バトロイストライカーズ -B.R Strikers-   作:lharc

2 / 2
第二話「銀行襲撃!」

「飛鳥ちゃん無事でよかった~」

「大丈夫だよ、ちょっとやそっとじゃ平気平気!」

 

「斑鳩、何か知ってるのか?」

「えぇ、今からそれを説明するんです」

「……」

 

 斑鳩に連れてこられたとある施設。

 その中の金属質の廊下で雲雀と飛鳥、葛城と斑鳩が歩きながら会話をかわす。

 柳生は黙ってその施設のある部屋へと案内していた。

 そう。ここは自由バトルロイヤル連盟の基地。いかにも未来的でSFチックなデザインである。そして辿り着いた場所は――

 部屋の中央に置かれた大きな円卓と、その上に並べられたいくつものモニターであった。

 柳生が中央の席に座ると、続いて飛鳥たちも座り始める。そこからしばらくすると一人の青年が部屋の中に入ってくる。

 

「君たち、よく来てくれた。僕の名前は『橘 雄悟(たちばな ゆうご)』。ここの総司令官を務めている」

「よろしくお願いします、橘司令!」

「うん、よろしくね」

 

 その青年は水色の短い髪と青い瞳が特徴で、彼はまるでゲームに出てくる軍服のような衣装を身にまとっていた。

 彼の名は橘 雄悟。自由バトルロイヤル連盟の総責任者であり、この組織のリーダーでもある。年齢は20代前半といったところだろうか?

 そんな彼は飛鳥のあいさつに対して気さくにふるまった。

 

(そういえば、他にメンバーいるのかな?)

「……では何が起こっているのか説明しよう」

 

 飛鳥が辺りを見回したところ、この場には彼を除けば構成員は斑鳩と柳生と雲雀しかいないようだった。

 他のメンバーはどうしたのだろう? 飛鳥がそんなことを考えていると、橘が口を開く。

 まず最初に、彼は飛鳥たちに説明し始めた。

 

「僕達は自由バトルロイヤル連盟。文字通りバトルロイヤルの自由を守る組織だ。そして僕達が戦っている敵こそが『セーレ』」

 

 橘は機械を操作し、モニターにセーレのデータを映し出す。そこには先ほど遭遇した黒いコートに身を包んだ男と、武装した兵士たちの写真が載っていた。

 焔たちをスカウトしてきたあの男は、セーレ・ザマセンという名前だったらしい。次にセーレの目的だが、それも既に判明していた。

 

「待ってくれ、そこまでは大体わかる。アタイが知りたいのは……」

「『セーレ』はバトルロイヤルの試合を『管理』しようとしているんだ」

「わかりやすく言えば『八百長を蔓延』させようとしているんです」

「あぁ、改革ってそういう……」

 

 葛城が橘にそのことを問おうとしたところそれより前に返答され、そのうえ斑鳩にわかりやすく説明されてしまった。

 そしてすぐ葛城は納得した。要するに、こういうことだ。

 今までのバトルロイヤルはあくまで実力勝負だったが、それを意図的に操作する者が現われたらどうなるか?

 勿論、葛城はすでに答えを出していた。

 

「僕達は自由な試合を望む。これこそがバトルロイヤルの魅力だと思うからね」

「だったら手伝うよ! 焔ちゃんとは全力で戦いたいし、何よりあんな真似するなんて許せない!」

「アタイもだ! 八百長なんかで強くなれやしねぇし、暴れる必要なんざねぇ……!!」

「八百長か。そんなもの、誰も望まんだろうな。観客である私から言わせてもらうと選手はともかく、大抵の観客は『勝負』を見に来ているのであり、重要なのは『勝利』ではない……勝敗が初めから決まっている『勝負』なぞ、面白くもないな」

「そうだ。だけど恐らくセーレもそれには気づいている。うまいこと隠すつもりなんだろう……」

 

 葛城と近藤は飛鳥に続く形で自らの意思を橘に示した。

 その様子を見て橘は満足げな表情を見せたあと、近藤に説明をした。

 それを見た飛鳥が橘にある質問をする。

 それは――

 

「それで私達は何をしたらいいんですか?」

「……そうだな、まずは――」

「――ちょっといいかしら?」

 

 その時、話を聞いていた聖奈が突如席を立った。

 全員が彼女の方を見つめると、彼女はある行動を取った。

 

「私も協力するわ。連絡先をデータリンクするから登録して、呼び出すときに使って。基本的に私は独立して彼らを追う」

 

 聖奈は淡々とそれを伝えるとアイカメラのシステムを利用し、連絡先を連盟の機械に入れたのちアイカメラをスキャンモードに変え、

 ここにいるメンバー全員を調べ上げると、戦闘データなどを機械に転送していく。

 ほどなくしてすぐに転送は完了した。

 

「これで全員のパーソナルデータと戦闘能力、スキルや所持武器についての共有は可能よ。もちろん私のも含まれているから、これを使って作戦を立ててちょうだい……」

「ありがとう。間違いなく何かの役に立つ」

 

 それだけ言い残すと彼女は部屋を出て行った。

 

「えっと、つまり……」

「彼女も協力者という事です」

「そっかー……まぁ、一緒に戦ってくれたもんね」

 

 飛鳥が首を傾げると、斑鳩がその疑問を解消した。

 その後、橘による説明が再開される。彼は取り乱すことなく、冷静に飛鳥たちに話し始めた。

 まずは先ほど飛鳥から聞かれた『自分たちは何をすればいいか』である。

 

「セーレの行動を食い止めることだ。彼らは改革のためならどんなテロでもやる」

「じゃあ、またあの連中が来るかもしれないのか……」

「その通りだ。だから君たちはこれから自由バトルロイヤル連盟として、そして世界を守るために動いてほしい」

「そうだね……私も頑張らないと」

 

 葛城の言葉に橘は首肯する。飛鳥たちもそれに同意すると、彼は説明を続けた。

 彼は施設の設備を使い、飛鳥たちの力を把握することにした。

 まずは飛鳥たち個人の能力。次に飛鳥たちが所属するチームについて説明した。

 

「まずは飛鳥、君は個人技に優れ、接近戦が得意みたいだね。葛城はパワーファイター、雲雀はトリッキーな技がメイン、柳生は番傘を使った接近戦や中距離での銃撃戦を得意とする」

「うんうん」

「そして斑鳩、君は居合が優れているみたいだ」

「はい、よくわかりましたね……」

「斑鳩、このくらいは見ればわかるさ。さて、残りは……ん?」

 

 そう言って橘はモニターを操作し、残りのメンバーを映し出そうとしたその時だった。彼の端末が突然警告音を出したのだ。

 状況的には基地が攻撃されたわけではなさそうだが、何事かあったのは間違いなかった。

 橘は端末を懐から出し、それを確認した。

 

「緊急通報だ! セーレが銀行を襲ってる!」

「なんですって!?」

「くっ、こんな時に……!!」

「急ごう!」

「はい!」

「ああ!」

「でも、場所はどこだ……?」

「ちょっと待ってて。ほら、ここだ」

「ありがとう。それだけわかれば十分だ」

「ふむ……私も協力しようと思っていたところだが、幸いにもといってはなんだがこれで協力する理由が増えたな。一般市民にも被害が出るようだと、私の立場上見過ごすことは出来ないからな。私もそちらに加わっても良いか?」

「協力ありがとう。感謝するよ」

 

 そして彼は仲間たちにこのことを伝える。すると斑鳩と葛城が真っ先に食いつき、残りの3人もこれに続いた。

 飛鳥の声に合わせて現場へと急ごうとしたが、柳生があることに気づく。銀行と言われてもどの銀行かわからないということだ。

 橘は急いで基地の中の機械を操作し、モニターに地図を映す。柳生はそれに対して礼を言うと、他のメンバーと共にその場に向かった。

 近藤も飛鳥たちを追う準備をしつつ加勢の意思を示し、橘もそれを承諾した。

 目的地はここからさほど遠くない場所にあった。柳生の案内により、戦士たちは迷うことなく現場に辿り着く。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「こ、これは……!?」

 

 場所は都内の大きな銀行。その前には人だかりが出来ていた。

 飛鳥たちが到着するころにはすでに大部分が破壊されており、その中には明らかに爆弾かなにかでこじあけられたであろう金庫も見えた。

 そしてそれを行っている武装した兵士の姿も。恐らくセーレは活動資金を調達しようとしているのだろう。そこで柳生は自らの考えを口にする。

 

「おそらくだが奴らはここで資金を調達しようとしているのだろう」

「どうしてそんなことを?」

「うーん……十分な金がないからやってるんじゃないか?」

 

 飛鳥の問いに答えたのは葛城であった。葛城は少し考え事をしたのち、続けて話す。それは先ほどの話に出た改革の話と、資金の問題についてだった。

 彼らは今ある問題に直面している。その問題は彼らの理想を実現するにはあまりにも資金不足であり、このままだと実現は難しいというものだ。

 そのため、セーレはその問題を解決するために銀行を襲ったのだろうと推測した。その後葛城はこう言葉を締めた。

 

