怪しさMAXの陰陽師は、奈落の底を目指すようです   作:S・DOMAN

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ヤバイ…!この小説、深界六層&成れ果て村編だけで三十話近く使ってるぞ…!


忘れもしませぬ。あれは拙僧が“村”の守護神だったころ・・・67

 

 

 

 リコはあの商店街で品物を物色していたから、少し歩き回ればすぐに見つかった。

 考えは上手く纏まらず、頭の中で紐のように絡まりあったままだ。でも、ちゃんとした言葉に整える余裕はない。ボクの考え―――考え過ぎであって欲しいが―――が正しければ、ドーマンが眠っているこの瞬間以外にチャンスはない。夜でもいいんだがドーマンはいつも……―――ドーマンはいつ眠っている?また謎が一つ増えた。

 

 

(あ…)

 

 

 思考の、記憶の隅々にヒビが入っていく。美しい冒険の日々に影が差していく。思わず胃の中の物を吐き出したい衝動に駆られるが、ダメだ。それも含めて伝えなければ…

 伝えるべき事が多すぎる。でも全部を正確に伝えることはできない。今までの人生の中でこれ程頭を働かせた事があっただろうか。ワズキャンのあの言葉、ファプタの教えてくれた“村”の成り立ち。なるほど。無駄な事なんて一つもない。全部が線で繋がっていく感覚がする。

 

 

「……度し難い。度し難いな」

 

 

 リコはやはり楽しそうに笑っている。無造作に並べられている旧式探窟家装備の山の中から遺物を掘り出して、その機構の複雑さに目を輝かせている。

 

 

「リコ」

 

 

「……うん?あ、レグ!見て見て!この遺物すっごいんだよ!ほらここ―――」

 

 

「リコ!今はそれどころじゃないんだ!」

 

 

「……え?」

 

 

 ボクができるのは、リコたちにドーマンという存在を考え直してもらう事。それだけだ。それ以上(・・)の事をしてしまえば、きっとすぐ消される(・・・・)

 

 

「リコ。考えてみてくれ―――」

 

「ドーマンが最後に眠ったのはいつだ?」

 

 

「えーっとね……うーん?いつだったっけ」

 

 

「そうだ。いくらドーマンが強いといっても流石におか―――」

 

 

 

 

「でも、別にねぇ?」

 

 

 

 

「―――は?」

 

 

 知りうる限りでただの一度も眠ってない人間。そんな人間がいるものか。そんなボクの不審を、リコは一蹴した。

 

 

「だってドーマンだし……そんな驚くことかなぁ」

 

 

「そ、そ、そんなこと、だっておかしいだろう!?ドーマンは『奈落のの至宝(オーバード)』でもなんでもないただの人間で、それなのに眠らないなんて!」

 

 

「う〜ん。私はてっきりオンミョージュツでどうにかしてるんだと思ってたんだけどさ」

 

 

 ちがう。ちがうちがうちがう!何故だ!何故リコはこうもドーマンを疑わないんだ!?考えたくも無い予感が頭をよぎる。まさかリコは既に、ドーマンに―――

 

 

「―――すまない。ボクの勘違いかもしれない」

 

 

「え?うん。そりゃいいけどさ…」

 

 

 結局、ボクはリコを説得できなかった。あの状態のリコをどうにかできるとは思えなかったんだ。何も、思い浮かばない。

 自分の無力さに絶望する。ボクは皆の洗脳を解くこともできないし、思い出させる(・・・・・・)こともできない。ドーマンと……ドーマンと戦うのなんてもっての外だ(・・・・・・)

 意気地無しと罵ってもらっても構わない。

 

 頼む。誰か教えてくれ。ボクはどうすれば良いんだ?

