愛玩の獣はマスターを手に入れたい   作:若杉優太(テト/teto)

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穏やかな日々

 ニキチッチの去っていく姿を見届けた後、部屋へとコヤンスカヤ達を連れ込んだ立香。

 相変わらず瞳がギラギラと輝いている二人をベッドの上に座らせると、立香は不意打ちのようにして突然二人の尻尾を掴んだ。

 

「「……っ!?」」

「すごい、こんなに狐と兎の尻尾ってもふもふしてるんだ!」

 

 びくりと身体を震わせて目を見開かせる二人を後目に、揉むようにして尻尾を触る立香の表情は、今までで見たことがないぐらいに緩んでいる。

 

「もふもふ、さらさら……癖になりそうな毛並だね」

「そ、そうですよ?ひごろから、ちゃんとていれしてるんですから!」

「へぇ!それは初めて聞いた。だから、こんなに手触りがいいんだ」

 

 喘ぎ声が出そうになるのを押さえて受け答えする光のコヤンスカヤの言葉に関心を示しつつ、立香は慣れた手付きで尻尾を撫で、尻尾の質感を存分に堪能する。

 ――はぁ……癒されるぅ……

 極楽気分で光のコヤンスカヤの尻尾を集中して撫で回し、彼女の幼い表情を徐々に蕩けたものにしていく立香。

 次第に光のコヤンスカヤの尻尾ばかり撫でるようになると、闇のコヤンスカヤは立香へと頬を膨らませて抗議した。

 

「ちょっと!ひかりのわたしばっかりなですぎじゃないの?」

 

 そう言ってジト目で立香に迫ると、闇のコヤンスカヤは半ば強引に立香の手を掴み、自身の尻尾へ手を当てさせる。

 すると。

 

「ほわぁ……!なにこれ!?光のコヤンスカヤとは違ったもふもふだ!」

「ふふ!そうでしょ?わたしのほうが、ふわふわしてていいよねー?」

「うん、うん!この尻尾も中々、もふりがいがあるね!」

 

 さっきの様子とは一転し、今度は闇のコヤンスカヤの尻尾を夢中で触る立香。

 その姿を見た闇のコヤンスカヤは、不満げな顔をすぐに満足そうな笑みへと変える。

 

「うまいね、ますたー!おとうさまより、なでるのじょうずかも!」

「そう?なら、もっと撫でてあげるからね!」

 

 上機嫌な闇のコヤンスカヤの言葉に従い、尻尾の隅々を洗うようにして撫で回していく立香だったが、当然それを見ていた光のコヤンスカヤは段々と不機嫌になっていく。

 そんな光のコヤンスカヤの様子も知らず、立香は闇のコヤンスカヤの金色の尻尾を撫で続けた。

 

「(不思議だな……こうやって、尻尾を撫でているだけで心が休まるなんて……)」

 

 フィニスカルデアの時からずっと人理の為に戦いを続け、ノウムカルデアに移った今でも戦い続けてきている唯一無二のマスター藤丸立香。

 多くの英霊を従え、数々の特異点や異聞帯を解決してきた彼女であったが、その旅路には休みが全くと言っていいほど無かった。

 しかし、それでも立香は気丈に振舞ってみせ、身体の異常や精神的な苦痛も全て隠し通し続け……ある特異点で遂に発狂するに至ったのだ。

 

「(あの時は迷惑かけちゃったな……私が無理し過ぎたせいで、あんなことになっちゃったし)」

 

 ダヴィンチやマシュ、それに傍に居る光のコヤンスカヤも泣きじゃくりながら心配をしてくれた特異点での出来事や、数日前に見たダヴィンチの涙を思い出し、改めて立香は反省をした。

 

「(でも、これからは大丈夫。この二人が居るから……)」

 

 常に自分の身を案じ、健康や精神状態も気遣ってくれる二人のコヤンスカヤ。

 光と闇、どちらのコヤンスカヤも他の英霊からは警戒されているようだが、仲を深めた立香は二人が純粋に自分を慕っていることが分かっている。

 だからこそ、二人と一緒に居ると心が安らぐ。

 

「もー!ますたー!?さすがに、やみのわたしをなですぎです!」

 

 我慢できなくなったのか、立香の手を闇の自分から遠ざけようとする光のコヤンスカヤ。

 それに対し、闇のコヤンスカヤも光の自分へ食って掛かった。

 

「べつにいいじゃない!いまは、わたしのしっぽをなでてくれてるんだから!」

「それでもながすぎなんです!はやくかわってください!」

「いやだ!もっとなでてもらうの!!」

 

 些細なことから遂には取っ組み合いを始めてしまった二人を後目に、立香は壁にもたれかかってその様子を眺めていた。

 とても、とても……穏やかな表情で。

 

「(ああ、幸せだな。本当に……)」

 

 戦いから離れ、こうやってコヤンスカヤ達と触れ合えるだけで幸福で満たされる。

 今日まで戦い抜いてきて良かったと、心の底から思える気がした。

 

「(眠い。眠いよ……お母さん)」

 

 睡魔に襲われると同時に、今まで思い出しもしなかった母の顔が脳内に浮かび、目の端から不意に透明な雫が零れた。

 きっと、自分は未だに日本のことが恋しいのだろう。

 そうでなければ、涙など流すはずがない。

 

「(眠ろう、眠って全てを忘れよう。忘れてしまえば寂しさなんて消える)」

 

 今日ぐらいは睡魔に身を任せてもいい。

 こんなに楽しくて穏やかな時なのだから、別に問題は無いはずだ。

 眠っても二人が起こしてくれるのだから。

 

「頼りにしてるよ、二人とも……」

 

 そんな呟きを残し、立香は意識を手放すのだった。




 閲覧いただきありがとうございます。続きはいつ出せるか微妙なので、気長にお待ちください。
 pixivにも投稿しましたので、良ければ……
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19442910
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