愛玩の獣はマスターを手に入れたい 作:若杉優太(テト/teto)
――頭が痛い。
最初に意識が覚醒した時に感じたのは、まず痛みだった。
どこかで頭を打ったのだろうか?意識を失う直前の記憶が曖昧な私は、ぼんやりとそんな事を思う。
だが、徐々に意識が覚醒していくにつれて、私は目の前に血だまりができている事に気付く。
――誰か、怪我をしたのか……ッ!?
ぼんやりとしていた意識を一瞬で覚まし、急いで立ち上がろうとする……が。
「あ……っ!ぐ……ぅ……ッ!!」
突然腹部に走った激痛に阻まれ、私は立ち上がろうと付いた手をそのままにして動けなくなってしまった。
痛みの種類としては、腹痛や単なる打撲ではない……もっと深刻な物。
例えるならば、刃物で刺されたか銃で撃たれたような痛みだ。
「(そういえば、口から血の味がする……ってことは、この血は私が出したのか……っ!)」
その事を察し、何とか腕を這わせて血だまりから抜け出すと、私の倒れていたところだけが血で彩られており、他の所には一切血は見当たらず、倒れている者も居ない。
ひとまずは私以外で負傷している者が居ないことは分かったが、問題は私の傷をどうするかだ。
「っ……!痛い、けど……立たなきゃ……ッ!!」
未だに腹部を激痛が走っているが、それでも私は気合を出して立ち上がり、ようやく周囲の状況を一望できる状態になった。
「(はぁ……はぁ……まずい、これは急いでナイチンゲールのとこに行かないと駄目だ……)」
立てはしたものの、腹部からはまだ出血がある。
見た目からすれば、普通の人間だったら死ぬような出血の量……いや、この私ですら今すぐにでも命を失ってもおかしくない。
だが、そもそもどうして私がこんな重傷を負っているのだろうか?
それに……ニキチッチも何処へ――
「……ッ!!そうだ、ニキチッチ……ニキチッチが居ない……ッ!」
意識を取り戻す前までは確実に一緒に居たはずの彼女が居ないなどおかしい。
彼女ならば私が負傷していたら、すぐさま医務室へ運び込んでくれるだろう。
そんなニキチッチが私の事を放っておくなど有り得ない……ならば、どこかへ連れていかれたのか?
一瞬だけ頭がパニックになりかけたが、すぐに思考を冷静にし、落ち着いて意識を失う直前の記憶を思い出していく。
「(私は、ニキチッチと話してて……それから立香君が突然食堂に来て、私と立香君がハグをしながら言葉を交わした後、何故か立香君が――銃を持っていた)」
うっすらとした記憶が鮮明になっていく中、最後に覚えているのは立香君が硝煙の上がった拳銃を構えていたことだけ。
考えたくもないが、ニキチッチが居ない理由と私が負傷した理由は立香君に銃撃されたから……いや、断定するのはまだ早い。
「(まずは、立香君に話を聞かないと……それにカルデアの皆も心配だ……)」
私が命の危険を感じる程の重傷を負っていても誰も助けに来ないなど、どう考えても異常事態だ。
――確実にカルデアで何かが起こっている。
歩くと腹部から血は少量ながら流れるが、それでも休んでいるわけにはいなかない、
「っ……!ぅ……ぅ……ッ!」
時折、口から苦悶の声を漏らしつつも、私は重りを乗せられたような身体を引きずり、食堂の出口を目指すのだった……
――誰も居ない。
食堂で目覚めてから一通りカルデア中を回ってみたが、結論として英霊は誰一人として見つからなかった。
最初に傷を治してもらおうと行った医務室も、もぬけの殻になっており、その他の図書館やシミュレーションルームにも英霊は居なかった。
ただ、英霊は見つけることはできなかったけれど、カルデアのスタッフ達は廊下で発見することが……する、ことが……っ……
「酷い……誰がこんなことを……ッ!」
四肢をバラバラにされ、だるまのような状態で廊下で虚ろな目をするカルデアの数少ないスタッフであるオクタヴィア、シルビア、そして――ムニエル。
その他にも前のカルデアから生き残った数少ないスタッフの全員の亡骸が、壁にべっとりと塗られた血と共に残されていた。
