メスガキ姫は「わからせ」されたい 作:丸木戸佐渡衛門
「報酬は十分に払う。だから君には、メイといっしょに東の魔王城へ行ってほしい」
俺ーオットー・モヤクがただの村人Aだった日々は、そのときに終わった。
「失礼ながら、陛下。それをやらねばならない理由と自分が選ばれた理由を教えてください」
「わしにもわからぬ。本人に聞くといい」
王がそう言うと、銀髪・銀瞳の瀟洒なドレスに身を包んだ女の子がやってきた。彼女はメイ・キドフィール姫。美しい容姿をもつだけでなく魔法の天才であり、14歳という若さにもかかわらず王国最強の名を冠している。
(そんな彼女がなぜ魔王城に?)
凛としたたたずまいに、真面目だと言われている人柄。まさか見物のためではないだろう。しかも俺が極秘に呼び出されるということは、王国にとって重要なことなのかもしれない。
「オットー、よく聞いてください。私は強くなりすぎました」
「……?」
「そして、私に勝てる者―すなわち、「わからせてくれる」者もいなくなりました」
「???」
「ゆえに、私に勝てる可能性が最も高い魔王と戦いに行くことにしたのです」
「??????」
メイ姫の説明を聞いても、今一つピンと来なかった。王に解説を頼みたかったが、いつの間にかいなくなっていた。なんとなく面倒ごとを押し付けられたような気がする。
メイ姫は俺の理解が追い付いていないことを察したらしかった。
「では細かく説明しましょう。私が幼いころから魔法の英才教育を受けていたのはご存じですね?」
「ああ……はい」
その話は有名だ。大魔法使いコンラート・ローリングを呼んで魔法の修行をしていたというのは聞いたことがある。
「実は10歳のときにコンラートに手籠めにされまして」
処刑台送りじゃね?
「恥ずかしながら、とても興奮しました」
興奮したんだ……。
「その日から、私は自分よりも強い者に組み伏せられることの魅力にとりつかれてしまったのです」
性癖曲がりすぎだろ。
「しかし、私は魔法については天賦の才があったようで……修行すればするほど私を『わからせ』てくださる殿方はいなくなり、逆に私が『わからせる』ということの方が多くなりました。今や王国内に私に勝つことのできる人間はいません」
「だから魔王に会いに行くということですか……あと、なんで俺なんですか?」
「旅の雑務を任せる一般人が欲しかったからです。王国領内から
「で、今から何をするんです」
「まずは旅装を整えましょう」
◇◇◇
俺とメイ姫は城近くの街で買い物をすることにした。
地味で実用的なローブに着替えてしまえば、彼女が姫であると気づく人間はいなかった。元々王家の人間が一般人の目に触れることがないせいもあるのだろうが。
「まあ、今のままでも王家の人間であると気づかれないようですが、念のためにあなたも旅の中では姫とは呼ばず、メイと呼びなさい」
「わかりました、メイひ……メイ」
「それと、旅の途中で魔物や盗賊に襲われた場合私が対処しますが、自衛用に武器を渡しておきましょう」
メイ姫が俺に渡したのは、古びた鞘に包まれた一本のナイフだった。
「……お気持ちはありがたいんですが、俺、武器なんて使ったことないですよ」
「大丈夫です。これは『抜かずのナイフ』ですから」
「抜かずのナイフ?」
「たぶん実演した方がわかりやすいですね。あ、すみません、リンゴください」
メイ姫は売っていたリンゴを買って俺に持たせた。
「じっとしていてくださいね」
そして、鞘からナイフを引きぬ―かず、ちらりと刃を見せただけで仕舞ってしまう。
「何やってるんです?」
「切り終わりました」
見ると、手の中のリンゴは丁寧に切られ、6匹のウサギになっていた。
「わかりましたか? このナイフは相手に近づいて切る、過程そのものを省略することができます。要するに斬りたい相手を視認し、鞘から出すだけで相手は死にます」
「……これ、どこにあったんですか?」
「宝物庫です」
神器じゃん。
「だからあなたでも十分に使いこなせる武器ですよ。装備しておきなさい」
