怪しさMAXの陰陽師は、奈落の底を目指すようです   作:S・DOMAN

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もう一話あるので失踪します。


“黒笛殺人事件”2

 部屋から出て最低限身なりを整え、しっかりと寝た男は、翌日、己の得物を持って組合を訪れていた。ロビーに入ればそこに既に担当の職員が居り、生気の抜けた表情でこちらを見つめている。

 

 

「お待ちしておりました、『快癒卿』。早速ですがコチラに」

 

 

「了解した。ババアは?」

 

 

「到着は一日後だと思われます。使いの者が今朝出発しましたので」

 

 

「そうか……それまでに手がかりを掴まなければいけないわけだな?糞が。殆ど時間が無いじゃないか!早く案内しろ!」

 

 

「分かりました。行きましょう」

 

 

 

 入り組んだ廊下を地下へ地下へと下っていく。普通の探掘家なら絶対に立ち入ることのできないこの領域は、組合、延いてはこのオースの街の禁忌(タブー)。その全貌を知るのは白笛と、一部の上級職員のみである。

 昼間だというのに夜のように暗いこの場所は、事実、高度的には深界一層にあたる。地上にぽっかりと空いた穴に蓋をするように、この組合本部は建てられたのだ。

 

 正に木を隠すなら森の中。活気溢れるオースの街に、こんな穴が開いているなどとは誰も思わないだろう。

 

 地下二十七階。階段を下りて三つ目のドアを職員が開く。ドアを開けた途端に広がるのは、噎せ返るほどの老廃物の臭いだ。ベッド……とは名ばかりの鉄製のフレームの上には、幾人もの人間が目隠しをされた上で全身を拘束されている。口枷からは涎が漏れ出て、下半身からは糞尿を垂れ流す。それをどうにかしようにも、暴れ散らすのでどうにもならない。

 

 

「ウヒャア。これはまたスゴイ数だな…」

 

 

「全部で三十三体。全員が貴重な黒笛を殺しています。報告に依れば一部は徒党を組んで殺したとか」

 

 

「至極どうでもいいな。とりあえず洗ってから〆といてくれ。俺は器具の用意をする」

 

 

「分かりました。では略式ですが、即座に死刑に処して」

 

 

「おい待て。首を切ったりなんかするなよ?全部そっくりそのまま暴くんだ。傷はなるべくつけず丁寧に殺せ」

 

 

「……手練れの者を呼んできます。私だけでは厳しい」

 

 

「ああ。是非ともそうしてくれ」

 

 

 

 

 床に飛び散る血が、彼らの糞尿と混ざり合っていくのを眺めながら、男は持参してきた紅茶を飲んでいた。

 

 

「遅いぞ、どれだけ待たせるつもりだ?検体どもの処理を見ながら飲むのもそろそろ飽きてきたんだが」

 

 

「今の物で最後です……終わったようです。では私は、少し休憩を」

 

 

「ああ待て。せっかくだから見学していけ。『快癒卿』の解体ショーが見れるんだ、見ていくよなア?」

 

 

「…………ええ。光栄です」

 

 

「ハハハ!そんな嫌そうな顔をするな!さあこっちにこい。そこで見ていろ」

 

 

 

 

 

 

「ウーン、これは、スゴイな」

 

 

 一番最初に処理された物は、齢二十もいかぬであろう若い女だった。首を切られ魂を失った相貌は、つい数時間前の検体の痴態からすれば驚くほど綺麗で、歯をむき出しにして狂っていたあの様子こそが夢だったのではと思わせるほどだ。ちなみに容姿も悪くない。

 そんなコレは今、全身を隈なく切り裂かれ、内臓をそれぞれ銀のプレートの上に分けられている。

 

 

「申し訳ありませんが私は医学にあまり明るくありませんので。何がどう凄いのかさっぱり…」

 

 

「ン、ああ。すまないな。よし、では説明してやろう。おまえ。舶来品のなかにチーズがあるのを知っているか?ほら、力を加えると裂けるアレだ」

 

 

「ああ、最初は物珍しさに裂いていましたが、飽きて買わなくなりましたね」

 

 

「そ、そうなのか……と、とにかくだ。今回のイメージとしてはアレに近い。これを見ろ」

 

 

 検体の背骨を両手で掴んでぐりっとねじる。

 

 

「…背骨に、線が入っている(・・・・・・・)?」

 

 

「ああ。恐らくは何か意味のある線。文字なのだろう。ところどころ太く、そして細い。強弱をつけているんだ。まあ、こんなベニクチナワがのたうち回ったみたいな文字見たことないし、文字なら切れ目がない(・・・・・・)オカシイがな」

 

 

「にわかには、信じられません。だって背中には傷跡がなかったんですよ!?何者かが背中を割いてコレを書いたとしても、手術の傷跡は残るはずだ」

 

 

「そこで、さっきのチーズだ。我々の筋肉は、あのチーズのような構造をしている。つまりだ、アレは横からだとどうやっても裂けないが、縦からならスルッと裂けるだろ?筋肉もそうだ。原生生物にやられたりなどしてついた傷は、筋肉の繊維を無視してメチャクチャに付けられる。だから、跡が残りやすいんだ。筋肉の繊維の境目。筋に沿って切れば、跡は全く残らない。裂けたチーズが、再びくっ付くように。まあ聞けばわかると思うが、まともな人間なら、そんなメンドクサイことはしない。というか不可能だ」

 

 

「それは、つまり…」

 

 

「俺と同じぐらい医療の知識があって、なおかつ俺よりも手術の上手いやつがいるかもしれん、ということだ。しかも、コレだけ体を開いてるのに、今までに俺がつけたであろう傷が一つも見当たらない。こんな芸当は、俺でも無理だ。まあ?6人までなら俺もやれんこともないが。それかもしくは―――」

 

 

「遺物、ですか?」

 

 

「おお冴えているじゃぁないか。その通りだ。組合に届け出の出されていない、新しい遺物で行ったのかもしれん。ッ!おい見ろ!!頭蓋骨の内側にもある(・・・・・・・・・・)ぞ!何たることだ!!どうやって付けたんだねこんなトコ!!」

 

 

「そんな、あり得ない…」

 

 

「ああ。どのように行ったか、非常に興味があるが……これは俺にもわからん。お手上げだ。他のも一応開いてみるが、恐らく何も新しい発見は得られんだろう」

 

 

 

 

 

 

 それからずっと作業に没頭する男を置いて、職員は補助役―――医学に明るい者たち―――を除いて全員上に戻っていった。

 仮眠をとって部屋に戻ってきた彼が最初に目にしたものは、山積みになった紙の束であった。ちょっとした山脈を築いている。

 

 

信じられん、信じられん。信じられん。こんなことが……?

 

 

「おはようございます、『快癒卿』。朝食の準備ができておりますが」

 

 

「ありえん。こんな、どうやって?」

 

 

「『快癒卿』殿?『快癒卿』殿!!」

 

 

ぅうおッ!!?。ああ、なんだ、君かね。あまりびっくりさせるなよ。俺は怖がりなんだ」

 

 

「怖がり…?ああ、いえ。『快癒卿』。朝食の準備ができております」

 

 

「なに?もうそんなに時間が経っていたのか。丸々半日作業してたのか……ン゛ン゛ン゛ッ゛。少し、休憩する」

 

 

「いいえ。先に朝食をお食べください。冷めてしまってはいけませんので」

 

 

「…君ィ、いい性格をしているなア。昨日の意趣返しか?」

 

 

「さて?何のことやら」

 

 

 

 




(後書きと前書きを間違えたので)初投稿です。
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