怪しさMAXの陰陽師は、奈落の底を目指すようです 作:S・DOMAN
最後まで私といてくれたシャッコも、もはや彼の内側に取り込まれてしまいました。
思わず伸ばしてしまった手が空しく宙を切った時、私の心は今までにも何度か襲われたことのある“虚脱感”というものに襲われました。
「……………ほう、吸収しきったというのですか。素晴らしい。一般的な成人男性の体よりも大きいとはいえ、その体のどこにあれだけの量の物質を取り込んだというのでしょうか…」
「ふふふ、そのような無駄口を叩く暇が果たしてお有りですかな?」
「?…
「さあ、もうこのような場所に用なぞありませぬ。サッサと上に戻りましょう?ココは些か、窮屈が過ぎまするゆえ」
そう言うと彼の周りに、先程私の攻撃を避け続けていた際にばら撒いていたものが集まってきて、じきに彼の体が浮かび上がります。
なんと…ッ!!熱気球や推進力もなしに宙を浮くことができるというのですか!?あれはなんという遺物なのでしょうか?
「ッおやおや、もしや上昇負荷をお忘れですか?」
「ンンンンン!!さァて、どうでしょうねェ?!鬼神招来!」
彼が手を三度叩くと影が形をとり始め、たちまち体格の良い重装騎士らしきものへと姿を変えました。その手にはグレイブが握られています。
一対多の戦闘はこちらの不利となりますので、少しじっとしていただきましょうか。
「『
「…捕らえました」
…なにか様子がおかしいですね……私の
私が少しばかり考えていると、チェルノボーグ殿はその体を一度影へと戻し、そして今度は
「…おやおやおやおや、それは少々困りましたね……どうやら貴方の言う通り、上に上がるしか無さそうです」
戦場は箱庭から崖へと移ります。残念ながら機動力ではこちらが劣ります。それに加えて戦況は先程と変わらず二対一。チェルノボーグ殿は私の周りを飛行しながら近接戦闘を仕掛け、隙あらば私の背中にある『カートリッジ』を破壊しようとします。リンボ殿は遠距離からの私の妨害に徹しておられます。
―――ああ、始まりましたね。
「ンンンンン、それが祝福ですか?ああ、なんと貧弱そうな見た目であろうか!拙僧の物とは大違いでありますなァ!」
「ええ。貴方の力には、私も驚いています。あれだけの量の成れ果てを取り込んだなら、私ただ一人にかかる祝福なんて霞んで見えるほどの『祝福』を得られるのでしょう」
「ですが、私はこちらの方が気に入っていまして。何せ私の愛する子供たちが、私に授けてくれた『祝福』なのですから―――おや、」
五つ装備していたカートリッジの、一番上の物が排出されます。
「レシーマが終わってしまいましたか。心優しい傑作の一つでした……将来の夢は、お姫様だったんですよ?可愛いですねぇ」
「ンンッ!!笑止ィッッ!!!今はそのような肉袋のことなぞどうでも良い!唯儂だけを見よ!ここだッ!貴様の斃すべき敵は今、ここにおるのだぞ!!」
「おやおや、貴方のことも見ていますよ。そのように拗ねないでください」
「ンンンンンンン!!!急々如律令!!!」
互いの持つ全ての技を使いながら、私たちは上へと昇っていきます。
「ッ、いよいよ砦水が崩壊したか!」
煌めく氷と、水飛沫と、紫色の閃光、彼の遺物、私の祝福。
―――そして、私のこれまでの
あらゆるものが、削られて。研ぎ澄まされて。洗練されて。純化されます。
素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい。
溢れんばかりの未知が、私の前に広がっています。この
ああ、願わくば。
この一瞬が、ずっと続きますように―――
「―――ああ。これが、『祝福』なのですね」
背部に格納されていたカートリッジが、全て排出されます。
「ターキリ、トーレイテア…、ノペロ…、ボルデン……。お疲れ様でした…素晴らしい、冒険でしたね」
「ンンンフフフフフ!そのまま感傷に浸っていなされ。その幸福の絶頂の中で拙僧が殺して差し上げる!」
リンボ殿はそのまま上昇を続けます。砦水をものともせず、今や私のはるか上空におられます。
「さあ、機は熟しました。名残惜しいですがこれにて終幕といたしましょう!」
「機は熟しました。名残惜しいですがこれにて終幕といたしましょう!」
拙僧の装備している礼装『黒の聖杯』は、拙僧の知るあらゆる礼装の中で唯一装備者にスリップダメージを与えます。
これほどまでに体力が減ったならば、よろしい!最早この礼装は
サッサと換装してしまいましょう!
「礼装換装!『レコードホルダー』!!」
ンンン、驚かれましたかな?『なぜ“恋のお呪い”を使わぬのか』と。あちらでも良かったのですが、あれはオーバーチャージ二段階引き上げとNP50%チャージなど、成れ果て共を潰せばどうとでもなる能力しか持っておりませぬのでこちらにしたのです。
さ、早く宝具の準備を整えなければ…!
「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女………」
彼が両手を組み合わせ何かをつぶやき始めると、彼の後ろに巨大な黒い球体が現れました。
「―――太陽、ですか?」
何故でしょう。なぜ私は、あの黒い球体を見て太陽を感じたのでしょうか。
正気の者なら、アレを太陽であるとは言わないでしょう。ですが、これは紛れもなく太陽―――
あれが、太陽。あれが、夜明け?
「夜明け、夜明けですか。あれこそ、私たちの目指す…」
ああ―――
「なんだ」 「なんだ」 「黒い」
「丸い」 「あれが見たい」 「触りたい」 「触りたい」
「不思議だ」 「どうなっている?」
「構造が知りたい」 「不思議だ」
「あれが知りたい」
「あれが欲しい」
「欲しい」 「欲しい」 「欲しい」
深淵の闇を切り裂いて、七条の光矢が駆ける。
未だ知り得ぬ『未知』を目指して、新たなる『あこがれ』を目指して。
太陽に近づき過ぎた者は、その身を焼かれる運命にあると聞きますが、
どうやら私は、その者の様にはならなかったようですね。
放たれた七本のうち、六本は彼の遺物によって妨げられました。
ですが、最後の一つは―――
「ンンンンンンン???!!!七つもですか!?これは想定外でした!」
せいぜいが二、三本程度だと考えておりましたが…ッ!くぅッ、何をしておるのです!早く準備を済ませよ!
「不倶ッ、金剛ッ、蛇蝎ッ、戴天ッ、頂経ッ、王顕ッッ!」
疾く、完成せよッッ!!!
「来たれ、暗黒の帳」