「ま、何が目的でも倒すだけなんだけどな」

「はい、行きましょう」

「そうだね……!」

「斑鳩、あいつらはオレがひきつける」

「……無茶はしないでくださいね」

 

 斑鳩は葛城の言葉に同意すると、指示を出した。飛鳥がそれに応じる姿勢を見せる。

 一方柳生は斑鳩に自分が出向くと申し出た。どうやら彼女は自分で敵を引き付けるつもりらしい。

 斑鳩は一瞬考えたのち、彼女にその役目を任せることにした。

 柳生は番傘を手に持ち、前に出ると静かに構える。飛鳥たちはいつでも動けるように身構えた。

 

「はっ!」

「ぐふぅ!」

「悪いがその辺にしてもらおうか……」

「ちっ。邪魔をするな!」

「遅い!」

 

 柳生は番傘から気弾を放ち銀行を襲っていた武装兵の一人に当てると、彼らに啖呵を切った。そして同時に攻撃を仕掛ける。

 柳生の先制攻撃を受けた兵はビームライフルで慌てて応戦するが、柳生の動きについて行けず一方的に攻められていく。

 しかし柳生もただ闇雲に攻めているわけではない。敵の隙を窺いつつ攻撃しているのだ。

 そうしてしばらく攻防が続いた後、ついに柳生の攻撃が相手の防御を破った。

 

「……やはり相手もじっとしていられないようね」

 

 一方聖奈は事態を察知すると、急加速スキル『グライドブースト』を使い現場へと急行する。

 ビル街を駆け抜けると、そのままの勢いでジャンプし建物の屋上に立つ。そこからは銀行の様子がはっきりと確認できた。

 彼女はそのままアイカメラを用いて敵の戦力を調べ始める。

 

(敵の数はそこそこ……武器はライフル……だけどあれは実弾ではないか……それにあの動き、用心すべきね)

 

 彼女の眼には、武装兵の持っているライフルが普通の物とは違うことが見えていた。そしてそのライフルは実際にビームライフルであった。

 それにあの身のこなしから考えてもかなり訓練を積んでいると思われる。

 聖奈は彼らが只者ではないと判断すると、地面に飛び降りて斑鳩たちと合流した。

 

「まだ人が残っているようなら何人か避難誘導を。残りはセーレのやつらを探す人と想定される脱出ルートを取り押さえる人の二手に分かれるべきよ」

「そうですね……幸いにも柳生さんが引きつけてくれているので、その間に避難させられます」

 

 聖奈の提案に斑鳩は賛同する。そして、柳生が引き付けてくれたおかげで避難させる余裕があることを伝えると、飛鳥たちにもそれを伝えた。

 柳生は今のところ何とか抑え込んでいるが、いつまでも持たないことは明白だ。早く決着をつけなければいずれ負けてしまうだろう。

 そうなってしまえばせっかく稼いだ時間が無駄になってしまうため、早急に手を打つ必要があった。

 

「ひばりはみんなを助ける!」

「私は柳生ちゃんを手伝うよ!」

「そうだな……私は柳生を手伝うとするよ。」

「アタイもだ。戦い以外で得意なのはセクハラくらいしかないからな……」

「それはダメです」

「えぇ……」

 

「……わたくしは脱出ルートを抑えます」

「なら、僕も手伝います」

「わかりました。指令! 敵の脱出ルートを!」

『わかった。場所は……』

「なるほど……ありがとうございます」

 

 葛城の冗談に斑鳩は真顔でツッコミを入れる。葛城はそんな彼女を横目に苦笑いを浮かべた。

 その斑鳩は『相手の脱出ルートを抑える』と言い、一緒に駆けつけていた冴太郎がそれに加勢した。

 そこで斑鳩は基地にいる橘に連絡を取ると、セーレが逃亡するであろうルートを割り出すように依頼した。橘もそれに応え、すぐにそれを割り出す。

 斑鳩は橘の迅速な作業に感謝すると、再び飛鳥たちの方に向き直った。そして――――

 

「みなさん、いきましょう!」

 

 斑鳩は全員に命じた。飛鳥たちはそれぞれ動き出す。

 斑鳩も、冴太郎に自分についてくるようサインを送りつつ飛び出していった。

 飛鳥と葛城は斑鳩の指示に従い、柳生の元へ向かうことにした。二人は柳生に加勢すべく急いでその場を離れる。

 柳生の元へ駆けつけると、武装兵と交戦中だった。柳生は二人の姿を確認すると、一旦距離を取るべくバックステップを踏む。

 

「葛城……来てくれたのか」

「おう、任せろ!」

「私がいるのも忘れないでよね!」

 

「おのれ……なめるなぁぁ!」

「やああっ!」

「ぐへぼぁ!」

 

 柳生は合流してきた二人を見て驚きつつも喜んだ。柳生一人ではこの人数を相手にするのは厳しかったからだ。

 これで形勢逆転かと思われたが、敵はそれでも臆することなく向かってきた。だが、飛鳥はそれを迎え撃つ。

 飛鳥は二本の刀を構えながら一気に間合いを詰めると、鋭い斬撃で武装兵を切り裂いていく。

 相手はライフルを持っているにもかかわらず、飛鳥はそのライフルごと真っ二つにした。

 

「はああっ!!」

「「「「ぐへぁぁ!!」」」」

 

 そこに葛城が飛び蹴りを武装兵に浴びせる。その衝撃で後ろの数人を巻き添えにして吹き飛ばした。

 しかし武装兵はまだ戦えるようだった。それを見た柳生は番傘を構えると、敵の動きを注視しだした。カウンター狙いか。

 柳生は相手の攻撃を誘っているようだ。武装兵はライフルを捨て、腰に差している剣を抜き放つ。

 この剣の刃の部分はビームになっているようだ。つまるところビームソードである。

 

「死ねやぁ!」

「忍……転身! ふんっ!」

「ぐっはああ!」

 

 柳生はそれを見極めると番傘で攻撃を弾き飛ばし、瞬時に忍転身を行った。

 忍転身とは体内に眠る気力を六つのチャクラから一気に放出することで、瞬時に戦闘スタイルへと切り替える技。

 彼女は学生服のような忍装束に身を包むと、すぐに攻撃に移った。

 柳生は番傘を振りかざすと、そのまま薙ぎ払う。柳生の攻撃に対し武装兵は慌てて防御態勢に入ったが、吹き飛ばされてしまった。

 

「柳生といったか。私も手伝うとするよ」

「あぁ、そうか……」

「くっ……おのれぇ! うおおおっ!」

「ふん……」

「ぶべら!」

 

 そこに遅れてやってきた近藤が柳生に声をかけてきた。柳生はすぐに振り返り、近藤と背中合わせになる。

 その間にも、武装兵の攻撃が飛んできている。柳生は番傘を回転させて敵の攻撃を防ぐと、再び攻撃に転じるために前に出た。

 それと同時に近藤が動く。彼はパニッシャー・改を構えると、それを武装兵めがけて発砲した。

 その武装兵は葛城をビームソードで斬ろうとしていたが、銃弾が顔に当たってしまい失敗。大きく吹き飛ばされた。

 

「でええええやっ!」

「ぐっはああああ!」

「ふっ!」

 

「「でえええいやぁっ!」」

「ぐえあぁ!」

 

 そこに飛鳥が飛び上がり二本の刀でその武装兵やその周辺の武装兵も攻撃する。

 結果、この一帯の武装兵を一気に薙ぎ払った。飛鳥は地面に降り立つと構えを取り、敵の動きを見計らう。

 一方、葛城は空中に飛び上がると武装兵の顔面に蹴りを入れ、近藤はその上空にジャンプすると回し蹴りを食らわせる。

 そして近藤は着地して今度はその勢いのまま回転し、裏拳を叩き込んだ。武装兵はもう全滅一歩手前だ。

 

「まだやるか?」

「くっ……くそぉ!」

「……行こう!」

 

 武装兵はまだ二名ほど残っていた。しかし戦意を喪失したのか、柳生が威圧すると同時に逃げ出し始めた。

 しかし、そのルートは先ほど橘によって割り出されたばかりであった。

 飛鳥たちはそれをすでに知っていたため、斑鳩に後の処理を任せることにした。

 そして飛鳥は仲間たちとともに奥へと進んでいく。

 

「……人はまだ残っている? 残っていないなら遠慮なく突っ込む」

 

 少し離れたところでは聖奈がVoltackle-V4Xのトリガーを武装兵に向けて引いていた。

 どうやらスキャンモードにして相手の情報を探っているようだ。

 ついでに言うとその際に飛鳥たちに通信で確認を取っているようである。

 

(……リコンがあれば、投げてすぐ敵の位置把握できるけど……)

 

