愛玩の獣はマスターを手に入れたい 作:若杉優太(テト/teto)
「それで……今回の一件は、どう説明する?ヤースカヤ……?」
「あぅ……それは……その……」
ニキチッチの刺すような視線に、闇のコヤンスカヤは言葉をたどたどしくさせる。
あの後、立香と共に部屋から出た闇のコヤンスカヤは当然のことながら、立香を探していた英霊達に拘束され、立香はダヴィンチの部屋で保護されることになった。
それから一日経った現在――闇のコヤンスカヤは縄で手足を拘束され正座の状態で、立香のマイルームにてニキチッチに説教を受けている。
「何というか、魔が差したと言いましょうか……ほんの出来心で――」
「ヤースカヤ……ちゃんと話さないと、駄目だぞ」
「っ……!?」
何とか誤魔化そうと闇のコヤンスカヤは作り笑いを浮かべるが、相変わらず真剣な表情を浮かべるニキチッチに思わず黙り込むしかない。
光と闇、どちらのコヤンスカヤにも基本は、かなり甘いニキチッチだが、今回の一件は流石に看過できなかったのか、かなり怒っている。
普段は誰に対しても不遜な態度を取る闇のコヤンスカヤでも、ニキチッチに対しては、強気に出れないようだ。
「私は、ただカルデアの皆さんが混乱するところが楽しみたかっただけで……別にそれ以外理由は――」
「本当か?嘘はつくなよ、ヤースカヤ……」
「う、嘘なんかついてませんよ……?」
「……ヤースカヤ、正直に言いなさい……」
ニキチッチは母親が娘を見るように、じっと闇のコヤンスカヤの目を見つめる。
「さぁ……早く……」
「嫌です……!流石に、ニキチッチさん相手でも言いたくないです……ッ!」
青く澄んだニキチッチの瞳から目を逸らし、闇のコヤンスカヤは明後日の方向に顔を向ける。
だが、ニキチッチはそれでも、その瞳を闇のコヤンスカヤに向け続けようとした……その時だ。
部屋の扉が不意に開いた――
「この部屋に居るって聞いたんだけど……って、え……!?」
部屋に入ってきたのは、すっかり元の身体に戻った様子の立香だった。
「どうも……一日ぶりですね、マスター……」
「もう戻ったのか、良かった……心配したぞマスター……」
「え、えっと……これはどういう状況……?」
部屋に入って早々、闇のコヤンスカヤが縄に縛られている状況……
立香は戸惑いつつも、そう言葉を返すしかなかった。
「――という訳で、さっきからヤースカヤを問い詰めてたんだ……」
「なるほどね……」
一通りの説明をニキチッチから受け、立香も合点がいったように頷く。
「俺としては、ヤースカヤに詳しい事情を聞く必要があると思うんだが、マスターはどうするつもりだ……?」
「いや、特に何もするつもりはないよ……」
「「……ッ!?」」
闇のコヤンスカヤ、ニキチッチの両方が立香の言葉に目を見開かせる。
「闇のコヤンスカヤも、本当にカルデアを滅ぼそうとは考えてなかったみたいだし、滅ぼすつもりなら私を殺せば解決だからね……そうでしょ?」
「まぁ、そうだが……」
自分から闇のコヤンスカヤを りつけようとしていたニキチッチだが、マスターにそう言われては納得せざるを得ない。
「それに今回、闇のコヤンスカヤが私を幼児化した理由も分かってるよ……」
どこか嬉しそうな表情で、闇のコヤンスカヤを見つめながら、立香は口を開く。
「光の自分に私が取られたことが嫌だったんでしょ?闇のコヤンスカヤ……?」
「な、なんでそれを知って――」
「だって、光のコヤンスカヤと居た時に、闇のコヤンスカヤは嫌な顔をしてたからさ……もしかしたらってね……」
自分の心を見透かされ、闇のコヤンスカヤは表情を啞然とさせた。
そして、次の立香の言葉で完全に意気消沈する。
「だから、私を幼児化させ記憶もいじって、自分の物にしようとした……で合ってるかな?」
「うぐ……ッ!?」
完璧に自分の目的を言い当てられ、遂に闇のコヤンスカヤは頭をうなだれる。
「(はぁぁぁ……ッ!言われたくなかったのに……ッ!)」