「なん、で……?なんでこんなことに……」
目の前に広がる地獄絵図に、私はただ膝を付いて呆然と風景を眺めるしかできない。
最初は怒りに震えていたはずの心も、傍に転がっていた腕を見た途端に、恐怖へと変わってしまった。
もはや誰がやったかなど想像する余裕もなく、目の前の現実を受け入れることで精一杯だ。
「(みんなは……他の皆は、どうなったんだ……)」
カルデアのスタッフ達がこうなってしまった以上……ゴルドルフ、ネモ、シオン、マシュ達の安否が心配で仕方ない。
私としては、襲撃者から逃れて生存していることを願っているが、カルデアのどこにも四人の姿が見えないことから、もう手遅れかもしれないと諦める私が居た。
「……あ……ッ!痛い……ッ!!う、ぐ……ぁ……ッ!」
立香君に負わされた傷も徐々に悪化し始めてきており、まともな医者が居ない今では、私は死にゆくだけの存在だ。
医務室で見つけた包帯で腹部の止血はしたものの、それでも限界はある。
むしろ、よく持った方だろう。
「(結局、立香君は見つけれなかった……どこにも、居なかった……)」
無念の思いを抱きながら、私は寒気の襲う身体で膝をついた。
――死ぬな、これは……
医者でもないのにそんな事を思ってしまうということは、私の命はあと少ししかない証拠だ。
意識もぼんやりとなってきていて、身体の感覚もはっきりとしなくなってきた。
「(ああ……立香君……最後に君と話がしたかった……)」
本当に君自身が私を撃ったならば、その理由を直接聞きたかった。
君に私の想いをちゃんと伝えた上で、もう一回話し合いの場を設けて君に謝りたい。
時間を巻き戻せるものなら、巻き戻してでも君に……伝えたいんだ――
「(大好きって……もっと自分を大切にしてほしい……って伝えたかった、な……)」
身体を支えていた膝を崩し、私は遂に地面へと伏した。
すると、伏した床から振動が伝わってくる。
――誰かがこっちに来た……
徐々に近づいて来る足音からして三人ぐらいだろうか……?おそらくは、カルデアを地獄に変えた者達であろう。
『ふふ、大体”掃除”は終わったね……』
『ええ……そうですねマスター、いえ立香♪』
『これで、カルデアは制圧したでしょう……』
ああ、やっぱりか……やっぱり……君だったんだな。
どうして光のコヤンスカヤと闇のコヤンスカヤと一緒に居るかまでは推測できないが、君の瞳が彼女らと同じ黄金色になっている所を見れば、君が遠くへ行ってしまったと分かる。
――ああ、悔しい……悔しい……ッ!
君と一緒にずっと笑っていたかった、君と前の私のような関係を築きたかった。
「立香、くん……」
伸ばした手が二度と届かないと分かっているが、それでも最期の瞬間まで諦めきれない。
無謀だろうと手を伸ばして、君に気付いてほしいんだ。
『……?立香、あそこで何かが動いた気がします』
『気のせいじゃない?もう、みんな殺したはずだけど――っと、まだ生きてたんだね?』
こちらを見て笑う立香君の顔ははっきり見えないが、それでもこっちに気付いてくれただけで嬉しかった。
神様がいるなら、ありがとう。
最期に私を立香君と会わせて……く、れ……て――
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今回、挿絵を描いていただいたのは、ガンダムダブルオーの小説を投稿した際にも絵を使わせてもらった、マルマルさん(https://twitter.com/nonono_0329_)です。素敵な挿絵をありがとうございました!良ければ、マルマルさんのツイッターの方をフォローしていただけると、大変ありがたい限りです!
この作品はpixivにも投稿しているので、そちらの方もよろしくお願いします!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18212630