呪霊少女は平凡に過ごしたい   作:こまこまちゃん

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第一話、呪霊少女は全握で拳を振るう

私には名前がないです。

 

少女たちの怨念が生み出した呪いの塊。それが私なのだと生まれたときに気付きました。

 

だけど別に何かしたい訳じゃないです。でも産まれたなら生きようと決めました。

 

戸籍もなければ住む場所もない。

でも困りませんでした。身体は丈夫で環境なんて関係ない。お金を稼ぐ手段もありました。

 

奪う?盗めばいい?

 

盗みません。そこまで非常識な人間じゃないです。ちゃんと働いています。優しい男性たちと汗を流す仕事です。

 

「バイトちゃん!今日も凄いね!!」

 

「ありがとうございます!」

 

親切なおじさんにスカウトされ、今日も男たちに囲まれています。

戸籍もない。身分証もない。怪しさの塊である私ですが、小さなきっかけが稼ぎ口を作りました。

 

「やっぱ体力あるな!さすが俺を救ってくれた嬢ちゃんだ!」

 

「いえいえ!そんな事は!」

 

私の背後で感謝を言うおじさん。

崩れた大荷物に埋もれていた彼を、人間離れした腕力で救い出した事がありました。

 

でも感謝をしているのは私です。怪しい私に仕事を与え、日給で稼がせてくれています。

 

揺れる身体。濡れ濡れになる髪。激しく動く男たち。

そんな中に私はいます。

 

そう──漁船です。

 

「大きいぞ!今日の網は大量だ!」

 

 

────────***────────

 

 

「5万円も!?いいんですか!?」

 

「いいんだよ!それぐらい働いてくれたんだから!」

 

優しいおじさんに感謝です。

5時間働いただけで時給1万円分。感謝しかありません。

 

「もうお昼だな。今日も市場で食ってくのか?」

 

「いえ、今日は全握があるので」

 

「ぜんあく?」

 

略してしまいました。

 

「高田ちゃんの握手会があるんです」

 

「ああ〜。アイドル的な?」

 

「そうです」

 

そして時間もありません。

握手会は始まってます。そろそろ行かなければですね。

 

「ではお疲れ様でした!また来ます!」

 

「いいぞ!またいつでも来い!」

 

日雇いの当日参加OK。ほんとにありがたいです。

そして私の能力にも感謝ですね。

 

「これで綺麗になりましたね」

 

身体の洗浄。衣類の変換。

私に備わった能力がコレです。

これで高田ちゃんに会いに行けます。

 

「さてと電車は……遅延!?」

 

大変です。もう全握は始まっています。

ならタクシーを……高いですね。ご遠慮です。

 

「くっ、走るしかありません!」

 

線路をダッシュです。

ちなみに監視カメラには映りません。

本来なら私は人間には見えないんです。

でも力をコントロールして見えるようにしていました。

 

犯罪に使える便利な力ですが、一度も悪用した事はありません。

 

線路に侵入した事は…別です。バレなければ犯罪ではないと漁船のおじさんが言ってました(極論)

 

「ふぅ〜……間に合いました」

 

線路を走って、道路も走って、ようやく会場に到着した。

あとは並んで待つのみ……そう考えていたのに。

 

「最悪です…」

 

会場の屋上に同胞がいた。

気配で自分と似た存在だと分かっていますが、仲間ではありません。

 

むしろ敵です。たまに襲ってこられて迷惑してます。

 

そして会場にアレが現れたことで、私の不機嫌は増量です。

姿を消して、人混みを避けて跳躍する。

そして同胞を目前にし──

 

「握手会の邪魔です!」

「高田ちゃんは俺が守る!」

 

声が重なると同時に拳に激痛が走った。

同胞の身体をえぐった拳。その奥にある硬い何かで拳を痛めたのである。

 

黒い霧となって消えていく同胞。

その裏に制服を着た大男が立っていた。

 

「ん?なんだお前は?」

 

拳を合わせながら男が聞いてきた。

 

「お前も呪術高専か?……いや、気配が違うな」

 

男から殺気が漏れる。

 

「呪霊だな!ならばお前も!」

 

拳が頬に直撃する。

私の頬ではなく彼の頬にである。

 

「ぐぼぉッッ!?」

 

「すみません。ほんと時間がありませんので」




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