愛玩の獣はマスターを手に入れたい   作:若杉優太(テト/teto)

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 ようやく完成しました!お待たせして申し訳ないです!
 今回は最初に投稿した話のIFの物語ということで書きましたので、そこを見直していただくと話も理解できると思います。
 というわけで、本編をお楽しみください。


#IF 闇のコヤンスカヤはマスターを手に入れた
運命の選択


「さぁ、どうしますか?貴方はどちらを選びますか……?」

「わ、わたしは……」

 

 マイルームのベッドにて、幼児化した藤丸立香は決断を迫られていた。

 それは目の前で微笑む”おねぇちゃん”、もとい闇のコヤンスカヤの提案を受け入れるかどうかだ。

 幼児化した影響で思考力が低下した立香でも、直感的にその提案を受け入れてしまったらまずいと理解はしていた……が。

 

「(でも、いいよね?こわい人がわたしを殺しにくるんだから、わたしに殺されても文句は言えない……っふふふ、そう!そうだよね!?)」

 

 先程闇のコヤンスカヤから提示された内容を思い出し、立香は思わず笑ってしまう。

 こわい人を殺さずに外へ出るか、こわい人を全ておねぇちゃんに殺してもらう事に二択……そんなの、もちろん――

 

『……は、頼って……ください』

 

 今にも闇のコヤンスカヤへ言葉を伝えようとした立香の脳内に、うっすらと誰かの声が聞こえてくる。

 ノイズが掛かった声のせいか、あまりはっきりとは聞こえなかったが、それでも確かに聞こえた。

 

「(これは、誰の声……?)」

 

 結論を出すにはまだ早い。そう呼び掛けているようにも思えたピンク髪の誰かの声。

 その声を聞いた途端に、立香の心に温かな想いが流れ込み、憎しみに染まっていた立香をすんでの所で思い留まらせる。

 

『先輩は……もっと……頼ってください』

 

 途切れ途切れになりつつも頭に響いてくる誰かの声。

 明確に誰か分かったわけではなかったが、それでもぼんやりと顔だけは浮かんでくる。

 

「(だれだろ……?こんなふわふわした気持ちにしてくれるのは……)」

 

 名も知らぬピンク髪の少女の声を少し聞いただけで、憎みに染まっていた気持ちが和らいだ。

 どうしても名前は出てこなかったが、それでも自分にとってかけがえのない人であるというのは直感的に察することができる。

 もっと声を聞いていたい……自分を解きほぐしていくような彼女の声を聞いているだけで、憎しみが洗い流されていくのが分かった。

 

『……背負わないでください……貴方は大切な……』

 

 まだノイズが走って聞き取りずらいが、それでも彼女の声は確かに立香の心へと響いていた。

 真っ黒に染まり切ろうとしていた心へ差した一筋の光。

 その光が完全に立香の心を澄み渡らせようとした直前――それまで穏やかだった立香の顔に、苦悶の表情が浮かんだ。

 

『貴方がもっと早く来ていれば……っ!』

 

 特異点で立香が、子を失った母親から言われた呪いのような言葉。

 それは幼くなった立香にとって、心の底から恐怖と憎しみを感じる記憶だった。

 

『返してよ……ッ!私の子を……ッ!』

 

 怨嗟の籠った瞳を向けて立香を責め立てる母親の姿。

 ”お前のせいだ”そう言わんばかりに記憶上の彼女は、立香を睨み続ける。

 

「(やっぱり、怖い……っ!みんな、わたしのことを恨んでるんだ……ッ!)」

 

 自分は何もしていないというのに、何故こんなにも恨まれなければならないのだろう……?

