愛玩の獣はマスターを手に入れたい 作:若杉優太(テト/teto)
「あはは……毎度君達は変なことに巻き込まれるよね」
困った様子で頬を掻き、自身の部屋へとやって来た立香達に言葉を投げるダヴィンチ。
いつもなら朗らかな笑みを持って立香やニキチッチを部屋に迎え入れるダヴィンチだったが、目の前の椅子にちょこんと座る二人の幼女を視界に入れた瞬間から、その笑みがすっと消えた。
もちろん、ただの幼女――ジャック・ザ・リッパ―、ナーサリー・ライム、アビゲイル等々であれば大歓迎だが、今現在部屋に居る二人の幼女……いや、獣に関しては別だ。
「それで、ダヴィンチちゃん……原因は分かった?」
「分かるわけないさ。そもそも彼女達程のサーヴァントの霊基を変えようと思ったら、聖杯でも使わないと無理なはずなんだけど――」
「ダヴィンチちゃんが管理してるから、それは無い……と」
「うん、有り得ないね。ちゃんと聖杯の数も確認したし」
「はぁ……じゃあ、お手上げだ」
立香の溜息交じりの言葉へ同意するように頷き、ダヴィンチは改めて目の前の椅子にちょこんと座る二人の獣に目を向けた。
「これからなにをするんでしょう?」
「なにするんだろうね!?たのしみ!」
すっかり知能と身体が幼いものになり、無邪気な笑みを浮かべる二人のコヤンスカヤには、以前のような威圧感や存在感は消え去っていた。
元の霊衣のまま幼児化しているため、辛うじてコヤンスカヤ達だと認識することができるが、それが無ければただの可愛らしい幼女にしか見えない。
「(ほんと、頭が痛くなりそうだ……)」
目の前で起こっている異常事態を改めて認識しつつ、ダヴィンチは気を取り直し、彼女達にとって”親”のような存在でもあるニキチッチへと目を向けた。
「か、可愛い……!ヤースカヤが小さくなるだけで、こんなに可愛いとは……」
「おーい、ニキチッチ。コヤンスカヤ達に見惚れるのもいいけど、これから先どうするのかちゃんと考えてね?」
「ん?ああ……分かっている、分かっているぞ。――抱き締めたら怒るかな……?」
立香の隣でコヤンスカヤ達を愛でていたニキチッチに声を掛けるが、すっかりコヤンスカヤ達の愛らしさにやられてしまったのか、ダヴィンチの声には上の空で応じるばかりだ。
「……駄目みたいだ」
「そうだね、駄目みたい」
「もういっそ、このままの姿で居てくれ……ヤースカヤ!」
さらりととんでもないことを呟くニキチッチを後目にし、ダヴィンチと立香は大きく溜息をつくのだった。
「さてと、どうしたものかな?」
**
もっと、あの方を知りたい。もっと、あの方の本音を知りたい。
カルデアに来てから、そこそこの月日が経ったこの頃、私……いえ、私達は心の中でそんな想いを秘め続けていました。
何せ、あの方には何度も助けていただきましたし、私達のことを真に信頼してくださっています。
だから、あの方ともっと関係を深めたい、命じられればどんなことでもしたい。
それぐらい私達にとってあの方は偉大で、素晴らしい人。
……だというのに、あの方は謙遜ばかりする。もう少しぐらい、欲張ってもいいのに――
光と闇のコヤンスカヤが小さくなってしまってから数日が経った。
あれからダヴィンチちゃんが二人を元に戻す為に様々な手を考えているが、未だ解決策は見つかっていない。
「ほんと、そろそろ勘弁してほしいよ」
マイルームのベッドに横たわり、部屋の白い天井を見つめつつ大きな溜息をつく私は、改めて二人のコヤンスカヤとの思い出をぼんやりと思い出していた。
「(最初はどっちも“ビジネスライクの関係ですから”って言って、私に心も開いてくれなかったのに、今ではあれだもんな……)」
光のコヤンスカヤが初めてカルデアに召喚された時、ダヴィンチやホームズ・シオンなどは常に彼女を見張っていた。
それも無理はない、何せ過去にマスターである私を暗殺しようとした元ビーストなのだ、警戒されて当然だろう。
彼女はそんな視線を不快に思ったのか、カルデアの中では一人で行動をし、レイシフト先でも私の指示には耳を貸すことはなく、ニキチッチというストッパーも居なかった当時は好き勝手な振る舞いばかりをしていたのを覚えている。
でも――私は、光のコヤンスカヤを信じ続けた。
「(あのレイシフトの一件があってから、ちゃんと光のコヤンスカヤは私に心を開いてくれるようになった。私の想いがしっかり伝わったんだ……!)」
例えカルデアの誰もがコヤンスカヤ達を信用しなくなっても、私だけは絶対に二人を信じてあげたい。
だから、闇のコヤンスカヤが私を幼児化させた時でも、あっさりと彼女を許した。
ダヴィンチちゃんやマシュ、他の英霊に何と言われても決定を覆さなかったのは私の信念を貫くため……私はマスターとして、藤丸立香という一人の女として、彼女達に信を置き続けたいからだ。
これからもずっと、ずっと。
「(早く、コヤンスカヤ達を元に戻してあげないとな……)」
私がそんなことをぼんやりと思っていると、不意に――部屋の扉が数回程ノックされた。
多分、彼女が来たのだろう。
『おーい、マスター。ちょっといいか?』
「ん?ああ、ニキチッチか。ちょっと、待ってて」
私の予想通り、声の主がニキチッチだと分かると、私はベッドから起き上がり、部屋の扉の前まで足を運んで扉を開けた。
「すまないな、マスター。オレもあまりお前には負担を掛けたくないのだが、ヤースカヤ達がどうしてもマスターに会いたいと言って聞かなくてな……」
「大丈夫だよ、こっちこそごめんね?二人の面倒を丸投げしちゃってさ、疲れたでしょ?」
「いや、そんなことはないぞ。むしろ、元気になったぐらいだ」
相変わらず頼もしいニキチッチの笑みに安堵しつつ、彼女の横に立つ二人のコヤンスカヤを目をやると、瞳をキラキラとさせながら私の方をじっと見つめていた。
よっぽど私に会いたかったのか、頬を紅潮させ、口からは幼女らしからぬ荒い吐息が漏れている。
目つきもどこか、獣のような……
「と、とりあえずお疲れ様!ニキチッチ。後は私が面倒を見るから!」
「ああ、分かったマスター。もし緊急を要することがあれば、遠慮なくオレかダヴィンチの所に駆け込んでくれ」
「うん!ありがとう!」
気遣いをしてくれるニキチッチに精一杯の笑みを見せると、私は二人のコヤンスカヤの手を握り、私の横へと立たせた。
「それじゃマスター、ヤースカヤ達をよろしく頼む。二人共、ちゃんとマスターの言う事を聞くんだぞ?」
「はい!おかあさま!」
「はい!おとうさま!」
無垢な笑顔で二人がニキチッチへと返事を返すと、ニキチッチは満足そうに大きく頷き、コヤンスカヤ達の頭をくしゃりと撫でてやる。
そして、最後に私へ力強い笑みを見せ、彼女は踵を返す様にしてカルデアの廊下へと消えていった。
「私も、癒されてみますか。二人の幼女に……」