 

 

 

 

 宿に帰る事もできず“村”を歩いていると、気付けば見晴らしの良い場所にいた。思考は酷く絡まったままで、そのまま行動していたからこうなったのだろうか。

 

 縁に寄り掛かって景色を眺める。眺めたからといって現状が良くなるわけでは無いが、何かに逃げないとこの恐怖に耐えられない。

 

 今の自分は、本当に自分なのか?ボクは本当にボクなのか?このボクは、ドーマンにとって都合のいいように作り変えられたボクなのではないか?そしてそれは、ボクだけではなく皆も―――そう考えると、心細くて、不安で、悲しくて仕方無いんだ。

 

 

「もしかしたら、おかしいのはボクの方かもしれないな…」

 

 

 機械の体に、人間の心。そんなモノ遺物であっても存在してはならないのかもしれない。この悩みも、もしかして、ボクが本当に人間だったら持ち得なかった悩みなのかもしれない。

 分からない事ばかりだ。嫌になるなぁ。

 

 こんな風に悩んでいる自分を、何だかバカらしく思って、つい笑いが漏れてしまう。

 

 

「おやぁ?キミはリコちゃんの所の……レグ君!どうしたんだい?」

 

 

「ん……ああ、ワズキャンか」

 

 

 “村”が夕焼けに照らされた頃、不意に声をかけられた。隣を見てみれば誰あろう、村長のワズキャンだった。

 ワズキャンがボクの横に立つと、何だろう、何か甘い匂いがする。つられて彼の手元―――蔓のようにウネウネとしている、手?腕?―――を見てみれば、湯気の立ち上るコップが二つあった。

 

 

「ああこれかい?お茶だよ。飲む?」

 

 

「い、いや、悪いが遠慮させてもらう…」

 

 

「えぇ……あ、これは僕が淹れた物じゃないよ?ベラフに淹れてもらったんだ。花の蜜入りの特製ブレンドさ。まー飲みなよ。気持ちが落ち着くよ?」

 

 

 言われるままに手に取ってみればやはり温かい。彼の言う通り、本当に淹れたばかりのようだ。何か謎の成分が空気中に溶け出している訳では無さそうで安心した。

 

 

「ありがたい……だがワズキャン、どうしてボクにお茶を?」

 

 

「散歩してたらたまたま見かけてね。家も近いしせっかくだからと思って持ってきたんだけど……迷惑だったかな?」

 

 

「い、いやいや!そんな事は無い!」

 

 

「そう?なら良かったー!……それで?レグ君。君はいったい何をそんなに悩んでたんだい?」

 

 

「……いや。悪いがそれは話せないんだ…」

 

 

「む。なら当ててみようか。うーん……ドーマン君の事だったり?」

 

 

「…」

 

 

「図星かな?まぁドーマン君胡散臭いもんねー!彼への悩みの一つや二つ、あったって何もおかしくないさ」

 

「でもねレグ君。悩みや疑問をいつまでも抱えておくことはできないんだ。キミ(ヒト)キミ(ヒト)である限り、いつか必ず清算しなければならない時が来る…」

 

「…その時に悲しくならないように、どうにかできそうな悩みは早いうちから消しといた方がいいんじゃないかな?」

 

 

「……だが、ワズキャンはこの村の長だろう。これはボクたちの問題だ。だからボクたち自身で―――」

 

 

「解決しなきゃいけない、か。なるほどねぇ。それならやっぱり問題ないね!」

 

 

「……え?」

 

 

「あれ?ドーマン君から聞いてないのかい?僕たち“村”の住民は既に、リコちゃんの探掘隊の指揮下にあるんだ。つまり村長である僕よりも君たちの方が立場が上…」

 

「…だから君が悩む必要は無いんだ。君が悩みを解消するために僕らを利用する事は、別に悪い事じゃないんだよ」

 

「さあ、レグ君。君の『願い』は何だい?君はいったい、僕たちに何をしてほしいのかな?」

 

 

 ボクはやっと、この一連の出来事に終止符を打つだけの資格を得た。

 今、ボクは新たな協力者を得ようとしている。ワズキャンが手を差し伸べる。

 

 仮面の向こう側でにこやかな笑顔を浮かべているような気さえした。

 考える時間は終わった。後は行動を起こすだけだ。

 

 

「―――ボクは…」

 

 

「…ボクはドーマンに聞きたいんだ。何でボクたちを欺いていたのかを」

 

 

 ボクは彼の手を取った。

 ああ。何かが捻じ曲がる音がする。本当に、本当にこれは正しい事なのだろうか?

 

 

 




まったまたまた失踪します。
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