黄金の時計   作:なんかいけ丸

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 ───この本によれば。

 

 常盤ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる運命が待ち受けていた。

 友の死、仲間の犠牲。悲しみを背負い運命の通りオーマジオウとなった常盤ソウゴは、孤独の王であることに意味がないと悟り、その力を持って創造の力を行使した。

 今ある時空を壊し、別の時空を創る。それは仮面ライダーのいない世界、いずれ滅びるかもしれない世界。ジオウの力を受け継げないのであれば、もう二度と王になることは出来ない。

 それでも彼は決して諦めない。再び王となる道を。

 

 普通の高校生、常盤ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待ち受けている──

 ──のかも、しれない。

 

 嗚呼、楽しみだ。若き私よ。

 お前はどの私とも違う、真の王者へのための道を選択した。私が若き頃にはなかった力を持ち、友を持ち、そして決意を持った。なればきっと、お前が私になることはないのかもしれない。

 常盤ソウゴ、彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる運命が待ち受けている。どの世界の私も、必ずその運命を背負っている。

 私には分かる。平行世界の数々、その一つ一つにオーマジオウが誕生していくのが。運命は決して止められない。オーマジオウが運命の終着点であり、歴史の終局である。

 故に私は、どこかで諦めを持つしかなかった。50年――長い、長い時間の間。最高最善の魔王として君臨している中、知覚できるオーマジオウが増えていくのを感じていた。

 多くのレジスタンスを、虐殺しながら。

 だがその絶望も、もう終わる。若き日の私が今の時空を破壊し、新たな歴史を創り上げる。未来は、白紙に戻る。

 これからは私もお前も、知らぬ未来がやって来るのだろう。

 ――楽しみだ、若き私よ。お前がどのような道を行き、そして王へとなるのか。

 既に平行世界の私には記憶を共有してある。この時空の私はここで消えるが、他の私にも残しておくべきだ。

 最後の希望とやらを。

 

「祝え。新たなる、未来の誕生を」

 

 最後に座った玉座、慣れ親しんだその感触には僅かに満足感があった。

 

 

 

 夢を見た。

 遠い誰かの、夢を見た。

 

 それは生まれながらの王。荒廃した大地、小さな生命一つない場所でただ一つの玉座に座る人の、悲しい夢だ。

 最高、最善の王。それがその人の夢だった。言葉通りのものをきっとその人は目指して、そして願って突き進んでいたんだと思う。

 当たり前のように自然があって、人がいて、文明があって。いざこざはあるけれど皆優しく楽しく笑えている。そんな絵に描いたような未来を。

 

 絶望。目の前の景色は、まさにその二文字が相応しい。

 銃弾が飛び交い、兵器が大地を抉り、巨大なロボットがその猛威を奮っている。

 たった一人の、玉座の人間に。

 怨嗟の叫びが戦場に響く。人々の心の底から沸き上がっているその言葉は、たった一人の人間に向けるにはあまりにも酷すぎる。まるで全ての悪いの感情を、彼一人に向けているかのよう。

 魔王、その文字が脳裏を掠めた。

 

 爆音と悲鳴。飛び交うのは蹴られた小石のように吹き飛ぶ人間、大地を抉るのは一人の王の力、その触れずに奮われる猛威はロボットをいとも容易く鉄屑へと変えていく。

 暴力という名の炎が大地を、人を焼いていった。もはや最後に立っているのは、玉座の人間ただ一人。

 

「お前達に私を倒すことは不可能だ。何故だか分かるか?」

 

 死に体の軍に発せられたその言葉は威厳に満ちていた。王に相応しいオーラ、それが言葉一つにも籠められていた。

 軍の人間たちにはその言葉はどう聞こえたのだろう。嘲られているとも取れるかもしれないその言葉。

 でも、俺には──

 

「私は生まれながらの、王である」

 

 とても、とても寂しい言葉に聞こえたんだ。

 

 

◆◆

 

 

「そういや、さ。聞いたことあるか? 旧校舎の噂話」

 

「なにそれ」

 

 日が傾きつつある時間、喧騒が絶えない放課後のこと。教科書を指定鞄に詰めている中、ゴシップ好きの友人が話しかけてきた。

 その時は一度話し出すと長いから、なんとか理由をつけてはぐらかして早く帰りたいな、なんて考えていた。中学生の放課後というのは、宿題よりも大事なことをするための時間なのだ。