 聖奈はそんなことを考えながら敵のデータを集めていく。

 彼女は一応、電子戦のプロでもある。しばらくすると、敵の反応が全て消え去ったのを確認して、ようやく構えていた銃を下ろして一息ついた。

 とりあえず、今いるところの制圧は完了したらしい。だが、油断はできない。なぜなら、まだ終わっていないからだ。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「みんな逃げて! 早く!」

 

 一方その頃、雲雀は一般市民を避難させていた。

 効率的に避難させるため、自身の『秘伝動物』である『忍兎』も動員させてだ。

 そして現在、雲雀が誘導していた一般人たちは少しずつ遠くへと離れ始めている。

 そんな中、雲雀は必死に人々を安全な場所まで逃そうと努力するが……途中であるものを目にした。

 

「……ん?」

 

 それは空中を行く五人の人影だった。遠くにいたためか、それが誰かまではわからない。

 だが、少なくとも一般人ではないことだけはわかった。

 何故なら、その人達の纏う雰囲気がただの一般人とはまるで違ったからだ。

 しかも、その集団は雲雀たちがいる方に向かってきているのだ。

 

(まさか……!?)「急がないと……!」

 

 雲雀は最悪の事態を想定してしまう。もし、あの人たちが敵だとしたら、自分はともかく他の皆が危険だ。

 雲雀は急いで、避難を終わらせようと動く。なぜならこれを済ませないことには皆のもとに駆けつけられないからだ。

 雲雀は覚悟を決めた表情を浮かべると、再び声を上げた。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「その話は本当なんでしょうね?」

「もし嘘だったら私たち5人で吹っ飛ばしてしまえばいい」

「わたくしはもやしだけでも十分食べられるのですが……」

「あんたはね!?」

「まぁまぁ。今はやることをしましょう……」

「わし、どうも酷いとばっちり食っとる気ぃする……まぁええか。葛城さん、全力で行くで」

 

 セーレが今襲っている銀行の屋上。そこでは5人の女子が会話をしていた。

 その中には焔と日影の姿もある。他にはゴスロリ衣装でひたすら突っ込みいれてきている『未来』

 お嬢様のような見た目をしたもやしジャンキー『詠』、

 そして『未来』をなだめている風変わりな衣装をまとった女子『春花』がいた。彼女たちは皆、焔の仲間であるらしい。

 

「よし、やるぞお前たち! まずはあいつらを倒す!」

 

 焔の一声で、彼女たちは一斉に行動を開始した。屋上から一気に飛び降りると、地面に着地する。

 そのまま、焔たちはそれぞれ別々の場所へと散らばっていく。おそらくは効率的な作戦遂行のためだ。

 それぞれが散開したのを確認すると、焔は銀行の入り口に向かって走る。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「避難はまだ終わっていないようだ……すまん」

『了解……無線を聞いていると順調らしいけど、ここで私たち全員が確認したところだとまだ屋上が残っている』

「ここから先へは行かせねぇぞ!」

「……敵が出た。一旦切らせてもらう」

 

 武装兵を全滅させ奥へと進んでいく傍ら、柳生は聖奈の通信に気づき、受け取った。

 しかし、現状ですぐに出来ることはないと判断したのか、柳生は一言謝っておく。そこに新たな武装兵がやってきたため、通信を切り再び戦闘態勢へと入った。

 ちなみに柳生が手にしている携帯端末には現在位置を知らせるための発信器が取り付けられており、それを頼りに他の仲間とも連絡を取り合うことが出来るようになっている。

 ついでに言うと緊急事態だったためか飛鳥、葛城、近藤、冴太郎はまだ受け取れていない。

 

「さて、混乱を招いた君達には少々痛い目にあってもらおうか。おとなしくしてくれれば、痛い目にあわずに済むがな」

「くそっ……なめるなぁ!」

「ぬるいな……」

「ぐっへぼぁぁ!」

 近藤はその武装兵に啖呵を切ると、風の魔法を使って武装兵の一人に向かって高速で接近し、国光・改で斬りかかった。

 武装兵は咄嵯に腕でガードし、国光の刃を受け止める。

 だが、近藤はそのまま鍔迫り合いに持ち込むと、その武装兵の腹を思いっきり蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされたその武装兵は、背後にあった壁まで吹き飛んで激突しそのまま力尽きた。

 

「な、なんだこいつらは!?」

「怯むな! やれ!」

 

 残りの武装兵が近藤と対峙するも、近藤の剣術の腕はかなり高く、瞬く間に二人を斬り捨てる。

 残る一人となった武装兵に対して近藤は銃を構え、発砲した。

 狙いは正確であり、無事命中。武装兵士は大ダメージを受けそのまま仰向けに倒れたが、近藤は何かを警戒していた。

 

「うーむ……」

「どうした?」

「今のところは順調にいっているようだが、何やら不吉な予感がする。どうも、上手くいきすぎているような、何かを見落としているような……このまま何事も無かったらいいのだが……ん?」

「おわぁっ!?」

 

 心配そうに見つめる葛城にそう言ったその時だった。

 突如として爆発音が響き渡り、それと同時に巨大な炎の柱が天井を突き破って現れた。隣にいた葛城も驚きを隠せず怯んでしまう。

 そして、その柱の中から二人の人影が現れた。その姿は飛鳥たちはよく知っていた。

 ちなみに近藤は、念のために事前に自身が触れたり放った攻撃に当たったりした明白な自我のある物体のうち10体を選択して選択した物体の視覚と聴覚にリンクする能力『虫の知らせ』を使うことによって、

 銀行内の戦闘地帯を確認していた為状況はある程度分かっていたものの、銀行屋上までは想定外であり見ていなかったためにこの襲撃は確認できていなかったのだ。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「……本当にここなんですか?」

「出口でしたらここでいいはずですよ……ほら!」

「ぜぇ……ぜぇ……」

「本当だ……! てやっ!」

「はっ!」

 

 その頃、冴太郎と斑鳩は銀行の駐車場で待機していた。斑鳩が言うには、橘が言った通りならばここに来るはずだという。

 しばらくすると、戦意を喪失しているである武装兵が走ってきた。だが、その武装兵は途中で足を滑らせて転倒してしまった。

 その隙を狙って、斑鳩は鞘から飛燕を抜いて斬りかかった。冴太郎も同様である。攻撃を受けた武装兵はそのまま気を失った。

 だが、その瞬間だった。

 

「きゃあっ!!」

「うあっ!」

 

 突然謎の衝撃波が二人を襲い、二人は吹き飛ばされてしまった。

 それと同時に激しい土煙が立ち込める。先ほどの衝撃はそれほどまでに強烈なものだったらしく、周囲が見えなくなるほど視界が悪くなっていた。

 そんな中、一つの影が姿を現す。

 

「うぐっ……一体何が……」

「まさか、敵襲か? ……どこにいるんだ!?」

 

 二人はどうにか起き上がると、すぐに周囲を警戒し始めた。

 見ると、土煙の向こうに人の姿があった。まるで大剣を地面に突き立てているような……

 そんなシルエットが浮かぶ。そして、徐々に晴れていく土煙の中、その姿が明らかになる。

 それは、大きな剣を地面へと垂直に立てた状態で構えている少女だった。そしてその姿は斑鳩もよく知っていた――――

 

「詠さん……??」

「わたくしはもやしだけで十分食べられるのですが、戦っていただけませんか? これも仕事なので……」

 

 詠はそう言うと、大剣を構え戦闘態勢に入っていった。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「あとちょっと……!」

「相変わらずね……ひばり」

「春花さん……?」

 

 雲雀はまだ一般市民を避難させていた。口ぶりからするに、だいたい終わっているのだろう。

 しかしまだ一般人は残っているようで、雲雀はそちらの方へ行こうとするがそこで不意に声をかけられた。

 振り向くとそこには、一人の女性が立っていた。その姿は雲雀がよく知る顔であった。

 

「避難させてるのね。別に邪魔しないわよ……遠慮なくやりなさい」

「ねぇ、それって……??」

 

 春花が思わせぶりに話してくるが、雲雀はそれに気づくことはなかった。

 だが雲雀は、春花の表情を見て何かを察したようだ。

 しかし春花は何食わぬ顔で物陰に移動し、雲雀が民間人を避難させているのを眺め始めた。

 

「さて……と。『コンドル、ジャガー……イジェクト』なんて、ね」

 

 彼女はしばらく雲雀の様子を見た後、おもむろに何かを用意し銀行の方に向かわせた。

 どうやら鳥型と豹型の傀儡のようだ。春花は何を企んでいるのだろうか?

