マックス・ウェーバー『デモクリトス』
……緑だ。第一印象である。周りは鬱蒼としたジャングルのようだ。アスプレニウム、アフェランドラ、トラデスカンチア等々。ふと思い出した植物達の名から、ここが熱帯であることを知る。しかし、熱帯ならではの暑さを感じないのは何故なのか。そもそも何故身一つでジャングルにいるのか。そんな疑問は生暖かい風が吹いた瞬間に朧げになって消えてしまった。目の前にはヒトが踏みならした跡のある道のようなものがあった。その他には特筆すべきものはなく、何の生物の気配もしない。探索を始めようと足に意識を向けようとするが感覚がない。自身を視認するため視線を下げる。いや、下げようとはしていたが下がらない。そこに、先程まではしなかった気配がした。何か自分に言っているようだが、生体器官が存在しない自分には理解不能だった。いつの間にか、考えることを放棄していた。訳の分からない環境や自身の変化により混乱したようだ。話を聞き流していると、風が吹いてきた。スコールである。世間ではジャングルで急に大量の雨が降ることをスコールと捉えているが、正確には激しい天候変化を伴う急激な風速の増加現象のことである。基本雨や雷と共に起こるが必ずではないところがミソだ。…どうでもいいことを考えていた。あまりの風に
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人の個性。それはさまざまなものがある。話し方、見た目、性格、センス、身体等々。その人がその人たる特徴を個性と捉えられる。個性があるからこそ70億人もの人々には区別がつけられる。その為、個性は人という社会的な生物とは切っても切れない関係がある。ところで都市伝説として、ドッペルゲンガー、と呼ばれるものがある。世界には自分と全く同じ人が自分含め3人おり、出会ってしまうと消えてしまうなどと言われている。では、個性はその人をその人たらしめる重要な特徴であるにも関わらず、3人全く同じとはどういう事なのか。答えは簡単で、単純だ。1人以外はニセモノ。そして自論として、ニセモノは要らないと思っている。この話はそんなニセモノ達を救済する物語である。
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どうも私はT博士だ。東京都23区の何処かにあるマンションに住んでいる30歳の独り身だ。趣味は誰に送るわけでもない手紙を書くことである。…自己紹介はこの辺にしておいて、君は呪いなどという非科学的なシロモノを知っているか?大半の人間は、都市伝説や作り話としては知っているだろう。しかし、この世界には何の間違いか生物?として一般人には見えないが存在している。呪いどもは我々の負の感情から発生するため、特に怪談話によく登場するような薄気味悪い場によく現れる。例えば、殺人事件が起きたような廃病院や墓地、はたまた自殺の名所の橋などがそうだ。また、他にも人の本能的な恐れなどから海や山などの自然からも生まれる。このように、呪いは人の様々な感情から生まれるのだ。
呪いは総じて人間に対し敵対的であり、年間何万人もの人々が行方不明になっている。では呪いに対し人々は為す術がないのかと言えば、そのようなわけではない。呪術である。これを使い呪いを祓う者を呪術師と呼ぶ。彼らは、人が生まれながらに多少なりとも持っている呪力を自在に操ることが可能だ。逆に一般人は素質がない限り、永遠にこの力に気づくことはないだろう。それほどまでに、この力、職業は才能が第一なのだ。才能がない者がいくら努力をしたところで呪術師にはなれない。よって、呪術師は絶対数がかなり少ないのだ。
ところで、何故私が一般人が知ることのない呪術について知っているのか?と疑問に思う者も少なくないだろう。薄々勘づいているだろうが私も呪術師だ。しかし、一つ違うのは呪詛師であるということだ。呪詛師は呪いではなく、むしろ人をメインに殺す呪術師界の犯罪者だ。呪いに向けるべき強大な力を人に向けていることは、許されざることだろう。私はそんなこと全く思わないのだがな。
呪術師、呪詛師は全員イカれている。普通に考えて、呪いを祓うと言ってもようは殺しているわけだ。まともな精神を持つ者が続けられる筈がない。また、呪術といった力は強い。ある日突然ただの人が殺人鬼に早変わりしてしまうほどにだ。力は持つと使いたくなる。だから、呪詛師といったものが出てくる。
きっとこれは身丈に合わない力を持ってしまった人類の業なんだろうと、私は思う。…自分が呪詛師なことの言い訳かもしれない。
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力に気づいたのは、16歳の夏だった。今までは何も異常がないただの通学路だった筈だが一変した。人が歩いている道に平然と気持ちの悪いものが闊歩している。何だこれは、と何も知らずに生きてきた今までの自分に戦慄した。何故人々はこれに気づかないのか。選ばれた者のみに知覚が出来るこの化物。人の裏側の感情を抽出してできているかに思えた。この日から
