千景の亡霊   作:海底1号

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6,戦装束

 

 「はい、出来たわよ千景ちゃん」

 

 手作りの洋服を千景へと見せる綾女、花柄やフリルが主張しすぎないようにあしらわれたワンピースはとても可愛らしく、千景は目を輝かせながら服を眺める

 

 「さ、千景ちゃん着てみて」

 「え?あの、私?」

 「当然よ、千景ちゃんのために作ったのよ?さ、着てみて頂戴」

 

 促されるまま着替える千景。裾を摘んでみたり、その場で回ってみたりすると恥ずかしそうに綾女へ笑みを向ける

 

 「どう、ですか?」

 「とっても可愛いわ〜、さすがは私の自慢の娘ね」

 

 満面の笑みで称賛してくる綾女に照れながら千景はありがとうと礼を言う

 

 「さ、勇一にも見せてあげましょ」

 「は、はい……」

 

 頰を紅潮させながら深呼吸する千景、扉の向こうに待つ勇一にどうぞと声をかけるとゆっくりと扉が開き勇一と目が合う

 

 「ゆうくん、どう?」

 

 綾女は手放しでキレイだと褒めてくれたが勇一は琴線に触れてくれただろうかと少し不安そうに視線を泳がしていると、視界が暗転し、抱き潰されていると理解するのに数秒かかった

 

 「ゆ、ゆうくん?」

 「あらあら、口より手が出る所は勇斗さん似ね」

 

 熱い抱擁に微笑ましく笑みを浮かべながら部屋を出ていく綾女。二人っきりで会話もなく、息苦しさも感じるほど抱きしめられる千景だがそこに不安な表情は一切なく、むしろ胸元に押し当てる形となった耳へと入る早鐘を打つ心音に嬉しくなる

 

 「……ゆうくん、私綺麗?」

 「綺麗だよ」

 「……私に価値ある?」

 「ちーちゃんじゃなきゃ僕は嫌だよ」

 「……わたしーー」

 「それ以上言ったらお父さんとお母さん呼ぶから」

 

 呼ぶというより千景を抱えて突撃しそうな雰囲気に、それは潰されそうだと微笑んで最後にもう一言、と勇一を見上げる

 

 「私とずっと、一緒にいてください」

 「そのつもりだよ、だからちーちゃんも僕とずっと一緒にいてほしいな」

 

 日課になりつつある告白を終え、父親にも見てもらおうと二人は笑顔で書斎へと向かった

 

 

 

 

 

 

 山の中に設けられた射撃場、的の代わりに置かれたマネキンには赤を基調とした服が着せられており、それを狙うように隊員達が重火器を構える

 

 「撃て」

 

 上官の号令で放たれる鉛の雨、撃ち漏らすことなく全弾命中させると煙幕が晴れるのをジッと待つ

 

 「目標、ほつれ一つありません」

 「マネキンへの衝撃、8割緩和されています」

 「第一段階はクリアね、次のテストに移りましょう」

 

 綾女の指示に今度は取り囲むように爆薬を設置し、隊員に指示を降して起爆する、爆炎が空高く上がり、轟音と爆風が綾女たちのいる場所まで轟くと、黒い煙の中から真っ黒になった服が現れる

 

 「さすがにコレは負担が大きいか、とくに撃たれたところはもう駄目そうね」

 「それでもあの爆薬量相手に原型留めているから前作より断然上がっていますよ」

 

 損傷具合を見極めた綾女は試験は終了だと告げて服を回収しに行く

 

 「はぁ、もっと丈夫な素材ないかしら、軽くて加工しやすくて神樹様の加護が乗りやすい感じのもの」

 「欲張りすぎですよ主任、それにこれでも十分すぎるくらいですよ」

 

 自衛隊の協力に感謝して車を走らせる綾女達、少しでも勇者の負担を減らせるようにと頑丈な戦装束を開発しているが、綾女の不安を払拭させる出来には未だ至っていない

 

 「高望みだってのは私もわかっているわ、でも実際に戦うのは私の子供たちなのよ、妥協なんてするものですか」

 

 勇者の装備とはいったが私欲まみれなのは百も承知、むしろ彼女からすれば我が子を戦地に送るというのに贔屓するなという方がありえない

 

 「まぁその主任の高望みのおかげで私の旦那も助かってますからね、とことん突き詰めていきましょう」

 

 作ったは良いが納得いかなければそのまま傭兵の装備に転用される為、彼らの消耗率は大災害に比べてぐんと下がっている

 

 「いっそ外套みたいな羽織る物で補ってはどうですか?」

 「それは最終手段よ、戦場で着替える暇なんてないわ、変身シーンで攻撃してこないのはフィクションの世界だけよ」

 

 とはいうもののないのとあるのとでは生存率が上がるのも事実な為、準備自体はしておくべきだろうといくつかの資料を皆へと配る

 

 「あ、ここでおろして頂戴、娘と待ち合わせしてるの」

 「迎えでしたら一緒に送りますが?」

 「親子水入らずを邪魔しちゃだーめ」

 