 ゲーセンとか、メールとか。

 

「知らないのかよ~。結構有名だぜ、高等部の人間が夜な夜な通ってるとか」

 

「オカルトクラブの人間だと思うけど。それか肝試し」

 

「まぁそこはそうだろうけどさ。でもこれは分からないぜ?」

 

 そう得意気に笑いながら、彼は語り出した。

 

 旧校舎のとある教室には、幽霊が住んでいるのだと。

 

「根拠は?」

 

「噂話に根拠もくそもあるかよ」

 

 ごもっともで。

 

「でも信憑性は結構高いぜ。お前がさっき言った肝試しに入った連中が、何人も聞いてるんだってさ。女の子の啜り泣く声をさ」

 

 旧校舎で啜り泣く女幽霊の噂。それは夜、旧校舎に肝試しで入った学生が懐中電灯を片手に入った時のことである。

 その日は台風が近づきつつある日であるというのに(そもそも台風が上陸しようという日に肝試しなんかするな、という突っ込みは置いておいて)、妙に風が静かであったという。

 主催者はこれ幸いにと肝試しを横行したが、それを嫌な予感や前兆として捉えてしまうのは仕方のないことと言えるだろう。

 物音は自分達の足音だけ、静かな校舎にはよく響く。意気揚々と進むとある男子生徒たち、その後ろで固まり動く女子生徒たち。その内の一人が言い出した。

 何か声が聞こえてくると。周りは皆冗談として扱い、朗らかに笑い出す。ビビっているからそんな幻聴が聞こえるんだと。しかしそれはすぐに幻等ではなくなった。

 声が聞こえてくるのだ、一人二人と、それを認め始めていく。場は混乱と恐怖に包まれていく中、それは確かに全員の耳に入った。

 泣き混じりの甲高い、女の悲鳴を。

 

「なんというか。よく出来た、どこにでもありそうな噂だな」

 

「だろ? 実際に行った人間から話を聞き出してまとめた、俺渾身の出来だぜ」

 

 さらっと自分で作った噂を自分で流していると自供したが、今更そんなことで驚いても仕方ない。彼はそういう人間であり、そういう友人なんだから。

 こいつはそういう話を聞いては誇大にまとめて適当に広げる、そしていつもすぐに沈静化する。人の噂も七十五日というが、彼の場合は一週間立たずだ。

 未だに何が楽しくてそういうことをしているのかは、よくわからない。

 

「……幽霊、か」

 

「お、お前もちょっと気になってきた口か? なんならちょっと現地調査の一つでも頼みたいんだけど」

 

「ん、そうだな。そうしてみる」

 

「そっかぁ、駄目か~……え?」

 

 今日聞いた幽霊の噂、そして久しぶりに見たあの夢。何か明確な根拠があるわけじゃない、けれど不思議と、漠然とした自信がある。

 なんか、繋がっている気がした。

 

「それで、旧校舎のどの辺りにいるんだ?」

 

 ──そうして聞き出したのが数時間前のことだ。

 

 深夜の旧校舎は酷く静かで、なるほど確かにおどろおどろしい雰囲気を感じる。森の中にあるのも相まって、不気味と言う他ない。肝試しに挑む人が後を絶えない、というのも本当らしい。

 

 しかし旧校舎という割には少し小綺麗が過ぎると思う。確かに壁や窓には汚れが見受けられるが、床に目立った埃が溜まっていない。それに肝試しに人が来ているのなら、もっと隅に埃があっても可笑しくない。

 誰か最低限の清掃でもしているのだろうか。例のオカルトクラブの誰かが? いや、オカルトを好むのなら雰囲気を好んでもいいはずだ。雰囲気があるというのなら、やはりもう少し埃があってもおかしくない。

 だから何だと言われれば、特に何かあるわけじゃない。ただ不思議と思わずにはいられない。

 何か気になる理由がある気がする。

 

「──考え事する前に動かないとな」

 

 折角見回りの目を掻い潜ってここまで来れたんだ。ここまで誰かが来るとも思えないけど、もし来て鉢合わせなんてことがあったら内申にも響く。

 あくまで、個人の興味で終わらせなければならない。

 