私はまず自分に何が出来るか把握することにした。学校は夏休み、母は入院中、父は死んでいる為あまり周りを気にしなくてよかった。2日に一度行く病院で、母と会話した後、時間を作れた。人気の少ない秘密の廃遊園地に来た。住んでいる場所が田舎よりのため、人気のない場所は沢山あった。ちなみに家から病院へは節約のため、自転車で往復3時間だった。
まず、始めたことはこの力を掌に集めることだ。集めて、そこらに落ちていた大きめの石を強く握る。すると、驚くことにバラバラに砕けた。しかも、手は無傷だ。また全身に行き渡らせると、軽々と世界記録以上の身体能力を得られた。どうやら、この力はそのまま使うと身体を強化できるようだ。元の身体を鍛えるとさらに効果が出るのか気になるところだ。
次はあの化物で実験することにした。まず、どこにでもいる小さい蝿に何も使わず素手で殴ってみた。結果は素通りした。改めて考えると、人々は目の前にこいつらがいたとして気づかないため、殴れるわけがないのだ。その後、力を纏って殴ると塵となった。予想通りだ。この日はもう日が暮れ始めていたため、実験はここまでにした。
ある日街に出てカフェに入った。窓際の席に座り、軽食を注文した。ふと待つ時間を潰そうと外を見ていると、向こうを向いて人型の化物が立っていた。普段見てきた奴らとは格が違うように思えた。幸いにもその化物はナニカに集中して、私に気づいていない。良い機会だと思い、私は観察を始めた。
奴…仮に命名して個体Aとする。個体Aは私がやっているように両手に力を集め始めた。すると、個体Aは前を通る人に向け掌を向けた。瞬間、人が倒れる。私は何が起こっているのか分からなかった。何故個体Aが掌を人に向けただけでその人が倒れたのか。辺りが騒然としている中、私は両目に力を集めた。しかし、何も見えない。今度は片目に全ての力を集めて、見た。…何か方陣のような物が個体Aの中にある。私の中の何かがひっくり返ったかのような気分だった。今まで見てきた化物達にそのような力は見受けられなかった為、より驚愕した。どうやら、未だこの力の真髄に辿り着いていなかったようだ。最近はマンネリ気味だった力の扱いの練習もこれで解消されるだろう。私は考え込むことをやめ、ようやく届いた注文の品を口に入れる。糖分を摂取して頭を休ませる。15分程度何も考えずにくつろいでいると、外の誰かが隠れて電話しているのが見えた。私はその人を横目に夜にまた、個体Aを観察しに行く計画を立てた。
深夜の0時、昼頃に来た時の街とは空気が違う。夜には昼間とは違う静謐さがあると、私は思った。15分程度歩き、カフェの前がよく見える裏路地に隠れる。念の為、極力気配を薄く、力を抑えて気取られぬようにする。今の自分にできる最大限の隠遁術をし、個体Aをそっと見る。個体Aは昼頃から変わらない場所に立っていた。動いていない様子を見て、私は胸元からペンとメモを取り出す。私は小1時間観察と考察をして、最後に祓って帰ろうと思った。がしかし、異変が起こった。暗くてよく見えないが、何かが周囲を囲み閉じ込められている。そこへ、1人の男が歩いて来るのが見えた。両手に黒い手袋をしている。自分以外にこんな深夜に誰が来るのか。好奇心に突き動かされ、私は両者に気づかれない程度に五感を研ぎ澄ませた。男を見ると、見知った力が渦巻いている様が見えた。彼を見て、私は自分以外にも力を持つ者が存在する事を知った。…話を戻して、彼は個体Aに近づいてゆく。私はただの力で、方陣らしき力を持つ個体Aに勝てるわけが無いと思った。だが、結果は真逆瞬殺だった。彼も個体Aと同様に方陣らしきものを持つようで、両手を地面につけ大地を動かして個体Aを圧殺した。辺りは静寂に満ちていた。私は観察を終え速やかに自宅に帰った。
この日私は新たな発見をしたことで、自分の持つ力をより広げることができた。そう、自分も方陣…いや彼曰く術式、を持つことが分かった為である。私も早速術式に力を流そうと思ったが、この日はもう寝ることにした。私も観察だけの為とはいえ、無意識的に緊張していたのだろう。全身の筋肉が悲鳴をあげていた。ストレッチを手早くやり、私は床についた。
翌日、早朝6時30分。私はいつも通り廃遊園地に来た。先日の彼の術式のように、効果範囲が広いと、自宅ではできない為である。楽しみなせいもあり、予定していた時刻の何時間も早く来てしまったことに少々羞恥心を覚える。私は周辺に気配を感じない事を確認し、ようやく術式に力を流した。
昼、13時00分。私の持つ術式が大まかに判明した。説明すると、私は物体の消滅を引き起こせるようだ。話すと長くなるので、細かい部分は割愛する。私は面倒が嫌いなのだ。試しに、近くのベンチに寝そべっていた蟲型の個体に使うと何も起こらなかった。しかし、使用して10分後突如蟲型の個体の8割の身体が消滅した。そのすぐ横に落ちていた書類と共に。正直よく分からなかったが、実験を重ねていくのみだ。いづれ分かるだろう。
生まれるのは、偶然 生きるのは、苦痛 死ぬのは、厄介。
開高健