 幼くなった影響で一部の記憶が飛んでしまっている立香にとって、記憶の中に居る彼女が自分に呪詛をぶつけているのかが分からなかった。

 考えられるとしたら、記憶の彼女はおねぇちゃんの言っていた”こわい人”……自分に理由もなく危害を加えようとする悪い奴らだ。

 そんな奴らから自分を守ってくれるのは……

 

「(あ――そっか、なんでこんなに悩んでたんだろ……?)」

 

 自分を恨む怖い人に今の今まで怯えていたが、よく考えてみればそんな人から自分を守ると言ってくれた存在が目の前に居るではないか。

 

「立香、じっくり悩んでくださいね?」

 

 最初は怖いイメージを持っていたおねぇちゃんも、髪飾りを貰って少し会話しただけで、すぐに優しく頼れるおねぇちゃんへと立香の中でイメージが変わった。

 そんなおねぇちゃんを頼らない選択肢などありはしない。

 

『……先輩は、一人……じゃ……』

 

 再び黒く染まっていく立香を引き留めようと、記憶の中に居るピンク髪の少女は懸命に言葉を叫んでいるが、既に立香は心を闇のコヤンスカヤへと預け切っていた。

 ――おねぇちゃんなら、なんとかしてくれる。

 ――おねぇちゃんなら大丈夫。

 そんな一種の妄信をしてしまっている立香を後押しするようにして、頭へと声が響く。

 

『貴方は人殺しよ……ッ!!』

 

 僅かに残った立香の良心を憎悪へと染め上げる心無い言葉は、あっという間に立香の脳へと伝達し、絶対にやってはいけない決断へと至らせる――

 

 

 

 

「ねぇ、おねぇちゃん……わたし、決めたよ」

「そうですか!では、答えを聞かせてもらいましょう♪」

「うん。わたしは……」

 

 未だに訴えかけるような声が立香には聞こえてきたが、それらを全て握り潰し、幼女とは思えない程の嗜虐的な笑みを闇のコヤンスカヤへ向けた。

 

「おねぇちゃんに全部こわしてもらいたいの……カルデアのみんなも、”こわい人たち”も全員――殺して」

「……ッ!」

 

 立香がその言葉を発することを待っていた闇のコヤンスカヤでさえ、顔が強張ってしまう程の狂気に染まった微笑み。

 恐怖、憎悪、嫉妬、その全てが立香の瞳には宿っていた。

 ――恐ろしい、なんと恐ろしい……

 何の力も持っていない無力な人間……ましてや幼い幼女が発する目力とは思えない程の気迫に押され、数秒の間呆然としてしまった闇のコヤンスカヤだったが、すぐに気を取り直し、その顔を満面の笑みへと変えた。

 

「くく……ふふっ!あははははは……ッ!いい……!いい!私の期待以上に、闇を背負ってらっしゃるとは……嬉しい誤算です。こんなにもあっさりと、気高い貴方の心が堕ちるなんて!……いいでしょう、貴方の望み通りに全てを殺し尽くしてあげます」

「ほんと……!?じゃあ、すぐにやろ――……むぐ!?」

 

「駄目ですよ、焦っては」

 

 目を輝かせる立香の口を手で軽く押さえ、闇のコヤンスカヤは意地悪げに微笑む。

 

「こういうことは、じっくりと進める必要があります。立香も、今まで苦しめられた恨みを簡単には晴らしたくないでしょう?」

「んっ!」

「なら、地道に計画を進めていかなければなりません……とはいえ、おそらく数日ぐらいで貴方の望む結果にはなるでしょう。それまで我慢しましょうね、立香?」

 

 諭すような闇のコヤンスカヤの言葉に大きく頷き、あらぬ妄想をする立香の姿。

 マシュ、ダヴィンチ、新所長、ホームズ……カルデアには彼女の大切な人達が居たはずであったが、今の彼女にとっては全て自分を苦しめる敵としか思っていない。

 レイシフトを通じて蓄積され続けてきた疲労、ストレスや葛藤によってできた心の闇を解放されてしまった立香。

 そんな立香を、闇のコヤンスカヤは黒と白が反転した瞳で見つめた。

 

「ふふ、これからよろしくお願いしますね?私だけ、いえ……私達だけのマスター……?」

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