愛玩の獣はマスターを手に入れたい 作:若杉優太(テト/teto)
小さき愛玩の獣達
「みんな、今日もお疲れ!」
レイシフトから戻ったばかりの立香が元気よく周囲に居た英霊達に声を掛けると、英霊達は笑顔で自身のマスターへと返事を返し、中央管制室から各々自室へと帰っていく。
そんな中、一人立香の傍に残ったのはニキチッチだった。
「お疲れ様だ、マスター。無理はしていないか?」
「全然してないよ、大丈夫。心配してくれてありがとうね」
「なら良かったぞ!なにせ、マスターにはヤースカヤ達の婿になるまで生きてもらわなければいけないからな!」
「あはは……それ、まだ本気にしてたんだ……」
どこまで熱く、真剣に立香をコヤンスカヤの婿として考えているニキチッチへ苦笑いしつつ、立香はふと数日前の事を思い出した。
「そういえば、数日前はありがとうね。わざわざシミュレーションルームの中まで来てもらってさ」
「ん?ああ、気にしなくていい。オレはただ二人の様子が気になって見に行っただけだ、それになんやかんやでヤースカヤ達が、どれだけマスターを想っているのかが更に分かったからな……!」
そう言って、弾んだ声で答えるニキチッチの表情はとても清々しい。
少し前であれば、光のコヤンスカヤと闇のコヤンスカヤのどちらともに監視の目を光らせていたニキチッチだったが、今となってはすっかり二人の純粋な想いを信じ、その想いが実ることを祈っている。
「(ほんと、ニキチッチは親みたいだな……)」
何かカルデアで二人がやってしまった時は共に悲しみ、嬉しいことがあった時は共に喜ぶ……ニキチッチとコヤンスカヤ達は血のつながった”親子”ではないが、それでも傍から見ていれば立派な親子に見えた。
「さてと……それじゃあオレは部屋に戻るとしよう、マスターはどうする?」
「私は別に用事もないから、コヤンスカヤ達の所に行ってあげようかな。二人共、私が居ないとすぐに寂しがるし……」
「悪いな、マスター。なら、オレも途中までは一緒に行くよ、ヤースカヤ達に渡したい物があるからな」
「分かった。じゃあ……行こうか?」
ニキチッチの呟く”渡したい物”というのが少し気になりつつも、立香は早速マイルームのある方へニキチッチと共に歩きだす。
すると、突然――マイルームへと繋がる廊下から小うるさい足音がバタバタと鳴った。
最初はニキチッチも立香も、首を傾げるだけで特段気に留めることはなく、そのまま足を進めていたが、段々とこちらへと近づいて来る足音と声が聞こえてくるにつれ、その表情が戸惑いへと変わっていく。
「ねぇ、ニキチッチ……これ、誰の声だろう?」
「分からない。そもそもカルデアでこんな声聞いたことないぞ……」
『ますたー!!どこー!?』
一人か二人の子供のような声がはっきりと聞こえ、立香とニキチッチは足を止めて耳を澄ますが、やはり聞こえてくる声は聞き馴染みのない声だ。
――でも、聞いたことあるような……?
ニキチッチも立香も、互いにそんな不思議な感覚に包まれていると、徐々にジタバタと走り回るような足音と甲高い声は二人へと近づいて来る。
「(もしかして、侵入者だったりするのかな……?)」
一瞬だけ立香は考えを巡らせてみるが、レイシフト先からの帰還の際に問題が無く、特段どこかが破壊された形跡も無い以上は考えづらい。
ならば、一体誰なのだろうか?
そんな立香の疑問は、ふと廊下へと瞳を向けた瞬間に解決されることになった――
「あっ!やっぱり、ここにいたんだ!」
「そういったでしょ!ますたーは”れいしふと?”からもどってきたら、ぜったいにここにいるって!」
普段は比較的静けさを保っている中央管制室全体に響く声を出し、立香の方を見てはしゃいでいるのは二人の幼い少女達。
一人は黄金色の髪、もう一人はピンク髪が特徴的な少女達の顔は、どこかで見たことが……いいや、間違いなく――
「や、ヤースカヤ……ッ!?」
立香が驚きの声を上げる前に、思わず声を上げてしまうニキチッチ。
半信半疑ながらも二人の顔をじっと見つめ、本当に自分の知る人物であるかを必死に確認するが、二人の着ているものは明らかにコヤンスカヤ達の法衣や着物である。
しかし、それでも信じられない……と顔を訝しげにするニキチッチであったが、当のコヤンスカヤらしき少女達はそんな顔をするニキチッチを見つけるや否や、顔をぱっと明るくした。
「あっ!おかあさまだ!」
「え?あ……!?おとうさまだ!」
二人仲良く並んでニキチッチの元へと走っていき、その胸の中へと思い切り飛び付く少女達。
いきなりの事に驚きつつも、しっかりと二人を自身の胸の中で受け止めたニキチッチの顔は満更でもなさそうであった。
「わぁ……おかあさまのからだ、あったかい……」
「そうですね、あったかい……おとうさまのからだ」
「や、ヤースカヤ……!マスターの前でこんなこと……っ!」
穏やかな顔で自身の身体へ抱き付く二人を振り解こうにも振り解けず、頬を朱色に染め、必死に二人を落ち着かせようとするニキチッチ。
おそらく無意識だと思うが、立香の目に時々二人がニキチッチの胸を揉んだり、必要以上に彼女の身体をベタベタと触っている姿が映る。
「ちょ……っ!や、ヤースカヤ……ッ!?駄目だ、そこは……っ!」
構図としては十代もいかない幼い少女が大人の女性と戯れているだけなのだが、胸の辺りを触られる度にニキチッチが嬌声を上げるせいか、不思議と厭らしい行為をしているように見えてきてしまう。
「んんっ!あ……っ!ん……っ!」
「おかあさま……おかあさま……」
「おとうさま……おとうさま……」
ひたすらに嬌声を上げるニキチッチと、ひたすらにニキチッチの胸を揉み続ける二人の少女の姿。
そんな百合の花が咲きそうな光景を見せつけられる立香は一言だけ呟き、目の前の光景から目を離すようにして天井を仰ぐのだった――
「もう……わけわかんないよ……」