黄金の時計 作:なんかいけ丸
夢を見た。最高にして最善、最大にして最強の王の夢と邂逅する夢を。
気が付くと人工的な物や暖かみが何一つ残っていない荒野に一人立っていて、目の前には玉座に座る男が一人。こちらに一瞥もせずただどこか遠い所を眺めている。
その姿がどうにも気になって、気付けば声をかけていた。
『何を見てるんですか?』
と尋ねると、やっぱりこっちを見ることもなく、
『お前には見えぬものだ』
なんて地の底に響くような重い、果てしなく重い覇気のこもった、言い返すことすら許さないような低い声で返された。
俺には見えてこの人には見えないもの、それは一体なんなんだろうか。未だにそれはわからない。
夢だとは分かっているけど、こんな荒野じゃ何かすることがあるわけでもないので、目の前の彼にいくつか言葉をかける。
『一人なんですか?』
『そうだ』
『今までずっと?』
『そうだ』
『寂しくないんですか?』
『寂しさなど、もはや何も感じない』
視線をどこかに剃らすことなく、ただ一点を強く見つめている。その目線の先にあるものはやはり無く、ただ虚空を見つめているようにしか見えない。
その姿とさっきの言葉に、嘘だと感じた。正確には嘘ついているわけではなく、隠していると感じられたんだ。
『それ、寂しいってことじゃないんですか。感覚が麻痺して、寂しいことすらわからないってことじゃないんですか?』
『……最高最善であり、最大最強であるこの魔王の私が、寂しいと感じていると?』
『絶対そうです』
強く断言すると、どこかを見ていた男は初めて俺を見て、そして鼻で笑った。
『王というのは、孤高であるものだ。兵士と王では見る対局が違うように、所詮普通の人間では私と同じものを感じることなど出来はしない。そして逆もまた然り』
『なんで隠すんですか』
『なに?』
今度もすぐに分かった、目の前の老人が自分の心を王という風呂敷で覆うように隠していることが。そして一つのことを悟った。この人は隠すのが上手いんじゃなくて、隠すのが癖になってしまっている人間なのだと。
どうしてか、まるで自分と男が一体になっているかのように、それが分かってしまったんだ。
『寂しい時に寂しいと言えないのは、ただの傲慢です。人の気持ちを分かろうとしない王なんて、最高の王じゃありません』
だから隠す必要なんてないんだと、何もかもを遠ざける必要なんてないんだと、そんな曲がってしまった背中で何もかもを抱える必要なんてないんだと、そんな想いを今の言葉に全てを詰め込んだ。
伝わるはずだ、俺がこの人の心が分かるように、きっとあの人も俺の心が分かるはずなんだから。
『──ふ、はは。ハハハハハッ!』
突然の大きな笑い声、それはきっと荒野の地平線まで届くような、そんな純粋で朗らかな笑い声。きっとこれが、この人の本当の気持ちなんだ。本当はこんな風に笑う人なんだと、なんとなく感じ取れた。
『若者よ、名はなんと言う?』
もう最初のような膝をついてしまいそうな重圧のこもった言葉ではなく、年齢に不釣り合いな好奇心が滲み出た明るいトーン。
『ジュンイチロウ、常磐ジュンイチロウです』
名を告げると、目の前の男は目を大きく広げて驚いたような表情を見せたあとに、静かに柔らかな言葉を紡いだ。
『──嗚呼……それはなんとも、良い名だな』
その時浮かべた笑顔の、なんと優しいことか。きっとこの人には俺と同じ名前の大切な人がいたんだろう、そんなことがすぐにわかってしまった。今彼の瞳に映っているのは今ではなく過去であることに気付いてしまったから。
『ならばジュンイチロウ、お前に見せてもらおう。寂しいを寂しいと言える者が王の力を持った時、どのような出会いに恵まれ、そしてどのような結末を描くのかを』
老人がこちらへ手をかざす。すると手のひらの中から光が現れ、真っ直ぐ俺へと向かい一度目の前でその動きを止めた。
その時、何が強く光を放っているのかが見えた。
『時計……?』