俺はうなずき、おそるおそるベルトにナイフを差した。
「さて、他に旅に必要なものも揃えたし、そろそろ街を出ましょうか」
◇◇◇
俺たちがキドフィール王国を出てから半日たち、俺たちは山の中にいた。魔王城はここからはるか東、ひと月やそこらで行ける場所にはないため、ゆったり行くことになった。
(しかし、この姫が『わからせ』を求めて旅してるって言っても誰も信じないだろうなあ)
真面目そうで、あどけなさの残る横顔をまじまじと見ていると、姫はこちらに目を向けた。
「どうしました? 何か顔についていますか?」
「いえ。……そろそろ日も暮れてきたなあと」
太陽は稜線の向こうに沈みつつある。姫はうなずき立ち止まった。
「そうですね、山道は思ったより疲れますし、今日はこのあたりで休みますか」
そのとき、耳障りな金切り声が聞こえてきた。それも、周りの木々から。
「魔物……」
右の木から、錆びた斧を持った
彼らの言葉は分からない。しかし、その眼にははっきりと欲望のどす黒い色が浮かんでいた。
「こいつら……!」
俺がナイフを抜こうとすると、メイ姫は手で制した。
「私がやります」
そう言ったメイ姫は、今までの振る舞いからは想像もできないような、嗜虐的な笑みを浮かべていた。彼女が前に出てくると、ゴブリンは降伏のしるしとでも勘違いしたらしく、喜色を浮かべて飛びかかってきた。
しかし、メイ姫が手をかざすとゴブリンの動きは止まった。氷に閉じ込められたように、空中で固定されてしまっていた。意識はあるようだが、他のゴブリンたちも同じように動きを止めており、身じろぎすらしない。
「全部で五匹……といったところかな。五匹もいて何もできないとか恥ずかしくないの? ざぁこ♡」
(……ん?)
「ざこのくせに私を襲いに来たゴブリンにはお仕置きしないと♡ お腕ぽきぽきしようね~♡」
姫がくるりと手を回すと、ゴブリンたちの両腕が紙細工のようにくしゃくしゃになった。凄まじい金切り声をあげ、ゴブリンたちはのたうち回る。
「あの……これって」
「今いいところだから話しかけないでね♡」
「あ、はい」
俺も命がおしい。口をつぐんだ。
「さっきは何しようとしてたの? まさか汚いゴブリンの分際で私をモノにできるとでも思ってたの?」
メイ姫はゴブリンの下腹部を見てくすっと笑い、指を鳴らす。じょき、という音がして、断末魔が上がった。
「もう同族とも子供を作れないね♡ あ、念のために潰す方もやっちゃおうか♡」
俺は目を背けた。襲ってきた魔物とはいえ、同じ男としてそれが残酷な運命であることは種族を越えて理解することができた。
「あははっ、どう? こんな小娘に潰されて悔しくないの♡ ざぁこ♡ ざぁこ♡ ざこゴブリン♡」
えっなにこれこわい。この姫頭大丈夫? 豹変しすぎじゃね?
困惑する俺をよそに、メイ姫はエキサイトして××したり、ゴブリンの××と××を×××させ××××の要領で××をしていた。
そして次に××をしようとしたとき、風を切る音がした。それは姫の首を狙った一筋の矢だった。しかし、彼女に命中する直前、まるで空気の粘性が増したかのように矢の動きが遅くなり、止まってしまう。
「はい、ざんね~ん♡ 木の影から狙ってたみたいだけどばればれだよ♡」
メイ姫が振り返って人差し指をちょいちょいと動かすと、弓を持ったゴブリンが引きずり出された。姫はどう料理するか考え込んでいる様子だったが、やがて何かを思い出したかのように、「あ」と声をあげた。そして俺に話しかけてきた。
「すみません、日が暮れかけてることを忘れて楽しんでいました。野営の準備をしてくれませんか? 私はこのゴブリンを全員処理しておきますので」
「わ、わかりました」
いきなり真面目に話し始めたのでよけいに怖い。俺はがくがくとうなずいた。まったくとんでもない旅になったものだ、と思いながら野営の準備に取り掛かった。
酔った勢いで書きました。後悔はしている。R-18にならないように頑張ります。