「場所は…………確か、上の方だったか。渡された紙にはどう書いてあったかな……」

 

 友人から説明を聞いたものの旧校舎に入るのはこれが初めて。だから気を効かせてくれた友人がこうして紙に残してくれたのだけど――

 

「あれに期待したのが間違いだったか……?」

 

 雑。地図と言うにはそれはあまりにもアバウトすぎた。あっちだのこっちだの、ギュンだのズバーンだの。なんだこれは落書きか何かか。ピカソか。本人的にはきっと分かりやすくしたつもりなんだろうが、正直これならまだ小学生に書かせた方が上手いまである。

 いや中学生なんてまだ小学生の延長線上みたいなものだけど、にしたってこれは酷すぎる。

 

「……泣き声に期待して回ってみるしかないか」

 

 そんな簡単に泣いてくれるとはこっちも思ってはいないが。とはいえ無駄足で帰るのも(あまりにも汚すぎるとはいえ)善意で地図を描いてくれた友人に申し訳ない。

 

 とりあえず、上から順に攻めていくことにした。特にこれといった理由はない、強いて言うなら現地調査だけど何もなかったら帰るだけなので、そうなった場合下から探すのではなく上から探した方が帰る時に楽になるから。

 そうして一階、また一階と下っていく。今のところ成果無し、さっきオカルトクラブの部室らしき部屋を見かけたので、やっぱりここで部活動をしているのは間違いないみたいだ。じゃあ掃除とかもクラブの人がやっているのだろうか。今度放課後に聞いてみよう。

 こういうことを聞くと友人は「いやお前……行動力ありすぎるだろ」と言ってくるのだが、聞きたいことがあるなら素直に聞いた方が良いと思うのは普通だと思う。こういうのを、デリカシーがないと言われたこともあるが。

 

「確か有名人がメンバーだった気がする。……り、り…………りんご酢……?」

 

 多分違うとは自分でも思う。

 くだらない事を考えつつ、おどろおどろしさにも慣れ作業的に見回りを続けていたその時だった。

 

『イヤァァァァァァッッ!!』

 

 森のざわめき一つ聞こえない校舎で、静寂を切り裂くように女性の悲鳴が上がったのは。

 

「……奥の方だ」

 

 確かにこの階の突き当たりの方から聞こえてきた。この校舎の設計が毎階ほとんど一緒なら、そこには教室が一つあったはず。切迫してきた緊張を抱えながら声の方へ真っ直ぐ駆け抜ける。こんな所で悲鳴があげるなんて、きっと何かヤバい問題が起こったに違いないと確信したからだ。

 

 運動靴で木床を蹴る騒々しい足音を立てながら着いた先には、自分よりも背丈のある扉が一つ。ここだ、廊下ですれ違わなかったということは声の主がいるのはここしかない。

 何があるのか、何がいるのか。分からない、でも人命に代わるものはない。

 深呼吸を一つ、覚悟を持ってドアノブを握り、こじ開ける。その先にあったのは──!

 

「……棺?」

 

 部屋にあったのは幽霊でもなければ化け物でもなく、アンティークの棺。何故か灯っている燭台にまるで囲まれるよう部屋の真ん中に配置された謎の棺が一つ鎮座されている。

 なんだかより一層不気味さを感じさせる。まさか、この棺の中に幽霊が……?

 啜り泣く声は聞こえないけれど、幽霊にだって気分があるだろう。もしかしたら先程悲鳴をあげた女性は幽霊の怒りを買って、この棺の中に引きずりこまれたのかもしれない。となると次に開けるべきはこの棺の蓋。

 

「……」

 

 思わず生唾を飲む。自分は感情が薄い方だとは思っていたが、まだ恐怖を感じる心が俺にもあったとは自分自身に驚きを感じてる。

 しかし怖がっていても始まらない。人命優先、蓋に手をかけそして──一気に引き剥がす。

 

「……へ」

 

「……は?」

 

