から響いてきた。

 

 開きっぱなしの扉を通り過ぎ、少女が男の家へ戻ってくる。体中血塗れであり、床へ多量の血がしたたり落ちている。

 男はそんな状態の少女をチラリと見ただけで、特に何もしようとしない。

 少女の方も体中に付着した血に気を止める事無く家へと上がり込み、座り込んだ。

 そのまま二人とも、特に何かをすることなく時間が過ぎていく。

 天高く有った太陽がゆっくりと降り初め、遂には完全に沈む。辺りを闇が包み、夜が訪れた。

 だが、二人は動かない。男は変わらず座り込んだまま気力を感じられない目でどこかを見ている。少女も、体に付いた血を落とそうともせずに座り込んだまま虚空を見続けている。

 その状態に動きがあったのは朝になってからの事だった。

 日輪が上り、辺りを日の光が照らし始めた頃、ようやく男が動き出す。

 徐に立ち上がり、家の外へと歩き出す。少女はそれを目で追っていた。

 朝を過ぎ、昼になった頃。少女の胃が再び空腹を訴え始めた。男は居ない。

 辺りを見渡し、少女も歩き出す。向かう当ては無い。無いが、適当に辺りを歩いていればさっきの様に人を見つけることもできるだろう。

 そう考えて歩き始めた少女だが、少し歩いたところで足を止めた。

 さっきの男だ。

 手には何か持っている。

 

「……何だ」

 

 少女が、持っている物をじっと見ていると男が声を掛けてきた。とはいえ、別に少女は何かをするわけでは無い。

 少女が何もしないことに気付いた男はまた歩き始めた。少女はその後に付いて行く。

 家に入って、男はちゃぶ台の上に荷物を置き、中身を広げる。

 中身は極めて単純な部類の食料だ。男はそれを掴んで適当に口に放り込む。

 と、後ろから腹を減らした少女が食料へと食いついてきた。

 男は飛び掛かって来た少女の顔を掴むと、壁へと放り投げる。

 

「邪魔すんな、雑魚」

「お腹が空きました」

 

 少女の言葉に男は深く溜息を吐き、買ってきた食料の一つを投げ渡した。

 受け取った少女は包装ごとそれに食らいつく。

 バリバリと音を立てて包装諸共食らいつくした少女は、男に向き直って、言った。

 

「足りないです」

「知るか」

 

 男にこれ以上食料を渡す気は無いようだ。

 流石の少女もそれは理解したようで、家の外へと食事をしに行った。

 程なくして、犬や人、鶏などの悲鳴と咀嚼音が響き渡る。帰って来た少女は、昨日と同じく全身に血をしみこませていた。

 男はそんな少女を拒絶することも、深くかかわろうともしない。少女も、男へ何もしようとはせず、家へと居突く。

 奇妙な同棲が始まった。

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