怪しさMAXの陰陽師は、奈落の底を目指すようです 作:S・DOMAN
「んんっー、おはよードーマン」
ンンンン~!実に良い朝ですねェ!
まあ拙僧寝ておりませぬが。睡眠が娯楽にまで成り下がったのはこの身体になった利点の一つでもありますぞ。
「ごめんねドーマン、ちょっとトイレ行ってくるー」
「ンンン、場所はご存じですかな?拙僧が案内して差し上げまする」
「うんー、おねがあああぁぁぁぁい」
おやァ?どうやらリコ殿はまだまだ寝足りないご様子で。
「フフフ、では。どうぞこちらへ」
監視基地で厠といえば少しばかり心配ではありますが……厠に行く時間も原作とズレておりますので、例の『オバケ』が出ることもないでしょう。
「あ、ありがとうねドーマン……ドーマンがいなかったら、私多分漏らしてた……」
ンンン?!なぜです!?何故か数も増えておりましたし!
昨日の拙僧とのオハナシがよほど堪えたのでしょうかねェ……あの程度の嫌味で気分を害されるとは、体は不動であれどもその精神はユル♡ユル♡だったようで!
「くあっ、おはようドーマン。さっきリコの叫び声が聞こえたんだが何かあったのか?」
「……エエ、出たのです」
「で、出た?…まさか」
「ンンン。ご察しの通り、動き回る死体がです」
「………きゅうぅぅ」
「何と!!レグ殿?レグ殿?!返事をしてくだされ!」
これは……オーゼン殿の部屋に行くのはもう少し時間がかかりそうですなァ。
何とかレグ殿が意識を取り戻した後、我々はオーゼン殿と一緒にマルルク殿の手料理を食しておりました。しかしこの肉のなんと柔らかい事か!原生生物の固い肉もここまで食べやすくできるものなのですなぁ。
後で好感度稼ぎもかねて、香辛料など分けてもらえぬか交渉してみましょうか…
「オーゼンさん。朝からよくそんなに食べられますね……」
「ンん、探掘家は体が資本だからねぇ。とにもかくにも、食わなきゃあ始まらないのさ」
「おおー、リーダーとおなじこと言ってる…」
「ンンンン!どうやら拙僧の聞くところによりますと、食事を多く摂られる方は小食の方と比べて老けやすいようですぞ?ともすれば……おやァ?オーゼン殿は…」
「オマエさぁ。人の神経を逆撫でするようなことしか言えないのかい?」
「おやおやおやおやァ?どうかされましたかな?もしや最近シワが気になってきたとか?」
「だ、大丈夫ですお師さま!お師さまはとてもお綺麗ですよ…?」
「マルルク……いい子だねぇ。それはそれとして後で裸吊りだよ」
「なんでですか?!今回はボク何も悪くなかったですよね!?」
「気分だよー」
「もうどうしようもない?!」
「マルルク、君も大変なんだな…」
随分と賑やかで平穏な食事風景ですなぁ。拙僧のハートも思わず浄化されてしまいそうになりますよ。
さてさて、皆様はもう食事を終えられたようでオーゼン殿が話を切り出されます。
「君たち、もう食べ終わったかい?ならついて来なよ」
「君がさっき話していた動く死体についても話してあげよう。もちろん、知りたければだがねぇ?」
「さあ、ついておいで」
「ンンン。では行きましょう!隊長殿?」
「……はい」
さあ、いよいよあの“籠”と対面する時が来たのですな。
リコ殿は立ち上がり、決意を込めた眼差しをオーゼン殿に向けておられまする。
「君たちのことは大体マルルクから聞いたよ」
「確認したいんだけどさぁ、君はライザの行方を追って来たんだとか?まったく察しの悪い……」
「ライザは既に死んでいる。その白笛が上がったろうに」
「君が母を追う旅はここで終わりだよ」
「……オーゼンさんは、どこでその笛や封書を?」
「墓さね」
「深界四層『巨人の盃』。そこにトコシエコウの群生地があってねぇ…そこに墓ができてたんだよ」