腕時計でも置時計でもない、黄金に輝く懐中時計のような形をした何かはすぐに動き出し、そのまま体の中へと入っていく。不思議と痛みはなく、その光景に違和感もなかった。
するとすぐに、不可解な眠気に襲われる。俺が夢から覚めようとしているのだろうか、覚めるために寝るとはどういうことなんだろうか。わからない、しかし少しずつ何かから離れていく感覚。
『その力の行く末を、私達はここで見守っているぞ』
あの時、意識が途切れるその刹那に、そんな楽しげな声が聞こえた気がした。
◆◆
着いてきてほしい、と言われ先導されるままに旧校舎の廊下を歩く。前を行くのはオカルト研究部の部長にして偉いらしいリアス・グレモリー先輩。腰まで伸びる紅い長髪が特徴的な、意外と優しい人。
その隣を歩くのが艶やかな黒髪と嫋やかな雰囲気が似合う大和撫子を体現したような女性、姫島朱乃先輩。
そして残る二人、金髪の先輩と銀髪の先輩は俺の両隣。
「そういえば、自己紹介していなかったよね」
そう切り出したのは浮かべた爽やかな笑みがやけに似合う好青年の言葉が相応しい金髪の美男子、正しくギャスパーは真逆の人間と言っていいだろう。
「僕は木場祐斗、よろしくね。それで隣の彼女は塔城子猫」
「……どうも」
「よろしくお願いします、木場先輩に塔城先輩」
口数の少ない女性だが、俺としてはこれぐらいの方が付き合いやすい。自分のことに集中しやすいし、何より無理して話題を探すこともない。最近はよく喋っている気がするけど、俺と言う人間はそもそも基本的にコミュニケーションが上手くはない。喋れば喋るほどその事実が浮き彫りとなり目立って仕方がない。
とはいえマジシャンを目指すのなら語る技術は必要となる、早く喋ることにもそろそろ慣れていかないと。
「そういえば気になってたんですけど、眷属ってどういうことなんですか? 役職の上下での部下とはまた違うんですか?」
「もちろんそういう意味もあるけど、少し違うんだ。僕たちは後天的に悪魔になった存在。この中で生まれながらにして悪魔なのは部長だけでね、後から悪魔になろうとするには『悪魔の駒』というのを使用して転生する必要があるんだよ」
駒を使って、転生。聞いただけではよく分からない、想像も出来ないから上手く飲み込めないことばかりだ。けれど大事なのはそういうものだと割り切ってちゃんと覚えることだ、そうすれば後で繋がることがあれば一気に理解出来る。
悪魔になるためには駒を使って転生しないといけない、何の役に立つかはさておき覚えておこう。
「じゃあそれさえあれば悪魔から悪魔へねずみ算式に増やしていけるってことですか」
「いえ、そう美味しい話はないのよ」
前を歩きながらリアス先輩が木場先輩の言葉を引き継ぐように口を開いた。
「『悪魔の駒』は誰でも持っているわけじゃないし、誰にでも渡されるものではないの。上級悪魔にだけ。それに数も十五個と決められているのよ」
「十五個、ですか」
「えぇ、丁度人間界のチェスと同じ数ね。そして転生した悪魔は駒の持ち主が主人とならなきゃならない」
「眷属や下僕というのはそういう意味だったんですね」
なるほど、なんとなく掴みかけてきた。悪魔側には無限に増やしてはいけない理由があるし、そして悪魔となったからと言って必ずしも最強なわけじゃないし偉いと言うわけでもないということも。なったからと言って成りたてと純粋な悪魔なら、それは後者の方が強いだろう。
それに数が限られてるなら意味のない転生なんてしても無駄になるだけ、それなら自分のためになりそうな人間を見込んでから転生させた方がすっといい。
「さ、着いたわ」
徐々に日もくれてきた時間帯、俺達以外誰もいない旧校舎で部長の透き通るような声がよく響く。
廊下の突き当たり、教室の扉には黄色のテープ。すごく見覚えがある。
「これって、彼のいる教室」
「えぇ。ジュンイチロウ、貴方は今までギャスパーの力を見たことがないと、そう言ったわよね」