 思わず素っ頓狂な声をあげる。いかにもな扉の先にはいかにもな棺があり、そしていかにもな棺の中にあった、いや居たのは高校クラスの女子生徒の制服を着た金髪の美少女。まるで棺をベッドのように寝転がっていたようで、蓋を開けた俺と視線が合う。まるでワインのような、綺麗な薄紅の瞳。

 なんと声をかけたものかと悩んだその瞬間、彼女の瞳が涙に潤み表情が強ばる。そして、

 

「い、イヤァァァァァァッッ!!」

 

 悲鳴。ろくに音を聞いてなかった耳に突然入ってくる大音量に、思考が吹っ飛ぶ。

 

「あ、ま、まままた、やってしまった……! うう、どうして僕はこんなにダメダメなんだろう……!」

 

「……おい」

 

「リアスお姉様にも眷属の皆にも迷惑かけっぱなしで、自分の神器もまともに制御できない……ううやっぱり僕なんて一人でこうやって棺の中に収まって光も浴びずに、いつか愛想をつかれるのが──」

 

「おい」

 

「……? だ、誰ですか……!? め、目の前のこの人は止まっちゃってるから違うだろうし……」

 

「その俺だよさっきから声をかけてるのは」

 

「イヤァァァァァァッッ!!??」

 

 耳につんざく大音量の甲高い悲鳴が鼓膜を破れんばかりに揺らす。深夜に誰もいないからっていくらなんでも声がでかすぎる、近所迷惑とか考えないのかこの女子生徒は。

 

「流石にうるさすぎる、もう少しボリュームを落としてほしい」

 

「あ、ご、ごめんなさい……。……なんで動けるんですかァァァァ!??」

 

「うるさすぎる……」

 

 棺から壁まで悲鳴をあげながら後退りをする女子生徒、ゴキブリみたいな速さだ。というかあんまりにもうるさいものだから怒りを通り越して呆れの方が強くなってきた。

 

「ひぃいい!? 神器は間違いなく暴発してるのに、なんで停まらないんですかぁーっ!?」

 

「……? せい、なんだって? というかなんで俺が止まるんだ。理由がないだろう」

 

 さっきから彼女は一体何を言っているのか、せいなんとかがどうとか、眷属がどうとか、止まらないだの止まるだの。別に拘束されてないんだからそれは動くだろう、マグロじゃないから止まったら死ぬわけではないけど。いや多分そういう話はしてないんだろうな。

 

「ところで聞きたいことがあって……」

 

「ひぃい! ぼ、僕なんか尋問しても何にも良いことないです! 僕は無害なただのバンピールなんですーっ!」

 

「いや尋問ではなく質問を……」

 

「何度見ても停まらないし平然と動いてますぅぅうっ! もうダメだ僕はここでこの人に拷問されてボロボロにされちゃうんだぁあ!」

 

 埒が明かない、とりあえず臆病であることはわかったが話すら聞いてもらえないというのは困った。どうにも錯乱しているようだし、何とか落ち着いてほしいところだ。

 ならば、ここは俺の十八番を持って彼女の感心を引いて見せよう。

 その為には最大限近づかなくてはならない。

 

「……」

 

「ひっ! こ、来ないでくださいーっ!」

 

 無言でつかつかと距離を詰める。

 

「ぼ、僕なんか食べても美味しくないです! 絶対お腹壊します!」

 

 既に準備は出来ている。あとは目の前で見せるだけ。

 そしてついに0距離、膝をつき彼女と目線を合わす。

 

「い、イヤァァァァッ! リアスお姉様ーーーっ!!」

 

 校舎全体に響くような悲鳴。それを塞ぐように女子として整った顔に手を伸ばし、指を鳴らす。

 

「……へ?」

 

 チューリップの花を1本、彼女へと差し出す。

 

「驚かせてごめん。怖がらせるつもりもなかった、ただ話を聞きたいだけなんだ。聞いたらすぐに出ていくよ。これは、そのお詫びとして受け取ってほしい」

 

 声はなるべく優しく。恭しく頭を下げて、花を一輪差し出す絵面はまるでプロポーズの一幕のよう。そうからかわれたこともある俺の一番の得意技。それがこの花を出すマジックだ。

 

「へ……あの、その……」

 

「チューリップは嫌いだった?」

 

「い、いえ! 大好きですっ」

 