「あそこ、ライザが好きな場所だったんだ」
「そ、そんな……。でも、お母さんは私を呼んで、」
「それさぁ、ライザの字じゃないよ。ライザは悪戯でも、そんな字は書かないよ」
「んん?アレェ?きみが奈落の底を目指す理由は何だっけ?」
「わ、わたし…自分で確かめに」
「ホウ?それは名案だ。墓でも暴いてみるかね?」
「ふふふ、ご安心召されよリコ殿」
「えっ?どーまん…?」
「貴方の母君は生きておられますよ。もちろん、根拠はありませんがね?」
「別に占いなぞ行った訳でもありませぬが。エエ!拙僧、このような勘は優れておりますゆえ!」
「ですから、ご安心召されよ」
「………うん!ありがとう、ドーマン。なんか落ち着いたよ」
「ンン!それはよかった!」
まあ、落ち着いたのは拙僧の呪いのお陰ですが。
「チッ、ツマラナイねぇ」
凡そ常人には開閉することすら困難であろう巨大な扉を片手で押し開けたオーゼン殿は、そのまま中に入ってしまわれます。
「ここは何だ?」
「私室さ。知りたいからついて来たんだろう?」
「さあ、入りな」
「オーゼン、この四角いのは……」
「―――すごいよ、これ。こんな複雑な模様見たことない…二級以上の遺物?」
「これはライザが買い取った遺物さ。ここに運んだのは私だがね。『呪い避けの籠』っていうんだ」
そう言われると、オーゼン殿は白笛を吹きこの籠を起動されました。
笛の音が鳴り響いた瞬間この籠は、まるで意思を持ったかのように蠢き始め、中の肉が露出した状態へと変形いたします。
全ての工程が終わった後、籠の中央にはちょうど人間の赤子が一人入りそうな程度の空間が空いておりました。
ほォ!ここにリコ殿が収まっていた訳ですね!?何とも興味深い…
「層をまたいで移動ができない生物をこの中に入れておくと、上昇負荷を受けない……なんて言われてるが、実際は呪いを受けるし死にもする。ただ…」
「動きだすんだよ。分かったのは君のおかげさ」
「君、死産だったんだよ。それが邪魔くさいからこの籠に突っ込んだら、なんと動き出したのさ」
「今朝動き回る死体を見たと言っただろう?アレは、元々は晩飯に使う予定だった肉だよ」
「そしたらコレが動き回って逃げるんだ。途中から面白くなってねぇ…結局5、6匹分ぐらい入れたかなァ」
「ねえ、きみ」
「きみはいつまで
「それとさァ……あの時動いた君も、晩飯の食材も。両方とも奈落の中心に向かおうとしたんだよねぇ。君なら、なにか知ってるんじゃないかな?」
「君も、あの肉と同じなんだろう?」
「どうして……そんなこと…」
「ああ、そろそろ分かってくれたまえよ」
「私はキミが、嫌いなんだよ」
リコ殿を掴もうとしたオーゼン殿の腕をレグ殿が掴まれます。
……ああ、拙僧はただ見ておるだけですよ。
「………おやぁ?なんだい、『奈落の至宝』の少年」
「オーゼン、あんたの話はとても興味深いが、これ以上リコを傷つけないでくれ」
「いくらなんでも大人気ないぞ!オーゼン!」
「……ああ、それ。よく言われたよ」
「ねえ、きみ。機械なんだってねぇ。ならさあ、神様って信じるかい?」
「?!な、急に何だ?」
「ここの人たちはねぇ、あまり神を信じないのさ。代わりに何を信じているのか、きみに分かるかい?」
「それはここ、大穴そのものさ」
「奈落の底は未知の領域、畏怖されるからこそ神足りうるんだよ。そこに簡単に行って、帰って来られたら?奈落信仰も、遺物の価値も、足元から揺らぎかねないのさ」
「だからこそ……ああ、本当に良かった!キミが記憶を思い出す前で!思い出す前に処分しとかないと―――」
「…ンンンー♡真に残念ですがここまでです!オーゼン殿?」
後に残ったのは、能面の如き顔をしたオーゼン殿のみでありました。
ので失踪します。