「はい、少なくとも瞬間移動したのは見たことないです」
この一ヶ月、一緒にいる間はギャスパーから目をほとんど離さなかったけど何の拍子も、特に音もなく移動したことなんてない。後退りだって棺に入るのだって何かしらの音を立てていた。だから彼に変わった力があったなんて知りも思いもしなかった。
「ギャスパーの神器は見たものを停止させる力があるの、それは人だけじゃなく全てに影響があるわ。水でも火でも風でも、それこと時間だろうと。ギャスパーが力を使うだけでその場で停止する。それも見たことがない?」
「……いえ、見たことないです」
彼はそんなことまで出来るのか、ますます驚かされる。あんなに慌てん坊で臆病で泣き虫のギャスパーに、そんな化け物染みた力があるなんて驚きだ。
「ギャスパーはね、神器の力を制御しきれていないの。だから少し感情が昂ってしまうだけでも勝手に力が暴発してしまう。私達も何度も停められたことがあるわ……だからこそこうやって昼間は封印しているのだけど……」
怪訝そうな表情を浮かべながらそう語る部長、その気持ちはなんとなくだけど俺にも分かる。だって少し話がおかしくなってきてるのだから。
ギャスパーは神器とやらの制御が出来ておらず、声をあげたり怖がってしまうだけでも力が暴発して行使されてしまう。あんな臆病者で弱虫な美男子が驚かないようにしたり声をなるべく抑えることなんて出来るわけがない。ある意味ギャスパーは自分にすごく素直なのだから。
だからこそリアス先輩達も停められたことがあると言っている。
じゃあなんで俺は一度もそんな経験がないんだ? 俺だけじゃなく、物だって停まったのを見たことがない。部長達が嘘言う理由なんてない──ああやっとわかった、そういうことなのか。
「だから確かめに行くんですね」
「えぇ。でも正確には、貴方の体に眠ってる力を確かに行くの」
「力……?」
「貴方には神器が宿ってるの」
セイグリッド・ギア。さっきから何度も聞いてる謎のもの。それがギャスパーにも宿ってるんだと、名前が確か『停止世界の邪眼』だったか。色んな種類の神器があるんだろうなってことは言葉の端々から分かってはいたけど。
「僕、普通の人間ですよ?」
「テレビやニュースで聞くような著名人も、歴史に名を残してきた偉人も、実は神器使いだったっていうのは私たちじゃ結構有名な通説なの。そういう意味では人間の方が神器使いがずっと多い可能性だってある。だから貴方に宿ってたって、なにもおかしくもないわ」
なんて急に言われても、信じ切れないでしょうね。そう言って顔をテープに防がれた扉へ向ける部長。そしてこう続けた。
「だから確かめに行くのよ、この中へ」
彼女の白い指が扉に触れる。すると同時に何かのロックが解除されたような音が響き、テープは真ん中で断ち切られ重力に従い垂れ下がる。
「封印を一時的に解いたわ。さ、行きましょう」
そう言うと同時に扉が開かれる。いつも通り、魔法陣の上には棺があって燭台がいくつか置かれてるだけ。他にも色々と装飾はされているけど、さっきの部室に比べれば質素な部屋だ。
全員が入り、扉を閉めたと同時に中央の棺がガタガタと震え出す。
「ギャスパー、私よ」
『り、リアスお姉様!? なんで……』
「よかった、元気そうね。今日は貴方に会わせたい子がいるの。顔を見せてくれないかしら?」
棺の近くにしゃがみこみ語りかけるリアス先輩のすぐ後ろで、黙々と準備を進めておく。ギャスパーの力を見るためだというなら、つまりは暴発させないといけないということだろうし。
そうしている間にパカリと棺の蓋が少しだけ持ち上がる。
「み、見せるだけなら……」
「ありがとう。それじゃあ、ジュンイチロウ」
「ジュンイチロウ……?」
視線がこっちを向いた。今だ。
手に持っていた箱を開く。
『──ヒャハハハハハハッッッ!!!』
同時にバネの力で飛び出す、世にも恐ろしいピエロの顔とその笑い声。狙いはバッチリ、ギャスパーの目と鼻の先まで急接近。これぞマジシャン御用達のビックリ箱。