 はいはい、と辟易しながら綾女を降ろしてさっさと去っていく車に手を振って見送ると、待ち合わせ場所へと向かう綾女

 

 「確かこの辺り……あ、千景ちゃーん」

 

 ベンチに座っていた千景を見つけて手を振りながら近づくと、綾女に気づいた千景も満面な笑みを浮かべて手を振り返す

 

 「ごめんね千景ちゃん、待ちくたびれたでしょ?」

 「ううん、お義母さんこそお仕事忙しいのに付き合ってくれてありがとう」

 

 本当に可愛い愛娘だと抱きしめる綾女が、手招きをしていることに気づいた勇一が千景の後ろから抱きついてサンドイッチ状態になる

 

 「はふ、ゆうくんもお義母さんも大好き」

 「それは良かったわ、じゃ、もう少しこのままでね?」

 

 二人に挟まれ幸せそうに蕩けた千景はしばらく親子サンドを堪能する、このまま日暮れまでしててもいいくらいだがそろそろ今日の目的をしなければと我に返って名残惜しそうに離れる

 

 「それじゃ行こっか千景ちゃん」

 

 千景と手を握りあって向かったのは人の居ない海岸沿い、大建替えが始まって以来、海沿いに人が来ることは滅多になく、静かな砂浜を家族で散歩するのが千景の楽しみの一つになっている

 

 「でも良いの?せっかくの休みならもっと遊べる所に行ってもいいのよ?」

 「良いの、人混みは正直苦手だし、ゴミ拾いしてる方が私は好きだから」

 

 そう言って浜に打ち上げられた瓶や包装を拾って袋に分けていく

 今までがどん底だった千景には結城家はあまりにも、それこそ怖くなるほど幸せすぎて、なにか良い行いをしなければいけないのではと考えるようになった結果、身近なゴミ拾いを始めてしまい、気づけば半分趣味と化してしまった

 

 「あら、このよく分からない金属の塊……この塊融かせば服の素材にならないかしら」

 「お母さん?得体のしれないものをちーちゃんに着せるのはちょっと……」

 「このご時世使えるならなんでもよ、ゆうくん」

 

 怪訝そうな顔をする勇一とは違ってむしろ乗り気な千景、もはや彼女にとって母親からのプレゼントなら、たとえ原材料が何であろうとそこに愛があれば諸手を挙げて喜んでしまう

 

 「……ま、ちーちゃんが良いならいいけど……あ、お父さんだ」

 

 勇一の声にゴミの山から視線を外すと辺りを見渡していた勇斗と目が合い、手を振って父を呼ぶと嬉しそうな顔(しかめっ面)で手を振り返しながら側に寄る

 

 「お義父さんお疲れ様、今日は早かったね」

 「あぁ、今日は綾女も試作品のテストで切り上げると言っていたからな、私も早めに終わらせてきたところだ」

 

 それとお土産だと封筒を綾女に渡しながら今日のテストの詳しいデータだと言葉を添える

 

 「あら早かったわね、てことはあのあとラボで作業してたのね」

 「彼女たちも綾女の期待に応えようと頑張っているようだ。ところで千景、勇一は今どのへんだ」

 

 見渡す勇斗の手を取ってこのへんだと手を添えるとそこに綾女の手も重なり3人で勇一の頭を撫でる

 

 「なんか気恥ずかしいよちーちゃん」

 「ふふ、お義父さんもお義母さんも、ゆうくんのことが大好きだからね」

 「そうね、二人共私達の自慢の子供だもの、ね、勇斗さん」

 「あぁ、私達四人で結城一家だ」

 

 いつの間にか団子のように抱きしめ合う四人はしばらく家族の温かさを噛み締め、それぞれゴミ袋を手に帰路へと付く

 

 「しかし今日も随分と集めたものだな、この内どれが一番の成果だ?」

 

 コレだと千景と綾女が自慢気に例の金属の塊を見せ、数秒見つめていた勇斗は徐々に怪訝そうな顔を浮かべる

 

 「綾女、それはゴミでは?」

 「今はね、でもここから繊維状に加工して要所要所に織り込めば」

 「立派な戦装束になるかもしれないわ」

 

 二人してどうだと言わんばかりな表情に、見えるはずもない勇一が手のひらを天に向けて肩を竦めている姿が脳に過る

 

 「……まぁ二人がこれだと決めた事なら私が口に出すことでもない、応援しているぞ」

 

 勇一と似たような反応をする勇斗に親子だな、と千景と綾女は微笑み合いながら勇斗の腕にそれぞれ抱きつく

 

 「……綾女は良いとして千景は勇一が嫉妬するだろう」

 「ゆうくんならお父さんの首に抱きついてるよ?」

 

 実感はないがおそらくぶら下がるように漂っているのだろうと想像し、落ちるなよ、とほくそ笑みながら注意すると仲睦まじく家路に就いた

 

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