 その答えは、すぐに明かされることになる。

 

「回収作戦、開始よ」

 

 そして、春花は行動を開始した。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「焔ちゃん……??」

「悪いが金庫には行かせない……」

 

 一方飛鳥たちは突然襲ってきた『何者か』に驚きを隠せなかった。

 二人の正体は、少し前に会場でともにセーレと戦った焔と日影だったのだから。

 焔は飛鳥たちに啖呵を切ると、武器である六本の刀を構え戦闘態勢に入る。

 

「ど、同意できないんじゃなかったの……??」

「わしら抜け忍やからなぁ……」

「日影の言うとおりだ。引き受けないと金に困る。それに飛鳥……」

 

 それを見た飛鳥は思わず理由を問い詰める。焔たちもそれに応えた。

 どうやら焔たちにとってお金を稼ぐことは重要なことらしい。

 言い終わると焔は飛鳥に向かって飛び掛かり――――

 

「お前と戦うのは楽しいからなぁ!!」

「くっ……!」

 

 そう叫びながら斬りかかってきた。飛鳥はどうにか二本の刀で受けることに成功する。

 やはり飛鳥は焔と一番相性が良いのか、戦いやすい相手だと感じた。

 だが、それでもかなり手強い相手であることに変わりはない。伊達に『最強の友達』をやっているわけではないのだ。

 刀と刀が激しくぶつかり合う音が響き渡る。

 

「飛鳥!」

「おっと。あんたの相手はわしや……」

「くそっ……! おらっ!」

「ぬぅ…… はっ!」

「はっ!」

 

 葛城が叫び、飛鳥の下に駆け寄ろうとしたが目の前に日影が立ちはだかった。

 日影は葛城の邪魔をすると、そのまま暗器で攻撃を仕掛ける。

 葛城はとっさにしゃがんで攻撃を避けると、足を蹴りつけ転倒させ攻撃のチャンスを作った。

 しかし、日影も負けてはいない。転んだままの体勢で短刀を投げ付ける。

 葛城はその攻撃を、素早く前に出て具足で弾き飛ばした。

 

「飛鳥! 葛城! くそっ……!」

「邪魔はさせないわよ……それっ!」

「がっ……! ちぃっ!」

 

 柳生はとっさに援護しようと走り出したが、どこからか放たれた気弾に阻まれてしまった。

 見るとそこには未来がいた。未来は傘を柳生の方に向けており、すでにその先端にはエネルギーが溜まっている。

 このままだとまずいと思った柳生は急いでその場から離れた。その隙を突いて未来は傘の先端のエネルギー弾を発射。

 そのエネルギー弾は見事に命中した。が、柳生は身をひるがえしすぐに反撃に転じる。

 

「はぁあああっ!」

「うぐっ! ……まだっ!」

 

 柳生は番傘を振るうと、その風圧で未来をひるませた。そしてそのままの勢いで回し蹴りを放ち、隙ができた未来を吹っ飛ばし壁に叩きつける。

 しかし未来も負けてはいないようで、背中を強く打ち付けたにも関わらずすぐに立ち上がると、柳生の腹に向かって傘を振りかぶる。

 柳生はそれを受け止めると、今度は逆に未来を壁に強く押し付ける。

 

「ぐうぅっ!?」

「やはりお前は接近戦が苦手なようだな……」

「それはどうかしら? あんまり舐めない方がいいと思うけど?」

「!? ……ぐあっ!」

「ほらほら、どうしたの!?」

 

 そう言うと未来は傘の先にエネルギーを溜める。柳生は慌てて後ずさるも、ギリギリのところで避けきれず、まともに喰らってしまった。

 柳生はダメージを負ったものの、何とか倒れる事だけは堪える。しかし、その間に未来はすでに次の攻撃の準備を終えていた。

 未来の持つ傘が輝き出すと、そこから無数のレーザー光線のようなものが飛び出してきた。

 それは柳生だけでなく、この場にいる仲間全員を襲う。

 

「――っ! 悪い予感が当たってしまったか……!」

「そんなもんで何になるわ……けっ!」

 

 近藤は突然の襲撃に気を乱しながらも、未来の攻撃を防ぐべくパニッシャー・改の弾を未来と自分を含む飛鳥達の間の床に向かって放った。

 次の瞬間、弾が当たった所、すなわち未来と飛鳥達の間に厚さ1m幅6m高さ6mの石の壁が生えて、即席の盾が形成される。

 パニッシャー・改は弾に近藤の魔法を付加することが可能であり、今回の場合は弾に『土』の魔法を付加して、着弾点でその魔法を作動させたのである。

 レーザーが直撃した石壁は大爆発とともに破壊されるも、近藤自身を含め飛鳥たちには傷一つついていなかった。

 未来は近藤を嘲笑したが、彼女の思惑通りにはならなかったということである。

 

「「「はああっ!!」」」

 

 その爆発でできた煙を突きぬけ敵に飛び込む飛鳥、葛城、柳生。

 相手は焔と日影と……残った武装兵。

 飛鳥は焔、葛城は日影と互角の戦いを繰り広げた。そして柳生は武装兵を難なく片付けていた。

 

「……えっ?」

 

 そして一人あっけに取られる未来。当然だ。一人くらいは自分に向かってくると思っていたのだから。

 だが、実際は違った。皆、未来を無視しているかのように戦い始めた。

 いや、無視しているわけではない。ただ、未来など最初からいないかのような動きをしていたのだ。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「今度はこっちか。なかなか面白い事するねぇ……」

 

 一方その頃、白いツインテールの少女が銀行の向かいのビルの屋上から一連の戦いを眺めていた。

 彼女は、今の状況を楽しむように笑っていた。まるで新しい玩具を与えられた子供のように。

 しかし、そんな状況でも少女は退屈していた。やはり見ているだけではいまいちだったのだろうか。

 

「つまらないなぁ……。やっぱり、こういうのは自分でやった方が楽しいよな」

「わあっ!?」

 

 彼女はそういうと右手をかざし、人々を避難させている雲雀の方角にエネルギー波を放った。

 それは雲雀をかすめ、爆発とともに地面をえぐる。その後も二発、三発と続けて放たれそれは雲雀ではなく一般市民に向かって飛んでいく。

 幸いにも一般人には当たらなかったが、このままでは避難させることができない。

 どうにかして止める必要があるが、忍兎に避難のアシストをしてもらっていてなおかつ避難が終わっていないため対処ができなかった。

 

(どうしよう……そうだ!)「秘伝忍法! みんな、こっちだよ!」

 

 どうしようか悩んでいた雲雀だが妙案を思いつく。

 秘伝忍法で一時的に巨大化したのち、穴を掘って避難させるためのトンネルを作る。

 そしてそのトンネルに一般市民を入らせた。一般市民は次々とトンネルに入っていく。

 これで、とりあえずは安全だ。その傍らで攻撃に気づいた春花は物陰から出ると、少女がいるであろう向かいのビルに向かって啖呵を切った。

 

「セーレのガイドラインには『あくまでバトルロイヤルの改革が目的。民間人を必要以上に傷つけるべからず』とあるわ……あなた何者?」

「あたしか? あたしは『ブラッド・キラー』……人格の持ち主なら冴太郎が知ってるよ」

「冴太郎……見たことも聞いたこともないわね」

「まあ、あんたとは縁がない相手だからな……今駐車場のあたりで戦ってるみたいだから行ってみるといい……」

「あっ……!」

 

 ブラッドは春花にそう告げると、いずこかへと飛んでいった。雲雀はその後を追いかけようとするが、すぐに立ち止まった。

 追いかけたところでどうすることもできないからだ。

 今は避難誘導を優先すべきだ。そう思い、再び避難誘導を開始した。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「いきなり『戦ってほしい』とは……何事でしょうか?」

「実は『セーレ』という組織に雇われましてね……銀行から資金を奪うように頼まれているのですわ」

「なら……止めさせてもらいます」

 

 武器を構えながら話す斑鳩と詠。少々の対話ののち、二人は戦い始めた。

 斑鳩は自慢の刀『飛燕』を、詠は大剣を片手で振るう。

 二人の剣術は互角だった。激しい攻防が続き、そのたびに大きな音が響き渡る。

 冴太郎も構えて、いつでも援護できるように準備をしていた。

 

「「はああああああーっ!」」

「よっ……あたしのことは気にしなくていいからな。あたしはこいつに用があるんだ」

「いや気になるのですが……」

 

 二人同時に攻撃を繰り出すが、それは互いに防御されてしまう。

 しかし、それでも攻撃の手を緩めずに斬りかかっていく。

 そしてそれを繰り返せば繰り返すほど、徐々にではあるがお互いにダメージを与えていった。

 そんな風に戦っていたその時、突然何者かが乱入してきた。ブラッドだ。

 ブラッドは冴太郎に用があるようで、冴太郎を指差してきた。あまりの事態に斑鳩も思わず突っ込んでしまう。

 

「久しぶりだな。冴太郎」

「はっ……!」

「はあっ! 今は戦いの最中ですわ」

 

「お前……僕に何の用だ!」

「飲み込みが早くて助かるよ……実はな」

 