「イヤァァァァァッ!?」
校舎全体に響きそうな、甲高い女の子の悲鳴が響き渡る。なんだったらグラスの一つや二つぐらいは叩き割れそうな声量、サプライズは大成功みたいだ。
「こんにちはギャスパー。サプラーイズ」
「酷いよジュンイチロウくん~~!!」
「つい弄りたくなって、ごめんな」
「うううう~~!」
閉められてしまった棺の中からすすり泣く声。こうなると暫く泣き止まない、ちょっとやりすぎてしまっただろうか。とびきり驚かすならこれぐらい迫力がある方がいいかなと踏んでいたのだけど。
「……祐斗、子猫。どうだった?」
「……本当に停まってませんでした。ビックリ箱も部長も、その人も」
「これが彼の、神器の力……なんでしょうか」
「停止を無効化……? いえ、神器を無効化しているのかしら」
なにやら後ろで研究部の人達が喋っているけれど、生憎ギャスパーを慰めるのに忙しすぎて耳を傾ける暇もない。
だからごめんって、今度からは絶対使わないから泣き止んでほしい。
「……ジュンイチロウ、少しいいかしら」
「ごめんごめ……はい? なんでしょうか?」
背後からの声に振り向き、対応する。ギャスパーのことは、とりあえず置いておく。こんな感じでしばらくはこのままだろうし。
「貴方は無自覚に神器を発動させているのかもしれないわ」
「ギャスパーの神器で止まらなかったから、ですか?」
その言葉に彼女が静かに頷く。
「貴方は知らないでしょうけど、『停止世界の邪眼』は数ある神器の中でも上位に食い込むほどにすごい力なの。
その気になればここら一帯の時間を止めることでさえ訳無いわ。そうなればもう誰にも止められない、解除できるのは本人だけ」
「……ギャスパーは、そんなにすごい力を持ってるんですか?」
じゃあなんで、ギャスパーはあんなに怖がっているんだろうか。神器が制御出来ないからってあそこまで臆病なのはおかしい気もする。
だってその気になればギャスパーに敵なんていないのに。
「そしてそれを無効化出来るだけの神器が、貴方の中にもある」
そんなにすごい、か分からないけど。でもそれぐらいの力が俺の中にあるだなんて少し信じられない。今までなんの支障もなく普通の人間として暮らしてきたのだから、そういう非日常に夢を見なかった時期がなかったといえば嘘になるけれど、現実と空想の線引きぐらいは出来ているつもりだった。
悪魔が目の前に居て、吸血鬼も居て、線引きが曖昧になりかけてきた。でもそれでも自分に異能があるかなんて信じられない。だって力が漲るわけでも、その力が目に見えるわけでもないのだ。効果がまるで実感出来ない、それでどう信じればいいというのか。
いっそ全部嘘なんだと、ドッキリなんだと言ってくれた方がまだ信じられる。
そんな考えが顔に出ていたのだろうか、リアス先輩が語り始めた。
「信じられないのも無理はないわ、今のところ目に見えて実感出来るような要素は貴方には何もないのだから」
「……」
「悪魔とか、神器とか、色々と聞かせた身でこういうことを言うのは間違っているのかもしれないけど。ジュンイチロウ、貴方にお願いがあるの」
そう言ってリアス先輩は目線を合わせる。その瞳にはまるで春に感じる木漏れ日のようなそんな柔らかい光と、母のように暖かい慈愛が込められているように見えた。
「これまで通り、ギャスパーと仲良くしてあげてほしいの。あの子はずっと自分の力に怯えて過ごしてきたから」
その言葉に、なんとなく合点がいった。
ギャスパーはすごい怖がりだ、ゴキブリにも鼠にも、それこそ見知らぬ赤の他人にさえ過剰なまでに恐れる。どうしてそんなに怖がるのだろうと不思議だった、でもようやくその理由を理解出来そうだ。
ギャスパーが怯えてたのは自分自身だったんだ、見たことはないけれど本当に何もかもを停めれる力が自分の中にあるのだとしたら、きっとその事実が何よりも恐ろしかったんだろう。
