私には名前がないです。
少女たちの怨念が生み出した呪いの塊。それが私なのだと生まれたときに気付きました。
だけど別に何かしたい訳じゃないです。でも産まれたなら生きようと決めました。
戸籍もなければ住む場所もない。
でも困りませんでした。身体は丈夫で環境なんて関係ない。お金を稼ぐ手段もありました。
奪う?盗めばいい?
盗みません。そこまで非常識な人間じゃないです。ちゃんと働いています。優しい男性たちと汗を流す仕事です。
「バイトちゃん!今日も凄いね!!」
「ありがとうございます!」
親切なおじさんにスカウトされ、今日も男たちに囲まれています。
戸籍もない。身分証もない。怪しさの塊である私ですが、小さなきっかけが稼ぎ口を作りました。
「やっぱ体力あるな!さすが俺を救ってくれた嬢ちゃんだ!」
「いえいえ!そんな事は!」
私の背後で感謝を言うおじさん。
崩れた大荷物に埋もれていた彼を、人間離れした腕力で救い出した事がありました。
でも感謝をしているのは私です。怪しい私に仕事を与え、日給で稼がせてくれています。
揺れる身体。濡れ濡れになる髪。激しく動く男たち。
そんな中に私はいます。
そう──漁船です。
「大きいぞ!今日の網は大量だ!」
────────***────────
「5万円も!?いいんですか!?」
「いいんだよ!それぐらい働いてくれたんだから!」
優しいおじさんに感謝です。
5時間働いただけで時給1万円分。感謝しかありません。
「もうお昼だな。今日も市場で食ってくのか?」
「いえ、今日は全握があるので」
「ぜんあく?」
略してしまいました。
「高田ちゃんの握手会があるんです」
「ああ〜。アイドル的な?」
「そうです」
そして時間もありません。
握手会は始まってます。そろそろ行かなければですね。
「ではお疲れ様でした!また来ます!」
「いいぞ!またいつでも来い!」
日雇いの当日参加OK。ほんとにありがたいです。
そして私の能力にも感謝ですね。
「これで綺麗になりましたね」
身体の洗浄。衣類の変換。
私に備わった能力がコレです。
これで高田ちゃんに会いに行けます。
「さてと電車は……遅延!?」
大変です。もう全握は始まっています。
ならタクシーを……高いですね。ご遠慮です。
「くっ、走るしかありません!」
線路をダッシュです。
ちなみに監視カメラには映りません。
本来なら私は人間には見えないんです。
でも力をコントロールして見えるようにしていました。
犯罪に使える便利な力ですが、一度も悪用した事はありません。
線路に侵入した事は…別です。バレなければ犯罪ではないと漁船のおじさんが言ってました(極論)
「ふぅ〜……間に合いました」
線路を走って、道路も走って、ようやく会場に到着した。
あとは並んで待つのみ……そう考えていたのに。
「最悪です…」
会場の屋上に同胞がいた。
気配で自分と似た存在だと分かっていますが、仲間ではありません。
むしろ敵です。たまに襲ってこられて迷惑してます。
そして会場にアレが現れたことで、私の不機嫌は増量です。
姿を消して、人混みを避けて跳躍する。
そして同胞を目前にし──
「握手会の邪魔です!」
「高田ちゃんは俺が守る!」
声が重なると同時に拳に激痛が走った。
同胞の身体をえぐった拳。その奥にある硬い何かで拳を痛めたのである。
黒い霧となって消えていく同胞。
その裏に制服を着た大男が立っていた。
「ん?なんだお前は?」
拳を合わせながら男が聞いてきた。
「お前も呪術高専か?……いや、気配が違うな」
男から殺気が漏れる。
「呪霊だな!ならばお前も!」
拳が頬に直撃する。
私の頬ではなく彼の頬にである。
「ぐぼぉッッ!?」
「すみません。ほんと時間がありませんので」
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