 ブラッドはそう言いながら、冴太郎の腕を掴み押さえつける。それを見た斑鳩は慌てて助けようとするが、詠に大剣で止められてしまう。

 それと同じくらいのタイミングで冴太郎に用件を尋ねられたブラッドはおもむろに口を開く。

 その顔にはどこか余裕が込められていた。

 

「ノエルがまた最近暴走し始めてな……その暴走を抑える為に何かしらのアクセサリーもしくは魔術を発動させて欲しいのさ」

「なるほど。だが、あの人も助けなくては……」

「あの人って誰だ?」

「誰って……あの人が誰かは分からないけど、とにかく彼女を助けないと……」

「なるほど……あたしは手伝えないぞ。他にあいさつしたい奴がいるからな」

 

 ブラッドの言葉を聞いた冴太郎が斑鳩も助けないとと、彼女を指さした。

 そんな彼に対してブラッドは静かに呟く。すると、冴太郎は納得してそのまま彼の腕を振り払おうとするが、なかなか振り払う事が出来なかった。

 それに焦ったのか、彼は必死になって抵抗するが、結局振り解く事は出来ず、ブラッドが逆に強く握りしめてきた。

 

「ぐっ……!」

「おいおい。暴れるなって。大人しく言う事を聞いてくれれば、すぐに解放するよ」

「ふざけるな! 僕はお前の思い通りにはならない!」

「ふん……まぁいい。あたしとしてはいつでもいいからな……」

「あっ……待てっ!」

 

 冴太郎がブラッドの手を振りほどくと、彼女は不敵な笑みを浮かべてその場を去って行くのだった。

 その様子を見た冴太郎は追いかけようとしたが、あまりにも素早かったため、途中で見失ってしまう。

 冴太郎は舌打ちをするが、諦めずに斑鳩を援護することに決めた。斑鳩と詠も戦いを中断し、何かを話し始める。

 

「『幻想郷』……噂には聞いてますが……」

「気になりますわね……調べる必要がありますわ」

「まぁ、今のところは……」

「仕事お金のほうが大事ですわ……!」

 

 今は敵同士であるにも関わらず意気投合してしまう斑鳩と詠。それも短い間だけで、ほどなくして武器を構えるとまた戦い始めた。

 幻想郷については気になってはいたが、『セーレからバトロイを守る』『セーレと共に仕事をする』ことを優先したのだ。

 詠は斑鳩から距離を取ると、大砲を放ちながら、詠自身も動き回って砲弾を放つ。

 しかし、斑鳩は弾丸の軌道を予測しているかのように軽々と回避していった。

 そして詠が放った弾幕を避けきると、詠に向かって突進していく。詠はすぐに砲撃をやめると、大剣に切り替えそれを斑鳩めがけて振り下ろした。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「屋上は異常なし……ただ、誰か来た跡がある……ん?」

 

 聖奈は銀行の屋上を調査していた。避難が終わっていないと聞いた彼女の行動はとても早く、すでに屋上へと突入していたのだ。

 しかしそこには誰もいなかった。だが、人がいた形跡はある。恐らくは、ここに来たのはセーレだ。

 聖奈はそう思い辺りを見渡す。すると、何か嫌なものを感じた。まるで、自分がいるのを感知されたような感覚だ。

 

(気づかれている……!?)

 

 だが、聖奈はそれを無視することにした。今更逃げることはできない。ここで戦うしかない。

 それに、敵がどこに潜んでいるか分からない。いつ出てきてもいいように警戒しながら、聖奈はゆっくりと歩いていった。

 しばらくすると、悪寒とともに自分の体が動かなくなるのを感じた。聖奈はすぐにそれが敵の力だと理解し、瞬間的な高速移動スキル『ハイブースト』を用いて屋上から離れる。

 その瞬間、聖奈が立っていた場所に突如として大爆発が起こり地面を打ち砕いた。おそらくは、強力な術によるものだろう。

 今のが当たっていたらどうなっていただろうか、と考えながらも、聖奈は冷静だった。

 

「……卑怯ですね」

「くっくっく……!」

 

 聖奈は敵が使った術を、そういった言葉で表現した。おそらくは自身の動きを封じていたからだろう。

 彼女は屋上のスキャンデータを機械に転送すると、攻撃者がいるであろう方角に目を向けた。するとそこにはブラッドの姿があった。

 彼女は聖奈を見つけると、不敵な笑みを浮かべた。そんな彼女を、聖奈は無表情のまま見つめる。そして、静かに口を開いた。

 彼女には、敵の言葉を聞く理由はないからだ。だから、まずは自分の考えを口に出した。

 相手に対しての礼儀などではなく、ただ単に会話をする為であるかのように。

 

「あなたもセーレなの?」

「違うね。あたしはあたしの好きにやってるんだ」

「……」

「おいおい……せっかく答えてやったんだぜ? なんか反応してくれよぉ」

「……」

「無視かい。まぁいいけどさ」

 

 ブラッドがそう言うと、彼女の体から黒いオーラのようなものがあふれ出た。

 それを目にした聖奈はその正体をすぐに察し、睨み付けた。

 

「悪魔……それもかなり強い。まさかこんなところで……」

「まぁ、今回はほんのごあいさつだ……それにしてもあんた、医者みたいなことしたがるんだな」

「……何の話?」

「その機械、レントゲンみたいな奴だろ?」

「私は医者じゃない。それと、私の名前は『聖奈』。次間違えたらただじゃ済まさない」

「あー……怖いねぇ……じゃあな」

 

 そう言い残すとブラッドはその場から姿を消した。

 聖奈はそれを確認すると自分の持ち場に戻った。今のはなんだったのかと思いつつ、今は目の前の敵を倒さなければならないと気持ちを切り替えて。

 彼女は今自分がすべきことをするために行動を開始。飛鳥たちのもとへと向かった。

 

「……急がないと」

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「くっ……厄介な……ならば」

 

 飛鳥、葛城、柳生、近藤と焔、日影、未来、武装兵の戦いはなおも続いていた。

 戦いは苛烈なものだった。武装兵の装備しているビームライフルからビームが容赦なく飛んでくる。

 しかも、焔たちの攻撃もさばかなければならなかった。

 そんな中で近藤は未来の方に向かってそのまま踏み込み、風の魔法を用いてさらに加速する。

 そして、その勢いのまま横なぎに未来を斬りつけた。

 

「――――隼斬り」

「ぐはあっ!」

 

 これが『隼斬り』。高速で斬撃を放つ技であり、剣の達人である近藤正義だからこそ使える技でもある。

 この技を胸に喰らった未来は吹っ飛ばされ、思いきり地面を転がった。起き上がった未来は息を荒げながらも、近藤を睨みつける。

 そして彼女はスカートの中から重火器を取り出し、それを構えた。

 それは大型の銃。しかし、普通のものとは違い銃身が長く、まるで戦車の砲身を思わせるような代物であった。それも無数。

 

「よ、よくもやってくれたわね……!」

「まだやるつもりか? 私とて大人しくすれば危害は加えないのだが……」

「うるさい!あんたたちのせいで私たちの計画はめちゃくちゃなのよ!!絶対に許さない!!」

「なら……『村雨』!」

「もう遅いわよ!」

 

 怒り狂う未来は引き金に手を掛けた。どうやら本気で撃つ気だ。

 そんな未来に対して近藤は自分の刀を糸状にして飛ばし、未来の重火器を切り刻もうとする。

 しかし未来はそれよりも早く発射準備を完了させていた。

 彼は剣の腕には自信があるが魔法についてはそこまで得意ではないし、そもそも魔力が多くない。

 もし魔力切れになったらその時点で終わりだ。だから長期戦は避けたかった。だが、そう簡単に終わらせてくれる相手ではなかった。

 

「はあっ!」

「ひでぼぁ!」

「どうした? 動揺しているのか?」

「そ、そんなこと……!」

 

 その一方で飛鳥と焔も交戦中。戦況は焔が有利であり、飛鳥は壁に叩きつけられていた。

 飛鳥は口ではああ言ったものの内心は焦っていた。隠せなかった。それでもなんとか立ち上がり、二本の刀を構えた。

 そのタイミングで焔は不意にどこかを見た。どうやら未来の動きに気づいたらしい。

 

「……ん? やめろ! まだ仕事が終わってなぐああああ!」

「……えっ!? そんな事言ったってもう止めらんないわよ!!」

「なっ……!?」

「ああああやけくそのヴォルフスシャンツェェェェェーッ!」

 

「うわあっ!」

「ぐおあっ!」

「ぐっ……!」

「ちいいっ!」

「……」

「あーっ!!」

 

 未来を制止する焔だったが、その隙を飛鳥に突かれ弾き飛ばされてしまう。

 そして未来はすでに引き金を引いてしまっており、重火器すべてから弾丸が放たれる。

 それらは四方八方へと飛んでいき、そして大爆発を起こし飛鳥たちも焔たちも思いっきり吹き飛ばされた。

 