ニキチッチの前で自分の目的が嫉妬によるものだと、バレてしまったことが恥ずかしくて仕方ない。
手足を縄で縛られている為、赤くなっていく顔を覆うこともできず、闇のコヤンスカヤは必死に顔を見られないように顔を伏せるしかできない。
すると、不意にニキチッチが神妙な顔をしながら、言葉を発する。
「なるほどな……要するに、ヤースカヤはマスターに恋をしている……そういう認識でいいんだな……!」
「違いますよ!何を勘違いしてるんですか……ッ!」
ニキチッチの神妙な顔から出た言葉に、闇のコヤンスカヤは思わず顔を上げて反論する。
が、ニキチッチはすっかり納得した様子で顔を頷かせていた。
「うんうん……照れ隠しもするとは、本当にそうだったんだな……マスター!ヤースカヤをよろしく頼むぞ!」
「え、いや……それは違うんじゃ……」
立香がぼそりと言葉を呟くが、構わずニキチッチは満面の笑みを立香に向ける。
「という訳でヤースカヤ……今後は、こんな事が無いようにしろよ?ただ、俺はお前の恋路を応援してるからな!」
「ちょ、ちょっと……!だから違いますって!」
無駄に力強い笑みを闇のコヤンスカヤに見せ、ニキチッチは満足した様子でマイルームの外へと出て行ってしまった。
残されたのは、闇のコヤンスカヤと立香の二人だけだ。
「絶対、誤解された……違うって言ったのに……」
闇のコヤンスカヤは死んだ目をしながら、そんな事をぶつぶつと呟く。
その姿は哀愁漂う姿で、見ている方も辛くなりそうだ。
「まぁ……どんまい、代わりに縄ほどいてあげるからさ……」
「はい……すいません……」
すっかり弱弱しくなってしまった闇のコヤンスカヤに立香は同情しつつ、手足の縄を全て解いてやる。
結びを見ても、そこまで難しい結び方はされていないので、すぐに解けるだろう。
「はぁ……私は所詮、ビーストの成り損ないに過ぎないんですね……」
「んしょ……ッ!よいしょ……っと!そんなことないよ……!私からすれば、闇のコヤンスカヤも頼れるサーヴァントの一人だから!」
「……ッ!!マスター……」
光を失っていた瞳は僅かに光が灯り、闇のコヤンスカヤの表情も少しばかり明るくなった。
「しかし、私は貴方に害を及ぼしたんですよ?それでもですか……?」
「うん……それでも、私は闇のコヤンスカヤを頼りにしてるから!」
縄を解き終わるのと同時に、立香は力強く話す。
闇のコヤンスカヤはそんな立香の姿に既視感を覚えた。
「(ああ……やっぱり、貴方の優しい心、それを言える強い心がこんなにも美しさを帯びるんでしょうね……)」
一日前に幼児化して尚も見せた姿……その姿を思い出し、闇のコヤンスカヤはふっと穏やかに笑う。
「よし……これで全部解き終わったね……」
「ありがとうございます、マスター……最後に伝えたいことがあるんですが、よろしいですか?」
「あ、うん……何かな?」
縄を解き終わって一息つこうとしていた、立香に闇のコヤンスカヤは、ただ一言――
「大好きです……マスター……!」
「わっ……!?」
正座の状態から立ち上がり、闇のコヤンスカヤは立香を思い切り抱擁する。
それに対して、立香も驚きつつも抱擁を返した。
「私も好きだよ、闇のコヤンスカヤ……だから、これからもよろしくね?」
「はい……よろしくお願いします、マスター……」
一度は嫌になったカルデアだったが、こうして自分が認めるマスターと巡り合えた……それだけで、ここに来た価値はあった。
「(結局、光の私と同じになってしまいましたが……今はどうでもいいですね……)」
闇のコヤンスカヤは考えるのを止め、立香から伝わる温もりを感じながら、穏やかな笑みを浮かべ続けるのだった。
最後まで閲覧してくださり、ありがとうございました。
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感想、評価を頂けると続編もあるかも……?
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