貪底にて   作:Y-K4183

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第6話

「ったく、めんどくせえ」

 

 粉々になった顔無の死体。その上でウォーズが溜息を吐いた。

 

「大して強くもねえんだから勝手に死んでろや」

 

 蹴撃。

 轟音が響き、死体の残骸諸共研究所が吹き飛んだ。残されたのは、少女。

 

「……やっぱ頑丈だな、こいつ」

 

 ウォーズはその少女を拾い上げた。最初の邂逅と合わせ、これで二度目。態々ウォーズはその少女の命を助けていた。

 

「やたら頑丈なんだよなー、こいつ」

 

 ウォーズの記憶する限り自身の攻撃をまともに食らって耐えていた者は先ずいない。

 少し前の千桜との一件で殴りまくった蛇女も相当だったが、アレはまだ自分の体に結界を張っていた。一撃直に当てていれば即死は無くとも、瀕死にはできただろう。

 だが、この少女はまともに二撃与えても生きていた。それどころか物の数時間後には起き上がって来ている。

 ウォーズの知る限りでは最も耐久力のある存在だと言っていいだろう。

 

「まあ硬ぇだけの雑魚だが」

 

 ウォーズは少女を投げ捨てる。弾丸どころか隕石の如き速度でかっ飛ばされた少女が、残って居た研究所の残骸に直撃しひびを入れる。

 と、そこで少女はうめき声を上げながら起き上がって来た。

 

「……あれ、お、わりましたんですか?」

「あー、終わったよ、そら、帰るぞ」

 

 そう言ってウォーズは歩き始める。少女は少しの間虚空を眺めると、とてとてとウォーズの後を付いて行った。

 

 

 

 研究所跡地を出て少し、家はもうすぐだ。と言う所でウォーズは落ちている雑誌を見つけた。

 

「うーん……」

 

 何かを考えるようにウォーズは唸る。

 

「……? どうしたんですか」

 

 初めて見るウォーズの様子に、少女が疑問を投げる。

 

「いや、お前の名前決めてなかったと思ってな。ねえと呼びにくいだろ」

 

 そう言って見つけた雑誌を拾い上げ、ウォーズは再び考え込む。

 

「別に何でもいいです、よ?」

「お前に聞いてねえよ、俺がどう呼ぶかって話だ」

 

 無茶苦茶な理屈を吐き出しウォーズは雑誌を手に名前を考える。

 二、三秒考えた後、ウォーズは一つの名前を口にした。

 

黒影闇夜(くろかげ あんや)ってのはどうだ?」

「いいとお、も、います」

 

 なら決まりな、とウォーズは雑誌を地面に投げ捨てる。少女がその雑誌をすれ違いざまに眺めるが、字が分からない。

 そこに書かれていたいくつかの名前に今少女に付いた名前と全く同じものが有ったが、少女は気付かない。何なら気付いても気にはしない。

 色々な意味で無頓着な二人の前に、家が現れた。自宅だ。

 特に何も言わずにウォーズが上がり込む。そして、少女──黒影闇夜はウォーズの後に続いて家へと帰宅した。

 ──この日から貪底街は更なる荒れ具合を見せることになる。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、やっと帰ったか」

 

 闇の中。何かがぽつり、と呟いた。

 張り詰めていた緊張が解ける。

 研究所跡地。その地下。ウォーズの開けたマントルまで続く穴の間近、そこに隠し部屋があった。

 

「しかしあの作戦でも勝てないとはな。おかげで私が一人、減ってしまった」

 

 何か──研究主任、そして所長──は疲れた様子でそう言った。

 実際、勝てる算段ではあったのだ。

 態々こんな予備を残す必要は無かった……が。

 予想は覆った。ウォーズは遥かに規格外で、世界は彼の想像より遥かに広く、深く有った。

 

「しかしまあ……まさか法則を超越した存在が生まれるとは」

 

 彼の予想では世界の物は世界の法則に縛られ、決して脱却出来ないはず……だった。あの災害(ウォーズ)を間近で知るまでは。

 

「こうなると他の例も調べなおさなくてはならないな。全く、()()()()()()()()()ここまでやることが多いのは初めてだ」

 

 そう言って闇の中で彼は何かをし始める。

 まるでパソコンのキーボードを叩くような動作、しかしその指の先には何もない。

 だが、何かが動く。見る見るうちに隠し部屋はその機能を露わにしていった。

 何千もの実験機構、大規模な演算装置、培養槽……

 その全てが一斉に稼働を始める。今現在の地球にある科学を遥かに置き去りにした物がここには有る。

 そこに、一本の電話がかかって来た。相手は不明。だが、彼には誰だか分かっていた。

 

「やあ、君か」

「はい、私です」

 

 その声には一切の感情が含まれていなかった。合成音声さえまだその声よりは人間味があるだろう。

 

「どうですか、殺せましたか?」

「知っているだろう、無理だったよ」

「そうですか……」

 

 どことなく残念そうな雰囲気を声は滲ませる。とはいえ、十分に感情はうかがい知れない。

 

「しかし最近は便利だな。一々何千時間をかけて私を語り続けなくてもボタン一つで私が作れる、良い時代になったよ」

「おや、古き良きと言う言葉もありますよ? 昔ながらの方法も使ってみたらどうです、千年以上その方法を使っていたんでしょうし」

「勘弁してくれ」

 

 心底うんざりした様に所長は手を振った。

 

「時間がかかりすぎる。最初など大変だったのだ、声は枯れるわ相手は倒れるわ……一人増やすだけで五年かかった、今更あの頃に戻れるか」

「レコードでも使ったらどうですか?」

「……確かにあの発見には驚いたがね、態々今使おうとは思わんよ」

 

 大きく息を吐き出し所長は電話の相手に話を続ける。

 

「それよりも、今度君の所に居る奴を一体貸してくれないか? それが有れば研究が一気に進む気がするんだ」

「進みますが貸しません、ご自分でどうぞ」

「……態々電話をかけてきてそれか、嫌われるぞ」

「おや、一々そんな事に腹を立てていたら研究者は務まりませんよ、どんな不条理な事にも事実なら納得しませんと」

 

 ハア、と再度ため息を吐き所長は話を切り替える。

 

「要件は」

「大型の破壊榴弾をいて座の方向に」

「了解した」

 

 当人たち以外に理解しがたい会話を残して、通話は終了した。

 

 所長は部屋の天井を見上げる。特に何かが有るわけでは無い、しかし考え事をするときは見上げる事が癖になっている。

 

「……何時か届いて見せるぞ、神よ」

 

 矢張り発した当人以外には理解しえない言葉を漏らす。

 彼は何かを目指している。彼は何かをしようとしている。

 彼に名は無い。顔も、声も、姿も無い。ただ目的だけが存在する。その目的のために彼は存在している。

 彼に名は無い。だが、彼の研究所に名は有った。古い、古い時代から変えていない。それは彼の夢の出発点、初めの彼が作った秘密基地。名を……ルキシア。

 彼の研究は進み続ける。

 

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