「くそっ……はっ! よりによって金庫の方に穴を空けるとは……未来!」

「ご、ごめん!! そんなつもりじゃ……」

「これで金庫の金にもしものことがあったら最悪だな……」

 

 やっとの思いで焔が起き上がると、金庫の方の壁に大きな穴が空いていることに気がついた。

 焔は未来を叱責した。しかしそんなことをしても金庫の中身が無事かどうかは分からない。

 そして金庫の扉が開き、中から大量の札束が飛び出してきた。

 それを見て一同は安堵のため息をつくが、飛鳥たちが気づかないはずがなかった。

 

「あっ……あれは! みんな!」

「あぁ、わかってる!」

「オレもだ……」

「あっ……待て!」

 

 案の定、飛鳥もそのことに気づき、仲間に進言する。葛城と柳生もその道へ駆け出してゆく。

 焔たちもそれを追っていった。春花の邪魔をさせないために。

 未来も萎縮してはいたが、それでも後を追った。

 

「少々痛手を負ったが……まだ動けるな。まぁ、図らずとも金庫への道は開いたようだから良しとしよう……」

「な……なんだおまぐはあっ!?」

 

 近藤は爆発によるダメージにより左腕を脱臼したものの、すぐに自力で治したあと柳生についていき、金庫へと向かう。

 彼はは人間の枠を越えた仙人ではあるが、体の作りは人間を少し強化したような作りになっておりそこまで頑丈な作りにはなっていないため案外ダメージは普通に入るのだ。

 そうしている間に金庫へとたどり着くと、武装兵と豹型と鳥型傀儡が金庫を襲っているのを目にした。

 そこで近藤たちは武装兵を蹴散らし、金庫の中に入り込む。

 

「やああっ! くっ……!」

「金庫には行かせないと言ったはずだ……!」

 

「よし……アタイたちも行くぞ!」

「あぁ……!」

 

 その際飛鳥が武装兵に斬りかかるも、焔の割り込みで失敗した。そのまま戦闘に突入する。

 葛城と柳生も、日影や未来と戦い始めた。葛城が蹴りで日影を吹き飛ばすとそこに柳生が飛び込んできて、日影を番傘で殴りつけた。

 だが、その直後に未来が飛び出してきて柳生を傘で殴り飛ばし、葛城も気弾で撃たれてしまう。

 二人は体勢を取り直すも、そこを狙われて再び吹き飛ばされる。そして、その隙を突かれて今度は飛鳥が襲われた。

 

「うわああぁっ!!」

「きゃあああっ!! 」

「ぐうぅ……」

「や、柳生ちゃん……」

「こ、このままじゃまずいな……」

「ちぃっ……やるしかねぇのか?」

「多分そうなるな……葛城」

 

 柳生は覚悟を決めると再び構えを取り戦いに備えた。その時、柳生の脳裏にある光景が浮かぶ。

 それは、柳生がまだ幼い頃の話だ。彼女にはかつて妹がいた――――

 

「おねえちゃん! まってよー!」

「どうした? 早く来い。みんな待ってるぞ」

「うん!」

 

 妹はいつも元気で明るくて、どんな辛いことがあっても泣き言一つ言わない強い子だった。

 彼女は、ある日突然死んだ。死因は交通事故。まだ小学生のころであった。

 柳生は今でも鮮明に覚えている。あの時の事を思い出すと、胸が張り裂けそうになる。

 そして、そんな中で出会ったのが雲雀だった。彼女は妹によく似ていた。雲雀と過ごす日々はとても楽しくて、毎日が充実していた。

 妹と過ごした時間と、雲雀との時間。どちらも大切な思い出である。柳生にとって雲雀はもう1人の妹のような存在になっていた。

 

(雲雀。オレは……)「……はあああっ!」

 

 だから決めた。雲雀も、雲雀が生きていく世界も絶対に守ると。雲雀が死なないように。雲雀が幸せになれるように。

 雲雀が笑って暮らせるように。雲雀が悲しまなくて済むように。雲雀が……笑えるように。そう決心して、柳生は改めて構えを取る。

 柳生は番傘を振りかざすと、その先から気弾を放った。気弾が直撃し爆発とともに武装兵が吹き飛ぶ。

 

「隙だらけだ……もらったぁ!」

「はっ……!」

「!? ……ん?」

「まさかあなただったとはね……これは警告。2度目はない」

「悪いが生活も大事なんだ……ここで引くわけにはいかないな」

「バトロイファイター……金だけでここまで目がくらむんだ……なら、容赦はしない」

 

 焔は柳生の背後を取ると、すかさず刀を振り下ろそうとした。近藤は駆けつけようとしたが間に合いそうにない。しかし、突如背後から放たれた電磁加速弾が焔の足元を掠めた。

 振り向くと、そこには聖奈の姿があった。聖奈は銃を構えており、いつでも撃てる体勢を取っている。それでも焔は怯まず、防御の姿勢をとった。

 そこから焔は聖奈の放った電磁加速弾をギリギリで避け、反撃に転じる。彼女は聖奈めがけて飛び込むと、そのまま刀を振るった。

 聖奈はそれを避けると、そのまま電磁加速弾を焔の持つ6本の刀の内1本の根元に向け正確に撃ち込んだ。

 

「お待たせー!」

「雲雀ちゃん!」

「ひばり……」

 

(ここで取り返せばチャラよね……)

 

 市民を避難させ終わった雲雀が合流すると飛鳥は喜び、柳生も彼女の方を見てニヤリと笑みを浮かべる。

 詠と交戦している斑鳩以外の半蔵学院の主力はこれで全員だ。

 雲雀が合流した事で柳生は安心して戦う事が出来た。未来も失敗を取り返すことを考えながら柳生を睨み付ける。

 そして近藤は何かを察したのか大技の姿勢に入っていく。

 

「まさに決戦といった感じだな……私も少し、本気を出すとするよ。無論、最後の切り札ではないがね」

「!? これは……!?」

 

 すると彼を中心に突然白い霧のようなものが大量に発生し、未来の視界が白に染まった。未来も驚きを隠せず辺りを見渡している。

 これが近藤の大技であるようだが、どのような技なのだろうか?

 

「もらったぞ……秘伝忍法!」

「ひでぼあああーっ!」

 

「それっ! 押し潰しちゃうよ!」

 

 未来が取り乱したところにつけ入る柳生。秘伝忍法『氷の足』により未来は吹っ飛ばされ、地面に倒れてしまう。

 そこにすかさず、今度は雲雀が追撃に入る。雲雀は上空に飛び上がると雷を纏って回転しながら落下し、強力な一撃を放った。

 未来も起き上がって反撃しようとするが、間に合わずそのままダウンしてしまう。

 

「いくよ! 忍兎!」

「ぐへぼあああーっ!」

 

 先程の攻撃の反動を利用して飛び上がった雲雀はそのまま忍兎にまたがり残りの武装兵や傀儡に向けて突撃。

 武装兵や傀儡をなぎ倒し、最後に残った武装兵の脳天に強烈な蹴りを叩き込んだ。これで残る敵は焔たちだけだ。

 雲雀は忍兎を操りながらジャンプして再び空中へと舞い上がり、一気に加速すると急降下。

 彼女の必殺技である秘伝忍法が炸裂した。

 

「ほな、いくで……」

「相変わらずなかなかやるな……!!」

 

 一方で日影は全力で葛城に向かって突っ込んでいた。葛城も負けてはおらず、真正面から蹴りを見舞う。

 しかしそれは正面で受け止められ拮抗していた。そして葛城は瞬時に腕を引き、逆に回し蹴りを食らわせる。

 日影はそれを両腕でガードしたが衝撃までは殺せず、後ろに吹き飛ぶ。

 だがすぐに体勢を立て直すと、葛城目掛けてナイフを突き出す。対する葛城は避けず、あえて体で受け止めた。

 だが、刺さったのは服のみで、ダメージはない。

 日影がナイフを抜き、投げようとすると、その隙を狙ったかのように蹴りが飛んできた。

 なんとかギリギリで回避したもののその攻撃は予想以上に速く、まともに食らうとまずいことを悟った。

 

「あんた、ちょっと見ない間に速うなったなぁ……」

「そういうお前こそ、強くなってるじゃねえか」

「だから……全力で行くで。葛城」(ここで一気に決めとかんと……)

「わかってるさ。日影……」

「「はああああっ!」」

 

 二人はお互いの強さを認め合った。そして再び戦いを始める。強さを認めているからこそ全力で勝ちにいくということだ。

 その戦いは凄まじいもので、お互いに一歩も譲らない。しかし、徐々に体力が消耗していくのは二人とも分かっている。

 そのため長期戦は不利だと悟り、短期決戦に持ち込もうとしていた。

 

「くっ……!」

「こんなもので壊せるほどナマクラじゃないぞ……」

 

「やあああっ!」

 

