轟音と共に扉が吹き飛び、進路上の全てをなぎ倒していく。破られた扉から、男が姿を見せた。
「ここが俺を殺せっつった連中の場所か?」
「はい」
少女が男──ウォーズの問いに答える。
「なら遠慮なくぶっ殺せるな」
最初から遠慮等する気のない声色でウォーズは言い放つ。そして、その言葉通りに辺りの物を手当たり次第に壊し始める。その中には、人間も混じっていた。
悲鳴を上げる間もなく、逃げ遅れた研究員や向かってきた警備の人間がウォーズの手によってただの飛び散る肉片となっていく。少女は時にその肉片を食らい、時に捕まえた人間を食いちぎった。
有り余る破壊をばらまきながら進む二人を止めようと、ここで研究されていた兵器が投入される。
一体、二体、三体…… それぞれが戦車十両にさえ匹敵する超生物が解き放たれ、数百kmもの速度でウォーズに襲い掛かり……
三体が纏めて蹴りの一撃で粉微塵に粉砕される。少女もその生物を食おうとしたが、細かすぎる肉片は食べにくく、直ぐに諦めてしまった。
「何だあれは!」
「ウォーズが何でここに!」
「助けてくれ!」
錯乱しながら必死で逃げようとする研究員に、少女が食らいつく。あっという間も無く十数人の人間が少女の胃袋へと収まった。
「何だつまらん、もう少しマシなのはいねえのか!」
苛立ったウォーズが壁を蹴り破る。その一撃は直線数十mに渡って全てを貫いて行った。
「……おなかい、っぱいです」
膨れた腹を抱え、満足そうに少女が呟く。
「おい、ここもう少し強ぇ奴は居ねえのか」
「……確か私が最強とか言われていたような気がします?」
眉を顰めた男は、落胆の溜息を吐く。
「わざわざ出向いたのに何だ、ただちょっと固ぇこいつが最強程度かよ」
「あんまり遠くなかったで、す」
少女の言う通り、二人は居た家から左程遠い所には来ていない。
この研究所は二人の家から精々が一キロ程度しか離れていなかった。
「カス潰しても何も面白く無ぇ、」
帰るぞ── 男がそう続けようとした途端、設置されたスピーカーから声が響き渡った。
『心外だな、まだ幾つか試験品は残って居ると言うのに』
研究所全体が急激に下降を始める。最早落下にも近い速度で百m以上の高さから一瞬で叩きつけられた研究所は粉々に粉砕される。
だが、ウォーズと少女にはかすり傷一つさえ付いていなかった。
「今更こんなので怪我の一つでもするとでも思ったのか?」
研究所が下降してきた大穴が閉じ、辺りが暗闇に見たされる。
『まさか、これは単に移動しただけだ、実験場にな』
声が終わると同時、無数の生物がウォーズへ殺到する。
それは蜂だ。
一匹一匹が象さえ殺しうる途轍もない毒を持たされた蜂が、黒い煙の如き数で襲い掛かる。どんな生物でさえ即座に死ぬだろう。
だが、
「Warrrrrrrrrrrrrs!!!」
男の咆哮が轟き、その衝撃で蜂が粉々に砕け散っていく。ほんの一瞬で蜂の群れは死に絶えた。
『規格外にもほどが有るな。だが、これはそう簡単にはいかんぞ』
瞬間、音の数十倍の速さで弾丸が飛来した。一寸先さえ怪しい闇の中に、何かがいる。
恐るべきはその静音性。異常な感覚を持つウォーズと少女さえ、その弾丸が放たれるまで暗闇に何かがいることを悟れなかった。
「はっ」
嘲る声と共に、ウォーズが埃でも払うように弾丸を弾き飛ばす。吹き散らされた弾丸が暗闇の向こうの何かに当たり、異音を立てた。
闇の中より、銃弾を放った何かが姿を見せる。
蛸に蝙蝠の翼が生えたような奇怪な生物。それに幾つもの銃座が取り付けられている。何本もの足を使って動き回っているが、そこに一切の音が立っていない。
完全な無音で動き、闇の中でも正確に標的を捉え、音を遥かに超える速さの弾丸を放つ。この生物に狙われたなら如何なる相手でも死は免れないだろう。
しかし、この男は違う。
「ちまちまめんどくさいのを出しやがってよ……」
先ほどの弾丸より速く生物へ駆け寄り、
「そもそも威力が無ぇんだよ!」
蹴りつける、ただ一撃で生物ははじけ飛んだ。
『ふむ、お前を殺すには破壊力が足りないと。成程、考慮しておこう』
ウォーズが飛びのく。一瞬遅れてウォーズのいた空間を何かが切り払った。
『だが、これならお前にも十分通用する破壊力を持っている』
まるで人型の蟷螂だ。両腕の鎌、無機質な目とキリキリ動く頭部、体格に反して異様に細い足。どの要素も人よりは昆虫を想起させる。
その生物が恐ろしい速度でウォーズに襲い掛かる。
初手は右の鎌。ウォーズはそれを躱し、返しの拳を突き入れる。
ガキャン! と異音が響く。生物は左の鎌で拳を防いでいた。
間髪入れず右の鎌が連続して振るわれる。その全てをウォーズは回避した。
『防戦一方だな。流石にそいつの攻撃は効くようだ』
響いた声に反応せず、ウォーズは生物に蹴りを放つ。再び異音が響き、生物が大きく後退した。蹴りは鎌で阻まれている。
二度、この生物はウォーズの攻撃を防いだ。にもかかわらず、防いだ箇所には何の損傷も無い。
「やたら硬いな。まあ」
そこまででもないな! 吼えたウォーズが腰だめに構えた正拳を放つ。
だが、この生物はその拳にも正確に反応する。両手の鎌を、向かってくる拳へ振るい……
ガラスが割れるような音が響き、鎌が砕け散る。そのまま突き進んだ拳は当然の様に生物を血煙へ変えた。
「これで終わりか? ならさっさと姿見せて死ねよ」
『いや、凄まじいな』
明かりが灯り、辺りの様相が露わになる。妙に白い、無機質な空間。その最奥に、何かが座り込んでいた。
「
スピーカーから響いた声と同じ声が、座り込んでいる何かから放たれる。同時にウォーズがガクリと膝を付いた。
「ようやく効いてきたようだが……全く、呆れるほどに強靭だな」
ほんの一ミリリットルで世界中の生物を殺しきれる毒ガスなのだが……
何かは、あっさりと言い放つ。
見れば、当の昔に少女は倒れ込んで意識を失っている。ウォーズですら膝を付く程の毒が蔓延した空間。そこを、何かは悠々と歩いてきた。
「さて、お前はこの状況をどうにかする手段が有るかね。ウォー