「良かった。是非君に受け取ってほしい、これは俺の気持ちでもあるから」

 

 そう言うと女子生徒は恐る恐る花を手に取り、じっくりと見ている。そして香るチューリップの匂いに初めて表情を緩ませて、笑顔を見せた。

 ここだ、もっと緊張を解してもらうにはここしかない。

 

「因みに、こういうことも出来る」

 

 つまんだ指を更につまんで引っ張ると、つままれた指と指の間から糸に繋がれた色んな国旗が伸びていく。おぉ、と声をあげ見入る彼女に国旗と繋がった糸先を渡して、手のひらで先を促すように引っ張ってくれとジェスチャー。彼女が手渡された糸を引っ張ると止まることなくどんどん伸びていく糸と国旗。

 

「わぁ……! あ、あの、マジシャンさんなんですか……?」

 

「いや、まだマジシャン志望のド素人。夢は本物のマジシャンになって、大きなステージでショーを披露すること。それで皆を笑顔にしたい」

 

 そう言うと彼女はどこかキラキラと目を輝かせ、拙いながらもすごいですねと、応援してますと言ってくれた。そう言ってくれるだけで夢へのエンジンはますます熱を持つばかりだ。

 どうやらだいぶ落ち着いてくれた様子だし、これなら話も聞いてくれるかもしれない。

 

「それで、話を聞きたいんだけど」

 

「は、話、ですか?」

 

「そんなに身構えなくても大丈夫」

 

 聞きたかった質問、それはさっき女性の悲鳴らしきものがこの部屋から聞こえてきたが、俺以外の誰かが来た感じはしただろうか、というもの。

 これは俺の早とちりだったというか、だいぶ丸く収まる答えだった。

 悲鳴の正体とはつまり、目の前の女子生徒のものだったということらしい。燭台の火に揺らめいた影が自分の苦手なものに見えてしまって、それでつい驚いて声をあげてしまった。とのこと。確かにこれだけ臆病ならそれも全然あり得るか。ということは命を失おうとしている女性はいなかったんだな、それだけは喜ばしい。

 

「紛らわしくってごめんなさいぃ……!」

 

「謝らなくていい、俺も早とちりしたからな」

 

 しかしこの女子生徒、本当に気が弱い。女子校でも平気でカツアゲは起こると言うし、こんな純心で気が弱い子は虐めの標的にされやすい。出来ればそれが原因で棺で暮らしてるなんて言葉が出てこないことを願うばかりだ。

 

 続いての質問、それは啜り泣く幽霊のことなんだが、これもすぐに解決した。

 

「た、多分、なんですけど……それも僕、です……自分のことを考えると、ついつい涙が出ちゃうんです……」

 

「まさか、本当に四六時中棺の中で過ごしてるのか?」

 

 と口に出してから自らのデリカシーのなさに感づいた。人間誰しも話したくないことの一つや二つはある、だと言うのに俺はいつもの癖でわからないことはわかる人間に聞けばいいとそれを口に出してしまった。機嫌を損ねたりしないといいが。

 

「ぼ、僕、外に出たくないんです……この部屋と棺だけあれば僕はもうそれでいいんです……人と会いたくもないですし……」

 

「……そうか」

 

 そこまでして閉じ籠る理由はなんなのだろうか、聞いてしまいそうになる口を力ずくで閉じる。それこそさっき出会ったばかりの俺が聞くべき話ではない、彼女には彼女のそうなるだけの理由があったんだろう。

 ここは少しでも明るい話題に持っていくべきか。

 

「だが日の光ぐらいは浴びないといけないんじゃないか? 日光浴は大事らしいぞ」

 

「あ、それこそ大丈夫です。僕はその、えいっ」

 

 少し力むような声と同時に何か薄い物が広がったような音。彼女の背中に広がる影、いやもしかして、翼なのだろうか。

 信じられないが、彼女の背中に蝙蝠のような黒い翼が生えている。

 

「悪魔なんですっ」

 

「…………」

 

 思わずポッカリと開いた口、間抜けな姿をした俺を不思議そうに眺める彼女。

 これが俺のギャスパー・ヴラディとの初邂逅。歯車の噛み合う、そんな音がした気がする。




描写の指摘などあればよろしくお願いいたします。
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