 一方聖奈と焔は今だ交戦中であった。焔の口ぶりからするに、聖奈はあれから電磁加速弾を何度も刀に撃ち込んだようだが破壊には至らなかったようである。

 そこに飛鳥が間に飛び込んで来て、焔に斬りかかる。

 だがそれを焔は受け流し鍔迫り合いになり、そのまま飛鳥は後ろ回し蹴りを放つが、これも読まれており避けられてしまう。

 

「はぁ……はぁ……」

「もう限界か? 飛鳥……」

 

「……私もいるけど」

「しまっ……!」

 

 それでも、二人の攻防はまだ続いていた。だが、戦況は徐々に変わってきている。なぜなら、最初に受けたダメージの蓄積によって、飛鳥の動きが鈍くなりつつあるからだ。

 逆に焔はダメージを受けてはいるものの、動きに支障はない。このままではいずれ、飛鳥は力尽きて倒れ、負けるのは確実だろう。

 そこで聖奈が飛び込む。焔は飛鳥との打ち合いに夢中になっていたため、突然現れた聖奈に対応が遅れる。

 そして聖奈が放った斬撃をまともに喰らい、後ろに吹き飛ばされる。すかさず追撃を行おうとした聖奈だったが、

 焔は空中で体勢を立て直すと地面を踏みしめながら刀を構え直して、刀身に炎を纏わせて突っ込んできた。

 それを見た聖奈は即座に身を翻し回避行動に移るが、焔が振るった刀の刃が左腕をかすめた。

 

「うっ……!」

「ふん。こんなものか? ……はあっ!」

「!」

「し、しまっ……!」

 

「やああああっ! 半蔵流! 乱れ咲き!!」

「ぐっはあああっ!」

 

 聖奈は左腕を押さえ、その場に膝をつく。幸い傷はそれほど深くはないが、完全に火傷を負ってしまったようで、かなり痛そうである。

 焔が振り下ろした刀は、聖奈が回避行動をとらなければ間違いなく彼女の肩から先を切り落としていた事だろう。

 聖奈は焔の攻撃を避けたものの、その衝撃までは避けきれず、火傷を負ってしまったのである。

 しかし、まだ終わってはいない。焔は刀を振り下ろしたあと、すぐに横薙ぎの一撃を放ってきた。それに気づいた聖奈はすぐに後転してその場から離れ、攻撃をかわす。

 そうしたことで焔の攻撃が空振り、隙が生じることとなった。そこに飛鳥が真正面から飛び込み大上段からの斬りつけを行い、そこからさらに連続で斬りつけた。

 これこそが秘伝忍法『半蔵流乱れ咲き』。これを喰らった焔はその場に崩れ落ちた。おそらくしばらくは立ち上がれないだろう。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 勝利したはずの飛鳥も息を荒げている。どうやらそれほどまでに消耗していたようで、彼女は今体力の限界を迎えている。それでも、彼女達には休む暇はない。

 何故なら、戦いはまだ続いているからだ。日影と葛城の戦いの決着はまだついていなかった。二人の実力はほぼ互角。だが、二人とも全力で戦っているため、決着がなかなかつかない。

 それどころか、どちらかが疲労した瞬間、勝敗が決してしまうほどだ。そんな中、ついにその時がやってきた。

 

「……ん?」

「つおおりゃっ! ……!?」

 

 少し前に近藤が放った霧が晴れると、辺りの空間には大量の小さな白い雲が浮き始めた。

 日影はそれに気づくと、近藤のほうを見つめはじめる。葛城がその隙を狙って日影を蹴りつけるも、軽く後ろにスライドした程度だった。

 というのも最初から逃げ腰だったかららしい。

 

「……わしらにはやらんでええのか?」

「ま、まずい!」

 

 日影は近藤のほうを見ると彼に向かって飛びかかってきた。どうやら日影が逃げ腰だったのはこのためだったらしく、近藤に気づかれずに霧が晴れるのを待っていたようだ。

 彼女は容赦なく近藤をしとめようとしてくる。しかし近藤は取り乱す素振りを一切見せなかった。むしろ、笑みを浮かべている。

 どうやら先程の雲に秘密があるらしい。近藤はさほど時間がたたないうちに口を開いた。

 

「どこから来ようともこの空間に入った以上、私の間合いだ……『雷獣の巣』」

「ぬわああっ!」

「す、すごい……!」

 

 次の瞬間、空間に浮かんでいた全ての雲から激しい電気が発生し始める。そして日影の背後と左右に浮かんでいた雲からいきなり雷が襲いかかってきた。

 日影はそれをもろに喰らい弾き飛ばされるように吹っ飛ばれてしまう。それを見ていた飛鳥も、驚きを隠せなかった。

 なぜなら、近藤の雲によって生成された雲は全て雷を発生させる雲になっていたのだ。おそらくこの雲自体が、近藤の作り出した魔法なのだと思われる。

 つまり、雲一つで無数の雷を発生させられるということ。これならどんな場所だろうと自由に雲を生み出せるため、近藤の魔法の範囲はかなり広いことになる。

 

「焔さん、あいつなかなかやりおるで」

「いいからどいてくれ……」

 

 先程の攻撃で吹っ飛ばされた日影は地面に倒れ伏した焔のところに着弾。日影は近藤を警戒する素振りを見せるも、近藤は余裕の表情を見せており、

 そんな彼の態度を見て日影は近藤がかなり強いと察するとそのまま立ち上がってその場を離れようとした。

 焔が下敷きになっていたのだから尚更である。だが、そんなことは当然許さない。近藤は即座に日影の前に回り込み、行く手を阻んだ。近藤はそのまま刀を抜いて構える。

 

「さて、今度はお前だ」

 

近藤はそう言うと、日影に向かって走り出す。これによって日影と近藤の距離は一気に縮まり、一瞬にしてお互いの刃が届く距離まで接近する。

 しかし日影は近藤の攻撃を難なく避け、反撃に移る。日影は近藤が振った刀を避け、その隙をついて刀を振るった。

 近藤はそれを防ぐと、再び斬りかかった。それを繰り返しながら、戦いを続ける二人。

 

「おらああっ!」

 

 途中で葛城も加わり、近藤を援護し始めた。彼女は日影のもとに飛び込むと凄まじい蹴りを腹に見舞う。そして、吹き飛んだ日影に対して追撃をかけるべく、全力で走り出す。

 物凄いスピードからの一撃は壁に大きな穴を空け、確実に日影に命中して大きなダメージを与えたはず……だったのだが、日影は寸前でガードしていた。

 それによって、あまりダメージを受けなかったらしい。しかし、それでもかなりの衝撃が身体を襲っているはずだが、日影はすぐに起き上がると、反撃に移った。それも大技だ。

 

「……なにっ!」

「もろたで……『ぶっさし』!」

「うぐぁっ……!」

 

 日影は黒きエネルギーをまとわせた短刀を逆手に持ち、何度も葛城に斬りかかってきた。その度に葛城は何とか体を反らして回避していくが、少しずつ押されていく。そして遂には胸元を深く斬られてしまう。

 だが、致命傷ではない。葛城は素早く後ろに下がると、日影と距離を取った。そして日影の次の一撃を待つため、構えをとる。案の定、日影は再び攻撃を仕掛けてきた。今度は袈裟懸けに振り下ろしてくる。

 

(今度こそ!)「くっ……! けど、もらったぁぁ!」

「むっ……」

「クロス……パンツァー!」

 

 葛城はとっさに体を反らして回避するが避けきれず頬を掠める。だがこれで付け入るチャンスができた。頬こそ切られたものの彼女は一瞬の隙を逃さず、すぐに反撃に移る。

 それは蹴りであった。彼女は日影の腹部を蹴り、そのまま何度も蹴りつけていく。日影は苦しそうにしているものの、なんとか耐えている。だからか彼女は思いきり飛び上がり、叫びながら足を振り下ろした。

 豪脚から繰り出されるその技は、葛城の秘伝忍法の一つだった。彼女の蹴りは見事、日影の頭に命中し、地面に叩きつけることに成功した。その威力は凄まじく、地面には大きなクレーターができていた。

 

「へっ……今回はアタイの勝ちだな」

 

 日影を下した葛城は得意げな表情を浮かべ勝利宣言をする。実際、日影が立ち上がってくる気配はない。つまり、完全に決まったのだ。

 しかし、まだ安心はできない。相手は焔たちなのだ。油断すればどんな方法で逆襲してくるのかわからない。

 そのため、葛城は警戒しながら倒れたままの日影を見つめていた。

 

「まだ終わってないわよ……」

「……撤退した方がいいぞ。ケガしたくなければな」

 

 一方で未来はなおも柳生と交戦中であり、戦況は未来が不利な状態であった。

 それでも未来は戦意を失わなかったものの、柳生の言う通りこのまま戦い続けていては分が悪い。

 だが、ここで諦めるわけにはいかなかった。なぜなら今自分が負ければ、任務は確実に失敗してしまうだろうから。

 