出会ってもう、いやまだ一ヶ月。
俺はもしかして彼のことを、何も理解出来てなかったんじゃないだろうか。
「もちろん、強制なんかしないわ。だからこれは眷属を持つ王としての悪魔の命令なんかじゃなく、ギャスパーの姉であるリアス・グレモリーとしてのお願い」
まるで本当の家族のように、本物の弟を思いやるような、そんな慈愛を感じる声。その顔はとても柔らかで、とても優しい。彼女は悪魔だけど、まるで女神様みたいだ。なんてことを思ってしまうほどに。
そんなお願いを断れるわけがない。
「……僕、自慢じゃないんですけど、全然友達がいないんですよ」
昔からそうだ、誰も彼も知人どころか顔見知り程度。喋るのも得意じゃないし、出来ることはマジックぐらい。輪の中に入るのもすごい苦手だ。
「多分、僕は友達を作るのが下手なんですよね」
ドラマも見ない、見る動画はマジック関係、遊びも知らない練習以外は全部勉強。小さい頃からずっとそうだった、周りの子達の流行なんて分かりもしない。
そんな俺に唯一出来た友人が、噂好きのアイツ。人の輪にも入らない話もしないずっと机に向かって勉強ばかりしてる俺のパーソナルスペースにズカズカと入り込んできて、話をするだけして帰っていく。
「そんな僕でも知りたいです、もっとギャスパーの色んなことを。俺は全然、ギャスパーのことを分かってないって知ったから」
だから今日ぐらい、たまには友人として、アイツをリスペクトしてみようかと思う。
友達を作るための第一歩として。
「分からないなら一緒に探してみたい。知らないなら一緒に学んでいきたい。言いたくないならそれでもいい、俺はギャスパーと──」
いつか偉大となるマジシャンの第一のファンとして綺麗な笑顔にしてあげたいから。
だから、本当になんでもない。悪魔も神器もない、常磐ジュンイチロウとギャスパー・ヴラディとして。
「友達になりたい」
同時に背後で棺が揺れる、蓋が持ち上がる音がする。
振り向くと、棺の中から手が差し伸べられている。
「……ぼ、僕も、同じ気持ちだから。ジュンイチロウくんのこと、まだ全然知らないから……だから……僕も、君と」
差し出された手と同じように、聞こえる声は震えている。それでも彼は確かに言いきった。俺と同じ答えを言ってくれた。
「友達になりたい……!」
答えはもう決まっている。
その震えた華奢な手と迷わず交わした。
友達の握手を。
◆◆
「良かったんですか? 悪魔に勧誘しないで」
人と馴れ合うのが下手な二人の初々しい交流を眺めながら、朱乃は王であるリアスにそう投げかけた。
「時間すらも停めてしまえる神器を無効化に出来る神器……正直、喉から手が出るほど欲しいわ。僧侶も一枠空いていることだしね」
「きっとあの子は巻き込まれていくでしょうね、本人の意思に関わらず、否が応にも」
「させないわ」
神器を持つものの宿命、それは大なり小なりの闘争に巻き込まれてしまうということ。特に龍が近くにいるのならば、それはより確実性を増す。龍は必ず力と闘争を引き寄せる。
だとしても守ってみせる。リアス・グレモリーにとって常磐ジュンイチロウとは守るべき民、そして可愛い下僕にとって大切な友達なのだから。
「この地を任されたグレモリー家の者として、そして一人の悪魔として。必ずあの子もギャスパーも、守ってみせるわ」
今この地の土を踏みながらも好き放題をしている堕天使達は必ず葬り去る。彼に被害が出ることは決して許さない、それが『紅髪の滅殺姫』としての矜持。
「その為に、皆の力を貸してちょうだい」
それは眷属達にする必要のない発言であった。彼女達は必ず自分に力を貸してくれると知っているから、血よりも深い絆で結ばれていると信じているから。
今一度投げかけた言葉に三人が頷いたのを確認してから、リアスは努めて明るい声色で話しかけた。
「それじゃあ、そろそろ迎えに行きましょうか。私の新しい下僕を」
一組の友人が生まれた頃、赤き龍の激動が始まろうとしていた。