(こんなところで負けるわけにはいかない!)「余計なお世話よ!」

「そうか……ならもう一度だ」

 

 未来は覚悟を決めると、スカートの中からまたも重火器を取り出した。今度はマシンガン。これもまた戦車の砲身を思わせるような代物だ。

 柳生も負けじと巨大なイカを召喚し、その上に飛び乗った。これも大技の構えのようで、その気迫は凄まじいものであった。

 そして、両者ともに構えをとった。奇しくも全く同じタイミングだ。柳生は巨大なイカを突進させ、未来はマシンガンを構え、次の瞬間、両者は同時に動き出した。

 

「『氷の足』!」

「『ヴァルキューレ』!」

 

 柳生の巨大イカが氷の弾丸を放ち、未来のマシンガンに対抗する。その威力は凄まじく、氷の塊が着弾すると辺り一面が凍り付く程だった。

 対する未来も負けてはいない。次々とマシンガンを撃ち続け、柳生のイカに向けて攻撃を続けていった。

 結果大きな爆発がまたも起こり、周囲の床や壁は破壊されていく。当然二人にも被害はあり、爆風によって吹き飛ばされる。

 

「うわあああっ!」

「ぐほああああっ!」

 

「柳生!」

「だ、大丈夫?」

「大丈夫……ではないな……」

 

「みんなー! ひばりも終わったよー! って柳生ちゃん!!」

「ひばり……」

 

 吹き飛ばされた二人は勢いよく壁に叩きつけられた。二人ともかなりのダメージを受けたようで立ち上がる気配がない。

 葛城と飛鳥が心配して柳生のもとに駆け寄る。柳生はこれに応えるも、ダメージが大きいのか立ち上がれないようだ。それでも、二人の肩を借りながら何とか立ち上がった。

 一方で未来はまだ立ち上がる気配はなく、地面に倒れたまま動かない。どうやら気絶しているようであった。

 飛鳥たちの後から雲雀も駆け寄ってきて、柳生を気遣ってきた。彼女は柳生の身体を支えるように手を貸してきたのだ。

 

「柳生ちゃん、しっかりして」

「ああ……ありがとう、雲雀」

 

「うぐぐ……くそっ……ほら、起きろ。未来……」

「はっ……! あたし、どうなった……? えっ!?」

 

 柳生は雲雀たちに支えられてゆっくりと立ち上がり、再び戦いの構えをとった。まだ生き残りがいるかもしれないからだ。

 しかし、敵が何かしてくる様子は見られず、静まり返っている。やがて、焔が

 起き上がると、そのまま倒れている未来の方に向かってきた。

 焔は彼女を助け起こそうと手を伸ばし、そして彼女の頬を思いっきり叩いた。乾いた音が鳴り響き、未来が目を覚ます。

 何が起きたか分からないといった表情を浮かべる未来だったが、すぐに自分の置かれた状況を理解したらしく、慌てて飛び起きると、深々と頭を下げて謝罪してきた。

 

「焔! ほんとごめん! あたしのせいで、こんなことになっちゃって……!」

「もういい。私たちがもう少し強ければ取り返せた。今回は実力負けだ」

「え?」

「撤退すると言ってるんだ……セーレ軍団、退却!」

「わ、わかった! みんな! 逃げるわよ!」

 

「あら、撤退? まぁいいわ……」

「はぁ……まぁええわ」

 

 焔の退却命令に反応した未来はそう言うと、日影と春花と武装兵を撤退させていく。

 春花は抵抗しなかったがどこか名残惜しそうにしており、日影はどこか嫌気がさしていたのかため息をついていた。

 そんな二人を見て、未来は申し訳なさそうな顔をすると、今度は焔たちに向き直り、もう一度深く頭を下げるのだった。

 それを見た焔は、仕方ないなと言わんばかりに首を左右に振ると、未来の頭を優しく撫でる。その行動が嬉しかったのか、顔を上げた未来の顔には笑顔が戻っていた。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「ううっ……!」

「これも焔さんたちの為ですわ!! 悪く思わないでくださいまし! はああっ!」

 

 斑鳩の刀に容赦なく大剣を打ち込んでいく詠。飛鳥たちの戦いは終わったが、斑鳩と冴太郎の戦いはまだ終わっていなかった。

 二人は詠の猛攻を受けながらも、なんとか耐え凌いでいる。だが、斑鳩は詠の攻撃を防ぎきれず、身体中に傷を負いながらも必死に反撃の機会を窺っている。

 そして、ついにその時がやってきた。突然詠が大剣を振り上げると、力任せに大剣を振り下ろしてきた。

 冴太郎はそれをジャンプして回避し、その結果地面に振り下ろされた大剣は土煙を上げながら地面を砕き、その衝撃によって周囲に砂塵が舞う。

 

「――――はっ……しまっ……!」

「そこです! 『飛燕鳳閃・壱式』!!」

「や、やりますわね……」

 

 詠の攻撃が空を切った一瞬の隙。そこに斑鳩の放った斬撃が舞い上がった土埃の中から飛んできた。これこそが斑鳩の飛電忍法。超高速の斬撃『飛燕鳳閃・壱式』。

 これを喰らった詠は大きく吹き飛ばされ勢いよく地面に叩きつけられる。これはかなり効いたようだ。

 しかし、まだ倒れてはいない。彼女はよろよろと起き上がると、口元についた血を拭い両腕を前に突き出した。大技の構えのようだ。

 見ると彼女は大砲とボウガンを腕につけている。だが、斑鳩はそれを見ても動じず、すぐに自分の得物である日本刀を構え直す。

 

「秘伝忍法……『ニブルヘイム』!」

「はあああああっ!」

「狐火!」

 

 しばらくして轟音が響き渡ると、詠の腕から弾丸と矢が放たれた。斑鳩も負けずに素早く走り出し、刀を振るう。

 冴太郎も火球を弾に向かって投げ、詠に対抗していく。『狐火』だ。

 攻撃がぶつかり合い、それは凄まじい爆発を引き起こし、辺り一面が真っ白に染まる。

 あまりの衝撃にさすがの冴太郎や斑鳩達も顔をしかめる。やがて爆風が止むとそこには……

 

「こ……この程度でわたくしは止められませんわ」

「……!」

「……ん?」

 

 ボロボロになった詠が立っていた。その言葉とは裏腹に彼女の体はすでに限界を迎えているようで、足取りはおぼつかない。

 詠はよろけながら立ち上がっていた。斑鳩も動きを警戒し、冴太郎とともに詠を取り囲もうとしたその時だった。

 詠がふと何かに気づいたようだ。どうやらセーレから何かしらの通達を受け取ったらしい。彼女は無線機を手に取ると、通信に応じた。

 

「え? 退却? ……今日のところはこれで失礼しますわ」

 

 通信の相手は焔だった。どうやら撤退するよう言われたようで、斑鳩と冴太郎に一言言ったあと彼女はいずこかへと走り去った。

 これでセーレのメンツは全員撤退したことになる。

 とりあえず一安心したところで、冴太郎が口を開く。

 

「ありがとうございました。あなたがいなかったら僕は勝てなかったでしょう」

「お気になさらず。それより基地に帰りましょう」

「そうですね」

 

 戦いを終えた斑鳩たちは基地に戻っていく。幸いにも道中で敵に襲われることはなく、無事基地に戻ることが出来た。

 他のメンバーも無事に帰還できていたようで、特に怪我をしている様子はなかった。

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

「そうか、焔たちが……」

「はい……多分、また攻めてきます」

「そうだね……基地がばれた可能性がある。移動させないと……」

「移動?」

「こういうことさ」

「!?」

 

 自由バトルロイヤル連盟の基地で、斑鳩は橘と話していた。斑鳩は先ほどの戦いを思い返していた。橘も哀れむような目で斑鳩を見つめる。

 その後橘は斑鳩の疑問に応えるがごとく基地内部の装置を操作した。すると、基地が突如大きく揺れ始めた。基地で大きな何かが動き出しているのだ。

 さすがの斑鳩も、これには驚きを隠せず、困惑した表情を浮かべている。やがて揺れが収まった時、基地の下から巨大な四輪が出現していた。

 それはまるで戦車のようでもあった。その巨大さに、斑鳩は唖然とする。

 

「まさか、これが移動するって言うんですか?こんなものが動くなんて……」

「うん。移動手段は限られている。この基地にある設備はどこかに詰め込むには大きすぎるんだ」

「なるほど……。確かに……」

「それに、君たちの仲間は皆強いだろうけど、それでも万が一のことがあるかもしれないし、ここは安全のために、ね……それじゃ、行こうか」

「はい!」

 

 そして基地は轟音とともに動き始めた。その速度は尋常ではなく、あっという間に街を出ていった。




投稿遅くなってすみません(´・ω・`)
ということでセーレが何者なのかとかそういう部分が明らかになりました。
これからどうなっていくか、見ていただけると嬉しいです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。